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第10回 それでも進む! 成果主義時代のエンジニア処世術

Tech総研
2005/2/11

成果主義の導入が進んでいるが、現場には戸惑いが見られる。制度として不完全な部分があり、多くの企業があるべき姿を模索中だ。いまの成果主義が抱える問題点とは何か。うまく対処するにはどうするべきか。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)。

  PART1
大手ほど進む成果主義の導入に、企業も社員も困惑

 成果主義を取り巻く環境が揺れている。導入する企業は増加の一途だが、利用しても思うような結果が出ないという声が多く出ているのだ。企業側も従業員側も、困惑の度合いを深めている。

大手企業の80%強が成果主義制度を導入

 厚生労働省の昨年の調査によると、半数以上の企業がすでに成果主義制度(個人業績を賃金に反映させる制度)を導入済み。従業員1000人以上の企業に限れば、導入の割合は80%を超える(図1)。しかし、その運用は必ずしも成功していないようだ。何らかの改善や修正を検討している企業は70%以上ある(図2)。

図1 成果主義を導入している企業

図2 成果主義の評価状況

 評価する際の課題を複数回答で尋ねたところ、全企業では「部門間の評価基準の調整が難しい」(54.5%)、「評価者の訓練が十分にできていない」(50.5%)、「格差がつけにくく中位の評価が多くなる」(36.3%)が多く、対応策では「評価のためのマニュアルを作成」(46.6%)、「低い評価を受けている労働者に対する対策」(41.3%)、「業績評価制度に基づく評価結果を本人に通知」(35.0%)の順になった。

 1000人以上の大企業の場合は、課題では「評価者の訓練が十分にできていない」が最も多く(59.4%)、対応策では「評価のためのマニュアルを作成」が70.4%とかなり高率だった。この背景には、評価の対象である従業員人数の多さがあるのだろう。

「評価の納得感」は低下

 このように、成果主義を導入した企業の多くは現状に満足していない。それは評価される側も同様である。労働政策研究・研修機構は昨年の調査で、成果主義導入企業の従業員3000人に、導入前と導入後の納得感を尋ねた。「賃金や賞与の判断材料となる評価」に、「納得感が高まった」は15.1%で、逆の「低下した」は倍近い28.8%だった。成果主義が現在、過渡期にあることは間違いないようだ。

  PART2
転職を考えるエンジニアは成果主義に賛成かつ反対

 成果主義制度が一般化すれば、転職先にも成果主義を導入した企業が増えていく。転職を希望するエンジニアは、評価制度の変化をどう考えているのか。リクルートエイブリックで主に電気・電子系職種を担当するキャリアアドバイザー、熊本優子氏に話を聞いた。

転職エンジニアは、成果主義に賛同しつつ安定性も重視

転職エンジニアの成果主義への反応例

1. 転職活動当初は成果主義に好意的な人も多い
2. 実際の評価制度を知って初めて現実感を持つ
3. 基本給や福利厚生にこだわるようになる
4. 大手企業や安定した企業を求めるようになる
5. 評価制度を理由に入社の決断を迷う人もいる

 リクルートエイブリックを訪れるエンジニアの多くは、転職の理由として「評価の透明度が低い」「評価の基準が不明」「評価への説明がない」などを挙げるという。しかし、単純に成果主義を歓迎しているわけでもないようだ。

 「やはりまだまだ安定志向の方は多いです。こだわるのは基本給の金額、福利厚生、メーカー出身者なら寮の有無などです。インセンティブ制度などに目を向ける方は少ないですね。変動があるだけに、労働の対価ではなく、お小遣い程度にとらえられているのでしょう。報酬面ではまず、最低保証額を気にします」 (熊本氏)

 多くのエンジニアの転職動機が不透明な評価制度だとすれば、実力評価の成果主義に、もっと積極的でもよさそうだ。

 「成果主義に賛成かどうかを単純にイエス・ノーで聞けば、イエスと答えるエンジニアが圧倒的に多いと思います。成果主義の導入や福利厚生費の削減を進めている企業が増加していますし、それに対する納得感は高いと思います。しかしいざ転職となると、それが自分にどのような影響を与えるかが見えてくるのでしょう。不安定な世情もあり、転職活動の始めは成果主義に賛成でも、会社を選択するときには安定志向になるのではないでしょうか」(熊本氏)

それでも全員一律の評価制度には異議あり

 現実には、冒頭の調査のように、多くの企業が程度の差こそあれ成果主義や実力主義を取り入れている。この傾向は今後も強まると予想されている。

 「成果主義に抵抗感がないのは、大手企業では自分の役割が見えないと新卒でベンチャーに就職した方や、ある程度のリスクを承知で外資系企業に勤めている方ですね。全体的には5人のうち4人くらいが安定志向です。ただ、堅実な保証を求めてはいても、全員一緒の評価には皆さん疑問を持っています。成果主義が本格的に始まってまだ3年ほどですから、多くの方が戸惑っているという印象です」(熊本氏)

 最近の企業は、待遇に差をつける成果主義ばかりでなく、従業員が安心して働ける方法もアピールしている。熊本氏は、「これから本当の日本流成果主義が生まれるのでは」と語る。

  PART3
成果主義は日本企業に合致するのかしないのか?

