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第2回 “年収据え置き”時代の「エンジニア副業事情」

Tech総研

2004/6/11

年功制度が廃止され、年収やボーナスが右肩上がりにアップしていくことが期待できなくなってきた中、勤務先の給与だけでは厳しいと感じているエンジニアも多いのでは? そこで浮かぶのが「副業」による収入アップ。高い専門技術を持つエンジニアにとって、副業という選択肢は決して非現実的な話ではない。その実態を探ってみよう(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)。

  年収をアップさせながら
“自営業的”な満足感を得る

 「もう少し年収が上がらないものか……」とは、多くのエンジニアが抱く希望だろう。コスト削減のため、エンジニアの残業代カットに走る会社が少なくない中、それは「希望」というよりも、より切実な願いに変わりつつある。年収をアップさせるのが厳しくなり、仕事へのモチベーションを維持させることも難しい。特に6月になると、夏のボーナスの支給時期が近づき、普段以上にお金のことを意識してしまうものだ。

 しかし、安定した給与を捨てて独立というのはかなりリスクが高く、このまま会社に居続けても残業代や昇進による給与アップに多くを望めない――こうした中、エンジニアが収入アップを図る方法の1つが「副業」だ。

 近年、エンジニアが副業を持つことに対して、追い風が吹いている。まずインターネット環境の急速な整備だ。世界的に最も安いといわれる接続料金を背景に、いまや多くの個人がブロードバンドによるネット環境を手に入れた。これにより、副業の最大の障害といえる「時間の壁」をかなりクリアできるようになり、アフターファイブや週末だけの「SOHO」として副業に乗りだすサラリーマンも増えている。

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 第2に、社員の副業を認める会社が出現しつつあるということだ。その背景には、残業代カットがある。会社側は、残業代の支払いを抑える代わりに、その見返りとして、社員の副業に寛容になってきている。まだまだ多数派とはいえないものの、こうした流れは今後加速していくだろう。

 もちろん、特殊な業態の人を除いて、長時間会社に拘束されているエンジニアが副業をするのはそう簡単なことではない。また、一口に副業といっても、何をやるかという問題もある。

 ただ、エンジニアという仕事は、“副業向き”といえるだろう。基本的にはパソコンとインターネットがあればどこでも仕事ができるうえ、そのスキルは専門性、汎用性が非常に高い。それ故、周囲から重宝され、知人からWebサイトの制作やネットワークの設定といった仕事を頼まれることも少なくないようだ。こうした依頼をコンスタントに受けたり、むしろこちらから積極的に仕事の需要を掘り起こしていけば、堅実で長続きする副業に育て上げることも決して不可能ではない。

 安定した給与を確保しながら、副業で自営業のような達成感、自己満足を得る――エンジニアは、こんな夢のようなサラリーマン生活に最も近い職業の1つといえよう。

  年収アップの手段として
「副業」が上位に顔を見せる

 「あなたの年収を2割上げるためにはどのようなことが一番必要だと思いますか?」。Tech総研発行の「エンジニア白書」(2004年2月発行)によれば、上記の質問の回答の3位に「副業をする」とある(表1参照)。

●年収を2割上げるために必要なことは
順位
項目
割合
1位 技術力を高める 23.3%
2位 管理能力を向上させる 22.3%
3位 副業をする 14.5%
4位 上司や評価者に好印象を持たれる 7.5%
5位 語学力を磨く 7%
表1 出典:Tech総研「エンジニア白書・あなたの会社は副業OK?」(2004年2月発行)

 副業といっても、それをおおっぴらに認めている企業はもちろん少ない。Tech総研が2003年12月に行った「副業に関する」アンケートによれば、「副業が認められている」と答えたエンジニアは500人のうちの6%。

 「暗黙の了解で許されている」を含めても21%程度だ。大企業になればなるほどこの“規制”は厳しく、企業規模が小さくなればなるほど緩くなるという傾向がある(図1参照)。

● 「副業の経験はありますか?」
図1 正式に副業を許可するよりも「暗黙の了解」で認めているケースもあるようだ

 暗黙の了解といっても、会社の設備を使って副業していることが知られると、社内で問題になる。また労働協約などで副業禁止の明文規定があり、それに反する場合は、それが正当な解雇理由になることもあるので注意したいところだ。

  本業で培ったPC、Webなどの
IT知識をフル活用する

 さて、エンジニアの副業というと、真っ先にどんな内容が思い浮かぶだろうか。そこで得る収入はどのぐらいのものだろうか。今回のアンケートによれば、実際に過去、現在にわたって副業経験があるエンジニアは13%程度だった。想像していたよりは少ない数値だ(図2参照)。

●副業を経験した人の割合は
図2 9割近くのエンジニアは副業経験がない。本業に時間を取られていることの表れかもしれない

 本業での技術をそのままそっくり副業にも生かすという人もいるが、どちらかというとPCやWebといったITスキル、語学力を生かした翻訳や原稿執筆というように、「本業を支えるベーシックな知識や技術を副業にも応用する」という姿勢が目立つ。

 この点、IT系のエンジニアはほかの職業に比べて有利といえるかもしれない。行きつけの飲み屋で「インターネットやWebの仕事をしている」というと、「じゃ、うちのホームページ作ってくれないかな」とマスターから相談された経験のある人もいるのでは?

