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連載:ITエンジニア最新求人レポート No.11<2002年10月版
キャリアを実現するために転職する層とは

小林教至(@ITジョブエージェント担当
2002/10/30

アットマーク・アイティのキャリアアップ支援サービス「@ITジョブエージェント」を担当している筆者は、同サービスに参加していただいている会社をはじめ、複数の人材紹介会社/人材派遣会社を毎月訪問している。そこでヒアリングしたITエンジニアの求人動向を定期的にレポートする。マクロ的な動向ではないし、具体的な数値もないが、現状の市況や今後のトレンドを推測する資料としてほしい。

エンジニアの必要数は減少する?

 エンジニアの求人トレンドに、ここ数カ月大きな変化はなく、テクニカルスキルはもとよりヒューマンスキルも兼ね備えたエンジニア、特にプロジェクトマネージャ、コンサルタントの求人ニーズは高い。とりわけERP導入コンサルタントの求人は、完全に需要過多な状態が続いている。その背景には、「国内企業でのERP導入が進んでいます。いま進行しているのは中堅企業への導入です。従って、今後ますますERP導入コンサルタントの需要は高まるでしょう」(某人材紹介会社)というERPの普及があるようだ。

 某人材紹介会社は続けてこう指摘した。「ERP普及による影響は、単に導入担当のコンサルタントの需要が増えるという目先のトレンドにとどまりません。ERPの普及が進むということは、スクラッチで自社システムを構築しようとするユーザー企業が減る、またはいままで自社システムを拡張運用してきたユーザー企業が減るということです。当然ERPの導入や機能拡張に必要なエンジニア数は、自社システムのそれと比べて少なくて済みます」。つまり、ERP普及はエンジニア、とりわけシステム開発のエンジニアの必要数が減ることを意味するというのだ。

 ただし、「システムの立ち上げに要するエンジニア必要数は減りますが、立ち上がったシステムは必ず運用管理が必要です。エンジニアを続けていきたいなら、開発スキルにばかりこだわらす、運用管理のスキルが重要です」とも付け加えた。

 システムの運用管理は、サッカーのゴールキーパーに似ていると思う。セーブして当たり前で、ゴールされたら非難される。脚光を浴びない仕事だ。しかし、トラブルが発生した場合、原因究明とその迅速な対処に要する知識と経験、それに裏打ちされた勘には、運用管理担当者のスキルによって雲泥の差がでる出るだろう。前述の人材紹介会社のコメントのように、何歳になってもエンジニアであり続けるために運用管理のスキルを磨き、ほかのエンジニアとの差別化を図るキャリア戦略は有効ではないだろうか。

下半期も案件は動かず

 堅調な求人ニーズに対して、エンジニアの派遣ニーズは低迷状態のままのようだ。「例年の9月は派遣エンジニアのニーズが高まります。下半期予算を使う10月開始の案件の仕込みに入るためです。しかし、今年の9月は案件がまったくといっていいほどありませんでしたね」(某人材派遣会社)。ある中堅受託開発ソフトウェア会社では、「最近の特徴として、見積もりを提出してから正式発注までのタイムスパンが長くなっています。それだけユーザー企業がシステム開発コストに慎重になっている、要は売上予算が達成できていないのでしょう」という。

 この話の裏付けとして、前述の人材派遣会社は「例年と違い、10月に入ってから徐々に案件が出始めています」という。着手が遅れても納期は変わらないのが、受託ビジネスの常だ。そのしわ寄せが現場エンジニアにこないかが心配だ。

 その人材派遣会社では、さらにいまを象徴する話を聞かせてくれた。「最近当社に登録してくれたエンジニアの話ですが、いままで社員として勤めていた受託開発ソフトウェア会社の受注案件が減って、新たに顧客を獲得しなければならなくなったそうです。いままでは固定の顧客からの受注で事業が成立していたので、営業は不慣れ。それでもなんとか新規に受注をしたのですが、仕事内容はテレフォンアポイントのような仕事だったとのこと。さすがに見切りをつけて人材派遣登録をしたそうです」という。