 一昨年あたりから成果主義を批判する意見が増加している。「成果主義はすぐにでも廃止するべき」と主張するのは、東京大学の高橋伸夫教授である。氏は生活保障を基本とした、日本型年功制度に戻るべきだと語る。

成果には次の仕事で報いるべき

東京大学大学院 経済学研究科 教授
高橋伸夫氏


1980年に小樽商科大学商学部卒業後、東京大学教養学部助教授、同大大学院経済学研究科助教授などを経て1998年から現職。専門は経営学、経営組織論。特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンターの理事も務める。昨年刊行された『虚妄の成果主義――日本型年功制復活のススメ――』(日経BP社刊)は、多くの分野で話題を呼んだ。

 「成果主義の導入は間違いであり、すぐに年功制に戻すべきだと思っています。成果主義の大前提は、仕事の成果を賃金に反映させれば、社員のモチベーションが高まるというものですが、お金でやる気が起きますか? うれしいのは、やりがいのある次の仕事ではないでしょうか。上司が与える次の仕事を見れば、その人の評価が分かる。上司でなくても同じ職場にいれば、優秀な人と駄目な人の差は自然と見えてくる。もし働いても働かなくても待遇が同じだと感じるのであれば、それは上司が無能だからです。制度の問題ではない。

 特にエンジニアの評価は難しい。通常はチームで仕事を進めますから。チームは中心となるリーダーのほか、アイデアを出すのが得意な人、体力勝負で走る人、細かなサポートを担当する人など、多様な役割のメンバーで構成されています。仮に1人だけ高い賃金をもらえば、ほかの人は自分の役割の意義を疑い、チームワークは崩れてしまうでしょう」(高橋氏)

エンジニアを正当に評価できるのはエンジニア仲間

 「多くの企業の従業員は、エース級(A)が10%、一般的な人(B〜D)が80%、能力の低い人(E)が10%という構成です。成果主義ではB〜Dを細かく査定するのですが、実質的にこの中間層はほとんど差がないので、毎回評価が入れ替わります。

 ですから年功制では、B〜Dに基本的な賃金差はつけません。Eの人も賃金は低く抑えますが、退職させたりはしません。なぜなら、Eがいなくなると、どんぐりの背比べのB〜Dの中から次にEになった人の働く気が失せてしまうからです。Eの人に安い賃金を支払った方が、企業としては効率的なのです。

 一方、年功制には厳しい面もあります。給与に見合った分だけ働くことが前提ですから、例えば相応の年齢となった部長クラスが仕事に失敗すれば、どこかに飛ばされてしまいます。

 私も研究職なので分かりますが、エンジニアの評価で確かなのは、仲間内の評価でしょう。『あなたともう一度仕事がしたい』という評価です。エンジニアにとって大切なのは、上司の客観評価よりも、部下や同僚が信頼してついてくることだと思います。つまり、成果主義の評価は、たとえ正しくても意味がない。

 特に若いエンジニアに必要なのはお金でも客観評価でもない。必要なのは、われを忘れて夢中になれる仕事です。彼らに仕事の面白さを教えてやってほしい。若いときの成功体験を、下の人にぜひ語ってやってほしい」(高橋氏)

  PART4
拡大が確実視される成果主義時代を生き抜く5原則

 エンジニアは成果を形に表しにくく、個人プレーヤーとしての評価が難しいため、成果主義になじまないといわれる。では、この制度にどう対応すればよいのか。リクルートワークス研究所の豊田義博氏に聞いた。

企業はいま、評価制度の正解探しをしている

リクルートワークス研究所 主任研究員
豊田義博氏


1983年に東京大学理学部卒業後、リクルートに入社。大手企業の新卒採用戦略、広報計画業務に制作ディレクターとして従事。現在は研究員として、組織・人材マネジメントの未来形、雇用構造の変化、若年層のキャリアデザインなどに携わる。

