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転職支援訓練体験レポート
失業者はエンジニアになれるか?
最終回(第4回) 学生、再び失業者に戻る

かわい きこ
2002/3/27

リストラに遭遇した筆者はハローワークで、あるプログラムを知った。それは、失業者向けの転職支援制度だった。現在の労働者の需給マッチを解消すべく、政府が実施している「緊急IT化対応等委託訓練」には、数多くのITエンジニアやプログラマに転身できるようなコースがあった。筆者はそのプログラムに応募し、エンジニアへの転身を図ろうと考えた……。このレポートは、筆者が実際に通った学校での実体験を基にしています。もちろん、すべての学校が同じような状況とは限りませんが、就職支援訓練に通おうと考えている人の参考になればと思います。

INDEX  失業者はエンジニアになれるか? 
  第1回 失業者、エンジニアに目覚める
  第2回 失業者、学生になって希望を失う
  第3回 学生となった失業者、反抗を試みる
第4回 学生、再び失業者に戻る

■学級崩壊が始まる

 無駄な(と思える)授業の出席率は、みるみる落ちていきました。授業が始まったころは、「つまらない授業でも、せっかく学べる機会なんだから皆勤賞を目指そう」と私は思っていたのですが、1カ月ほどたったころから、まずは「PC解説」あたりから平気でサボるようになりました。どこかで、ExcelやAccessを勉強したところで、それを仕事に生かすことはあまりないだろうと思ったことと(すでに知っているということもありますが)、授業内容が教科書の説明とソフトウェアのウィザードレベルだったため、サボりたくなったのかもしれません。今後もしこれらのソフトウェアを使うことがあっても、市販本を購入するかウィザードを起動すれば済むことです。そのために週3回、延べ1日かけて学ぶ価値があるとは思えません。

 結局3カ月目には、「PC解説」の平均出席者は3〜4名というところまで落ちました。その少ない出席者のうち授業に対する積極性を多少なりとも感じられたのは、私の知る限りたったの1名。その人に理由を聞くと、「この講座で自分は技術者になれないことが分かった。いままでどおり営業を続けるとしたら、まだExcelやAccessをきっちりやっておく方が、今後役立つだろう」というのが理由でした。

Webシステム構築科の時間割

 実習を伴う「PC解説」と「PC実習」の授業でさえこのレベルですから、前回(第3回 学生となった失業者、反抗を試みる)授業内容を紹介したの「OAセミナー」などはもう悲惨です。月曜日と金曜日の1時間目という時間帯も影響しているのか、ほとんどの生徒はこの授業に出席しなくなり、私も最後の1カ月(つまり3カ月目)は一度も出席しませんでした。

 1時間目の終わりころを見計らって学校に来る生徒がいるのですから、先生も面白くはなかったでしょう。しかし、授業内容に変化がなくて面白くなく、そして役にも立たないのですから仕方ありません。その後、1時間目の終わりころから「OAセミナー」に出席しているクラスメートに聞くと、その授業の出席者は毎回平均1〜2名だったとか。もしかすると0人という日もあったのかもしれません。常に出席していたと見られるその1〜2名のクラスメートとは、ほとんど話す機会がなかったので、本当にそんな日があったのか、またどうしてあの授業に出席し続けたのかは、気になりつつも聞きだすことはできませんでした。

■ネタ切れでもたなくなった授業も

 個人的に残念に思ったのは、「ホームページ解説」と「ホームページ実習」の授業です。『一週間でマスターするホームページの作り方』という教科書で授業が行われたため、当然お題は1週間分しか用意されていません。週1回の授業で計算すると7週間目には教科書は終わってしまいます。そして本当に教科書は7週目で終わりました。そしてその後、数週間はプリントなどを配って“間”を持たせてくれましたが、最後はそのネタさえなくなってしまったご様子。

 私たちは教科書のお題を一通りやっただけで、経験者を除いては「HTML書けます!」というレベルからはほど遠い人がほとんどです。それなので、せめて教科書の復習をさせるとか、ちょっとひねった応用問題を出すとか、工夫すれば授業の進め方はいろいろとあるように思えるのですが、とうとう最後の方の授業で担当の先生は、「今日はやることがないのでAccessの問題集を用意しました。やりたい人は取りに来てください」というではありませんか。いやもうびっくりです。「Accessやるなら帰る!」と、駄々をこねたい気もしましたが、たった5人しかいない教室をいきなり出るのも気が引けたため、結局そのままいました。

