エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本
第2
今回のエキスパート:竹田歩氏(ディー・ウォーク・クリエイション)

吉川明広
2001/6/15

 「最前線で必要なスキルとキャリアを知る!」でインタビューしたITエンジニアに、自分のスキルとキャリアを語るうえで欠かせない本を挙げてもらった。その本について熱く語るITエンジニアの姿から、ITエンジニアの仕事への情熱が本を通して垣間見えるはず。

 今回お話を伺ったエキスパートは、XMLの分野で最先端を走るベンチャー企業、ディー・ウォーク・クリエイション(以下D Walk)の代表取締役社長を務める竹田歩氏。おそらくは、コンピュータ言語関係を中心とした多数の専門書を推薦していただけるだろうと勝手に予想していたのだが、インタビュー後、それが凡人の考えであることを思い知らされる結果となった。竹田氏一流の説得力ある語りで紹介いただいた“本”とは……。

  これが私のコミュニケーションツール

日本経済新聞と日経産業新聞

日本経済新聞(朝・夕刊セットで4383円/1カ月。全日版で3568円/1カ月)
日経産業新聞(3568円/1カ月)

 明治時代に創刊された商業専門紙を前身とする『日本経済新聞』(日経新聞)は、経済紙としては世界最多の発行部数を誇るビッグメディア。経済全般の動向や、個別企業の細かな話題に加え、政治や社会、文化、スポーツなど、一般紙レベルの情報までもカバーしているのが大きな特徴だ。

 一方、同新聞の姉妹紙『日経産業新聞』は、IT関連のような先端産業を中心に、製造業から食品業、サービス業に至るまでのあらゆるビジネスについて、“技術”の切り口から最新の情報を提供している専門紙の1つである。

竹田氏から:「推薦本を教えてください」という申し出に対して、竹田氏が最初に挙げてくれたのは、“本”ならぬ2つの新聞だった。「私は本は読まないんですよ。その代わり、毎日欠かさず隅から隅まで読んでいるのが、日経新聞と日経産業新聞。これだけ読んでいれば、たいがいのことはしゃべれるし、顧客を引き付けることもできます」と竹田氏。実際、「XMLの知識もJavaの知識も深くなくていい。あそこであんなことをやっている、こんなことができる、という話を新聞から仕入れておけば、十分にいい仕事ができます」という。

 インタビュー中、豊富な話題と自信に満ちた話しぶりがとても印象に残った竹田氏であるが、その秘けつは、どうやらこの2紙の熟読にあるようだ。「新聞を読んで時代の流れをつかまないとダメだと思うんです。これは、私の父親が新聞記者だったせいもあるかもしれませんが」という竹田氏。トレンドを巧みに嗅ぎ分ける優れた経営センスの、原点を見た気がした。

  ユニテックグループの“同胞”が書いたXML解説の“新定番本”

『改訂版・標準XML完全解説(上)』

中山幹敏、奥井康弘著
技術評論社
2001年
ISBN4-7741-1186-4
2280円

 前著である『標準XML完全解説』は、優れた構成、易しい解説、豊富な図解などで“XML解説書の定番”と呼ばれるほどの評価を得た好著。実際、@ITの「XML eXpert eXchange」フォーラムに設けられた書評コーナーでも、2人の評者がともに推薦した唯一の本(2000年度)である。

 本書は、その前著の高い完成度はそのままに、大幅に加筆/修正した新しいXML解説書である。上巻ではXML言語標準について、下巻ではDOM、SAX、XPath、XLinkなどのXML関連テクノロジについてそれぞれ詳しく扱っており、XMLについての体系的な知識を得るのに格好の教科書となっている。おそらくは、“新定番本”と呼ばれるようになる日も近いだろう。なお、『改訂版・標準XML完全解説(下)』は、2001年7月発売予定。

竹田氏から:竹田氏と本書との間には、実は非常に深い縁がある。著者の1人である中山幹敏氏は、竹田氏率いるD Walkの親会社である日本ユニテックの常務取締役であり、かつD Walkの取締役も兼任する人物。また、もう1人の著者の奥井康弘氏も、同じユニテックに所属する敏腕技術者だ(彼は、W3Cの委員も務めている)。つまり本書は、“ユニテックグループ”として両社が共同推進しているXML事業の技術的背景を担う、同胞メンバーの力作なのである。

 そんなわけで、竹田氏は宣伝も兼ねて本書を大推薦してくれるのかと思いきや、積極的に推薦してくれた新聞2紙とは違って、意外にもトーンは低め。彼の目指す仕事のスタイルに必要なのは、あくまでも“浅くてもいいから広い”知識であり、それには本よりも新聞の方が最適なのだという。それと、単行本にはつきものの、執筆から出版に至るまでのタイムラグによる情報鮮度の低下も、彼にしてみれば大きなマイナス点に映るらしい。

 そんな彼も、本書の前著『標準XML完全解説』に含まれていた「コラム」は熟読したそうである。ここでは、XMLが将来どのように変わっていくかなどのトピックが扱われており、セールストークに大いに役立ったとのことだ。

 また彼は、「もちろん、本を読まなくていいということではないですよ。基礎をじっくりと勉強できるし、以前はこうだったとか、勧告ではここがこう変わった、といったこともわかりますからね」ともいっている。本書は、この後者の意見のような観点から見ればまさに適格かつ適切といってよい本だろう。竹田氏としてはやや推薦レベルの低かった本書ではあるが、それは同氏ゆかりの本ということで、多分に謙遜も含まれていると見てよさそうだ。

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