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連載:転職で失敗する人、ダメな人
第6回
先端企業では専門分野だけにこだわるべからず

内田靖
2002/1/23

人材コンサルタント会社に勤めている筆者が、実際に出合った事例や過去に勤めていた会社での経験を交えて、転職で失敗するエンジニアはどんな人かを毎回紹介していく。これから転職を考えているエンジニアに、転職に失敗しないために気を付けるべきことや注意すべきことを、“転職で失敗したケース”から学んでほしい。

   H氏のキャリア遍歴

 今回紹介するのは、大手外資系ソフト会社から外資系のモバイル系インターネット会社への転職を果たしたが、それに悩んでいるH氏のケースである。H氏は転職当時36歳。有名私立大学を卒業後、大手システムインテグレータ(SI)のT社へ入社し、業務管理アプリケーションや、ネットワークインフラ系のソフトウェア、デバイスドライバの開発、ソフトウェアの移植などを5年ほど経験した。

 しかし、T社の仕事環境(担当者が責任やリスクを負おうとしない、実力がない人が上司になる)に嫌気がさし、大手外資系ソフト会社S社に転職した。S社では、ソフトウェアの日本語化やドライバソフトの開発を3年ほど担当した。S社はT社とは異なり、個人の責任の所在は明確で、なるべく納期を順守するなど、プロ意識に燃えた企業だった。H氏は、プロの何たるかを、そこで学んだという。

 しかしH氏は、業務がとても忙しかったこと、プロダクト開発だけでは自身のスキルが広がらないことなどから、知人の紹介で外資系総合メーカーQ社に転職し、ミドルウェア製品の企画開発に携わった。そのQ社でH氏は、10名程度の部下を持つプロジェクトリーダーとなった。

   転職先で待っていたもの

 H氏は、この会社で製品を企画する楽しさを知り、もう少し小さな会社で、会社の発展を促すほどの製品企画に従事したいとの思いから、Q社転職後5年ほどして、外資系ベンチャーのモバイル系インターネット会社P社に、製品企画マネージャとして転職した。

 P社への転職当時は、Web/インターネットをビジネスチャンスと見て、事業を展開する企業は多かった。しかし、インターネットでモバイル系のビジネスを展開しようとする企業は、まだそれほど多くはなかったという。とはいうものの、事実上の“業界標準”を狙って市場シェアを取るには、P社単独の事業展開だけでは難しく、企業提携や企業買収を繰り返していた。そうした提携や組織の変更によって、H氏の業務も増大する一方だった。そのことで、H氏は頭を痛めていた。そのようなときに、私がH氏の相談を受けることになった。

 H氏は、自分が製品企画担当マネージャとして、もっと製品に力を注ぎたいという。H氏が私に相談したことは、直接関係ない(と見える)業務に時間を費やさず、自分の仕事だけに集中する方法はないかというものだった。それができないようなら、転職したいという。その話を聞いて私がH氏にアドバイスしたのは、次のようなことだった。

   専門家の意識が強すぎてはダメ

 モバイル系やインターネット系企業の多くは、自社のシステム、サービスなどを事実上の“業界標準”にしたいが、1社単独で事業を展開して市場を制覇するのは難しい。そのため、他社との提携は当然のことである。仮に、いま同じような企業へ転職しても、その企業も同じような提携戦略を取る可能性が大きい。また、先端企業での製品企画は、毎日が変化の連続であるのは当然で、その環境下でいかに自分の仕事を推進できるか、それが重要なポイントになるはずだ、と。

 さらにH氏には、自分が専門家(プロフェッショナル)であるという意識が強すぎるように思えた。そこで私は、現在のように企業提携や企業買収が当たり前の時代では、エンジニアだろうと1つの得意分野を究めるだけではなく、複数の分野の知識を身に付けるようなスキルの習得が必要であると述べた。また、現在の企業では、自分の専門分野を軸に、業務をまとめるマネジメント能力、コミュニケーション能力、社内外へのプレゼンテーション(提案)能力が必要であり、いまのP社の環境が、H氏自身を成長させるいいチャンスと考えればいいとアドバイスした。

   専門プラスヒューマンスキルが必要な時代

 これからの時代は、システムエンジニアやマーケティング担当などのスペシャリスト職であっても、一歩上を目指すなら、これまでのように「専門性がある」だけではダメだろう。もはやスペシャリスト全盛の時代は、過去の話である。

 H氏と話すと、専門分野の知識や能力のすごさは分かるが、自分のことを理解してほしいといった欲求が強く、協調性に欠け、常に自分が軸でありたいという権力的思考が強いように感じた。そのため、この場合は企業や業務が問題なのではなく、H氏自身の取り組み方、考え方が問題なのであり、H氏自身が変わる必要性があると感じた。

 スペシャリストは、自分を理解してほしいとは願うが、他人を理解しようとしない傾向が強いようだ。他部署との連携や他社との連携がうまくいかない場合、自分は仕事が終わっているのに相手ができないのは、相手に問題があるからだと結論付け、転職してしまうケースもあるようだ。そもそも専門分野から人間性も年齢も異なる人同士が仕事をするのに、壁があるのは当然のことだ。最初から互いにベストマッチで業務を進められることなどほとんどあり得ない。それを理解してから仕事を進めるべきであり、お互いに共通の目的を達成するために協力し合えばいいのである。

 不況下の現在、企業が欲しい人材は、いわゆる“専門バカ”ではない。1つの分野を究め、周辺の業務、さらには他人の業務にも理解を示し、それらを総合プロデュースできる人材を求めている。技術スキルだけでなく、これからはヒューマンスキルがないと生き残れないというのは、こうしたことを意味する。先端企業においては、1つの業務の中に浸りきることはできない。1人何役もこなすような人材が求められているのである。

連載:転職で失敗する人、ダメな人

 

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