 ITエンジニアであれば、自宅のPCやインターネット環境を使ってそこそこの仕事ができる。設備投資が少ないうえ、空いた時間を使って、しかも個人でできるという点も、有利な条件の1つといえる。

  肉体労働派や
株式投資家も出現!

 本職のプログラマが、片手間でオンラインソフトを作り、それがヒットして、副収入どころか会社を辞めて起業するきっかけになったケースも実際にある。趣味で運用しているWebサイトがそこそこの人気を集め、バナー広告の収益で「子どものミルク代ぐらいは稼いでいる」という人も実際にいるだろう。

 パソコン雑誌や単行本は、現在でも、本業を別に持つ副業ライターによって支えられているといってもいいすぎではない。1ページ分書いて1万円も出ればいい方で、この分野の雑誌の原稿料は決して高いものではないが、それでも毎月定期的に仕事があれば、勘定に入れられる副収入にはなる。

 これらは、いかにもIT時代ならではの副業といえるかもしれない。もちろん、本業とはまったく関係のない副業もある。「テニスのコーチで月1万円」「土曜日に建築作業現場で働いて日給1万3000円」といったものだ。こうしたガテン系(肉体労働)の副業があるかと思えば、中には「株式の売買で年間100万円くらいの利益を上げています。もちろん毎年確定申告しています」というホーム・トレーダーの“猛者”も、回答者の中にはいた。

  年間の「副業」収入平均は
なんと平均47万円!

 今回の調査での副業収入額の年間平均は約47万8000円。最頻値データは10万円。印象としてはさほど多い金額とはいえない。しかし、金額の多寡を問わず、副業を通して新たな知識を得たり、会社の仕事だけでは知り合えない異なる分野の人脈を構築するきっかけを生むこともある。時には自分の隠れた能力に気付くという効用もある。副業による脳内活性化が、本業でのストレス解消や、本業でぶつかっているトラブル解決のヒントにつながったりすれば、これは思わぬ副次的効果ともいえる。

 時間や組織の枠の中で働くだけが人生ではないし、せっかくの知識や技術を眠らせておくのはもったいない。雇用先とのトラブルリスクをかんがみることは必要だが、副業による余暇の有効活用は、エンジニアに限らず現代サラリーマンにとって、新しいライフスタイルの1つになるのではないだろうか。

☆副業の「リスク」と「メリット」を認識しよう!
 今回のレポートを読んで、早速副業をやってみたいと思った人も多いのではないだろうか。しかし、副業にはそれなりの“リスク”がつきまとうことをしっかりと認識し、焦らず、ゆっくりと確実に成功できる副業を目指したいところだ。

 副業の一番のリスクといえば、やはり現在勤めている会社との関係だ。勤務時間外は会社に拘束される筋合いはないという点では、「プライベートな時間を利用して副業をやっても個人の自由ではないか」との主張も十分説得力を持つ。

 
しかし、現状では、多くの会社が就業規則で副業を禁止している。従って、副業が会社に知れて、解雇という事態になる恐れも否定できない。例えば副業としてライバル会社の仕事を請け負ったり、あるいは副業であるにもかかわらず、会社の名刺を使ってみたり、さらに副業に精を出しすぎて本業の会社を欠勤しがちになったり――といった場合、解雇は現実のものとなる。

 
やはり、副業するのであれば、最初からハイリスク・ハイリターンを狙わず、取りあえずはリターンを犠牲にしても、ローリスクのものを着実に長く続けていくことが重要ではないだろうか。

 そして、本業に差し障りがないのはもちろんのこと、どうせなら、本業にも“好影響”を及ぼすような副業を選ぶべきであろう。例えば、副業で身に付けた技術・スキルや経験が、本業にも生きてくるようなものがベストといえる。これによって本業における評価が高まれば、副業収入を確保できたうえに、本業での給与アップも期待できる。これなどは副業ならではのメリットといえる。

 ただ、そもそも、副業をやるためには本業で仕事の効率化を図り、不必要な残業を避けるなどして、時間の確保に努めることが必要になるだろう。サラリーマンの副業は、あくまで本業をきちんとこなしたうえで成立することだけは、しっかりと肝に銘じておきたいところだ。
                                (ライター 中村京介)

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