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フリーの概念が変わった
フリーエンジニアが注目される理由とは?

加山恵美
2002/2/15

II 社員との違い

■違いは雇用条件だけ

 雇用条件で企業と切り離されるとフリーエンジニアになると考えることができる。しかし、冒頭にも述べたが、完全に仕事を自分で獲得するフリーエンジニアもいれば、派遣会社などを通じて仕事をあっせんしてもらうフリーエンジニアもいる。完全独立型フリーエンジニアと社員との間に位置する中間的なフリーエンジニアには、いまではさまざまなタイプが考えられるし、事実存在する。そのタイプの違いは結局、社員が持っている雇用条件におけるメリットやデメリットを、どれだけ持っていないかということに帰着するのではないだろうか。

 逆にいうと、雇用条件以外の要素はまさに多種多様である。例えばスキル。完全独立型エンジニアともなれば、かなり高いスキルを要求されるはずだが、個人の営業力によって、それを賄うこともあるし、高いスキルがあっても、分野に偏りがあり、思うような仕事がないか条件が合わない場合もあるだろう。逆に社員だからといっても、スキルが高いとも低いともいえない。どの場合でも“ピンキリ”だ。仕事内容、給料の内訳や手取りの金額に関しても、フリーの度合いとは関連がない。関連があるのは、あくまで個人の実績と実力だ。

 それでは社員とフリーエンジニアは、どのような違いがあるのかを、具体的な項目を見ながら検証していこう。

○派遣の仕組み

 派遣エンジニアという形態で仕事を得るフリーエンジニアもいる。だが、一口に派遣といっても大きく分けて次の3通りが考えられる。

一般派遣
 通常「派遣」という場合は、この形態を指す。「一般登録派遣」や「登録型」ともいう。求職者が派遣会社に希望条件やスキルを登録するとそれに見合った仕事が紹介される。派遣先が決定した時点で派遣会社と雇用契約を結び、派遣期間終了と同時に雇用契約も終了する。

特定派遣
 求職者は派遣会社に社員として入社し、必要に応じて派遣される。一般派遣との大きな違いは、派遣元の社員となること。そのため、派遣先の仕事が終了しても派遣元の社員でいられる。派遣会社の関連企業に派遣されることもある。「出向」を前提とした派遣元の社員になるような感覚だ。

紹介予定派遣
 社員予備軍として、まずは派遣社員として働くのがこの紹介予定派遣だ。派遣先企業が認めれば、将来的には社員として就労できる可能性がある。あくまでも可能性であって保証はない。適性の見極めを採用後にするのではなく、派遣という条件下であらかじめ判断できるため、ミスマッチのリスクを防ぐことができる。

 一般派遣が原則自由化されたのは、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(労働者派遣事業法)が1999年に改正されてからだ。また、紹介予定派遣は2000年12月に解禁されたもの。それまでの派遣といえば、特定派遣が一般的だった。ソフトウェア開発は、1999年以前から派遣できる26業務(これが特定派遣)に含まれており、IT業界では以前から特定派遣は利用されていた。

 さて、派遣と似ているようだが、まったく異なっている形式に、首都圏コンピュータ技術者協同組合のような組合形式でエンジニアに仕事をあっせんするところもある(後述)。

○経理面(保険/年金/税金)

 社員ではないとなると、経理面では企業が行ってくれた手続きなど(年金/税金/保険など)を、個人で処理することになる。社員ならば年末調整があるし、年金や保険なども毎月の給料から企業が処理してくれる。

 しかし、フリーエンジニアは個人事業主となり、毎年税務署で確定申告を行う必要がある。この確定申告によって収入や所得が確定し、翌年度の地方税額や国民健康保険料が決まる。それによって地方税(住民税)、国民健康保険、国民年金は後で個人あてに通知され、送付された振込用紙で振り込むか、指定した口座から引き落としてもらうことになる(表1)。

項目 社員 フリー
年金 源泉徴収 個人払い
地方税 源泉徴収 個人払い
所得税 源泉徴収 源泉徴収、確定申告で調整
健康保険 原則は企業の健康保険組合 国民健康保険
雇用保険 源泉徴収 なし(*)
各種控除 年末調整(控除によっては確定申告) 確定申告
表1 (*)小規模企業救済制度など、任意加入のものもある

 確定申告をするとなると書類作成に労力が割かれることになるが、経費などを漏らさず申告するように努力しないと、多くの地方税や健康保険料が課せられることになる(画面1)。

