Tech総研
2005/11/18
大ざっぱに両者の違いを金融商品に例えるなら、大企業はリスクヘッジ型、ベンチャーはハイリスク・ハイリターン型ではないだろうか。それぞれ長所もあれば短所もある。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載) |
やはり国内大手は高水準。 |
日本企業の給与については、中小よりは大手、国内よりは外資の方が支給額水準は高く、いわゆる「勝ち組」ベンチャーであればほかの一般企業より給与が高いという「定説」がある。転職もこの定説を前提に考えられることが多い。果たして定説はどこまで正しいのか。316人のエンジニアに対してアンケートを行い、検証してみた。回答者の属性は記事の最後に示したとおりだ。
まず回答者の現在の年収である。回答者の年齢や役職には幅があるので、一律に平均を出すのはあまり意味がない。そこで、一定の年収層に属する人がどのぐらいの比率で分布しているかで企業の給与構造を概観してみた。
分布の多い順にそれぞれ第2位までを見てみると、国内大手企業は「500万〜600万円」「600万〜700万円」、ベンチャー企業は「400万〜500万円」「500万〜600万円」、外資系企業は「600万〜700万円」「400万〜500万円」、国内中小企業は「300万〜400万円」「400万〜500万円」ということになる(図1)。
データを見る限り、やはり外資系、国内大手が強く、国内中小は弱い。意外にもベンチャーは世評ほど高くはない。あくまでもこのアンケート結果によってだが、「年収600万円以上」と答えた人がベンチャーでは27%なのに対し、外資系では64%、国内大手でも42%いた。「業界内のポジション」を聞いたところ、べンチャーで「最上」「上の方」と回答したのは全体の6%のみ。「ベンチャーだからみな高給与」と一概にはいえないようだ。いわゆる「勝ち組」ベンチャーでない限り、国内大手とベンチャーを比べると、相対的に大手の方が給与水準が高いことが分かる。
図1 給与金額分布は国内大手がベンチャーを圧倒! |
もちろん中には特異的に高給与を得ている人もいる。年収1000万円以上の人の割合だけをみると、外資系8%、ベンチャー企業4%となり、国内大手、国内中小の各1%を大きく上回っている。これは回答者の役職の分布とも無縁ではないだろう。特にベンチャーの場合には20代、30代で役職に就くことも可能であり、その場合は給与が大きく跳ね上がるということをも意味している(表1)。
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表1 ベンチャー取締役の月給は100万円超え多し (調査対象者の2005年9月の企業特性・役職別月給平均金額) |
ベンチャーの4人に1人は |
では、現状の給与への満足度はどうなのだろうか。ここでは、ベンチャーと国内大手の比較に絞って見てみよう。
図2 国内大手企業の給与満足度。不満に感じる人の割合はベンチャーより多い | 図3 ベンチャー企業の給与満足度 |
給与制度については、機能しているかどうかはともかくとして、おおむね成果主義が導入されている(ベンチャー73%、大手91%)。給与制度への満足度では、不満層(やや不満+かなり不満)がベンチャーで49%、大手では59%に達する(図2、図3)。
不満度を「仕事に見合った年収を得ているかどうか」で見ると、次のようになる(図4)。
図4 ベンチャーは仕事に見合った年収を得られない? |
これを見る限りは、ベンチャー企業の方に「仕事に見合う給与をもらっていない」と考える人の割合が多く、不満度は高いということになる。
給与満足度に関しては、回答者から寄せられたフリーコメントも興味深い。ベンチャー企業で給与額や給与制度への満足度が高い人の中には、「経営者と直接交渉して給与を決定しているので」「自分の開発製品の売り上げがあった場合、インセンティブがあるので」といった理由を挙げる人がいた。こうした柔軟な給与決定方式はやはり小回りの利くベンチャーならではだろう。
一方、国内大手では「評価基準があいまい。管理職の気分で評価が変わっているようにも見える」「1人の評価者が部下全員の査定を付けているのが現状で、公平な査定実施は絶望的な状況」などと、評価システムの中身に対する不満が散見された。
それでは年収を上げるためにはどうしたらいいだろうか。「年収を2割上げる」ための方策を尋ねると……(表2)。両者に大差はないが、ベンチャーでは「管理能力」へのポイントが若干高くなっている。
やや気になるのは「副業をする」がともに高位にランクインしていること。確かに年収が会社によって決定されるサラリーマンの場合、副業は年収をアップさせる手軽な方法ではあるのだが、やはりあくまでも本業における仕事の価値を上げるのが本筋であることは忘れたくない。
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表2 ベンチャーは「管理能力の向上」で年収がアップする? |
意気軒昂なベンチャー、 |
両者の違いが表れたのは、「給与決定に最も影響があると思われる基準」について聞いたときだ。ベンチャーでは「業績・成果」(46%)、「職務遂行能力」(24%)の2つが給与決定の主たる基準であるのに対して、大手では「業績・成果」(36%)、「職務遂行能力」(26%)の次に「年齢・学歴・勤続年数」が20%の高率で登場する。年功序列型賃金制度や学歴格差の名残を払しょくできていない大手企業の現状を垣間見ることができる。
