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外国人エンジニアは脅威か? |
オフショア開発に乗り出すシステム開発ベンダが相次いでいる。人件費の安いアジア諸国に開発を発注してコスト削減するのが狙いだ。例えば中国に開発委託するなら、開発費は日本よりも総じて抑えられる。インドや中国、シンガポール、フィリピンなどアジア各国はIT産業の発展を重要視し、税制面での優遇措置や人材育成などで日本以上に積極的に取り組んでいる。
一方の日本はe−Japan計画による電子政府構築といった多少の追い風はあるものの、景気の低迷から企業のIT投資を抑制しているため、新規のシステム構築案件が減少している。すでに価格競争が始まり、システム構築の世界もデフレ下での競争激化という問題に直面している。そのため、システム構築を海外にアウトソースするという流れは、ますます活発化しそうだ。それが日本のエンジニアの空洞化につながるという警告もある。
この現象は、何も元請けのシステムインテグレータ(SIer)や大手ベンダに限ったものではない。二次請け、三次請けのシステム開発ベンダも価格の問題などから海外に開発を委託する可能性は大いにある。開発が国際分業体制になれば、日本人のエンジニアのみならず海外のプログラマたちを管理しプロジェクトを成功に導く存在が必要不可欠となる。こうした存在は残念ながらまだ数少ないのが現状だろう。
今後のプロジェクトマネジメントに必要なこと |
こうした背景を見ると、今後は新しいスタイルのプロジェクトマネージャが必要とされていることがうかがえる。いうなれば「国際分業時代に活躍できるプロジェクトマネージャ」だ。であれば、ライバルに先んじて海外のエンジニアを統率できるプロジェクトマネージャになることを、今後の目標に掲げることは十分に意義がある。
では、そんな理想のプロジェクトマネージャに近づくにはどのような条件が必要になるだろうか。
第1にリーダーの経験を積む。また先輩プロマネの技術(開発技術のみならず、マネジメントからヒューマンスキルまで)を盗み、磨きをかける。第2に小さな案件から大きな案件まで管理できる開発の規模を広げる。同じプロジェクトマネジメントとはいえ、開発の規模により求められる能力は異なるからだ。そして第3に、技術力の高い企業で、尊敬できる優秀なエンジニアとともに働く。そして第4に、海外、特にアジアとの協業に熟練した企業で働く。国籍を問わず多様なエンジニアと接触し、良好なコミュニケーションを築けるよう経験を積むことが必要だ(外国語の習得も条件に含まれそうだが、本音としてはできるだけ避けたいところだろう)。
これらの条件を満たす環境で広く知識や技術を習得し、経験を積めば、国際分業時代のプロジェクトマネージャになれるはずだ。将来のプロマネを目指すならば、そこまで徹底的に追及してみてもいいはずだ。そして、その4条件をクリアする企業は存在する。
優秀なエンジニアをマネジメントする |
琴井啓文氏 サン・ジャパン取締役副社長。京都大学工学部博士課程修了。同社を代表する技術者の1人。過去の主要なプロジェクトでリーダーを歴任。自分の作ったプログラムにほとんどバグはないといい切る技術オタクだが社交的。社内における技術のオピニオンリーダー |
サン・ジャパンは今年ジャスダック店頭市場に上場を果たしたシステム開発ベンダである。設立は1989年だが、すぐに中国へ開発の委託を試みたという。それにより、ソフト開発の国際協業では長い歴史と実績があり、ノウハウも蓄積されている。同社は他社の開発モデルのさらに先をいく。状況に応じて日本人エンジニア、日本にいる中国人エンジニア、中国にいる中国人エンジニアにより最適なプロジェクトチームを構成する。つまり単純なオフショア開発ではなく、水平分業による最適な開発体制を作りつつあるのだ。
中国を利用することで日本よりもはるかに多くのエンジニアを短期間で投入することができる。それにより、開発期間を短縮することが可能になる。工期の短縮とプログラムの信頼性確保が、日本よりも容易になる。
もちろん、案件によっては日本で開発を行っているものもある。この場合は中国からの技術力のあるエンジニアの参画がアドバンテージとなっているという。また、中国現地の日系企業へのサービスも一部提供している。まさにプロジェクトごとに最適な方法で中国側のパートナーとの協業を図っている。こうした開発体制は、サン・ジャパンの経営理念である「最適な人材による最適な技術による最適な場所での分業を目指す」ということに由来している。
