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第11回 次世代プロジェクトマネージャの必須スキルは「現場力」

ますます厳しくなるプロジェクトへの要求、迫る工事進行基準の適用。これからのプロジェクトマネージャに求められる能力とは何か。アクセンチュアでプロジェクトマネジメントの専門組織を率い、若手プロジェクトマネージャやコンサルタントの育成に携わり、自らも責任者として複数のプロジェクトをリードしている米澤氏に聞いた。

    厳しさを増すプロジェクトへの要求

 「プロジェクトマネージャ」という職種が脚光を浴びるようになってから10年近く。プロジェクトマネージャは、エンジニアの将来の目標として変わらぬ人気を集めている。一方で、この数年間に、IT業界の市場環境は大きく変わってきている。プロジェクトマネージャの役割にも少しずつ変化が生じているのではないだろうか。

 これからのプロジェクトマネージャには、どのような能力が求められるのか。アクセンチュア システムインテグレーション&テクノロジー本部 プロジェクトマネジメント グループ統括 エグゼクティブ・パートナー 米澤創一氏は、プロジェクトマネージャの本質的な役割は変わっていないとしながらも、「環境の変化によって出てきた新たなニーズに対応していく必要があります」と指摘する。

アクセンチュア システムインテグレーション&テクノロジー本部
プロジェクトマネジメント グループ統括
エグゼクティブ・パートナー 米澤創一氏

 「プロジェクトマネージャのミッションは、プロジェクトの成功に向けて、クオリティとコストとデリバリをバランスよく着地させるとともに、優秀な人材を確保し維持していくことだと考えています。この4点を『QCD+P』と呼んでいますが、これはいまも昔も変わっていないと思います。ただ、IT業界を取り巻く市場環境が大きく変化しているのは確実で、それによりプロジェクトにさまざまな制約条件が加わってきています。そのため、単純にQCD+Pを実現するだけでなく、新しいルールや顧客ニーズに適応しながらプロジェクトを進めていく必要があります」(米澤氏)

 特に求められているのが、プロジェクトの短期化である。短い期間で効果を上げたいという顧客のニーズが非常に高くなっているのだ。例えば10年前なら、システム構築の種類にもよるが、大規模プロジェクトの期間は2年〜2年半程度のものが大半を占めていた。しかしいまでは1年以内のものも珍しくない状況になっているという。「導入して効果を出すまでのスピード化が求められています」(米澤氏)とのことだ。

 クオリティについても、以前にも増して要求が厳しくなっている。もともと日本企業は海外に比べてクオリティへのこだわりが大きいが、昨今、大規模なシステムトラブルが社会に与えるネガティブインパクトの大きさを認識する機会が多いこともあり、クオリティを重視する傾向に拍車がかかっている。

 さらにコストに関しても、非常に厳しく費用対効果を求められているのが実状。「15〜20年前はシステムを入れるだけで業務効率化を実現できることが多かったが、現在はすでにシステムが入っているのが当たり前。単に新システムを導入するだけでは効果創出に結び付かないケースもあり、ROIを明確に意識したシステム構築を行う必要性が高まっています。新システムを導入し、費用対効果を創出するためには、既存システムとの連携を緻密に分析しプロセス設計を行ったり、導入後にフォローしたりする必要のあるケースが増えてきています」という状況なのだ。

 こうした市場変化にともない、プロジェクトマネジメントの方法論も変わってきている。「昔のプロジェクトは、『KKD』すなわち勘と経験と度胸に基づいてマネジメントされていました。しかし現在では、客観的に判断できる品質指標や数値管理に基づいてプロジェクトを進めていく手法が標準になりつつあります。しかし、一方で、いまだKKDに頼っているところもあり、二極化が進んでいるのではないかと思います」(米澤氏)

    避けて通れない工事進行基準への対応

 このように、現在のプロジェクトマネジメントでは、さまざまな課題を解決する必要がある。中でもいま、大きな注目を集めているのが工事進行基準の問題だ。2009年4月以降から適用が始まるという状況に、大手企業も積極的に取り組みを始めているようだ。工事進行基準の適用に、プロジェクトマネージャはどう対処していったらよいのだろうか。

 米澤氏は、「プロジェクトマネージャならば、工事進行基準に対応できて当たり前。工事進行基準への対応で焦るのは、いままでしっかりしたプロジェクトマネジメントが行われていなかったことの裏返しです」とピシャリ。同社は工事進行基準が取りざたされる以前から、工事進行基準を満たす方法論に基づいてマネジメントしてきているという。

 工事進行基準というルールに、表面的に対応するだけでは意味がない。「きちんとした成果物が、決められたタイミングで作られているかどうかを把握できる仕組みを作らないと、本当の意味で工事進行基準を満たすことはできません」と米澤氏は指摘する。

 表面的に工事進行基準に対応しているだけの企業では、虚偽の進ちょく報告があっても気付くことができず、プロジェクトの最後になって大幅な進行の遅れが発覚するといったケースも考えられる。

