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外資系コンサルタントのつぶやき 第14回
大手ITベンダが上流工程に進出したがる理由

三宅信光
2002/8/16

   日本の大手ITベンダの動き

 最近、大手ITベンダが上流工程、つまり企業戦略を含めたサービスを提供しようとしている、という話をよく聞きます。こうした動きは以前からあった話だと思いますが、最近その傾向が顕著に表れているようです。大手ITベンダは、そのための人材の採用も考えてもいるようですし、少し前には、某ITベンダが外資系コンサルタント会社と提携といった報道もありました。また、最近になって海外の大手ITベンダ(ITベンダと呼んでいいかどうか迷うほどの会社ですが)の米IBMが、やはり大手のコンサルタント会社(PwCコンサルティング)を買収、という話まで飛び出してきました。

 日本の大手ITベンダでも、会社規模はなまはんかな外資系コンサルタント会社よりもはるかに大きいものです。外資系コンサルタント会社の日本法人だけを取り上げれば、その規模は小さく、日本の大手ITベンダとは比較にもなりません。

 ライバルとなり得る会社の規模はそれほど大きくはないし、昔から狙っていた分野なのに、なぜいまになってそうした動きが表面化したのでしょうか?

   ITに求められるもの

 大手ITベンダが、なぜ上流工程を重視するようになったのか、正確に知っているわけではありません。ただ、ITビジネスにおいて要求されるものが従来と比べて徐々に変化してきた、というのが、その理由の1つだろうと推測します。従来であれば、単純なコンピュータ化でも企業のビジネス現場にはそれなりの効果がありました。手作業で行っていたものをコンピュータに代替させるだけでもある程度効率化できますし、それだけでも十分よかったわけです。

 手作業をコンピュータを利用した効率的な作業にすると簡単にいっても、そこにはノウハウがあり、それぞれのITベンダにより得意不得意があり、提供できるサービスのレベルにも差があったはずです。それは価格差であったり、操作性の優劣であったり、システムの安定性の差だったりと思うのですが、現在はどうなのでしょうか。

   製品に明確な性能差はない!?

 これはあくまで私見ですが、主だった基幹系のシステムはある程度必要なスペック、操作性、安定性といったことがほぼ見えていて、各ベンダがそうした分野で独自性を示すことはとても難しくなっているのが現状だと思います。大手ERPベンダのいくつかの製品でも、機能の点ではドングリの背比べ、どの製品が絶対的によいかと問われても、明確な答えはありません(考え方によって変わるでしょう)。

 大手ERPパッケージを導入したいという、私がかかわったある案件でも、選択の決め手は機能ではありませんでした。このパッケージでなければできない、というものはなく、仮にあったとしても業務にとって必ずしも必須ではなく、あったらいいかな程度のものです。導入事例の数も、価格も大きくは変わらない。最後はどっちにしようかなという感じで決めたといってもいい過ぎではありません。もちろん、実際は製品ごとに点数を付けて、優劣が出るようにするのですが、点数もある程度クライアントの担当者と相談のうえで、恣意的につけなければ差がつかなかったのです。

 また、カスタムメイドのシステムを作る場合でも、必要な仕様はある程度事前に分かります。これも私が最近かかわった事例ですが、業務の内容を聞いたときに、以前扱った別の企業の案件の事例とあまり変わらず(違いは、過去の事例の方が規模が小さいということぐらいでしょう)、以前開発したシステムがほとんど同じ内容で導入できるため、コストを安くできたことがありました。クライアントはかなり大きな会社でしたし、適用した過去の事例は業種がまったく異なるのですが、人事や会計などの基幹系のシステムは、業務にそう大きな違いはないものです。話はそれますが、ERPが誕生した理由もまさにそうした点にあるわけです。

 このように、ERPを導入するにしても、カスタムメイドのシステムを構築するにしても、ITベンダの独自色を出せるのは特殊なケースに限られてしまい、いきおい価格勝負になる傾向があります。しかし、それでは規模の大きな大手ITベンダでは、利益を出しにくい状況にあるのでしょう。

   IT投資と企業戦略との整合性

 一時期は「IT化」というだけで大金を払ってくれたクライアントも、単純な効率化というだけの視点だけではIT化をとらえなくなっています。単なる効率化で得られる果実は、すでに得てしまっているケースが多いと思われます。もちろん、昔作られたシステムが、いつの間にか継ぎはぎだらけになって効率が落ちるケースもありますが、そうはいっても手作業で業務を行っていたときに比べれば、ある程度の効率化は達成されているのではないでしょうか。単なる効率化のみを狙ってITに大きな投資を行っても、その投資額に見合う効果が得られるとは限らなくなってきています。

 投資額の大きさも問題ですが、長期の視点で見ると自社の長期戦略とITシステムの整合性も問題になります。企業の経営戦略の中にすでにITは組み込まれてしまっています。一方で一度構築したシステムを大きく変更することは難しく、せっかく構築したシステムが自社の戦略に合っていなければ、莫大(ばくだい)な投資を行って構築したシステムが、自社の足かせにもなりかねません。自社の長期戦略とIT戦略は、これまで以上に一体化していかねばならないのです。

 しかし、一般企業の経営者にしてみると、IT分野の知識は変化・変遷が激しく、自社の戦略との整合性をきちんと検証することは難しいと感じているのではないでしょうか。自社の経営戦略を深く理解し、かつそれに適合したIT戦略を提案してもらえるのであれば、「当座の投資額が多少膨らんだとしても、お釣りはくる」といった判断をしても、不思議ではありません。

 私が担当するクライアントの中にも、これからのIT投資をどのように行ったらよいか悩んでいる企業は多いようです。例えば、会計システムを構築してからかなりの年月がたっているため、会計システムの作り直しを検討してほしい、といった依頼がきますが、すでにある程度の業務効率化は現在のシステムで達成されているため、会計システム単体での作り直しでは、業務効率化のメリットはあまりありません。

   コンサルタントの本領

 しかし、その先がコンサルタントの仕事であり、本領を発揮すべき分野です。クライアントの長期戦略を聞き取り(または聞き出し)、それを基に構想や計画を膨らませ、将来にわたった経営の話をする。もちろん、その内容がクライアントの経営者の感覚にフィットしていなければなりません。その話が経営者の感覚とフィットしていれば、話が単なるシステム改変だけではないビッグプロジェクトとなるのです。クライアントの長期戦略にかかわる提案をする以上、それが通ればクライアントとの長期の関係を構築できるわけですし、その提案がクライアントの業績に結び付けば、より強固な信頼関係と、より大きなビジネスチャンスに結び付きます。

 大手ITベンダは価格競争をしたくはない。しかし、単なるシステムの構築では価格競争に陥らざるを得ない。どのようにしてこの不可避のジレンマを打破するか。その1つの解答がクライアントである一般の企業経営者が望んでいる自社の経営戦略に即したIT戦略の提案、ということではないでしょうか。そして、これが大手ITベンダが上流工程に食い込もうとする理由の1つだと私は考えています。

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