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第1回 転職市場における人気資格の「ROI」とは

Tech総研
2004/5/1

「資格より実務経験」。でもやっぱり他人が取得すると、気になるIT資格。特に人気資格取得の有無は、転職の際にどう評価されるのか気になるところ。そこで、転職市場における「IT資格の投資対効果(ROI)」について検証したい(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)。

  ITエンジニアが評価する
市場価値の高い「人気IT資格ベスト5」

 一口に「IT資格」といっても、国家資格からベンダ系資格まで、その種類は相当な数にのぼる。難関資格になればなるほど、取得には時間とお金がかかる。しかし、どんなに難しい資格でも、人材マーケットからのニーズがなければ、資格取得の苦労も単なる無駄骨に終わりかねない。過熱する資格信仰とともに、「資格を取ること」自体が目的となってしまっている人が少なくない中、貴重な時間とお金を無駄にしないためにも、株式投資と同じ感覚で、その投資先(=資格)を慎重に見極めたいところだ。

 では、具体的に資格のどこを見て“自己投資”すればいいのだろうか。やはり、一番重視すべきなのは実務直結度の高さだろう。

 この点からすると、Tech総研が行ったアンケートで、「シスコ技術者認定」や「ORACLE MASTER」など、ベンダ資格が上位に来ているのもうなずけるところだ(図1参照)。

 企業のITインフラ整備は今後ますます活発化するはずで、それとともにこれらの資格の価値もさらにアップしていくといえるだろう。もっともドッグイヤーのIT業界では、今日の勝ち組が、明日の負け組にもなりかねない。企業のみならず資格も、その価値を将来も維持し続けられるとは限らない。そう考えると、資格選びにおいては、「将来性」の見極めが非常に重要になってくる。

 そこで、「今後、取得したい資格」についてのアンケート結果も参考にしつつ、今後ブレイクしそうな資格をいまのうちに取得しておくというのも1つの方法だ。逆に、取得に骨が折れるにも関わらず、将来性に疑問符がつくような資格、すなわち「投資対効果」(ROI)が低い資格に手を出すことだけは避けたい。いずれにせよ、高いROIを実現するためには、業界の動向や最新技術についての情報収集をマメに行なっておく必要がありそうだ……。

 それでは、以下Tech総研のアンケート結果に基づく記事「転職市場における人気IT資格のROI」を紹介していこう。

  ITエンジニア300人調査で分かった!
市場価値のある人気資格ベスト5

 下図1を見てほしい。これは2004年1月にTech総研が「IT資格を取得している300人のITエンジニア」にアンケート調査を行い、「取得しているIT資格の中で、最も市場価値を高めるのに役立っていると思われる資格を教えてください」という質問に対する回答をまとめたものだ。

●ソフトウエア開発技術者がダントツ!
図1 ソフトウエア開発技術者は、2位以下に大きく差を付け、市場価値を高める資格の1位になっている

 最も市場価値を高めるのに役立っている資格の第1位に挙げられたのが、なんと国家資格のソフトウェア開発技術者(旧第1種情報処理技術者の取得者含む)だった。

 以下、シスコ技術者認定、テクニカルエンジニア(ネットワーク)、MCP、ORACLE MASTERなど、IT資格の定番とも思われる資格が並ぶ。

 しかし、これらの定番資格は、取得者数も多い(図2参照)。つまり、取得者数が多ければ多いほど、資格の価値は下がっていくと考えられる。

●ネットワークエンジニアは資格ホルダーが多い!
図2 職種別にどんなIT資格を取得しているのかをまとめたもの。ほかの職種に比べて「ネットワーク構築、運用・保守」のエンジニアは、資格保有度が高いことが分かる

  人気IT資格の投資対効果(ROI)を
比較してみよう

  次に、人気IT資格の「転職市場での価値」「得られた効果・効用」「合格までの勉強量・時間」「投資金額」などについて、リクルートエイブリックのキャリアアドバイザー・吉田智春氏への取材をもとに探っていこう。まずは、第1位の「ソフトウェア開発技術者」と2位の「シスコ技術者認定」の投資対効果(ROI)から解説していく。

