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外資系コンサルタントのつぶやき 第15回
大手ITベンダが人材を外部に求める理由

三宅信光
2002/9/4

   大手ITベンダは人材を育てる時間がなかった?

 さて、前回(「第14回 大手ITベンダが上流工程に進出したがる理由」)は大手ITベンダがなぜ上流工程への進出を図るのか、といった話をしました。単なる価格勝負に陥らず、ビジネスチャンスを膨らませる。それが1つの目的ではないか、というような話でした。

 現在、こうした戦略の下、大手ITベンダは企業内部で人材を育てるだけでなく、外部の人材をも中途採用などの形で取り込もうとしています。米IBMは、それどころか企業ごと(PwCコンサルティング)買収することになりましたが……。

 では、なぜ上流工程に進出するために、大手ITベンダは外部にも人材を求めるのでしょうか? コストのたたき合いをしたくない、経営戦略に合ったIT戦略が欲しい、などといった流れは、別にいまに始まったわけではなく、大手ITベンダがその気になれば、人材を育てる時間は十分にあったはずです。

   大手ITベンダの提案書は下手

 これまで、何度か大手ITベンダの提案書を見たことがあります。コンペティターが作った提案書を、クライアントが内緒で見せてくれたことがありましたし、クライアントから純粋に意見を求められて見せてもらったこともあります。また、私の会社が大手のITベンダと組んで作った提案書を見たこともあります。そうした(数は少ないですが)経験からいうと、大手ITベンダの提案書の作り方はうまくない、あえていってしまえば下手であると感じています。私の会社とある大手ITベンダが組んで提案書を作ったケースは、まさにその典型でした。

 私の会社と大手ITベンダ(ここではA社としておきましょう)が組んだある案件は、結局コンペティションで負けてしまいました。しかし、負けたと聞いたときに私はとても驚きました。その案件は、A社にとって有利な条件があったからです。それは、クライアントがA社のメインクライアントだったことです。そのため、A社はクライアントの内情(経営スタイルや考え方)だけでなく、すでに稼働しているシステムの多くもA社のハードウェアで構成され、システムもA社が構築したものだったため、クライアントのシステムにも詳しかったからです。以下は、後になって私が聞いた話です。

   戦略方針の提案書をITベンダと

 クライアントは、今回大々的に自社の経営戦略の見直しを行いたい、ついてはITに関しても大幅に見直すということで、私の会社とA社を含め、複数の会社が、IT戦略の全般的な方針の提案書を求められたのです。

 私の会社がA社と組んだ理由を、コンペティションに負けた後、私の会社の担当に聞くと、「ツテがなかった」のが真相だったそうです。前述のようにA社はもともとそのクライアントとの付き合いが深く、現行システムのほとんどを構築、運用していたそうです。一方、私の会社は実は別な案件で最近お付き合いが始まったばかりだったのですが、ほとんどが上流工程の仕事で、システム部門の方とは付き合いがなく、ツテを探していてA社にたどり着いたため、実際に私の会社がコンペティションに加わったのはかなり遅い段階でした。そのため、準備期間が短く、私の会社はそのクライアントのシステムについてはよく知らないままだったようです。

 私の会社と組んだA社の思惑がどこにあったのかは分かりません。当社しかコンサルタント会社が残っていなかったのかもしれません。というのは、ほかのコンペティターのITベンダの多くも、コンサルタント会社と組んでいたためです。A社単独での提案能力に不安を持ち、私の会社と組んだだけかもしれません。その不安は的中していたようです。

   クライアントとITベンダの話にギャップが

 私の会社の担当者は、A社から得た情報とクライアントと直接会って得た情報に、差(ギャップ)があることを感じたそうです。A社から得た情報は視野が狭く、短期的なものにすぎると感じていたのです。この案件はまさに上流の話ですから、お会いするクライアントもかなり上の地位(経営者層)にいる人になります。当然、その地位にいる経営者層の意識は、「ITありき」ではなく、まずは会社としての経営戦略に向いているわけです。しかし、A社の意識はやはり「IT」が前面に出ており、技術的な先進性、面白さ、自社製品へのこだわりが前面に出てしまったようです。

 提案書は、私の会社とA社の担当ページとを分けて共同で作成したそうです。その提案書を見たところ、ページのどの部分を私の会社が担当し、どの部分をA社が担当したのかが、聞かずとも一目瞭然でした。A社が担当していたページは明らかに視点がずれており、クライアントを納得させることは難しかっただろうと、その案件にかかわっていなかった私でさえ十分に感じ取れるものだったからです。

 私の会社はクライアントとの付き合いは浅く、提案書を作る時間も限られていたのですが、内容の差は歴然としていました。提案書の提出後、何回かクライアントから提案書の内容について質問があったようですが、その席でもA社の回答はクライアントを満足させるものではなかったようです。これはコンペティションに負けた後、クライアントがこっそりと私の会社の担当者を呼び、「組む相手を間違えたねえ」といったうえに、提案書を作る際のA社のインタビュー対応はひどかったと愚痴をこぼされたと、その担当者から直接聞きました。彼はかなり悔やんでいましたが、私の会社としてはほかに選択肢がなかったのです。

   クライアントが望んだものをとらえる力

 なぜ、A社はクライアントが望んでいることをとらえられなかったのでしょうか? 日本の大手ITベンダは技術的にしっかりしている会社が多いと思います。私も転職する前、ユーザー企業の立場で大手ITベンダに仕事をお願いしたことがあり、そのときの担当者の技術レベルには感心させられました。それにその大手ITベンダの担当者は、業務知識への理解が早く、正確にとらえていたという印象があります。そのように、いままでは大手ITベンダはクライアントの業務を理解すればよかったのです(それですら大変なことですが)。A社が知っていたクライアントのニーズは、A社がいままで見知っていたクライアントの担当者の業務・側面だけから見たニーズだったのかもしれません。しかし、求められていたのは経営者のニーズだったわけです。

 経営者が求めているものを理解するためには、常々経営者の視点でものを見ることが必要です。考える訓練をすることも必要ですが、センスも必要となります。しかし、個人レベルでの訓練やセンス以上に、経営の視点からものを見ることができる人間を尊重する組織内のカルチャーが、それら以上に必要だと思います。いまの大手ITベンダに、そうしたカルチャーがあるでしょうか? 大手ITベンダが接するクライアントは、業務の担当者などが多いはずです。そのため、業務担当者のレベル(視点)でクライアントのことを考えてきたはずです。そして担当者レベルでの考え方が現在の大手ITベンダのカルチャーを形づくってきたのではないでしょうか。

   カルチャーが人を育てる

 1つの組織がいままで培ってきたカルチャーを変えることは、なかなか難しいものです。ある組織で育った人間は、育った組織のカルチャーしか知らないわけですから、そこから抜け出すことは至難の業です。クライアントの担当者の考え方は戦略的な考え方にはなり得ません。そして、クライアントの担当者レベルでの考え方になじんだ、大手ITベンダのカルチャーでは、戦略的な考え方を持つことができないことになります。戦略系の人材が自社内から育つカルチャーをもともと持っていないことが、大手ITベンダが戦略系の人材を外部に求める理由ではないでしょうか。

 しかし、たとえ人材を外部に求め、優秀な人材を得たとしても、その人材を生かしうる土壌を持たなければ、その人材を生かすことはできません。外資系のコンサルタント会社が優秀な技術系の人材を生かし切れないように、大手ITベンダが自社とまったく異なったカルチャーを持つ人材を生かし切れるのか? 大手ITベンダが上流工程へ進出しようとする流れが成功するか否かは、こんなところにもカギがあるのではないかと考えています。

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