 こうしたトラブルを防ぐためには、楽観的な気持ちに基づいた進ちょく報告や虚偽の進ちょく報告を見抜くための仕組みづくりが重要となる。「当社の場合、現場の定性的な報告からだけでプロジェクトの進ちょくを判断することはありません。成果物を作っている時間、成果物のレビューに費やした時間、レビューで差し戻しを受けて作業した時間など、プロジェクトメンバーが何にどれだけの時間を使っているかを細かくトラッキングしています。例えば全体の時間のうち数%しかレビューが行われていない場合、レビューを手抜きしていると判断できますし、あまりにもレビュー時間が長い場合は、初期の作成段階で作業担当者が方針を間違えている可能性が考えられます。原因が分かれば、適切な対処を迅速に行うことができます」(米澤氏)

 もう1点、虚偽の進ちょく報告の要因として、プロジェクトマネージャとメンバーの信頼関係の欠如も見逃せない。「メンバーとの間に信頼関係を築くことは、プロジェクトマネージャの重要な役割の1つです」と米澤氏は語る。問題を報告してもプロジェクトマネージャが適切な対処をしなければ、プロジェクトマネージャに対してのメンバーからの信頼度は下がり、正しい進ちょく報告をする意欲を低下させてしまう。「メンバーから問題発生の報告を受けて、腹を立てるなどもってのほか。被害を最小限に抑える方法、同じことを繰り返さない方法をプロジェクト全体で考える仕組みを作り、実際に運用していくことが必要です」という。

 特に、開発現場が遠隔地である場合、定期的に足を運んでコミュニケーションを取ることも大切だ。「現場の雰囲気とメンバーの顔色を見れば、順調かどうかはすぐに分かりますから」(米澤氏)

    さまざまな現場で得た経験を生かして

 プロジェクトマネージャの本質的な役割である「QCD+P」は、いまも昔も変わっていない。しかし、厳しさを増す顧客からの要求など、新たな状況に対応することが求められている。ますますその重要性が高まっているプロジェクトマネージャ。それを目指すエンジニアは、何を学び、どんなスキルを身に付ければいいのか。

 「私見ですが、プロジェクトマネージャに向いている人とそうではない人がいると考えています。向いている人とは、多くの物事に直面したとき、まず短時間で全体を把握し、どの事象が重要なのかを判断し、優先順位付けをしたいと思う人です。『プロジェクトマネージャ脳』と呼んでいますが、物事の全体像を素早くとらえ、本質を見抜く力は、プロジェクトマネージャにとって非常に重要な能力であるといえます」と米澤氏。

 プロジェクト全体の進行を統括管理するプロジェクトマネージャには、幅広い業務ノウハウが求められる。しかし、自分1人ですべての実務を担当する必要はないと米澤氏はいう。「プロジェクトマネージャを目指すとき、非常に多岐にわたる能力を身に付けることになりますが、最初からすべてをマスターする必要はありません。まずはプロジェクトマネージャとして、何をやらなければいけないのかを理解して、それができているかを判断できる能力を身に付けることが重要です。その後、実務経験の中で1つずつ能力を高め、プロジェクトマネージャとしての総合力を身に付けていけばいいのです」(米澤氏)

 例えば、プロジェクトマネージャに必要とされる能力の1つに交渉力がある。自分の交渉力に自信がなくても、交渉の得意なメンバーによってプロジェクトが成功すれば、能力は未熟ながらプロジェクトマネージャとしての役割は果たせる。「プロジェクトマネージャには、プロジェクトメンバー全員とゴールを共有し、その方向に導く『リーダー』の資質だけでなく、メンバーの特性を見極めながら適材適所に配置する『マネージャ』としての資質も欠かせないといえます」(米澤氏)

 さらに米澤氏は、「プロジェクトマネージャになるためには、現場でさまざまな経験を積んでほしい」とアドバイスする。「プロジェクトマネージャには、知識やノウハウだけでなく、実際に現場で働いた経験も非常に重要だと考えています。できれば30歳くらいまでは、管理側ではなく、現場の仕事でいろいろ経験を積んでほしいですね。その際『いつかはプロジェクトマネージャになる』という意識を持って取り組むと、違った視点から物事を見ることができるようになり、将来に役立つはずです」と述べる。

 実際にアクセンチュアでは、若手エンジニアに充実した研修プログラムを提供する一方で、現場での実務経験を重視している。「プロジェクトマネージャ候補の若手には、プロジェクトのライフサイクルのバリエーションを考えて、プログラミングからインフラ、テスト、上流設計まで、さまざまな現場経験を積ませています。ある程度現場の経験を積んできたら、チームリーダーやプロジェクトマネージャの補佐を担当させるなど、チームやプロジェクトを管理する立場に移していくのです」(米澤氏)としている。

 まさに、「プロジェクトマネージャは1日にしてならず」。プロジェクトマネージャの立場になることを念頭に置きながら、焦らず地道に現場経験を積み重ねていくことが、優秀なプロジェクトマネージャへの近道なのかもしれない。


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