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第9回 組み込みLinuxエンジニアの市場価値

Tech総研
2005/1/12

最近、コンピュータの組み込み機器の適用範囲は急激に広がりを見せている。携帯電話はいうに及ばず、車載器にAV家電、最新のゲーム機もそうだ。組み込み機器ではLinuxもOSとして採用されることもあるため、組み込みLinux業界に転身するならいまだ。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)。

  PART1
組み込みエンジニアにニーズが集まる理由

組み込み系はPCの38倍の市場!?

 組み込みエンジニアが足りない──。家電メーカーをはじめ、エレクトロニクス機器メーカー、自動車メーカー、ソフトハウスなどさまざまなところで聞かれる言葉だ。ではなぜ、組み込みエンジニアが不足しているのか。

日本エンベデッド・リナックス・コンソーシアム 副会長、イーエルティ 代表取締役 社長 坂本秀人氏

1976年、オーディオメーカーに入社以来、リアルタイムシステム、組み込みシステムの導入、構築に携わる。2001年5月にLinuxのソリューションプロバイダ、イーエルティを設立。

 「PCの出荷台数は現在、年間約1億3000万台ですが、それに対してデジタル家電や携帯電話などの組み込み機器は、年間約50億台といわれています。しかもそのうち日本で開発されている新製品は4000種類。組み込みソフトウェアは、ハードウェアに依存することが多い。つまり膨大な市場が広がっているわけです。それ故、組み込みエンジニアが不足しているわけです」と語るのは、日本エンベデッド・リナックス・コンソーシアム副会長であり、組み込みLinuxソリューションベンダのイーエルティ・代表取締役社長の坂本秀人氏。

 組み込みの中でも特にいま、注目が集まっているのが組み込みLinuxだ。というのも、現在の組み込み機器はインターネットとの接続やマルチメディアへの対応など、求められる機能が高度化し、年々、組み込むハードウェアのリソースも大容量になってきているからだ。しかもLinuxはオープンソースなので、基本的にソースコードは無償で入手することが可能である、という点も大きな理由の1つだ。

 「デジタルテレビのLinuxモデルは2006年、カーナビのLinuxモデルも2007年に登場する予定です。このように組み込み業界全体で、Linuxの応用製品への需要が高まっているので、エンジニア不足はほかのOSよりも深刻といえるでしょう」(坂本氏)

 では現在、組み込みLinux市場ではどんな人材が求められているのか。通信業界の採用事情に詳しいリクルートエイブリック・キャリアアドバイザー山本信行氏は次のように語る。

 「組み込みLinuxエンジニアのニーズは増えていますが、1年前と比べると多少、採用基準が厳しくなっています。というのも、組み込みLinuxの経験者が徐々に増えてきているからです。いま、最もニーズが高いのはデバイスドライバを開発できる人材。常にCPUなどハードウェアの性能を意識しながら、効率的なソフトウェアを開発できる人が求められているんです」

 また坂本氏も「いま、最も不足しているのは組み込みのアプリケーションが動くための仕組み、つまりOSより下層のプラットフォーム周りを開発するエンジニア」という。そのほか、OSより上のミドルウェアやアプリケーション開発エンジニア、プロジェクトマネージャなどが求められているという。

技術スキル同様、経験も棚卸しする時代に

 この背景には何があるのだろうか。

リクルートエイブリック キャリアアドバイザー
山本信行氏

人材ビジネス業界で13年の経験。主に家電メーカーやその系列企業の採用活動を担当。その後、リクルートエイブリックのキャリアアドバイザーとして主に制御系ソフトウェアエンジニアの転職を支援。

 「ここ最近、開発のアウトソーシングがより進み、豊富な経験に基づくマネジメント力や提案力、営業力を、エンジニアに求める企業が増えたためでしょう」と語るのは、リクルートエイブリック キャリアアドバイザーの村山雅哉氏だ。

 そうしたマネジメント力、提案力などは多くの場合、多くのプロジェクトを経験してきた積み重ねによって培われるものであり、転職を考える“ベテラン組”にとっては追い風になりそうだ。

 こうした背景から考えると、転職時、職務経歴書に言語や開発環境といった技術スキルを示す内容だけを記入するのでは物足りない。

 ところが村山氏によれば、転職を希望する多くのベテランエンジニアが「経験の棚卸し」をおろそかにしているという。 「職務経歴書において、かかわったプロジェクトの中身、予算、メンバー数などの規模、自らが果たした役割は必須事項。しかし多くのエンジニアが『そんなのはいう必要はない、いわなくても分かってくれる』と思い込み、記入していないのが現状なのです」(村山氏)