 このように安定した固定顧客の減少に伴い、新規顧客開拓に四苦八苦している会社は多いだろう。「先日、ある受託開発ソフトウェア会社の社長が来社しました。やはり営業に苦労しているらしく、当社を営業窓口として、案件を発注してほしいということでした。人材派遣会社はいわば営業こそが強みですから、当社のような人材派遣会社との関係は有効なのでしょう」と、前述の人材派遣会社が教えてくれた。

大企業を捨て、キャリアを実現する世代

 今回のヒアリングでは、何社かの人材紹介会社、人材派遣会社から共通して次のような話を聞いた。「当社に登録していた20歳代のエンジニアは、ある大手システムインテグレータを辞め、社員が数人の企業に転職しました。セキュリティスキルを突き詰めるため、というのがその理由です。年収などの待遇にこだわらず、自分のやりたい仕事を追求する20歳代が増えたような気がします。彼らに共通しているのは、やりたい仕事とその理由が明確で、かつその仕事ができるようになるためのスキルアップなどの努力をしていることです。こういう方は企業からの受けもいいですね」(某人材紹介会社)

 別の人材紹介会社でも「特に27〜29歳のエンジニアはキャリアアップに敏感です。待遇面での不満ではなく、いまの会社にこれ以上いてもスキルアップ、キャリアアップできないという理由から転職を希望します。彼らの多くは設計や分析など上流工程を担当することを望みます」という話を聞いた。

 この傾向は派遣エンジニアでも同様のようである。「ITバブルのころのエンジニアと違い、いまの20歳代エンジニアは給与ではなく、仕事内容を重視する方が多いですね。例えば、いままで社員として汎用機系の開発ばかりやっていたが、オープン系システムの開発をやりたくて退職し、派遣エンジニアになるようなケースです」(某人材派遣会社)

 ある人材紹介会社は、この20歳代のキャリア志向を次のように分析する。「昨今の経済情勢で給与へのこだわりはあきらめざるを得なかったり、そもそも20歳代はまだ養うべき家族を持っている方が少なかったりという理由があるでしょう。が、それを考慮しても、いまの20歳代のキャリア志向は高いと思います。彼らは1990年代中ごろ以降の就職氷河期に就職活動を開始、その時点でキャリア志向が養われたのだと推測しています」

 筆者は、1991年に社会人になった。世間でいうところの“バブル世代”だ。大学の同期で集まっても、いま担当している仕事の話ばかり。キャリアビジョンを語り合うことはない。一部上場企業が倒産しても、大手家電メーカーが大量リストラしても、どこか別世界の話と感じている。ありきたりないい方だが、いまの20歳代にジェネレーションギャップを感じることがある。

キャリア・セキュリティという考え方

 最近、注目を集めている非ベンダ資格でもあるCompTIA(米国コンピュータ産業協会)の会長ジョン・ベネター(John Venetor)氏が来日し、直接話をする機会があった。先のEngineer Lifeフォーラム読者調査結果で、エンジニアの90%以上がエンジニアを続けることに危機感を持っていることや、教育制度が整っている企業が20%程度ということなどを説明した後、米国での事情を質問した。

 さぞや日本のエンジニアの恵まれない環境に同情を寄せると思いきや、ベネター氏はエンジニアに限らず、ビジネスマンが危機感を持つのは当然だという。さらに企業が従業員の教育にコストをかけないことも普通だそうだ。「米国には“キャリア・セキュリティ”という言葉があります。自分のキャリアは自分で守るという考え方です。現に米国のエンジニアはよく勉強します。たとえ子どもがいたとしても、生活費を削ってでも自分のスキルアップへの投資を行い、時には大学に再入学したりするのです」(ベネター氏)

 もちろん、社会環境が異なるため、単純に比較することはできないが、興味深い話だった。以前と違い、一部上場企業も公然とリストラを行うようになった日本でも、“キャリア・セキュリティ”という考え方が一般的になる日も近いかもしれない。きっと、20歳代はその準備ができているということだろうか? では、筆者を含め30歳代は……?

■取材協力企業(50音順)
CompTIA 日本支局
テクノブレーン
パソナテック
リーディング・エッジ社
リーベル
筆者の担当している@ITジョブエージェントは、キャリアやスキルを登録することによって人材紹介会社の無料のキャリア相談やキャリア査定を受けることができる、ITエンジニアのためのキャリア支援サービスです。転職を予定していない方でも、キャリアプランの参考にご活用ください。

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