10年後も飛躍し続けるためのスキル
なぜ、SAP ERPに関わるスキルは10年後も通用するのか


第3回 SOA時代、
新たに生まれる職種とスキルとは?

有村 大吾郎 (ありむら だいごろう)
SAPジャパン株式会社 ソリューション本部
パートナソリューション部 部長
2008/11/14


SOA(Service Oriented Architecture)という概念は、ERPパッケージ導入/手組み開発にかかわらず、「システム」のあり方そのものを大きく変えました。その変化によって、これまで「プロジェクトマネージャ」「上流系コンサルタント」「アプリケーションコンサルタント」「運用担当者」「開発者」と呼ばれてきた職種も変化しつつあります。こうした職種がどのような役割に変わるのか、そしてどのようなスキルが求められるのかについて解説しましょう。

   従来の「職種」が、SOAによって大きく変わる!

 前回の「ITスキルの全体像とSAP ERP関連スキルのポイントとは」では、SAP ERPに関わることで身に付けられるスキルは、単にそのパッケージソフトウェア自体の設定方法や機能知識を得るだけのものではないという説明をしました。世界中のさまざまな企業のビジネスプロセスが詰まったSAP ERPを始めとするSAPアプリケーションを学ぶことは、グローバルの業務や業界に関するノウハウを学ぶ最も手っ取り早い手段でもあり、それが将来さまざまな職種への可能性を大きくします。そして来るべきSOA時代においては、SAP ERPに関わることが、SOA(Service Oriented Architecture)という新しいITアーキテクチャの真価を発揮するための礎(いしずえ)になるということについてもお話しました。

 今回は、ERPパッケージや手組みシステムに関わらず、従来からある「プロジェクトマネージャ」「上流系コンサルタント」「アプリケーションコンサルタント」「運用担当者」「開発者」といったロール/役割が、来るべきSOA時代において何へと変わり、それぞれの新しいロール/役割に求められるスキルがどのように変化していくのかについて説明していきたいと思います。

 SOA時代に求められる役割やスキルを話すに当たって、まずは、なぜ「SOA」というアーキテクチャが提唱されるのか、なぜ多くの企業が「SOA」というアーキテクチャに基づいてシステムの検討や構築をしなくてはならないのか、についてお話します。

   「業務の効率化」から、
 「ビジネス変化へ追随する手段」になったIT

 そもそも業務のシステム化のきっかけは、「効率化」が主な理由でした。具体的には、今までに連綿と人がやっていた「作業・業務」を、システムに「置き換える」といったことが多かったと思います。例えば、今まで10人でやっていた受注伝票処理を、システム+2人で対応できるようにする。工場の操業状況を1つひとつ手作業で目視確認していたのを、システムに常時モニタリングさせて問題があるとシステムが判断した時だけ対応すれば良いようにする――といったようなことです。もちろんこれ以外にも、業務で使われている「システム」の中には、単に人間の能力では簡単には対応できないこと、例えば大量の情報の分析や予測シミュレーションなどもあります。

 現在、多くの作業はすでにシステムに置き換わり、さらに各業務で分断されていたシステムは、ERPパッケージシステムによって統一化され、より全社視点で「効率的」なシステムを作り上げている企業も多くなってきました。しかし、ここにきて企業は、現在の業務をシステムに置き換えるだけでなく、いま起こっている(もしくはこれから起きる)さまざまなビジネスの変化に合わせて、的確かつその変化スピードに遅れることなく、システムを追従させる必要が出てきました。その変化とは、例えば従来のビジネスが頭打ちになって新たなビジネス領域へ進出する、ということや、従来のビジネスそのものを急激に大きく変えていく、もしくはM&Aなどの買収活動に対応する、などが挙げられます。

 従来は、ある程度決められた事業領域の中で、その規模を拡大しながら効率化していくことが重要でした。いまは、こうしたやり方を継続しながらも、ビジネスの「追加」「変化」に合わせ、システムをすばやく自在に「追加」「変化」できることが求められているのです。そして、このニーズを支えるITのアーキテクチャとして「SOA」が注目されているというわけです。

   SOA時代のシステム開発は「サービス」単位

 SOAというアーキテクチャに基づいてITシステムを構築するプロジェクトの推進では、私たちがいままでに経験してきたERPプロジェクトや手組みシステムプロジェクトと明らかに異なる点があります。どのような点が異なっているのでしょうか? また、そこで求められる役割やスキルはどのようなものなのでしょうか?