ところで、日本とアジア各国におけるIT事情には違いがあるのだろうか。
両国の文化に詳しいサン・ジャパンの取締役副社長の琴井啓文氏に聞いたところ、「何よりもソフトウェア業界に対する一般的なイメージが違います。日本ではIT業界は比較的地味です(笑)。しかし、中国でIT業界といえば花形です。日本なら医学部を目指すような優秀な人材がIT業界を目指しています。ですから中国のプログラマたちは非常に優秀な人が多いのです」という。
ただ、エンジニアとしては優秀だが、それをどのようにビジネスに生かすかは日本側からの働きかけが必要となる。相手の特性によりハンドリングを考えるというプロジェクトマネージャとしての心得は、こういった場でも必要とされる。
当たり前なエンジニアであれ |
高瀬美佳子氏 英国王立大学経営学修士(MBA)取得。現開発部門担当取締役。国際事業部営業、国内営業、事業部長を経て現職。ソフト開発会社の地位向上のためにどうしたらよいかを当面の課題として、日夜頭を悩ましている |
琴井氏がいうような優秀な海外のエンジニアの意識を高い状態で保ち、実力を引き出すのは簡単なことではない。サン・ジャパン 取締役 高瀬美佳子氏によれば、「中には現地のプログラマとのコミュニケーションに苦労している人もいます。中国のエンジニアは合理性を重視し、いわゆる建前や一般論にはこだわりません。論理的で話も分かり、合理的にプロジェクトを進められるエンジニアであれば、皆ついていきます」(高瀬氏)
こうした考え方は、エンジニアなら日常業務から痛感していることだろう。設計で詰めが甘ければ、実装や運用段階で大きな火種へと発展する可能性がある。また、顧客やエンジニアとの付き合いで言動が不明確ではプロジェクトが迷走しかねない。思考力や態度に不十分なところがあれば、優秀なエンジニアとしてみなされない。
では、多くのエンジニアの課題であるコミュニケーション能力はどれだけ必要なのだろうか。確かにコミュニケーションスキルが重要だというのは、サン・ジャパン 取締役 高瀬美佳子氏も認める。ただし、語学というコミュニケーションスキルではない。「サン・ジャパンでは英語も中国語も必要ありません。彼らの方が日本語を話せますから。必要なことは、日本人同士でも必要な相手を説得する、といったような通常のコミュニケーション能力です。それが高い人は言葉の壁があってもうまくプロジェクトが進みますね」と指摘する。
優秀なエンジニアからの刺激を受ける |
手塚亜希子氏 金沢大学理学部卒業。現フィナンシャル・ソリューション部所属。入社後初めての仕事が国産第1号のBtoBのパッケージ開発。入社してすぐ中国子会社への出張をこなすなど、スーパーぶりを発揮。難しい業務、難しい作業に挑戦することに生きがいを感じている |
サン・ジャパンでは日常の業務は電話や電子メールなどが中心だが、英語や中国語は使われず、日本語が飛び交う。ただ自分が率いるのが日本人だけでなく外国人もメンバーの一員であるということ以外、プロジェクトの進め方などはそう変わらない。必要なのは対日本人と同様の普遍的なコミュニケ−ション能力だ。先輩や同僚が論理的かつ合理的で優秀なエンジニアであれば、業務をともにする間に彼らの考え方、開発の進め方などに刺激を受けるはずだ。「『伝説のあの人と一緒に仕事がしたい』と尊敬されるエンジニアが何人かいます」と高瀬氏はいう。
「確かに普通の日本人のエンジニアにとって良い刺激になると思います」(高瀬氏)という言葉を裏付けるのは、2000年に入社したサン・ジャパン フィナンシャル・ソリューション部のSE 手塚亜希子氏だ。前職もSEだったが「請負での開発より、顧客と直接システム開発ができる場所」を求めて転職したという。そんな彼女も優秀なプログラマと渡り合う刺激的な開発を体験している。「ある開発の実装で、こちらが指示した方法ではなく、違う方法を提案されたことがあります。その案の方が、論理の組み立てがはるかに優秀で驚きました。もちろんすぐに採用しましたよ。またその積極性にも目を見張るところがあります」(手塚氏)
だからサン・ジャパンでプロマネを目指す |
手塚氏はSEとしてプロジェクトにかかわり、ときにはコーディングの段階で中国へと出張し、現地で開発の指揮に当たることもある。彼女も将来的にはプロジェクトマネージャを目指しているという。そんな彼女の夢は、「もちろん技術も追求していきたいのですが、どちらかというと私は技術のみのエンジニアよりはプロジェクトマネージャを目指したいと思います。できれば、引く手あまたの存在になりたいですね」と話し、ちゃめっけたっぷりに笑う。しかしこの言葉、同社では必ずしも冗談ではない。サン・ジャパンでプロジェクトマネージャとなるには実績や顧客からの評価が重要視され、実際に顧客から指名されるプロジェクトマネージャもいるからだ。
