改正された国家試験の変更点は
情報処理技術者試験は受験すべきか?
加山恵美
2001/6/21
1. 改正された情報処理技術者試験 |
IT系の試験の中でも歴史が長い情報処理技術者試験。IT関連の企業に勤務しているなら、受験を検討したり、上司から勧められたりしたことがあるのではないだろうか。この情報処理技術者試験だが、平成13年春から試験制度が変更になり、区分や内容が変わった。そもそも情報処理技術者試験とはどのような試験なのか、そして、どのように内容などが変わったのだろうか。そして、ITエンジニアは新しい情報処理技術者試験を受けるべきか? それらについて考えてみることにしよう。
情報処理技術者試験とは?
情報処理技術者試験とは、情報システムを利用するエンドユーザーから情報システムを提供する技術者、また監査する技術者も含めた、IT関係者のための試験である。IT関連試験・資格が多様に存在する中、この情報処理技術者試験は、「情報処理の促進に関する法律」に基づいて実施されるれっきとした国家試験である。そのため、合格すれば経済産業大臣より合格証書が交付される。ただし、国家試験といっても医者や弁護士のように仕事をするために必要な資格型ではなく、技術のレベルを示す認定型の試験である。情報処理技術者試験の目的をまとめると、次のようなものになる。
- 情報処理技術者に対して目標を示し、刺激を与えることによって技術の向上を図ること
- 情報処理技術者として備えるべき能力の水準を示すことにより、教育水準の確保を図ること
- 情報処理技術者の評価に関して客観的な尺度を提供すること
- 広く受験の機会を提供することにより、国民各層の情報化に対する意識を高めること
試験区分とスケジュール
情報処理技術者試験は、平成13年春の実施分から試験区分が変更になった(変更された背景については後で触れる)。加えて、平成13年秋から新設される試験(情報セキュリティアドミニストレータ試験)もある。情報処理技術者試験の区分は、最初に実施された昭和44年の第1種情報処理技術者試験・第2種情報処理技術者試験・特種情報処理技術者試験などの水準別に分けられた体系で始まった。
この体系は、平成6年秋の実施分で初の改訂を受け、専門分野ごとに分けられた試験が追加された。その後、エンドユーザー向けのアドミニストレータ試験が追加され、さらに平成12年に2度目の大規模な改訂が行われた。この新たな区分による試験は、すでに平成13年春期から実施されている(図1)。
図1 平成13年から実施された情報処理技術者試験の新しい試験区分 |
なお、従来あったプロダクションエンジニア試験は廃止されたが、その試験内容に含まれていた内容は、第1種情報処理技術者試験(ソフトウェア開発技術者)とアプリケーションエンジニア試験に分散された。新設された試験は、情報セキュリティアドミニストレータだ。そのほかの試験の内容にも多少の変更点はあるが、試験の対象者と出題範囲はほぼ従来どおりである(表1)。
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表1 新試験と旧試験との区分を対比した。−とあるものは、新試験で新設されたもので、旧試験にはないもの |
それでは、試験制度の大改正を受けて平成13年春期から開始された資格は、どのようなエンジニアを対象にしているのだろうか。ここで、各資格ごとにその人物像を簡単に見てみることにしよう。
■システムアナリスト
経営戦略に基づく情報戦略の立案、システム化全体計画および個別システム化計画の策定を行うとともに、計画立案者の立場から情報システム開発プロジェクトを支援し、その結果を評価する。
■プロジェクトマネージャ
情報システム開発プロジェクトの責任者として、プロジェクト計画の作成、要員などプロジェクト遂行に必要な資源の調達、プロジェクト体制の確立および予算・納期・品質などの管理を行い、プロジェクトを円滑に運営する。
■アプリケーションエンジニア
情報システム開発プロジェクトにおいて、プロジェクト計画に基づいて、業務要件分析からシステム設計、プログラム開発、テストまでの一連のプロセスを担当する。
■ソフトウェア開発技術者
情報システム開発プロジェクトにおいて、内部設計書・プログラム設計書を作成し、効果的なプログラムの開発を行い、単体テスト・統合テストまでの一連のプロセスを担当する。
■テクニカルエンジニア(ネットワーク)
ネットワークシステムの計画・設計・構築・運用において中心的役割を果たす。
■テクニカルエンジニア(データベース)
情報資源およびデータベースの計画・設計・構築・運用・管理において中心的役割を果たす。
■テクニカルエンジニア(システム管理)
情報システム基盤(業務システム共有のシステム資源)の企画・構築・運用において中心的役割を果たす。
■テクニカルエンジニア(エンベデッドシステム)
エンベデッドシステムに関する要求仕様のまとめ、システム開発工程の計画およびシステム開発工程に基づく設計作業を遂行する。
■情報セキュリティアドミニストレータ
情報セキュリティに関する基本的な知識を持ち、情報システムのセキュリティポリシーの策定およびその実施・分析・見直しを行う。
■上級システムアドミニストレータ
ユーザー企業において、業務の中でどのように情報技術を活用すべきかについて判断するために必要な知識・技能を持ち、情報化リーダーとして業務改革・改善を推進する。
■初級システムアドミニストレータ
ユーザー企業において、情報技術に関する一定の知識・技能を持ち、部門内またはグループ内の情報化をエンドユーザーの立場から推進する。
■システム監査技術者試験
被監査部門から独立した立場で、トップマネジメントの視点で、情報システムが経営に貢献しているかどうかを、安全性・効率性・信頼性・可用性・機密性・保全性・有用性・戦略性など幅広い側面から総合的に調査し、あるべき姿を描くことによって自ら形成した判断基準に照らして評価し、問題点について説得力のある改善勧告を行う。
■基本情報技術者試験
