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第7回 エンジニアに忍び寄る心の病を察知せよ

Tech総研
2004/11/19

ここ数年、メンタル障害(心の病)が増加しつつある。特にパソコンと向き合う時間が長く、きちょうめんな性格が多い技術職に発症の確率が高いという。何とか危険信号を早めに察知して、障害を最小限に食い止めたい。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)。

  PART1
30代エンジニアに忍び寄る「心の障害」が急増している

 うつ病などを患う社員が多くなり、メンタルヘルスに取り組む企業が増加している。それを受けて、最近ではWebを使ったストレスチェックが一般化している。心の悩みを自己解決するプログラム「MTOP」を開発したIT企業のライフバランスマネジメント 代表取締役社長 渡部卓氏に、メンタルヘルスの現状を尋ねた。


成果主義の導入もうつ病発症の引き金

 ここ数年の間に、うつ病などのメンタル障害を持つ人が増加しています。日本のうつ病の通院者は年間71万人(2002年)で3年間に1.6倍になり、1日の通院・入院者数は5万5000人(2002年10月)にも上ります。特に軽度のうつ病がこの10年で3〜5倍と急増しており、小学生の10%が「うつ病予備軍」という報告もあるほどです。

メンタルヘルスを取り巻く近年の傾向

・うつ病とその予備軍はここ数年で激増中
・職種別では技術職種の増加が目立つ
・ストレス負荷の大きい30代が増加
・まじめ、きちょうめん、責任感の強い人は要注意
・国や企業の取り組みはまだ発展途上

 年代で多いのが30代のビジネスマン。性格的にはまじめできちょうめん、責任感の強いタイプ。職種で目立つのはIT業界など技術職の方です。精神障害による労災認定件数も急増しているのですが、その60%が専門技術職です。私は外資系大手通信企業や技術系ベンチャーで多くのエンジニアと接してきて、日米を問わずエンジニアにはうつ病予備軍が多いと感じています。

 主な原因は、残業や休日出勤による労働時間の増大、人間関係など職場環境の悪化、それと将来への不安でしょう。年功序列から成果主義へと移行し、以前なら想定できた10年先、20年先のキャリアプランがまったく見えなくなりました。そして、常に成果を要求されることで人間関係が粗雑になり、労働時間や精神的な負荷が増大しました。また、30代に顕著な理由は、上司と部下の板挟みになる中間管理職の年代が、以前の40代から低年齢化したことでしょう。

落ち込んだ状態が2週間以上続いたら

 気持ちが落ち込むことは誰にでもあります。しかし、その状態が2週間続いたら、うつ病を疑って心療内科などに行くべきです。2、3日の憂うつ感ならまだしも、それが半月も続くなど、一般的に考えても異常なことでしょう。

 また、心ではなく、体の痛みとなって症状が出る場合もあります。仮面うつ病といい、頭痛、肩こり、腰痛、体の不調などで表れます。日本には1000万人の腰痛患者がいるといわれますが、その5%はうつ病が原因だと考えられています。

 このようなうつ病をはじめとする精神的な障害に対して、国や企業でメンタルヘルス対策が講じられるようになりました。ただ、国の施策や法改正などは始まったばかりですし、積極的に取り組む企業は3割程度というデータもあり、とても充実しているとはいえません。うつ病の70〜80%は早期治療により2〜3カ月で治ります。そこで大切なのは、自分の心をチェックして、早期発見をすることです。

  PART2
こんなあなたは要注意。エンジニアのタイプ別精神診断

 労働時間が長く、ストレスが多く、真剣に仕事に取り組むエンジニア。称賛されてよい勤務態度だが、その分だけ心の負荷は相当のもの。編集部で想定した4タイプのエンジニアの診断を、心療内科医の芝山医師にお願いした。

CASE1 兄貴肌で困った若手を放っておけないプログラマ

佐藤さん(26歳・独身):中堅ソフトハウス勤務

仕事内容 会社は慢性的に忙しく、残業時間が1カ月で100時間を超えることも珍しくない佐藤さん。土日出勤も当たり前。それは、入社6年目の中堅としてバリバリ働いているためもあるが、時間をつくっては若い後輩たちの面倒を見ているという理由も大きい。ほとんど1日中パソコンに向かう仕事で、顧客や他社との折衝業務は少ない。平均睡眠時間は4〜5時間と短いが、若さで乗り切っている。


性格:兄貴肌で責任感が強い。何かを頼まれると嫌とはいえない。
趣味:学生時代の友達と月に2〜3回飲みに行く。

心療内科の診断――意外と安心。社外の人との飲み会がストレス解消に

 さすがに100時間の残業は多過ぎるし、睡眠時間もあと1時間は欲しいですね。ただ、意外とストレスはたまっていない気がします。若い人と毎日会話しているわけだし、社内の人望もありそう。何より、社外の友人との飲み会がとてもいいストレス解消法なのです。睡眠時間にしても、本人がショートスリーパーであればさほど問題ないでしょう。今後は土日出勤をやめて、残業時間をもう少し減らすことが大切です。


