転職すること自体が目的に?転職を阻む意外な落とし穴(15)

転職する際に重視することは何か。給料、希望職種、経営者のビジョンや方針、スキルアップ支援など。しかし、いざ転職する場合に、そんなこととは関係なく、思いもよらぬことで転職を断念しなければならないことがある。そんな例を、毎回キャリアデザインセンターのキャリアコンサルタントが紹介する。

» 2005年03月31日 00時00分 公開
[伊藤泰子キャリアデザインセンター]

転職活動の前に考えておくべきこと

 転職したい理由は、人によってさまざまです。キャリアアップしたいという成長意欲を挙げる方もいれば、現職での不満を挙げる方もいるでしょう。

 転職を考えた際に、まずご自身で振り返ってほしいことは次の2点です。

  • 現職では実現できず、転職が必要なのか?
  • 現職で問題を解決できるよう、自発的に動いてみたが、やはり転職が必要なのか?

 これらをクリアにし、誰が聞いても正当な転職理由を持って活動を行うのがベストです。

 この振り返りができていないと、転職する目的が見えなくなり、いつの間にか転職すること自体が目的になってしまいます。これでは本末転倒です。「現実逃避型転職」ともいうべきケースです。

 また、転職活動を展開するうち、なぜ転職するのかという初心をすっかり忘れてしまい、興味がある職種、可能性がある職種なら何にでも応募してしまうというケースもあります。いわば「わらにもすがる転職」です。

 今回は、どういったときにそれらのケースに陥ってしまうのか、具体例を挙げながら検証してみましょう。

焦りのために目的を見失う

 大手ハードベンダに勤めるAさん(29歳)。エンジニア、プロジェクトマネージャ、サービス企画担当として7年間活躍してきました。ところが1年前、突然人事部への異動を命じられたのです。青天のへきれきとはまさにこのこと。常に目標値をクリアし、先進的なサービスを開発し、多大なる実績を挙げていた本人にはまったく理解できない異動でした。

 周りから「ジョブローテーションの一環。出世コースだよ」と諭され、Aさんは「未経験領域に挑戦するのもいいかな」と気持ちを切り替え、1年間人事労務業務に励みました。しかし心の中の何ともいえないもやもやした気持ちが消えません。プロジェクトマネージャとしてクライアントに提案を行い、目標を達成することにやりがいを感じていた自分に気付き、転職活動を開始しました。

 この時点でのAさんの転職目的は「プロジェクトマネージャとして活躍したい」ですね。ところが転職活動を続けるうちに意外な職種が飛び出してきます。

 Aさんは、ERPベンダの資格を複数所有するなどERPの専門知識があり、その分野を中心に転職活動をしました。数社最終面接に進みましたが内定には至らず、焦りも出てきてたどりついたのが、キャリアカウンセラーという職種。確かにAさんの経験で可能性のない職種ではありません。しかし、その職種でAさんの転職目的は果たせるでしょうか?

 Aさんに心境を尋ねたところ、なかなか内定が出ないために焦り、幅広く転職活動をしなければと思い、すっかり初心を忘れてしまったとのことでした。もともとの転職目的が度外視され、転職すること自体が目的になってしまったのです。

 このように転職活動中になかなか結果が出ないときなど、目的を見失い、転職すること自体が目的にすり替わってしまうことがあります。

優先順位があいまいに

 技術者派遣会社にプログラマとして勤めるBさん(25歳)。彼の転職理由は「現職では上流工程を経験するチャンスがない。技術者派遣を行っている企業ではなく、将来的に上流工程も経験できる土壌のある会社に行きたい」でした。併せて、研修体制がしっかりしていることも希望していました。

 この時点で2つの条件に優先順位を付けることは難しく、どちらも備わっている企業を強く求めていました。

 ところが、ご自身で応募したいといってきた企業を聞いて驚きました。何とそこは技術者派遣会社だったのです。理由を聞いてみると、研修体制がしっかりしている点が気に入り、応募を検討しているとのこと。

 転職理由と照らし合わせて考えていれば、目的を達成するためにはどういった企業を選ぶべきか判断できたはずですが、それを怠ったが故にもう1つの希望に惑わされてしまったのです。これも転職したい気持ちが高じて目的を見失い、転職することそのものが目的になってしまったケースといえます。

心構えと対策

  1. 活動開始前に、しっかりと転職条件に優先順位を付ける
  2. 転職活動中に行き詰まったら、必ず初心に返って転職理由を確認する
  3. 現職にとどまることも1つの選択。転職自体が目的になっていると気付いたら、転職をしないことも含めて再考する
  4. 良き転職アドバイザーに相談する

 ややもすると焦りがちな転職活動ですが、立ち止まって考えることも大切です。

著者紹介

伊藤泰子(いとうやすこ)

沖縄県出身。大学卒業後、不動産会社の社内SE、大手メーカ子会社の研修事務局を経て、現職。適職紹介だけでなく、人生設計も視野に入れた転職支援を身上とする。理性のみならず感性もフル稼働した転職のマッチングは、時に思いもよらぬ成果を生み出すと周囲からの評価が高いという。


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