情報技術全般に関する基本的な知識・技能を持つ。情報システム開発プロジェクトにおいて、プログラム設計書を作成し、プログラムの開発を行い、単体テストまでの一連のプロセスを担当する。
試験は、春と秋の年2回実施される。基本情報技術者試験と初級システムアドミニストレータ試験は、春・秋の両時期に実施されるが、それ以外の試験では、春または秋のいずれかしか実施されない。つまり、初級システムアドミニストレータ試験と基本情報技術者試験以外は、年に1度しか受験するチャンスがない(表2)。
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表2 試験の実施日、願書受け付け期間、合格発表時期 |
試験当日のスケジュールは以下のとおり(図2)。それぞれの試験における出題形式と出題数は情報処理技術者試験センターのWebサイトで参照してほしい。どの試験も午前から夕方まであり、かなりの長丁場となる。
図2 各試験のスケジュール |
試験の申し込み方法と試験の免除制度
個人で申し込む方法には、インターネットから申し込む方法と郵便局から申し込む方法とかがある。インターネットから申し込む場合は、情報処理技術者試験センターのWebサイトから申し込む。受験手数料の払い込みはクレジットカードにて決済する。郵便局から申し込む場合は、情報処理技術者試験センターから直接または郵送で願書を入手するか、受験雑誌のとじ込み付録の案内書・願書を利用して申し込む。
受験者が10名以上集まれば、団体で試験を申し込むこともできる。願書は電子媒体でも書面でもどちらでも提出できるが、オンラインでの申し込みはできない。受験料の割引はないが、合格者の受験番号が合格発表当日にメールで送られるなどのメリットがある。
新設された免除制度
旧試験には、2つの試験免除制度があった。第1種情報処理技術者試験の一部免除は、通商産業大臣(現経済産業大臣)が認定した地域ソフトウェアセンターか、財団法人日本情報処理開発協会中央情報教育研究所(CAIT)で実施する標準研修を適正に修了した場合、修了後に到来する最初の試験とその次の試験の午前試験が免除された。第2種情報処理技術者試験の一部免除は、通商産業大臣の第2種情報処理技術者試験一部免除認定を受けている専修学校で、情報化人材育成学科(I類)に在籍し、第2種共通カリキュラムの授業を適正に修了した場合、学校在籍者はその秋期の試験、卒業者は卒業年の春期の試験の午前の試験が免除された。
どちらの免除制度も新試験制度では廃止されるが、平成12年までに研修機関か専修学校を適正に修了した場合は、経過措置として午前試験が免除される。
しかし、新試験制度で受験者にとって大きな意味を持つのは、次の新設された新たな午前試験の免除制度だ。これまで、ある程度現場で経験を積んだエンジニアにとって試験で苦労するのは、その資格の前提となる基本的な知識などを問う午前の試験であろう。この試験のため、受験するエンジニアは、労働時間外に“午前試験対策”勉強をする必要があるなど、かなりの苦労を味わったはずだ。これが次のように、条件や期限があるが、1つの試験に合格した場合、一部の試験の午前の試験が免除されるようになった。
ソフトウェア開発技術者試験の合格者は、システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、アプリケーションエンジニアの午前試験が最大2回免除される。この免除有効期間は合格後2年間となる。システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、アプリケーションエンジニア試験合格者は、システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、アプリケーションエンジニアの午前試験が免除される(当然合格した試験を除く)。この免除有効期間は合格後2年間となる。
試験制度の変更の狙いは何か
前述したように、平成13年春期実施分からかなり大規模な試験制度の変更が行われた。この変更は、近年の情報技術の急速な進展により、試験制度に対して以下のような問題点が指摘されたためである。
- 急速な技術変化に追い付いておらず、現実的なビジネスとギャップがある
- 試験の利便性に対する配慮が足りない
- 時間の経過とともに能力認定の価値が下がる(陳腐化する)
これらの問題点に対応するために、制度面と出題内容が改訂されることになった。従来の制度では、産業構造審議会からなる情報産業部会が通商産業省に数年に1回提言を行い、情報処理技術者試験センターが検討を重ねるという、実にスローなペースで審議されていた。
これを新しい制度では、産業構造審議会の代わりにパブリックコメント(一般からの意見)も採り入れて、評議委員会が情報処理技術者試験センターに不定期に提言をすることになり、迅速化と柔軟さを新試験制度に取り入れた。また、従来は中央情報教育研究所で作成していた「標準カリキュラム」に準拠した出題がされていたのだが、これに代わって中央情報教育研究所が「スキル標準」を作成し、これと連携・同期を取る形で情報処理技術者試験センターが「出題範囲」を作成する。
スキル標準とは、産業界で必要な人材の知識・技術・能力・水準、また教育訓練を明確に行うことと、産業界全体の技術水準を把握することを目的としている。これらの制度面や出題内容の変更から、今回のような試験区分の変更が行われた。それに伴い、試験日程や試験時間の変更も行われている。
そのほかにも、いくつか改定された点がある。
- 合格年月の明示
- 年齢制限の廃止
- 業務履歴書の廃止
- 利用可能な電卓の見直し
- 合格発表の早期化、ホームページへの掲載
- プログラミング試験にJavaを追加(Javaの仕様はこちら)
これにより受験者の利便性が高まり、幅広く受験者を募ることができるようになった(編集者注:電卓に関しては、平成14年度秋期試験(2002年)から持ち込みが禁止された)。
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