CASE2 上司に恵まれず、悩みを抱え込むプロジェクトリーダー

鈴木さん(34歳・既婚・子ども1人):大手システムインテグレータ勤務

仕事内容 プロジェクトリーダーとして活躍し、メンバーの信頼が厚く、社内評価も高かった鈴木さん。だが、異動してきた上司(プロジェクトマネージャ)と反りが合わない。仕事を丸投げされ、夜の接待まで押し付けられ、慣れない仕事に四苦八苦。そんな仕打ちにただ耐えるばかりの鈴木さんに、部下たちは失望して離れていき、会社の評価も下がってきた。残業は月に60時間程度だが、夜の付き合いで帰りはいつも0時過ぎ。


性格:人と争うのが苦手で、相手に強く出られない。
趣味:特になし。家で子どもと遊ぶくらい。

心療内科医の診断――うつ病の手前。医師が休業を指示するケースもあり

 うつ病になりやすく、危険な状態です。他者からの要求量が多いとストレスが増えますが、コントロールできる範囲が広ければ軽減できます。しかし、鈴木さんはその範囲が狭く、おまけに上司や部下からのソシアルサポート(周囲の援助)が受けられていません。慣れない接待もダメージで、唯一の救いは家族との会話でしょう。

 治療方針の1つとして、休業を指示する場合もあります。本人の休養になりますし、職場の同僚が鈴木さんの状態に気付くきっかけにもなるからです。周囲の接し方で快方に向かうと思います。


CASE3 現場から外されてまったくやる気を失った回路設計技術者

高橋さん(35歳・独身):大手電気メーカー勤務

仕事内容 子どものころから回路いじりが大好きでエンジニアになった高橋さん。残業時間は月に80時間以上だが全然苦にならない。ただ、コスト計算やチームワークを無視する傾向が強く、社内では「技術はすご腕だが変わり者」と見られていた。そんな彼が年齢もあって昇進し、部下の指導を任された。苦手な人付き合いをさせられることと、現場から離れる寂しさから落ち込み、仕事が投げやりになり、回路に対する情熱も失せてしまった。自分の将来に対しても不安になっている。


性格:わがままで個性的。他人の気持ちをあまり考えないで行動する。
趣味:仕事が趣味。彼女や友人がいないので、人とは遊びに行かない。

心療内科医の診断――35歳の燃え尽き症候群。カウンセリングで改善可能

 いわゆる「燃え尽き症候群」です。そして注目すべきは年齢です。30代半ばはポジションが上がると同時に、いままでの自分を振り返る時期でもあります。高橋さんは周囲と自分を比較して、結婚していない、友人がいない、趣味もない、この先どうなるんだ、と思ったのでしょう。

 そんな人には薬の投与ではなく、カウンセリングで対応します。また、他人と交流する練習をしてもらいます。部下の指導は考えようによってはよいチャンスかもしれません。また、悩んでいるのは本人が変化への必要性に気付いている証拠。改善の余地は十分にあります。


CASE4 不正渦巻く会社に転職した――一本気なセールスエンジニア

田中さん(32歳・既婚):中堅ハードウェアベンダ勤務

仕事内容 組み込みソフト開発をしていたが、培った技術力で新しい分野に挑戦しようと、半年前にセールスエンジニアへと転職した。まじめな性格と専門知識の高さで当初の仕事は順調。しかし、顧客へのわいろやコネによる導入機器の決定などが公然と行われていることを知った田中さんは、どうしてもその体質に納得できない。成績は次第に落ちてきて、毎日イライラするようになった。最近では、仲のよい友人や妻をしかり飛ばしてしまうことがある。


性格:曲がったことが大嫌いで、筋を通さないと気が済まない。
趣味:テニスが趣味だが最近はごぶさた。外出が多くなったせいか体重はかなり落ちてきた。

心療内科医の診断――半分うつ病。病気が進行する前に再度転職を

 イライラして人に当たるのは危険なサインです。半分うつ病になっている可能性もあります。田中さんのようなまじめで律儀な人がこの状態を続ければ、症状は間違いなく進行します。32歳では性格は変えられないでしょうから、会社への不信感は回復が難しいと思います。また、「うつは移る」といわれるように、奥さんまで調子が悪くなってしまうかもしれません。社会人としては若い年代なので、もう1度転職することをお勧めします。

 別のところでは体重の減少が気になります。本人は精神的な原因と思っていても、実は何かの疾患である場合もあります。検査を受けた方がよいでしょう。


  PART3
心療内科医が教える・うつ病を察知するポイント

 心と体の両方を治療する心療内科医。心の病で訪れる患者と毎日接するドクターは、どのような診療をしているのか。セルフチェックできるポイントはあるのか。実例を基に芝山内科(内科・心療内科) 院長 医学博士 芝山幸久氏に具体的な話を伺った。

