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不定期コラム:Engineerを考える(2)
プロであるということ


加山恵美
2002/11/27

プロフェッショナルの定義

 私がシステムエンジニアとして社会人デビューしたばかりのころ、新人研修で「プロであるということは」と題して、上司の1人が講義したことがあった。その上司いわく、「プロフェッショナルであるということは、お金をもらって仕事をすること」だそうだ。

 仕事ではお金の授受を伴う契約が発生するということ、そこで契約に相応する成果を提供すること、提供物や労働の対価として報酬があるということ、それと同時に責任も自覚するということ、そういった一連のことをよく理解するようにというものだった。社会人になったばかりの私には、印象的な訓示だった。

 その言葉には、金銭を伴う契約を遂行するという誠実さだけではなく、時としてドライに割り切る勇気も必要だという意味も含まれていたと思う。エンジニアが陥りがちなわなとして、開発の過程で“あったらいいな”的な機能が次々と思い浮かぶことがある。そしていつのまにか納期は過ぎ、延々と機能追加とデバッグの無限ループに陥ってしまう。細かな仕様変更や追加であれば、柔軟に対応するのは悪いことではない。しかし、アプリケーションの完成度を追求するあまりに、プロジェクトの収拾がつかなくなってしまっては本末転倒になる。

 繰り返すが、支障がない範囲なら柔軟に対応することは悪いことではない。ちょっとした機能の追加でも、劇的に使い勝手がよくなることもあるし、柔軟な対応がエンジニアや会社の評価につながることもある。しかし、当初の見積もりから大幅に作業量が変わるようなことも、当初の完成図から原形をとどめないほど進化した成果物が出来上がってしまうのも、あまりよいこととはいえない。進ちょく状況によって軌道修正が必要になることはよくある。そのときは勇気を出して関係者に事情を打ち明けて、プロジェクトの仕切り直しや条件変更を決断する、またはしてもらうことが必要だ。

プログラムの完成度と価値観

 エンジニアとして技術力や経験を積むと、それなりのセオリーを確立することもあるだろう。中にはプログラムの完成度に異様なほど執着する人もいる。その人なりの「美しい」コードの基準があるというのだ。例えば、その芸術性の基準はコードのインデントといった外観ではなく、処理工程の質に重点が置かれている。あるとき「こんなメソッドを使うなんて邪道だ!」と、たかだか1ステートメントでチームの後輩を叱りつけた先輩がいた。「スクリプト言語から@関数を実行するメソッドを使うなんて許せない」というのだ。あの師弟関係の間にあったのは愛のムチだったのかどうなのか、いまでも理解できない。プログラムに完成度を追求するのは悪いことではない。ただしその価値観が周囲に害を与えなければだ。

 技術力というのはエンジニアに必須の要素だが、スキル至上主義になってしまうと、職業人としてのエンジニアではなくなってしまうこともある。「プロフェッショナルとは仕事でお金をもらっているからではない。どんな困難な状況下でも自分の技術で乗り切ることができる人間がプロフェッショナルと呼べるのだ」と断言する人もいる。経費で開発環境を整えるより、自分の手でツールを作り上げることがプロフェッショナルの証しだというのだ。この思想では、技術の高さのみがプロフェッショナルと認定される基準となる。だが、職業としてやっていく以上は、経済観念を欠いてはいけないと私は思う。

エンジニアによる解決方法は技術だけか

 エンジニアはその技術力で困難と対峙(たいじ)するのだが、解決手段は技術だけとは限らない。例えば、関係者との協議の場を設けて運用ポリシーの変更を決めることが問題解決につながれば、技術的な労力はまったく使わないか、ほとんど使わないで済む場合もある。ただし、技術で解決するのが非効率だというわけではない。技術を高めることが不要だというわけでもない。経済観念を持てといっても、もちろんカネの亡者になれというわけでもない。

 プロフェッショナルとはなんなのか。技術だけで終わってほしくはない。

筆者紹介
加山恵美(かやまえみ) ●茨城大学理学部化学科卒業。金融機関システム子会社とIT系ベンダにてシステムエンジニアを経験し、グループウェア構築や保守などに携わる。そのかたわらで解説書を執筆していたが、それが本業と化す。技術資料を提供することで、日夜システムと格闘しているエンジニアをサポートできればと願う。幼少からバレエを始め、現在コンテンポラリーダンスを習っているが、いまだに身体が硬いのが悩みとか。双子座A型。

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