ソフトウェア開発技術者のROI
第1位 ソフトウェア開発技術者
○転職市場での価値
 「20代エンジニアの場合は、転職市場では有利に働く」と吉田氏。国内大手SIerや外資系企業でも、ITの基本を理解していることを証明するためにも、オススメの資格だ。

  ただ、30代になると取得時期がポイントになるので、できるだけ早い段階で取得するのが得策といえるだろう。

○得られた効果・効用

 報奨金をもらったり、給与が数万円アップしたりというのが、現実的な効果というところ。転職の際に有利になったというコメントもある。

○合格までの勉強量・時間

 1カ月から半年ぐらいの勉強量で取得している人が多い。

○投資金額

 自腹で投資した金額はほぼ1万円以内が半数を占めた。約8割の取得者が5万円以内なので、過去の問題集を買って勉強することがほとんどだ。

☆シスコ技術者認定のROI
第2位 シスコ技術者認定
○転職市場での価値
 「資格のレベルと取得時期、実際の業務の内容などによって評価が分かれますね」と吉田氏。例えば業務系のアプリケーション開発エンジニアであれば、CCNAレベルの取得でも、「インフラのこともベースの知識は押さえている」という評価につながる。

 もちろん、エキスパートレベルの資格を取得すれば、転職市場でも価値は高くなるが、自らのキャリアと兼ね合わせて取得するといいだろう。

○得られた効果・効用

 報奨金はもらえるが、取得しても手当がつく場合は少ないようだ。また、転職の際、意外にセールスポイントになったと答えた人も多かった。

○合格までの勉強量・時間
 約3カ月間、勉強すれば取得できるようだ。しかし、レベルが上になればなるほど、半年以上の期間はかかる傾向が見られた。

○投資金額

 約8割の人が5万円未満の投資という結果が出た。

  高いROIに期待したい!
これから取得するなら「この資格」

  今後、ITSS(ITスキル標準)が普及すると、資格取得はスキルレベルを診断する際の加点要素になる。しかも若手エンジニアほど、その占める割合が多くなる。「20代のうちにできるだけ、自費だとしてもテクニカルな資格は取得しておいた方がいいですね。転職の選択肢が広くなりますから」と前出の吉田氏も語る。

 続いて、3位の「テクニカルエンジニア(ネットワーク)」、4位の「MCP」、5位の「ORACLE MASTER」のROIを一挙に解説しよう。

テクニカルエンジニア(ネットワーク)のROI
第3位 テクニカルエンジニア(ネットワーク)

○転職市場での価値
 「国家資格なので、国内SIerには、評価されるでしょう。しかし、これもキャリアとのバランス。例えばあまり業務ではネットワークの知識が身に付かないので、自分で勉強した、というような場合は転職の際のアピールポイントとなるでしょう」(吉田氏)

 また、ネットワークエンジニアならばそれほど評価対象とはならないが、上流工程の業務が多いSE、業務系アプリケーション開発のエンジニアには価値が高い。

○得られた効果・効用

 報奨金や給与アップなどの実利面よりも、「知識が幅広くついた」など、自身のスキルアップに役立ったという効果を挙げるコメントが意外に多く見られた。

○合格までの勉強量・時間
過半数の人が1〜3カ月間未満で取得している。

○投資金額
半数の人が1万円未満、5万円未満までで9割を占めた。

MCPのROI
第4位 MCP

○転職市場での価値
 「数年前、一気に攻略本が出回り、取得者が急増しました。それ以来、企業は取得しやすい資格として、それほど評価をしなくなりましたね」と吉田氏。

 しかし、MCP資格も概要で説明したとおり多様化している。MCAD、Windows Server 2003関連の試験が新たに提供されるなど、進化しているのだ。いち早く、新しい資格を取得すれば、認知度の高い資格だけに、企業側も評価しやすい。特に若手エンジニアにオススメの資格だ。