  PART2
組み込みLinuxエンジニアの仕事とやりがい

 では、実際に組み込みLinuxの第一線で活躍しているエンジニアは、どんなキャリアの持ち主か。またその仕事ではどんなやりがいがあるのか、明らかにしていこう。

ケース1 顧客とともに一から作っていく。それが組み込みLinuxの面白さ

■組み込みLinuxでの開発はまだ試行錯誤の段階

モバイルコンピューティングテクノロジーズ 開発部 技術開発課長 白川正広氏(41歳)

1986年3月、長崎総合科学大学工学部電気工学科卒業後、NEC関連のシステム子会社に入社。日本語ワープロの通信機能やBIOS、ドライバをはじめ、一貫して組み込みソフトウェア開発に携わる。2001年10月に転職、現在に至る。

 モバイルコンピューティングテクノロジーズ 開発部 技術開発課長 白川正広氏が現在携わっている主な仕事は複合機(MFP)関連機器および新CPU評価ボードへのLinuxの移植。MFP向けには関連ドライバの開発や開発環境の構築に加え、Linuxを移植することに対する顧客へのコンサルティング業務まで行っている。

 そんな白川氏が、本格的に組み込みLinuxに携わったのは現在の会社に転職してからだ。

「新卒で入社して以来ずっと、組み込みに携わってきましたが、Linuxはまだまだ試行錯誤のところがたくさんあるんです。例えば、いまある機器にLinuxを移植したとたん、動きがボロボロになるなんてこともよく起こります。そんな場合、問題を解析し、自分の頭で整理していかなければなりません。また組み込みLinuxでは機種に依存する部分もかなりあるので、それも自分たちで作っていかなければならないのです。私たちの仕事は、渡された仕様書どおりにコーディングする作業ではなく、お客さまとともに一から作っていく仕事なんです」(白川氏)

■コアな部分まで触れることで開発を実感

 現在、同社で組み込みLinuxに携わっているのは、白川氏を含めて3人。

 「人は足りませんね。今は、Linuxを移植していくコア部分の開発が多いので、Linuxを知っているかどうかよりも、OSやドライバーなど、組み込み経験のある人に来てほしいですね。そういう人材がそろえば、その上で動くアプリケーションの開発まで行えるようになると思うんです。組み込み経験がなくても、Linuxでのアプリケーション開発の知識を生かして、この業界で活躍することも可能でしょうね」(白川氏)

 「組み込みLinuxでは、コアの部分を自分で触らずにいられない。そこが『開発しているんだ』という実感となり、やりがいに結び付く」「組み込みLinuxではソースが教科書なんです。それにハードウェアの状況を自分で見て考える。ソースを把握するためにも、検索上手な人というのも組み込みLinuxエンジニアになるためには、重要な条件といえるかもしれませんね」(白川氏)

ケース2 組み込みの面白さはモノとして完成させ、その動きをリアルに感じられる

■スキルの幅を広げるために特定の業界以外にもかかわりたい

 東京アールアンドデー エンベデッドシステム事業部 事業推進部 グループ長 菊池隆氏(40歳)が同社に転職したのは2004年8月。「転職を考えたのは、前職の会社が放送機器に特化していたので、これ以上スキルの幅を広げていくのは難しいと思い始めたからです。ちょうど部下も育ってきていましたし、いまがチャンスだと決意しました」(菊池氏)

東京アールアンドデー エンベデッドシステム事業部 事業推進部 グループ長 菊池隆氏(40歳)

大学在学中、アルバイトで大手メーカーの子会社で製造ラインにかかわるソフトウェアの開発を経験。その後、放送機器メーカーに入社。自社製品向け組み込みソフトウェアの開発に14年携わる。2004年8月、同社に入社。

 菊池氏が現在携わっている仕事は、東京アールアンドデーが参加している「TOPPERS(Toyohashi OPen Platform for Embedded Real-time Systems)」プロジェクトの社内推進役。TOPPERSプロジェクトとは、ITRON仕様をベースとして、組み込みシステム構築の基盤となる各種ソフトウェアを開発し、オープンソースソフトウェアとして公開し、組み込み業界の発展を支援するのを目的としたプロジェクト。現在、菊池氏はルネサステクノロジのCPU「SH7710」向けのOSの開発を推進している。

 現在、同社でもオープンソースに注目が集まっており、組み込みLinuxでの開発も増えている。菊池氏も、今後、組み込みLinuxでの開発案件に携わることも多くなると予想している。

■組み込みの知識は必須ではない

 「組み込みエンジニアにとって一番重要なポイントは組み込まれるモノや機能に興味を持てるかどうかです。次に大切なのは、製品あるいはシステムがどういう動きをするかイメージできることです。そのうえでリアルタイム系のOSを意識してプログラミングできれば申し分ありません。組み込みの経験がある、またはLinuxを知っていることは有利になりますが、それは大きな問題ではありません」(菊池氏)

