エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本
第8回
今回のエキスパート:村中修(ラクーン)

遠竹智寿子
2002/5/10

 「最前線で必要なスキルとキャリアを知る!」でインタビューしたITエンジニアに、自分のスキルとキャリアを語るうえで欠かせない本を挙げてもらった。その本について熱く語る姿から、ITエンジニアの仕事への情熱が垣間見えるはず。

 今回お話を伺ったのは、株式会社ラクーンの取締役 技術戦略部長を務める村中修氏。

 エンジニアとしての知識を補うためのプログラミングやアカウンティング関係の書籍から、経営側に立った考え方や人とのコミュニケーションを学ぶための書籍など、さまざまな分野の本をご紹介いただいた。

  常に持ち歩いて見ていたC言語の辞典

新ANSI C言語辞典

平林雅英著
技術評論社
1997年5月
ISBN-4-7741-0432-9
2300円(税別)

 コンピュータ世界の標準語ともいえるC言語の実用的な辞典。特定の処理系に依存した解説を避け、規格も国内外の多くのものを参照して書かれている。プログラミングする際に、いつでも手軽に引けるよう考慮され、一般の国語辞典や英語辞典と同じ実用的なB6判だ。村中氏に紹介してもらったのは、1989年10月に発行された版だが、ここでは1997年に『新版ANSI C言語辞典』として発行された新版を解説する。

 収録されている項目は1800、さらに図版は1100。図版のうちプログラム例は400(そのうち直接実行可能なプログラムは350)、関数マクロ定義例は150。数字部、特殊文字(記号)部、英文部、仮名漢字部、付録(項目別索引、英和対訳一覧、文字コード体系など)から成る。

村中氏:
 「エンジニアになりたてのころに購入した本です。最初のプログラムはC言語でしたし……。この本は辞典ですが、必要なときにだけ引くというよりは、常に持ち歩いて見ていました。文字コード表などは確認するには便利ですし、サイズもカバンに入れて持ち歩くのにちょうどよくて便利ですよ。電車の中でもよく見入っていました。C言語に関する本はいろいろと購入しましたが、よく見ていたのはこれだけでしたね

  システムを作らない人に勧めたいTCOの解説書

TCO経営革新 情報化投資の経営価値を問い直す

内田悟志、遠藤玄声著
生産性出版
1998年5月
ISBN-4-8201-1633-9
1500円(税別)

 情報システムにおけるTCOの概念から、経営革新に結び付く実際の導入までを分かりやすく解説している。まず、TCOの定義、情報システムのコストや運用効率、そこから得られる業務や経営効果などを中心に解説している。また、米国流の考え方だけではなく、日本の企業が独自の経営環境を踏まえてTCOを考えていくための道標となれるように、随所に工夫がなされている。

村中氏:
 「会社の試験教材だったので読みました(笑)。とはいえ、ちょうどTCOという言葉がはやり始めたころで、興味深く読みました。この本は、システムを作る側ではなく、システムを作らない立場の人に読んでもらいたいですね。自身でシステムを手掛けない人には、システムの構築といってもプログラムを作るところしか見えないようですが、実際のプログラム作成の2、3倍は、別の作業で占められているわけです。技術知識がない人でも、それが何かを理解するのに大変参考になります

  理数系のマネージャにお勧めできる部下への接し方を知る1冊

1分間マネジャー

K・ブランチャード、S・ジョンソン著
小林薫訳
ダイヤモンド社
1983年2月
ISBN-4-478-35009-4
1165円(税別)

 『チーズはどこに消えた?』の著者S・ジョンソンと、企業コンサルタントであるK・ブランチャードの共著で、世界で900万部を超えるベストセラー。有能なマネジャーを探す若者が、「1分間マネジャー」と呼ばれるマネジャーに出会い、そのノウハウを教えてもらうというストーリーだ。部下には何を示し、どうほめ、どうしかればいいのかを、「1分間目標設定」「1分間称賛法」「1分間叱責法」の3つの秘法で指し示す。部下を持つビジネスマン、教員、子育て中の親すべてに参考になる内容だろう。

村中氏:
 「理数系(開発者)タイプって、自分でやってしまった方が早いと思う人が多いのではないでしょうか。私自身も、つい自分だったらこうするのにと思うことがあり、悩んでいた時期がありました。そんなときにこの本を偶然手にし、『自分だったら』という考えをなくしてくれた1冊です

  システム構築するうえで必要な会計知識を得ることができた

MBAアカウンティング

グロービス著
ダイヤモンド社
1996年6月
ISBN-4-478-47030-8
2718円(税別)

 経営者、管理職層を目指す人向けの読みやすく実践的な会計(アカウンティング)に関する本である。

 多くのアカウンティング書籍は、経理や財務の知識を前提とした専門性の高いものが多いが、当書は「経営の視点」から管理会計と財務会計を説明する。図表や具体例を取り入れ、アカウンティング初心者にも読みやすいよう工夫をしている。意思決定を行う立場にいるビジネスマンやプロジェクトマネージャクラスにも参考になる1冊だ。

村中氏:
 「自分の興味というよりは、基幹系システムを担当するうえで、どうしても理解する必要があって読みました。この本を読むまで知らなかった内容を、きちんと知識として得ることができましたね。例えば、ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)、ABC(活動基準原価計算)といった、日本経済新聞では当たり前に出てくる用語なども、本当に分かりやすく書かれていて助かりました

  人との接し方など、コンサルタントの手引きとなる1冊

なぜ、SEはコンサルティングができないか〜生き残りのためのコンサルティングSE養成法〜

隈正雄著
マイガイア発行
1996年2月
ISBN-4-88528-200-4
1942円(税別)

 システムエンジニアを対象としたコンサルティングの入門書で、システムコンサルタントを目指す人向けの学習手順書といえる。製造業、卸売業、小売業、建設業、サービス業と、広範な分野でシステムの企画から導入までのコンサルティングに携わった著者が、その体験とノウハウをまとめている。8種の業務別知識と5種の業種別知識のすべてを網羅し、体験に基づく貴重な事例が豊富に記載されている。

村中氏:
 「SEを批判しているように感じる書籍名ですが、実際の中身はコンサルタントの手引書です。この本を読んだ当時の私は、人と接することは嫌いではなかったのですが、相手に説明することの難しさを感じていました。この本は、著書の体験を基に書かれ、共感する部分が多くありました。正確な情報伝達の重要性や、顧客や上司との人間関係を考えるうえでとても参考になりました

  この1冊でGUIの基本などを理論と具体例から理解できた

GUIデザイン・ガイドブック 画面設計の実践的アプローチ

菊池安行、山岡俊樹編者
海文堂出版
1995年12月
ISBN-4-303-72710-5
2900円(税別)

 ユーザーインターフェイスに関する一般的な知識、理論とグラフィックスデザインに関するノウハウが書かれた1冊。インターフェイス、グラフィックスに関する理論編、それにGUIの事例編の2部構成から成る。ユーザーインターフェイス構築の基本を押さえ、デザイナー、プログラマなどが独学でGUIを理解できるように配慮されている。GUIデザインの考え方は、画面のない操作部や電子化マニュアルなどのデザインにも応用が可能なため、さまざまな場面で参考になる。

村中氏:
 「この本も、前の勤務先の研修教材として使われたものです。本の前半は、GUIのプロセスや認知的に良いインターフェイスなどの内容を、理論付けて説明しているので、GUIとは何かをしっかりと押さえることができます。後半では、カーナビや航空チケット予約システムなど、興味を引く実例の概要からデザインコンセプト、プロセスまでを確認することができます

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