 成果主義とひと口にいっても、企業により評価方法はさまざま。豊田氏は、給与とリンクさせた成果主義は、3つに大別されるという。

 「結果に対して値段を付ける、文字どおりの『成果主義』。結果ではなく能力に応じて値段を付ける『能力主義』。SEやプロジェクトマネージャといった職種・職位、いわゆるいすに値段を付ける『職務主義』。この3つを組み合わせて待遇を決める企業が多く、そのバランスは業界・業種・事業・企業などにより異なります。多くの企業はいま、この正解探しをしているところでしょう」(豊田氏)

 また、成果主義制度は、プロセスが明確な職種に向いていると語る。

 「例えば営業職は、金額や件数などの目標があり、そこに至るプロセスを分解・定義しやすい職種です。ある時点での金額が低くても、その後のプロセスへの貢献度などが測れるので、評価がしやすい。一方、技術職・事務職・財務・広報などはこれがはっきりしないため、評価が難しいのです」(豊田氏)

 もう1つの問題は、期間に関するものだ。目標管理制度では一定期間での達成度を問われるので、短期間の目標が増えてしまう。豊田氏は「未知の何かをつくり出すという、エンジニア特有のミッションや夢を追いかけられなくなる恐れがある」という。

成果主義制度では「自分の仕事」をアピールせよ

 課題の多い成果主義だが、導入する企業は今後も増えそうだ。エンジニアはどのように対処すればよいのだろうか。

 「自分のした仕事をきっちりPRすることです。『ほう・れん・そう』はもとより、業務日誌を付けておいて1カ月ごとに上司にメールで送る、あるいは、師匠や相談相手として社内にメンターを見つけ、報告しておく。愛きょうを振りまくという意味ではなく、自分の情報が相手に見えるようにするのです。表現は悪いですが、成果主義には『いったもの勝ち』や『やったもの勝ち』という側面があります」(豊田氏)

 成果主義で鍵となるのは、「部下に適切な仕事を与え、それを評価できる人」の存在だ。しかし、この立場にある人の多くは、成果主義に基づく評価を受けたことがなく、自分もまた始めたばかり。だからこそエンジニアからのアピールが必要だと、豊田氏は説く。

 「今後も年功制度は減衰し、成果主義が拡張していくでしょう。ただ、それが結果主義かどうかは分からない。単なる結果だけでなく、能力・知識・行動をパラレルに見て評価する企業も増えるのではないでしょうか。確実にいえるのは、これまでは『積み上げてきた能力』が対象となる評価制度だったのに対して、今後は『常に能力を磨くこと』が求められる評価制度になるということです」 (豊田氏)

成果主義時代のエンジニア処世術5原則

●連絡や報告をまめに行い、自分の意思を常に伝えておく
●仕事の中身やプロセスを形に残して、上司やリーダーに送る
●自分を理解してくれる、技術力の高いメンターを獲得する
●同業他社など社外のコミュニティをつくり、仲間と意見交換する
●社内外の情報を通して、自分の価値や強みを把握する



☆評価制度のあるべき姿は模索中

 今回の調査結果によると、半数以上の企業が成果主義を導入している。そのうち、制度の改善が必要と認識している企業は半数以上になる。評価される側よりも、評価する側がより多くの課題を抱えている。

 制度の目的や効能が十分に理解されず、社風や社員の価値観との相性も吟味されないまま実施され、空回りしているようにも感じられる。昨今の成果主義は過渡期にあり、うまく機能しているとは限らないと思った方がよさそうだ。

 評価する側に問題があり、評価の妥当性に疑問があるとすれば、評価される側の社員が成果主義に慎重になるのも無理はない。本文では「まだまだ安定志向の方は多い」と分析されている。これは、自分が成果主義において勝ち組になれるという確信が持てないためかもしれない。インセンティブなどの不確定要素よりも、最低限保証される賃金に目を向けるエンジニアは賢明だともいえる。

 社員の側には、「貢献した分は適正に評価してもらいたい。だが結果や数字に表れないからといって、マイナス評価されては困る」という考えがあるように思う。都合が良いようだが、これに対応できなければ導入は成功しないのではないだろうか。成果を挙げたなら、その一部を貢献者に還元するのはいい。だが、それ以外の社員を会社が追いつめてしまっては、本末転倒になりかねない。

 積極的に結果をアピールできる社員、部下の成果を適正に査定できる上司ばかりではない。最先端の技術を扱うエンジニアであれば、査定はさらに難しくなる。だが、旧来の制度が現在にふさわしいといえるだろうか。

 困難ではあるが、できるだけ多くの社員のやる気を高めるため、評価制度のあるべき姿を模索していくべきだろう。それが見つかるまでは、制度の不完全さにめいることなく、上記のアドバイスを参考にうまく切り抜けてもらいたい。

(加山恵美)


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