 菊池氏は組み込み経験者だが、同社では経験のないエンジニアも活躍しているという。

 「組み込みの楽しさは、組み込んだ対象が動くこと。PC上でのソフト開発がバーチャルと例えるとしたら、組み込みはリアルな世界。モノとして完成するのを実感できるからです。そこに興味のある人は、組み込みはきっと、楽しいと思ってもらえるはずです。今後は自社製品、車載向けの組み込みソフトウェアの開発も増えていきます。さまざまな用途向けのソフトを開発できるので、大きなやりがいが得られるでしょう。組み込み経験がなくても興味のある人は、ぜひ、チャレンジしていただきたいと思います」(菊池氏)

  PART3
業務系から組み込み系Linuxエンジニアへの転身の可能性

エンタープライズ系の開発エンジニアにもチャンスあり

 「現在の組み込み業界はまだまだ、職人芸的な要素が多くを占めていますが、今後Linuxが普及してくることによってエンタープライズと組み込みの融合が求められてきます。そうすると従来のブートコードやカーネル、リアルタイムOSに詳しい組み込み職人的なエンジニアだけではなく、先にも述べたとおり、UNIXやLinux、Windowsなどで企業向けシステムを開発していたプログラマやSEも必要になります。また、大規模なプロジェクトの経験のあるプロジェクトマネージャ(PM)も求められています。というのも、例えばFOMA向けのLinux開発プロジェクトは、1000人規模で行われています。しかし、このような大規模なプロジェクト開発をマネジメントした経験者は、従来の組み込み業界にはいないのです。PMは当社でもいま、最もニーズの高い職種の1つですよ」と語るのは前出の坂本氏。

 このほかにも、今後は、IDE(統合開発環境)やICEなどの開発ツールおよびツールチェーンの開発経験者、ミドルウェアやGUI、画像処理、無線LANなどのある専門分野に長けたエンジニアも求められていくという。つまり、LinuxやUNIXでサーバ系システムを開発してきた、エンタープライズ系エンジニアにも参入チャンスがあるというわけだ。

本格普及前のいまが飛び込むチャンス

 坂本氏は転身するならいまが一番最適で面白い時期だと示唆する。

 「Linuxのシェアはまだ10%にすぎません。シェアは25%が1つのターニングポイントといわれています。つまり組み込みOSとしてLinuxが25%を過ぎたときに、この業界に入ろうとしても、かなり敷居は高くなってしまいます。だからいまこそ、飛び込むチャンスなのです。だからといって、25%のシェアを必ず取るという保証はありませんけどね(笑)」(坂本氏)

 前述したように今後、あらゆる製品にLinuxが組み込まれていくのは間違いない。ただ、オープンソースゆえの課題も残る。「LinuxのカーネルやGPLに基づいたプログラムはソースコードを原則公開しなければなりません。そのソースコードの開示方法をどうするか、また、ユーザー固有のコードに対する保護をどうするかなど、著作権上の問題をどう扱っていくのか、広義のソフトウェア文化的な面から考えていくこと……。このことこそがLinux普及の鍵を握っているのかもしれませんね……」(坂本氏)

☆転職を考えるなら早いうちに

 いまや組み込み機器は日常生活にすっかり定着している。こうした組み込み機器の市場規模はPC市場を優に上回り、技術の進歩もめまぐるしい。新進気鋭の分野なので、現場ではまだまだエンジニアが不足している。

 組み込み系のOSといえば、旧来の機器なら独自開発の場合が多かったが、最近ではLinuxが注目を浴びている。なぜなら、最近の組み込み機器では通信機能や画像処理など、PCに似た多様な機能を必要としているからだ。例えばプロトコルスタックをすべて最初から作成するよりは、何かのOSを採用した方がはるかに楽で効率的である。

 ただし既存のOSを採用するとしても、Linuxしか選択肢がないわけではない。現時点で組み込み系で使われるOSはITRONが優勢である。だが、その次の位置に付けているのがLinuxだろう。特に近年ではLinuxは着実にシェアを伸ばしている。このまま進めば、いつか組み込みOSとしてLinuxがITRONと肩を並べることも考えられなくはない。

 現状を見ると、Linuxを組み込みのOSとするには課題も抱えている。例えばリアルタイム性やハードウェア資源の扱いなどだ。こうした問題を解決していくにはカーネル技術者の存在は欠かせない。もしすでにLinuxスキルがあるなら、組み込み系でその腕を発揮するのもいい。将来性がありそうだ。

 また、これまで組み込み全般をはじめ、組み込みLinux分野は新規参入の壁は高くないといわれてきたが、そろそろ経験者も増えてきて競争が厳しくなりつつある。興味があるなら早めに動いておいた方がよさそうだ。

(加山恵美)


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