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外資系コンサルタントのつぶやき 第9回
優秀な選手が優秀な監督とは限らない

三宅信光
2002/2/20

   取締役のイメージ

 前回はマネージャについて書きました(「第8回 コンサルタントのゴールはたったの2つ」)。今回はマネージャの1段上のポジション、つまり一般の会社でいう取締役クラスの人たちの話を紹介したいと思います。

 読者の皆さんは取締役というと、どんなイメージをお持ちでしょうか? 会社の偉い人や経営者というのではそのままです。現実にはそうでない場合もあるのでしょうが、社会的な見識のある立派な人であってほしい。これが私の取締役へのイメージ、というよりも思いです。

 私が以前いた職場は、役所のようなところだったと書いたことがあります(「第1回 転職して戸惑うことは“企業文化”の違い」)。実際取締役クラスの人とは、役所のかなり上のところまで登りつめた人が、天下ってきていたのです。彼らが特に有能かと問われれば、必ずしもそうではなかったという強い印象があります。しかし、社会人としての常識をわきまえた人が多かったことは事実です。お役所出身者だけではなく、私が過去に出会った大企業の取締役クラス、あるいは社会的に地位の高い人たちというのは、それなりの考え方、行動を取る人が多かったと思います。

   常識か非常識か

 さて、こんなことをわざわざ長々と書いたのは、いまの会社の取締役たちが、そういう常識的な偉い人というカテゴリから、外れた人が非常に多いと思うからです。簡単にいってしまうと、「子どもっぽいところがある」ということでしょうか。それがさまざまなところでとても強く出てくるようなのです。

 それは服装であったり、普段の行動であったり、会社の方針であったりと、出方はさまざまです。例えば服装ですが、さすがに突拍子もない格好をしている人は少ないですが、オフィスで見ていると、「その筋の人(ヤクザ)かな?」としか思えないような人(もちろん取締役)がいたり、妙に若作りの格好をしたかなり高齢の人(もちろん取締役)がいたりと、見ているだけで楽しいものです。

 一度会社の近くの通りを歩いているとき、年輩の人が人の間を縫うように、さっさと坂を下ってくるのに出くわしたことがあります。体が上下に動くことなく滑るように近づいてくるので、ついずっと観察してしまいました。その人が近くを通り過ぎるときによく見ると、足がまったく動いていません! 思わず足元を見ると、ローラーブレードを履いているではありませんか。でも、上の服装はスーツ。顔を見ると、どう見ても年輩のそれなりの地位にありそうな人でした。そのあまりのミスマッチさに、呆然としたままその人の後ろ姿を見送りました。もちろん、そのときはその人がだれかは知りませんでした……。

 数日後、オフィスで友人と食事をしたときに、そのときの話を「こんな人がいた」と面白半分に話したら、その友人が「そうなんだよ、だから下に示しがつかない」と、いきなり怒りだすではありませんか。話が分からず、どういうことかと聞き直すと、「あれはうちの会社の取締役だよ、ぼくもよく見るんだ」といわれて、驚きました。てっきりほかの会社の人だろうと考え、「変な人がいるものだ」程度に思っていたのですから……。

 別にローラーブレードを履いて通勤してはいけないという規則はありませんし、気が若いということはある意味よいことですが、問題は若い社員がそういうところを見たときにどう思うかです。私の会社にもカジュアルデイがあります。もちろん、カジュアルといっても本来は「ビジネスカジュアル」ですが、そんな決まりを守っている人はまれです。

 一緒に食事をした友人は、そうした点を監督する立場にある人だったので、その取締役の行動が、若い社員へどう影響するかを考えて困っていたのかもしれません。確かに、世間一般の常識から見れば、大きな会社の取締役がすることとしては、やはり突飛な行動と思われるでしょう。

   出るクイだらけの取締役

 もしかすると、服装や行動が多少突飛であっても、本来はそれほど目くじらを立てることではないかもしれません。しかし、取締役はお互いの自己主張が強すぎ、会社としてのまとまりに欠けるところが見受けられ、それは本当に困ったものだと思います。

 私の会社にいる人は、入社したときからの個性派ぞろいです。その中でも特に目立った業績を残した人だけが、より上のポジションに上がっていきます。まあ、私がいまあるポジションのマネージャまでは、かなりの人がなれるのですが、その上となるとさすがになかなかなれないようです。しかし、その後取締役になるような人材は、あっという間にポジションを駆け上がっていくようです。これも以前「出ないクイは捨てられる」で書きましたが(「第3回 出ないクイは捨てられる」)、取締役クラスの人材は、逆にだれもかれもが「出るクイ」なのです。

   自己主張だけで終わる経営会議

 自己主張が強すぎるくらい強く、人に譲ることをあまりしない人たちがポジションを駆け上がっていきます。そんな人が集まった経営会議の議題は、まとまるわけがありません。実際、私の会社のトップクラスが集まる会議は、お互いの自己主張で終わることが多いのです。なんでそんなことを知っているのかというと、入社時にこの会社はこんなところです、というビデオを見せられたのですが、その中で「この会社の取締役会議はこんな感じです」という、パロディビデオが流れたのです。

 そんなビデオを入社したての人たちに見せるのも変わっていますが、それだけではなく、パロディビデオには取締役たちも冗談半分で出演していたというのです。当時は顔も知りませんでしたから、よく覚えてはいないのですが……。でも、取締役自身が会議の際にお互いのいうことを聞いていないという自覚はあるようです。

   優秀なコンサルタントは経営者としても優秀か?

 早い人では、30歳代半ばで取締役となります。若くて優秀なエクゼクティブが登場するわけですが、ここに大きな落とし穴があるような気がします。1つは、選手として優秀な人が監督として優秀であるとは限らないのと同様に、個人としては非常に優秀なコンサルタントであり、営業成績も抜群であるとしても、経営者として優秀であるとは限らないこと、もう1つは社会的な経験が少ないためか、人間的な成熟度が低く感じられることです。私の会社にいる人たちの中にも、単に仕事ができるだけではなく、人として尊敬できる人と働きたい、と考える人はいます。会社を辞める若手の話の中に、「尊敬できる人がいない」という言葉がよく出てきます。このことは、いつも非常に残念に思えてなりません。

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