○得られた効果・効用

 ほかのベンダ資格でも同様だが、名刺に資格取得のマークが入るため、顧客の信頼が得られるなどの効果がある。「自己のスキルを確認できた」という回答も多かった。

○合格までの勉強量・時間

 MCPのみだと、ほぼ1週間から1カ月以内という意見も多かったが、MCSEなどになると、科目数が増えるため、半年くらいの勉強期間が必要になる。

○投資金額
 約8割の人が5万円未満の投資という結果が出た。

ORACLE MASTERのROI
第4位 ORACLE MASTER

○転職市場での価値
 「ORACLE MASTER Silverは取得者も多く、英検3級くらいの評価。いまとなっては特に転職市場で価値があるとは感じられません。ORACLE MASTER Platinumを取得していると、価値はあります」と吉田氏。

 最近になって、ORACLE MASTER Platinumより上級の資格を作ろうとする動きがあるともいう。そういう資格をいち早く取得すれば、特に若手エンジニアの場合は、転職市場では有利に働くこともありそうだ。

○得られた効果・効用
 報奨金、手当以外には、「上級資格の取得で顧客からの指名が増えた」「仕事の効率が良くなったなどの効果が得られた」という回答があった。転職の際に有利になったという回答はなかった。

○合格までの勉強量・時間
 実務のみで取得したという人もいたが、1カ月以上3カ月以内の勉強期間が必要という結果が得られた。

○投資金額
 約9割の人が5万円未満の自費投資を行ったという結果が得られた。

  将来エンジニアに
有望な資格とは

 ではどんな資格を取得すれば転職市場で効果的なのか。「取りあえずは英語。TOEICで730点を取れば転職市場でかなり有利になります。次に注目すべきは中国語。昨年度の夏より中国とのジョイントベンチャーやオフショア開発が盛んになってきたことから、中国語ができる人を求める案件が、コンサルティングファームや大手SIerからも出てきました。これからもっと増えるでしょうね」(吉田氏)

●テクニカルエンジニアが第1位に!
図3 “プロマネ人気”を反映し、マネジメント力を問う資格も上位に顔を見せている

  IT業界の中で、いま最も足りないといわれるプロジェクトマネージャ(PM)。その資格であるPMPやプロジェクトマネージャ試験については、「PMクラスの人を採用する場合は、資格よりも実務経験を見ます。従って、プロジェクトの内容、担当フェイズ、担当分野、役割を見ることで、スキルを判断することができるのです。また、現在、取得している人が少ないため、それをどう評価していいのか分からないというのが本音ではないでしょうか」(吉田氏)

 今後はテクニカルな資格だけではなく、語学がITエンジニアの転職市場の価値を左右する時代になっていくのだろうか……。

☆資格取得は“若いうち”に始めよう!
 上記のTech総研のアンケート調査結果を見ての感想を簡単に述べたい。

 「どの資格も魅力があり、どれを取ったらいいのかよく分からない」という人がいる。こういう人は、残念ながら、資格を取得した後にそれをどう生かしていくかというビジョンが欠けているといわざるを得ない。

 「取得後、その資格をどう生かすのか」という観点から資格を選択しなければ、いくら将来性の高い資格であっても、それこそ「勉強のための勉強」になりかねない。ビジョンを持ちやすいという点からすれば、やはり現在の仕事に関係の深い資格を狙うのがセオリー。どんな人気資格も、実務経験とセットになってこそ、輝くものだと心得るべきだろう。

 ただ、中には資格取得を機に“キャリアチェンジ”を図りたい人もいるだろう(例えばプログラマからネットワーク技術者など)。

 こうした人は、やはり人気の高い難関資格を取得するのが近道だ。もっとも、アンケート結果の中で前出の吉田氏が指摘していたように、いくら難しい資格を取得したとしても、キャリアチェンジをするには年齢的な限界がある。「勉強を開始するならできるだけ20代〜30代前半の若いうちにスタート!」が鉄則といえそうだ。
                                (ライター 中村京介)
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