 SOAに基づいたプロジェクトで最も特徴的なのは、システムとして扱う単位が「サービス」という単位になることです。従来、システムを導入する際には、システムを必要とする部門が担当している「業務」を大まかな単位として考えてきました。一方、SOAベースでは、業務要件やシステム運用、ITガバナンスなどについて、既存と新規に関わらず、すべてこの「サービス」という単位で検討する必要があります。

 「サービス」は、将来にわたってITシステム環境全体で共通の「資産」として利用できるように、カタログとして管理される必要があります。さらに、カタログとして管理され、「共通」の資産として活用するためには、システム全体における各サービスの整合性が取れなくてはなりません。つまり、事前に一貫性のあるデータを定義し、サービスが処理する対象や、サービス同士の関連性などが明確になっていなくてはならないのです。

 また、この「サービス」という単位を考えるに当たっては、業務をどのような粒度で捉えれば良いのか、その業界ではどのような粒度が適切なのかを考える必要があります。つまり、いままで述べてきた「ビジネススキル=業務知識」や「インダストリスキル=業界知識」が必要になってくるのです。

 このように、SOAに基づいたプロジェクトでは、今までにない視点でプロジェクトを進める必要があり、それは自ずと新しい役割とスキルを要求します。

   SOA時代、新たに生まれる6つの職種とは

 次に、SOAプロジェクトにおいて求められる役割が具体的にどのように変化していくのか、それぞれがどのようなスキルを要求するのかを以下の図1に沿って説明したいと思います。

図1 SOAプロジェクトで求められる新しい役割

 プロジェクトマネージャは「エンタープライズアーキテクト」という役割に代わります。エンタープライズアーキテクトは、単にプロジェクトの進行管理だけでなく、まずはTOGAF(The Open Group Architecture Framework)などのエンタープライズアーキテクチャフレームワーク(EAF)を理解しなくてはなりません。

 TOGAFとは、IT標準化団体であるThe Open Groupによって作成されたフレームワークです。その根底にはEA(Enterprise Architecture)の概念が流れています。エンタープライズ的な視点(簡単にいえば全体最適化の観点)で、「ビジネスプロセス」「データ」「アプリケーション」「技術」の変化に対応するためのフレームワークです。SOAの推進に当たっては、まず、TOGAFに関する深い理解が必要です。これが従来のプロジェクトマネージャと大きく異なる点です。

 そして、SOAに基づいたITシステム構築と展開において、社内外の利害関係者に説明できるようなスキルが必要になります。加えて、戦略的なITランドスケープ計画を立てなくてはなりません。

 上流系コンサルタントは「ディスラプティブイノベータ」という役割に代わります。この役割も、まずはTOGAFなどのエンタープライズアーキテクチャフレームワークを理解している必要があります。加えて業務特性・業界特性やビジネストレンドを理解した上で、現在と将来に求められているビジネスニーズに対して、ITシステムが貢献できる新たな価値や役割を、さまざまなビジネスフレームワークを利用しながら見出し、提案できる能力が必要です。そのためには、高いコミュニケーション能力と分析能力、そして新たなことを生み出す強いリーダーシップが求められます。

 従来のERPアプリケーションコンサルタントやERP導入後の現場のシステム運用担当者については、「ビジネスプロセスエキスパート」「コンソリデータ」「リポジトリ管理者」という3つに役割が分かれます。

 「ビジネスプロセスエキスパート」は、その名のとおり、業務特性や各業務のビジネスプロセスを理解している必要があります。加えて業界特性も理解しているとさらに良いのですが、もちろんそれだけでなく、SOAに基づいた新しいIT技術の活用が現在と将来のビジネスにもたらす価値を想定できる必要があります。また、想定・察知した新たなIT技術の活用方法をビジネス戦略やIT戦略と照らし合わせ、最適な実行方法を検討できなくてはなりません。その実現化に当たっては、現場担当者や社内外の関係者に説明し、調整できるようなコミュニケーション能力が求められます。