睡眠障害、食欲減退、身体的な痛みなどの予兆で判断

――いわゆる心の病にはどのような病気があるのでしょうか。

 多いのはうつ病ですが、不安障害もあります。代表例がパニック障害で、電車に乗ろうとしたり、人込みに出たりすると、心臓がドキドキして頭が真っ白になる症状です。最近ではうつ病と因果関係があるという見方が出てきました。

――うつ病になる人にはエンジニアが多いと聞きました。

 私の印象ですが、明らかに多いと思います。特にSEの方などが目立ちます。共通しているのは働きすぎで、「残業は月に60時間で普通なのですが……」などと口をそろえるのには驚かされます。まじめな方が多いのも特徴でしょう。

――具体的にはどのような方がいるのですか。

こんな症状が出たらうつ秒を疑え

・眠れない、夜中に目が覚める、朝起きるのがつらい
・食欲がない、朝食が食べられなくなってきた
・頭痛、腰痛、関節痛などの体の痛みが続く
・気持ちが晴れない、気が滅入るなど憂うつ気分が続く
・やる気が出ないなどエネルギーが低下した感じがする

 「眠れない」「食欲がない」「ストレスがたまって体の不調が続く」などと訴える方が多いですね。そして、これらはまさしくうつ病のサインです。うつ病を見分けるポイントは、睡眠障害、食欲減退、身体的な痛みなのです。特に眠れずに夜中に目が覚めるといった睡眠障害は、ほぼ100%うつ病の症状です。眠れないから朝起きられず(身体面)、次第に気持ちがおっくうになり(精神面)、会社を休んでしまう(行動面)というパターンです。

 また、頭痛、腰痛、関節痛などが続いて、内科や整形外科で診断しても異常がないようなら、うつ病の可能性があります。

心を治すのは受動的休養と積極的休養のバランス

――うつ病の治療方法を教えてください。

 まずは患者の話を聞く「傾聴」です。人は悩みを話すだけで、気持ちが随分と救われるものです。これは問診も兼ねています。次は薬と休養です。うつ病は枯れたダムのようなもので、休養によって再びダムに水を蓄え、薬で壊れた外壁を修理していくのです。薬はよいものがありますし、休養は絶対に必要です。

 休養のためには土日出勤をなくして、残業時間を減らします。無理なら会社に診断書を提出して、強制的に休ませます。「私が休むと仕事が止まる」と心配する方もいますが、実際に休むとそうではないと納得します。

――休養期間は何をすればよいのですか。

 休養期間には、横になったり眠ったりという受動的な休養と、ジョギングやスポーツなどの積極的な休養があります。両者をバランスよく行うことが大切ですが、うつ病の初期治療では受動的休養が中心です。しかし、1日中布団の中にいる人の中には、寝ているポーズをしているだけで、本当の休養になっていない場合も多くあります。こうしたチェックも必要です。

 うつ病は治ります。大切なのはそれをきちんと自覚して、自分から治癒する方向に持っていくことです。

☆自分の健康には十分に注意を

  心の病は複雑で把握しにくい。症状は多様で本人は自覚し難く、また周囲もどう対処すればいいのか知識が不十分で、悪循環からなかなか抜け出せない悲劇も多い。だから早期に発見し、すぐに治療または原因を解消することが重要だ。

 それにしても、何が、どこからが心の病なのか。特に喜怒哀楽の「哀」と「うつ病」は混同されがちだが、厳密にはイコールではないと思う。もちろん、落ち込みが長く続けばうつ病を患っている可能性は大いにある。だが、人間誰しも感情の起伏はあるし、悲しむことも当然の感情だ。問題はある種の感情が異様に長引くこと、または感情が適切な反応をしなくなることではないだろうか。

 それこそまさに病気であるということだ。病気とは「心身機能が適切に働かなくなること」だから、心の病とは心または心に近い神経に関する機能が正常に働かなくなることだと思う。うつ病や心の病と聞くとそれだけで不安に感じたりするが、客観的に理解できればあまりおびえることもない。

 ではどうして心が正しく機能しなくなるのか。まだ究明中のようだが原因は単純ではないらしい。ただし、長く緊張状態(ネガティブな感情)が続くと感情の制御に支障をきたすことがあるようだ。だから集中した状態を長く続けないこと、また同じ作業や思考を繰り返さないことも心に留めておきたい。

 そうはいっても、プライドやきちょうめんさがあったりすると、早期に発見しにくくなる。特に人間味のないパソコンとばかり向き合うのは危険度が高い。

 使い古された教訓だが、気分転換を図ること、無理はしないことが大事だ。コンピュータも処理量を超えればパフォーマンスは落ちるし、障害が発生することもある。人間だって同じだ。つい忘れがちだが、十分に気を付けたい。

(加山恵美)


 

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