「今後、給与・ボーナスは上がると思うか」という収入予測についての質問では、ベンチャーと大手の違いがより鮮明になる。「かなり/やや増えると思う」というポジティブな予測がベンチャーで42%あるのに対して、大手では28%にすぎない。今後の成長力に期待含みのベンチャーと、市場飽和で閉塞感が漂う大手の違いということかもしれない(図5、図6) 。
図5 国内大手企業の収入予測。ベンチャーに比べ、今後の給与アップが見込めない? | 図6 ベンチャー企業の収入予測 |
大手vs.ベンチャー、 |
ベンチャーと大手を比較するとき、単に給与水準だけではなく、研究開発環境、社内風土、福利厚生などの「非給与」的条件も加味しなくてはならない。
株式上場を控える、あるいは上場したばかりのベンチャー企業ではストックオプション制度を採り入れ、将来の自社の株価上昇分を報酬に充てることで、従業員のモチベーションを引き出すところがある。ベンチャー企業の創業メンバーであれば、将来の企業買収や事業譲渡などで高額の株式売却益を得るチャンスもある。
そうしたマネー・インセンティブ以外にも、ベンチャーならではの魅力はいくつもある。ベンチャーは大手にはない事業や研究開発を目的に設立されたものがほとんどだろうし、組織のつくり方も大手のまねをしていたのではベンチャーとは呼べない。とりわけ研究開発型ベンチャーであれば、単なる大手企業の下請けに終わらないために、技術の独創性を重んじる風土がおのずと形成されているはずだ。そのあたりも、給与水準だけでは推し量れないベンチャーの魅力の1つだ。
しかし、すべてのベンチャー企業がそうだというわけではない。ベンチャーは絶えず経営の不安にさらされている。社員はがむしゃらに働くものの、経営環境の変化で会社そのものが消滅するリスクは常にある。その点では、すでに一部上場している大手企業の方が消滅の危機は低く、長期的なキャリアプランを立てるにも事例が豊富で確実性が高いかもしれない。ベンチャーはたとえ創業期の危機を脱して成長路線に持ち込めたとしても、一定の事業年数を経れば組織が大きくなり、普通の大企業と変わらなくなる。いずれはコミュニケーションの断絶などの病弊を抱え込む懸念もある。
ベンチャーに高い転職志向。 |
会社選択においては、こうしたメリット・デメリットを、自分の志向性との関連でどう考えるかが重要になる。
アンケートでは今後の転職意向についても尋ねている。「いますぐ/2〜3年後に転職する意思がある」人の割合は、ベンチャーでは70%に達し、大手の47%を大きく引き離す。よりよい環境を求めて転職をもいとわないというチャレンジスピリットは、ベンチャー企業在勤者の方が高い。逆にいえばベンチャーの方が、現状に満足できない人が多いということでもある。
「もし転職するとしたらどのような企業がよいか」の設問には、ベンチャー企業では「自分の技術力や仕事を正当に評価してくれる」(50%)、「自分のいまの技術を生かせる」(46%)「優れた技術者が多数いる」(38%)といった技術評価への関心が高く出ている。「労働時間、休日などゆとりある生活ができる」(40%)、「通勤時間が短くて済む」(40%)など、生活の時間的なゆとりを求める志向もけっして小さくない。
これが大企業となると、「技術志向が高い」(41%)が抜きんでて高く、「自分のいまの技術を生かせる」(35%)、「労働時間、休日などゆとりある生活ができる」(31%)などが続く。
ちなみに、「業績の安定度」や「給与が同業他社よりも高い」ことを転職の条件に挙げる人はベンチャー、大手ともに案外少ない。給与や安定も大切だが、その前に技術を優先させたいのが、エンジニアならではの転職志向だ。それに加えて、現在は得られていない「ゆとりある仕事」が実現できれば満足、ということなのだろう。
大手であれベンチャーであれ、ますます切迫する工期短縮化やコスト削減の要請に日々呻吟(しんぎん)するエンジニアの日常が、今回のアンケートからもうかがえる。
<調査概要> ■回答数 316サンプル ■年齢 ■調査期間 ■所属 |
☆自分に適しているのはどちらか | |
大企業は従業員も多く、評価や給与も均質になりがちだ。公平性などを考えると、差別化を図るのは困難だろう。また内外の影響力を考えれば、企業としての安定性を重視せざるを得ない。だがリスクをヘッジすれば、成功は手にできない可能性もある。 その対極にあるのがベンチャーだ。しがらみを外し、可能性に賭ける。だが成功するという保証はない。努力次第である。大きく成功する可能性もあれば、失敗に終わることもある。 当然ながらその違いが給料にも反映される。ただ違いは金銭面だけではないことも念頭に置くべきだろう。可能性に期待しながら働くことで、給料とはまた別の満足感が得られることもある。 得られるものには金銭と満足感がある。そこに企業の性質や将来予測、また自分の性格やスキルによって変化する分を考慮し、判断することになるのだろう。どちらの選択が正しいとも限らない。どちらに進みたいか、どちらが自分に適しているのかも含めて考えてみよう。 (加山恵美) |
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