画面1 今年から書式が変更された新しい確定申告書の見本。現在は複写式のため、確定申告書をダウンロードして、それに書き込んで提出するようなことはできない。企業に勤めていても(正社員の場合)、年間の給与が2000万円を超える人、災害を受けた人や退職所得がある人で、一定の条件を満たしている場合などは、確定申告が必要となる

 これらの経理面での管理、派遣企業によっては社員でなくても「準社員」扱いとして、ある程度会社側がやってくれるところがある。

 ここで書いておかなければならないのは、派遣会社の事情、つまり、派遣会社がフリーエンジニアを採用する理由だ。簡単にいえば、高いスキルを持った派遣エンジニアであれば時給(単価)が高い。その場合、当然派遣会社の収入も高くなる。また、そうしたエンジニアを派遣会社が多く持てば、スキルを持ったエンジニアに合った仕事を個別で探してくることができるだろう。また、上級SEをプロジェクト開始前に派遣できれば、そのプロジェクトに関する情報を入手しやすく、そのエンジニア以外も派遣できる可能性がある。

 こうした理由があるため、高いスキルを持つエンジニア、フリー志向の強いエンジニアに対して、特別のメニューを用意する派遣会社もあるようだ。ただし、派遣は名目で、実際は請負契約を結ばされるケースもあるようだ。フリーエンジニアとして、分かっていて契約するのはいいが、知らないで契約させられることがないよう、その点注意したい。フリーになるということは、こうしたことからの防御も、自らが行う必要があるのだ。

○仕事のサイクル

 フリーエンジニアとなると、ある特定の企業の仕事にだけ従事することはない。仕事の依頼があれば、それを引き受けるかどうか選ぶことができる。企業に就職していれば上司が指示するが、フリーエンジニアは派遣会社(または知り合い)からまずオファーがあり、報酬や内容などの条件によって受けるか断るかを判断する。

 一般的に仕事のオファーは、開発ならプロジェクト単位、運用保守なら期間をめどに発生する。開発終了(納品して検収後)または契約期間が終了すると、ひとまず仕事は終了となる。ここで、機能追加などで開発が延長されたり、運用保守期間が延長されたりすれば、再度同じところで働くことになるが、そうでなければ新しい仕事に移ることになる。会社員なら次の仕事は上司が割り当てるが、フリーエンジニアは次の仕事がすぐ見つかるとは限らない。連続して仕事ができるかどうか、切実ないい方をすれば、連続して収入が得られるようになるかどうか、それが重要になる。

 広く人脈があり、次の仕事に困らないようであれば完全独立型のフリーエンジニアとなれるのだが、そういう「仕事の営業」というのは、エンジニアの技術中心の仕事とは別の能力を必要とする。エンジニアの仕事に専念するために派遣会社に登録しておき、仕事が終わったらまた次の仕事を得られるようにするのもフリーエンジニアをするうえでの選択肢の1つだ。

 フリーエンジニアのよいところは、その仕事を引き受けるかどうかを選ぶ権利があるということだが、オファーが自分にとって有利なものばかりとは限らない。理想としては、自分に適した仕事、技術的に興味を引く仕事で、かつ報酬もそれなりに高いものを選ぶことができればよいのだが、「背に腹はかえられない」からと、満足できない仕事を選ぶ羽目になる場合もある。常に理想的な仕事が選べるようになるまでには、本人の能力や実績が周囲から十分認められるまで、相当な努力が必要になるとの覚悟がいるだろう。

○就業スタイル

 フリーエンジニアの仕事のスタイルといっても、それは仕事内容による。開発の請負であれば、自宅や仕事場にて作業を行い、開発が完成すれば納品する。満員電車からは解放されるが、納期に拘束されることとなり、場合によっては朝昼晩と時間を問わず開発を続けることもある。開発の請負を行うフリーエンジニアは、自宅を使う人もいるし、家族との生活と仕事とを区別するために、仕事用の部屋を借りる人もいる。

 仕事場へ出勤する「常駐」の契約であれば、勤務時間の条件に従う。定時出勤/退社の場合もあれば、フレックス勤務の場合もある。開発が中心となると開発の請負に近いので、時間の拘束が少ない場合が多く、保守になると勤務時間が条件となる場合もある(緊急のトラブル発生時は別条件)。ただし、ここまで解説したことは、あくまでそうした傾向があるという話でしかないので、その時々によって変わる。そのため、よく条件を確認する必要がある。