 「コンソリデータ」は、担当する業務領域の業務そのものとシステム=サービス、そして業界標準を深く理解しながら専門性を高め、SOAに基づいた新たなIT技術活用の実現化にあたり、どのようなIT資産(サービス)を活用できるのか、活用すべきかを考えなければいけません。また、それらを適切に組み合わせて、最適なビジネスプロセスを組み立てるビジネスプロセスモデリングの能力も求められます。

 「リポジトリ管理者」は、「サービス」という単位とその中身(項目の持ち方など)について、業界標準とシステム全体の調和の観点で考えられる能力が求められます。もちろん各業務の特性を理解していれば、一層良いでしょう。またサービスをIT資産として管理し、既存サービスの再利用可能性の検討や微調整の必要性、新規サービス作成などを判断できる能力が求められます。「サービス」を必要に応じてバラバラに作ってしまうと、最終的にどこに何があるか分からなくなってしまいますし、同じようなものを重複して作ってしまうという無駄が発生し、結果的にサービスの再利用性が低くなるという問題があります。「リポジトリ管理者」は、それをコントロールする大切な役割です。

 従来の開発者は「サービス開発者」に代わります。SOAに基づいたITシステム構築に当たっては、具体的な技術として「Webサービス」を開発する必要があり、このWebサービスの開発プロセスと開発方法――SOAPについてのスキルなど――を身に付けている必要があります。また開発に当たっては、開発する機能を「サービス」として定義し、各「サービス」を開発するだけでなく、組み合わせる「モデリング」を行えるスキルも必要です。また画面についても、各機能ロジックと画面を直接結びつけるのではなく、MVCモデルに沿って画面と機能ロジックを切り離した開発・実装手法も求められます。

   技術ではなく「人」のスキルがより重要視される時代

 このように、従来のERPプロジェクトや手組みプロジェクトにおける開発スタッフの役割は、SOAに基づいたプロジェクトになると随分変わります。求められるスキルも変化します。これらの役割の相関図を表すと、以下の図2のようになります。

図2 SOAプロジェクトにおける新しい役割の相関図

 この図から分かるように、SOAに基づくシステムは、開発スタッフそれぞれの役割が相互に関係し合うことで、組み立てられていきます。つまり、それぞれの役割は、どれ1つとして欠けてはならず、役割の違いをお互いで理解し合いながら上手に連携していくことが求められるわけです。

 SOAに基づいたシステムは、システムの柔軟性が向上する分、システム構築に関わる「人」が成否の鍵を握ります。例えば、従来のERPパッケージの導入においては、適用する業務をERPの機能へとマッピングし、ギャップがあれば業務をパッケージに合わせるか、またその業務が戦略的なものであればアドオンで機能開発する、というように「拠り所」がありました。

 今後は、新たなIT技術を使って新たなことを実現していかなくてはならないため、どのスタッフもさまざまな立場の人と協力できるコミュニケーションスキルなどのパーソナルスキルを発揮していくことが求められるといえます。

 前回、前々回の記事で、SAPビジネスに関わることや、SAP ERPを始めとしたビジネスアプリケーションを学ぶことによって、単なるビジネスアプリケーションの「パッケージ機能スキル」だけではなく、業務・業界・パーソナルの「スキル」を身に付けられる機会があるとお伝えしてきました。「業務スキル」「業界スキル」、そしてさまざまな「パーソナルスキル」の重要性を認識し、今まで以上にスキルアップしていただければと思います。

 次回は、実際にSAPビジネスの世界に踏み込まれた方々が、どのようにERPのスキルを習得され、また単なる製品としてのERP知識以外にどのようなスキルが身に付いたか、さらには、現在足りないと感じているスキルはどのようなもので、これからどうやってそのスキルを習得していこうと考えているのか、実体験を元にご紹介していきます。

筆者紹介
有村 大吾郎(ありむら だいごろう)
SAPジャパン株式会社 ソリューション本部
パートナソリューション部 部長


SAPジャパン株式会社入社後、SAP ERPコンサルタントとして様々なSAP ERPプロジェクトへ参加。その後、SAP初のCRMソリューションを日本で立ち上げ、SAP CRMソリューションのプリセールス(技術営業)活動とコンサルタントとしてSAP CRM導入プロジェクトの両方を経験し、SAP CRMソリューション部長となる。現在はSAPパートナ企業のSAPビジネスを支援するプリセールス部隊の責任者として、SAPソリューションの拡販を推進している。

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