「当社は実力主義です。優秀なエンジニアなら社長より多くの報酬を得ても良いと考えていますから」と琴井氏はいう。その一方で社員へのスキル支援にも積極的に取り組んでいる。一例として外部講習の補助がある。もし本人が申請すれば、よほど高額なものを除けば全額補助が出る。加えて現在はスキル支援だけではなくプロジェクトマネージャなど管理能力を伸ばすための支援体制も整えようとしている段階だ。
陳エン氏 北海道大学工学部博士課程取得。現システム開発部次長。控えめな語り口からは想像できないほど仕事に対して情熱を注ぐ。地道な努力を惜しまないひたむきな姿は、厚い信頼となって返ってくる頼もしい存在 |
どんなプロジェクトマネージャでもそうだが、技術に加えて管理能力が求められる。実際にサン・ジャパンでプロジェクトマネージャの任務に就いているシステム開発部 次長の陳エン氏も中国からの留学生(工学博士)で中途入社だ。1996年に入社し現在7年目になる。「最初はエンジニアとして通信会社のシステム開発から始め、FORTE(現在のサン・マイクロシステムズの「Forte for Java」のこと。もともとFORTE Softwareのツール)も扱いました。最近はStrutsでの開発が多いですね。プロマネになっても技術は把握できるようにしておきたいですね」。この言葉で分かるように、陳氏は技術指向が非常に強く、典型的なサン・ジャパンのプロジェクトマネージャのタイプである。また冷静沈着で明せきな判断を下す。その穏和な人当たりと、確かな技術力で多くの顧客から厚い信頼を得ているという。
陳氏が現在興味を持っていることを尋ねると、「今後プロジェクトで試みていきたいのが、開発プロセスの改善です」という。「腕に覚えのある技術者は自分流の開発スタイルを通そうとする傾向がありますが、ある程度標準化を取り入れることで、一層の効率化を図りたい」というのがその理由だ。CMMなどの開発プロセスを自分が担当するプロジェクトで適用し、「それを会社全体に広げたいと思っています」という。
こうして見ると、サン・ジャパンは国際分業時代に生き残るための4つの条件を十分にクリアしている企業と思わないだろうか。さらに、日本語以外の語学力は不要だというのだから好条件だろう(もちろん、中国語を習得したい人は生きた会話が学べる)。エンジニアとして技術を追い求め、最先端の技術スキルを身に付けている先輩たち。その中でさまざまな案件を経験し、国際分業というプロジェクトのだいご味を経験したい。そんな積極的なエンジニアであれば、サン・ジャパンを次のキャリアのステップとして考えてみてもいいだろう。
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株式会社サン・ジャパン
企画:アットマーク・アイティ人財局
製作:アットマーク・アイティ編集局
掲載内容有効期限:2003年8月31日
株式会社サン・ジャパン 会社情報 |
■所在地 〒104-0033 東京都中央区新川一丁目26番2号新川NSビルディング ■電話番号 03-3206-1980(代表) ■設立 1989年7月14日 ■代表者 代表取締役社長 李 堅 ■資本金 9億937.5万円 (2003年5月31日現在) ■事業内容 情報システム開発事業 ソフトウェア製品事業 情報関連商品事業 医療システムサービス事業 ■売上高 127名(2003年5月31日現在) |
待遇 |
■給与 半期年俸制(6等分均等にて毎月固定額支給。目標設定による評価制度に基づき、年2回半期年俸額設定。 経験・キャリアを考慮したうえ決定) ■諸手当 通勤手当(月5万円まで) ■勤務時間 9:30〜18:00 (休憩時間60分) 。ただし出社時間はフレキシブルとし、10:30までを出社時間とする(1日拘束8時間30分) ■休日休暇 土曜、日曜、祝祭日、年末年始、GW休暇、夏季休暇、 有給休暇(初年度12日)、慶弔休暇。長期休暇は柔軟に奨励します ■福利厚生 各種保険/健康保険、厚生年金保険、厚生年金基金、雇用保険、労災保険 各種制度/持株会、退職金制度、育児休業制度、財形貯蓄制度、永年勤続者表彰など 各種施設/健康保険組合直営及び契約保険施設、スポーツクラブ利用可能 |
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