Tech総研
2004/12/22
転職の成否の鍵を握る要素の1つは、業務経歴だろう。そこでこれまで習得したこと、達成したこと、今後の実践力の可能性も含め、多くを語ることができる。しかし確かな実績があるのに、それをうまく表現できないと宝の持ち腐れにもなりかねない。過去の業務経歴を棚卸しするときのチェックポイントとは何だろうか。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)。 |
PART1 経験はどこまで武器になる? |
■いま、ベテランの「経験」は若手の「技術力」に負けない?
30歳を過ぎベテラン世代に近づくと、現場で自らが開発を行い、最新の技術を習得するチャンスが減ってくる。そのことが、転職時のネックになると感じる人もいるのではないだろうか。
しかし最近、エンジニアの転職市場では、「技術力」だけでなく、エンジニアたちが培ってきた実務経験内容に注目が集まりつつあるようだ。
厚生労働省の「雇用管理調査」(平成13年)によれば、企業が技術者の中途採用において重視する項目として、実務経験は57.2%。平成10年度の同調査時(48.0%)と比較すると約10%も増えている。引き続き現在も、技術者にスキルと並んで実務経験を求める傾向は強まっている。
■技術スキル同様、経験も棚卸しする時代に
この背景には何があるのだろうか。
「ここ最近、開発のアウトソーシングがより進み、豊富な経験に基づくマネジメント力や提案力、営業力を、エンジニアに求める企業が増えたためでしょう」と語るのは、リクルートエイブリック キャリアアドバイザーの村山雅哉氏だ。
そうしたマネジメント力、提案力などは多くの場合、多くのプロジェクトを経験してきた積み重ねによって培われるものであり、転職を考える“ベテラン組”にとっては追い風になりそうだ。
こうした背景から考えると、転職時、職務経歴書に言語や開発環境といった技術スキルを示す内容だけを記入するのでは物足りない。
ところが村山氏によれば、転職を希望する多くのベテランエンジニアが「経験の棚卸し」をおろそかにしているという。 「職務経歴書において、かかわったプロジェクトの中身、予算、メンバー数などの規模、自らが果たした役割は必須事項。しかし多くのエンジニアが『そんなのはいう必要はない、いわなくても分かってくれる』と思い込み、記入していないのが現状なのです」(村山氏)
培った経験をいかに棚卸しし、アピールできるか――。それが転職成功の鍵になりそうだ。PART2では、うまく実務経験を棚卸しする手法を考えてみた。
PART2 貴重な経験、どう棚卸しする? |
■実務経験を分析、構造化してみる
Tech総研では、前述の村山氏の意見も参考にしながら、「棚卸しのフレーム」を作成した(下記の「棚卸しのフレーム」の表を参照してほしい)。これに従い、かかわった主なプロジェクトごとに、自らの経験を書き出してみたらどうだろうか。
中でも説明が難しいプロジェクトの中身は「期間」「製品・サービスの種類/特徴」「顧客特性」という項目により、また、自らが果たした役目については「役割」「やり方・方法」をしっかり振り返ることで、ぼんやりとしていた内容がはっきりと見えてくるだろう。
「特に、『役割』は注意が必要です」と村山氏は指摘する。「『プロジェクトマネージャ』と役職だけを書く人がいますが、企業が知りたいのは、マネージャとしての職務の領域。人材管理や予算管理を任されていたのか、権限はどの程度あったのか、提案も行ったのかなど、できるだけ詳細に書き出すことが重要です」(村山氏)
棚卸しのフレーム | |||||||||||||||||||||
|
次に、実際にいま転職を考えている2人のエンジニアが、おのおのの経験をどう棚卸ししたか見てみよう。
|
Kさんは入社して10年以上、一貫して金融機関の融資関連システムの開発に携わってきた。技術だけでなく金融の業務知識には自信が持てるようになっていただけに、金融業界を専門とするITコンサルタントとしてやっていけるのではないかという思いがわき、転職を考え始めるようになった。
ある時期のプロジェクト部分を抜粋 | |||||||||||||||||||||||||||||
|
■コンサルティング、システム企画段階から携わったことが分かる
Kさんの場合、単に使用技術や携わったプロジェクト、課長という役職を書くだけでは、ITコンサルタントに応募しても企業にとってはあまり魅力的ではないかもしれない。
上のように、「担当範囲」をはっきり振り返っておくことがポイントになりそうだ。
Kさんが実際に、人材管理や予算管理を行っていたこと、自らコンサルティングを行い、システム企画の段階からかかわっていたことが見えてくる。これらは多くの企業が注目する部分だろう。