 しかし、私はホームページ作成とは、もっと奥深いものだと思っていました。スクリプトやCGIやグラフィックスなどまで考えれば、授業で「やることがなくなる」といわれるのは信じられません。性格が穏やかで優しいクラスメートが1名、「だれも取りに行かないのもかわいそうだ」と、Accessの問題集を先生から受け取っていました。しかし、私はどうしても取りに行く気になれませんでした。ある生徒は、「就職活動がしたいので、インターネットに接続させてください」とリクエストし、先生はおとなしくそのリクエストに従ってPCを操作していました。

 そして1時間ほどすると、元々少ない出席者の中からぽつぽつ帰りだす人も出始め、気が付くと最後まで教室に残っていたのは、メールを書くのに必死になっていた私とあと1人だけ……。そのためか、授業の最終週はAccessの問題集さえ渡されることもなく、初めからインターネットに接続されたPCの前に座らされただけ。私たちはその後の飲み会のためだけに最後まで“自習時間”を過ごし、意味もなくネットサーフィンを数時間続けたのでした。

 同じように少し残念だったのが、「UNIX」の授業です。以前にも書いたように、UNIXの授業には満足しています。ところがこちらも教科書を終わってしまいました(当たり前かもしれませんが)。ただ、終わったといっても、こちらも一通り教科書をざっとおさらいしただけですから、私の覚えたUNIXコマンドで教科書を見なくても入力できるものといえば、「ls」や「vi」「cd」「date」、それに「mkdir」ぐらいでしょうか。悲しいことに、片手で数え切れてしまいます。ほかのコマンドは授業で数回しか使っていませんから、自宅で復習しなかった私には、まったく身に付かなかったようです。それでも先生は「教科書終わっちゃいましたねぇ、次週から何をしましょうか、JavaScriptでもやりますか」の一言で、UNIXの授業を強制終了させてしまいました。

 しかし担当のT先生は、自分の好きな分野に授業を持っていく傾向のある先生でしたが、だんだんやる気がなくなっていく生徒を前にしても、最後まであきらめず一生懸命授業を続けてくれた点は感動ものでした。残り数回の授業だけでJavaScriptの授業を受けても身に付かないだろうとは思いましたが、プログラミングなど一度もやったことのない私には、とてもいい経験でした。

■出欠には意味があったのか?

 ところで、本当は学校も出欠をきっちり取って労働局に報告することになっているはずなのです。しかし、先生も次第に出席を取らなくなり、欠席が多いからといって労働局から指導がくることもありません(そもそもくるのでしょうか?)。そうなると当然、生徒はつまらない授業に出席しなくなります。面白い授業にはきちんと出席しているのですから、学校側も出席率のいい授業を参考にして、内容を再検討してくれればいいものを、そうした対策を考えている様子もなく、まるで「出席しなくても労働局には告げ口しないから、つまらない授業だけど許してくれ」といって逃げているようです。確かにあの授業内容で「毎回ちゃんと出席しろ」といわれても困りますから、あの状態が学校側と生徒側の一番の妥協点だったかもしれません。

 実際、あの学校では無理なのはよく分かりました。生徒は失業者です。そんな生徒が選択したコースは「Webシステム構築科」です。パンフレットには、「仕上がり像:Linuxを使用してネットワークを構築し、各種サーバー、ファイアウォールを立てられる。データの効率的な利用ができる。」と書かれています。そこまでは無理でもせめて、と考えるのは当然でしょう。そのため、生徒はもっと高度で内容の濃い授業を求めていたのです。しかし、実際には実習できる端末数が少なく、ExcelやAccess以上のことを教えられる先生の数も質も限られていました。それ以上のレベルを持つ先生を雇うためにはコストがかかってしまう。失業者のためにそこまではやってはいられないというのが、きっと学校側の本音なのでしょう。 しかしあの授業料は、だれかがコスト負担したはずだと思っていましたが……。学校の言い訳として、仕上がり像には「データの効率的な利用」とあり、ExcelやAccessの授業があったのでしょうか? いまだにさまざまな疑問が浮かんできます。