○技術力開発

 エンジニアにとっての資本ともいえるのが技術力。特に最近では、最新の技術を吸収しているかどうかが重要な要素となる。そのため、仕事を続けながら自分に投資することも考えなくてはならない。社員であれば自己啓発のためや会社からの指示により、研修を受講することがある。社員なら研修費はたいてい会社が負担するので無料であることが多いだろう。その代わり、指示された講習以外なら申請する必要があるし、講習を受講できるかどうかは会社の判断による。

 フリーエンジニアであれば、自己能力開発も自分で行わなくてはならない。そうなると、研修費も基本的には個人負担になる。各種トレーニングを受講したり、セミナーに参加したりするのも有効な手段の1つだ。

 派遣企業の中には、エンジニアの技術者支援プログラムを用意しているところが多い。具体的には、セミナーのあっせんや受講料の負担(全額/一部)、資格試験料の負担(これは企業によって、また資格のレベルによっても異なる場合がある)などのメニューを用意している。こうしたエンジニア育成を援助しているのは、より優秀なエンジニアを確保しておくことが派遣企業にとって仕事を受注する可能性を高めることができるからだ。

■フリーエンジニアは選択肢の1つ

 エンジニアも含め求職者と雇用の関係は、近年になって非常に早い勢いで多様化してきている。従来は「社員」か、いわゆる脱サラした「完全独立型フリーエンジニア」に二極分化していた。しかし、派遣というスタイルが一般化するにつれ、その中間的な存在が目立つようになってきた。そのため「社員だから」または「派遣だから」という条件が、仕事の難易度や重要性と直結しなくなった。

 もちろん、フリーエンジニアとしてやっていくには、ある程度の実力と実績が必要だ。ただし、独立するということは、必ずしもエンジニアの到達目標や理想型になるとは限らない。また逆に企業に属していないからといって悲観することもない。

 それぞれのライフスタイルやキャリアプランに適した道を選ぶために割り切ることもある。例えば、実際に取材で聞いた話の中には、「家を建てる」「店を持つ」のが目標で、一時的に実績を無視したり過酷な労働を選ぶ人もいた。または「家庭の事情」「通学」のために、定時退社が可能な勤務先を選ぶ人もいる。どんな状況でも常に何が優先なのかを見極め、自分なりの志やビジョンを持ち、納得し自信を持って選択することが大切だ。

 フリーエンジニアになることは、個人の人生戦略における選択肢の1つなのだ。

■フリーエンジニアからの言葉「神髄を究める」

 社員でエンジニアをするにしても、フリーでエンジニアをするにしても、エンジニアはエンジニアに違いない。エンジニアにとって必要な技術力をいかに鍛えるか、いかに最新の動向についていけるようにするか、いかに技術に対する興味を失わずにいるか、こういったことは、どんなエンジニアでも共通に持つテーマだ。

 本記事の取材を通して、数人のエンジニアから「言語やソフトウェアごとの表面上の違いに惑わされることなく、システムの神髄を理解することが大事だ」という共通認識が見いだせた。ろくに技術を習得しないまま、新しい言語や新技術などの流行を追い求めるのではなく、何か1つでも言語やシステムを究めてみることが大事だという。システム構築に必要なことは何なのかを正しく理解すれば、今後新しいシステムに出合っても習得は早く済むし、問題の多いシステムを作ってしまうこともないというのだ。

 やはり、フリーエンジニアはフリーとして人生をかけてエンジニアとして生きているだけに、それぞれがシステムの神髄や哲学というものを持っていて、彼らの言葉に重みを感じた。

 派遣とはまた違い、ITエンジニアが組合員となり、協同組合という形でエンジニアに仕事をあっせんしているのが、首都圏コンピュータ技術者協同組合だ。

  エンジニアである組合員が仕事に専念できるように、福利厚生から各種事務代行・教育研修をバックアップする。組合員になるには一定期間の実務経験(目安は3年)が必要で、組合員は個人事業主(フリーエンジニア)となる。事務代行には、例えば伝票の集計、青色申告決算書作成や指導も含まれる。また、組合なので慶弔金共済、医療費用共済などといった各種の共済が用意されている。

  エンジニアへの教育支援制度としては、セミナー参加費補助や資格試験受験料補助、特に情報処理技術者試験なら受験費用は全額補助となっている。仕事をあっせんしてもらったら報酬の一部を組合に納めることになる。

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