|
Oさんは、電子機器の部品メーカーから医療機器メーカーへの転職経験がある。職種はいずれも「設計」。ただし、転職後、デザイン仕様の企画や構造の設計、量産の対応など職務範囲は大きく広がっている。Oさんは、同じ設計職で、自動車や家電などの完成品メーカーに転職したいという希望を持っている。
ある時期のプロジェクト部分を抜粋 | ||||||||||||||||||||||||||
|
■設計から量産まで。幅広い業務に精通しているのが見えてくる
これまでOさんがかかわってきた製品は、コンシューマ向けのものではない。さらに、部品メーカーにいた期間が長く、完成品を扱った期間が短いため、携わってきた分野や役職、開発の環境などを書くだけでは企業へのアピール度は低い可能性がある。
このような場合、アピール度が高いのは、リーダーとしての経験の中身や幅の広さだろう。設計から量産までの業務に精通していること、設計の指導や管理、工程管理などを行ってきたことがアピールポイントになりそうだ。
PART3 効果的に棚卸しするポイントとは? |
最後に、より効果的な「棚卸し」のポイントを前述の村山氏に聞いてみた。
■その1:どんな成果を上げたか考えてみる
「プロジェクトごとに経験を棚卸ししたら、それを通じて会社にどのような貢献ができたか書き出してみるといいでしょう」
その際は、「納期が短縮できた」「次の発注をもらえた」など、できるだけ具体的に。こうした成果は、マネジメント力、提案力など、企業がベテランエンジニアに求める経験の有無を裏づけることになる。
■その2:ヒューマンスキルもアピール材料に
自分にどんなヒューマンスキルが身に付いているのか分析してみよう。協調性のあるチームをつくるのが得意なのか、カリスマ性を持ったストロングマネジメントが得意なのか、同じ統率力のある人材でも、そのスタイルは異なる。
「プロジェクトを円滑に進めてきた経験やプロジェクトを成功に導いた経験は、どんなヒューマンスキルに支えられているのかを明らかにすべきです。時にそれが、技術力を補うアドバンテージになることもあるのです」(村山氏)
■その3:棚卸しした内容は、すべて職務経歴書に書かない
経験豊富なベテランエンジニアの場合、携わったプロジェクトすべてを棚卸しし、それをすべて職務経歴書に表現したら、数十枚の「論文」になりかねない。
「相手にアピールしたいポイントが簡潔に伝わることが大事ですから、職務経歴書は2、3枚までがベスト。経験が長く豊富な場合、経歴の概略をまとめ、あとは『業務経験』『マネジメント経験』などカテゴリに分けて、アピールしたい内容をまとめるといいでしょう。
職務経歴書に全部書かず、もっと詳しく話を聞いてみたいと思わせるのがコツ。面接に進んだとき、詳細にわたって棚卸ししておいたことが絶対役に立ちますよ」(村山氏)
経験の棚卸しで、自らの新たな魅力も発見でき、異なる領域、異なる業種への転身も見えてくる可能性もある。 棚卸しをしたら、リクナビNEXTのスカウトコーナーで職務経歴書を公開し、どんな可能性が開けるか探ってみてもいいかもしれない。
☆どの項目を洗い出すべきかを押さえよう | |
社会人として数年もたてば、多くを学ぶことになる。特にエンジニアなら、新しい技術を次から次へと習得し、試行錯誤で実践することの連続だろう。普段は課せられた業務をいかに完ぺきにこなすかに没頭していて、なかなか自分のキャリアを振り返る暇もない。だが、塵も積もれば……というように、日々の努力は人間を成長させる。 これまでどんな仕事をこなしてきたか、その歴史はその人物を知る大きな手掛かりとなる。どのくらいの規模(人、予算、作業量)のプロジェクトを扱えるのか、どんな分野で経験があるのか、役割はどのように変化してきたかなどなど。 だが実際に膨大で奥深い経験があるにもかかわらず、それをうまくアピールできなければ評価で不利に働いてしまう。転職するにしても、しないにしても、過去の業務履歴(経歴)を過不足なく洗い出しておくことは重要だ。ここで口下手になっては自分を安売りすることにもなりかねない。 残念なことに、エンジニアには自分の持ち味を表現するのが苦手な人も多い。まさにもったいない。また、つい最近のことならすぐ思い出せるが、そのうちに不明瞭になってくる。だから定期的に自分の履歴を記録する習慣も付けておこう。 業務履歴なら文章で書くこともないから、安心していい。大事なのは必要な項目を逃さず、適切に記録されているかどうかだ。うまくまとめられていれば、自分を過小評価することなく、むしろ宝としてアピールすることにもつながるだろう。 (加山恵美) |
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。