■唯一の「Webシステム構築」授業

 授業を受けて3カ月目(つまり最終月)になってはっきり分かりました。「Webシステム構築科」とうたって生徒募集したこの講座で、本当にWebシステムの構築らしいことを学ぶのは、火曜日の午後、3時間ぶっ通しの「ネットワーク実習」(これはLinuxの授業)だけだということがです。さすがにこの言葉に引かれて集まった生徒です。この火曜日午後の授業だけは、最後の最後まで出席率はほぼ100%でした。

 ただ、同時に次のことも3カ月目ではっきりしてきました。つまり、こうしてさまざまなLinuxサーバの設定を学んでも、週に1度の授業のみでは残念ながら私には肝心のサーバのコンセプトがつかめないままだということです。これは、ビデオデッキでテレビ録画ができるというコンセプトを理解していないおばあちゃんに、ビデオ予約の仕方を1週間に1回だけ教えているのに似ているような気がします。押すボタンの順番を全部教えてあげれば、おばあちゃんはそのとおりにボタンを押して録画の設定をしてくれるかもしれません。しかし、おばあちゃんはそのボタン操作が何を意味するのかは、分からないままでしょう。また、次の週までにはそのこと自体忘れてしまうかもしれません。これでは、おばあちゃん自ら「水戸黄門」を録画するというところまでたどりつくのは、とても難しいことでしょう。

 私のLinux体験もそれに似ています。先生は何度も「rpmコマンドでxxxをインストールしてください」といっていました。しかし、そもそもrpmコマンドとは何なのか、インストールしたものは結局サーバの中でどういう意味があるものなのか、本当に理解してインストールする段階まで私はたどりつけませんでした。いつもノートのどこかに走り書きしたコマンドを必死で探し出し、「rpmコマンドでインストールしろといわれたら、このとおりやればいい」と思ってコマンドを打つだけです。それでも先生は熱心に教えてくれるし、授業が終わった後の質問タイムにも、私は時間が許す限り残るようにしていました。ただ、悲しいことに、私は質問したくても何を聞けばいいかさえ分からなかったのです。それでも最後まで有意義だったといえる授業でした。

■最後のアフター4:卒業式

 こうして3カ月という短い学生生活はあっという間に終わってしまいました。初めのころは、授業への不満をこぼしつつ、「こんな所でこんなことしてていいのか!?」と、疑問に感じていた私たちも、甘い環境への適応能力は大変優れたもので、3カ月もたつと無意味さへの疑問どころか「社会復帰できるか」という切実な疑問へと変わってきたクラスメートもいました(これでは3カ月、人間を駄目にしたような気がしますが)。確かに、つまらない授業はサボり放題、授業終了後は4時から飲み屋に行ける生活は、長い人生そう体験できるものではないですからね。

 途中から授業の出席者が少なくなってしまったので、あまり集まって飲みに行くこともなかったのですが、最後はやはり打ち上げです。出席しようがしまいが全員が「修了証書」を手にし、3カ月前とほとんど変化していない自分たちの知識を嘆きつつ、卒業の祝杯を挙げました。

 その会に参加した仲間の中で、その時点で就職が決まった人はだれ1人おらず、「結局、これは本当に就職支援のための訓練だったのだろうか?」という疑問は残ります。私自身も技術者への道はあきらめてしまいました。しかし、野心の端くれぐらいなら残っていますので、万が一「初心者OK、教科書持ち込みOK」という勇気ある会社がございましたら、ぜひともアットマーク・アイティ編集局にご一報くださいませ。初心者用教科書持参でサーバを立ち上げに参ります。しかし、それより私は取りあえずはお金を稼ぐためと、この原稿を書かせていただいた次第です。

 政府の考えた失業者救済授業を受けたところで、なかなかエンジニアは生まれないものですね。途中でやる気を失った私が悪いのでしょうか?

 現在も「緊急IT化対応等委託訓練」が行われているかどうか、同時期に行われた別の訓練の内容がどのようなものであったかは、筆者および@IT編集局では把握していない。
 なお、今年3月11日に首相官邸で開催された第10回 IT戦略本部の議事次第によると、「e-Japan2002プログラム」の推進のため、2002年度IT学習機会の提供という項目(厚生労働省)がある。この中でIT職業能力開発の効果的、効率的な推進を掲げている(資料3の4ページ目)。全文を引用すれば、「ITを活用する能力が不足していることに起因する雇用のミスマッチの解消を図るとともに、IT社会をリードする人材の育成を図るため、IT職業能力機会の提供を行う」とある。これがどのようなプログラムかは確認していない。

「連載 失業者はエンジニアになれるか?」

 

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