第22回 浸透する成果主義 エンジニアの査定大公開!
Tech総研
2006/1/18
他人の査定など、なかなか見る機会はない。しかしここではエンジニア300人の査定を大公開。大事なのは自分の査定と将来だ。分かっているが、気になる。隣は上がったか、下がったか。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載) |
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Part1
目標に対する達成感はあるけど査定結果は……? |
企業によっては四半期ごとに仕事の成果に対する評価を行うところもあるが、通常は上期と下期に評価を行い、その結果を次期のボーナスに反映したり、昇格・昇進の資料にしたりするところが多い。エンジニア300人に2005年度4〜9月の上半期の評価が、その前の期に比べてどうだったかを聞いたアンケートでは、6割が「変わらない」と答えた。「やや/かなり上がった」人は全体の27%、「やや/かなり下がった」は13%で、全体としてはやや上向き傾向といえる。
片や自分が設定した目標の達成度については、「まあまあ達成した」が59%、「やや達成していない」が25%となった。達成度はボチボチ、評価はまあまあといったところだろうか。
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図1 上半期の目標に対する達成感は? |
図2 上半期の査定は、前期と比べてどうだった? |
■どこが評価された? 何が評価されない?
評価されたという自覚があるエンジニアたちは、どこを評価されたと思っているのだろうか。また評価されなかったと思っている点は何か。
「どこが評価され、どこが評価されなかったのか」──評価のポイントを、アンケート回答の中から、もう少し詳しく見ていこう。もしかしたらとんでもない勘違いをしていて、会社には評価されないことを一生懸命やっていた、つまり「ムダに働いていた」ということもあるからだ。ムダかムダでないかは上司や会社が判断するものだが、そう判断されても、自分の成長や職場の将来を考えると決してムダとはいえないケースもある。そこが悩ましいところだ。
●物分かりのいい上司に恵まれて、自分が努力したら報われる?
査定が上がった人も下がった人も、変わらない人も、まずはその原因を分析してみることが大切。会社や上司の評価・査定の方法が原因なのか、それとも自分の努力の量が原因なのか。査定が上がった人は、双方がうまくかみ合っているケースがほとんどだ。
CASE1 大きな仕事をやり遂げた |
どんな査定方法 (半導体設計/32歳)
業績に対する貢献度を数値化して査定する。評価者は上司に当たる部長クラス。 |
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なぜ上がった?
設計手法の工夫により、製品の大幅なコスト削減が可能になった点をかなり評価された。
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CASE2 狙いどおりのポイントアップ |
どんな査定方法 (サービスエンジニア/34歳)
明確な成果主義ではないが、業績貢献度を複数の上司で総合的に判断された。 |
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なぜ上がった?
改善提案の提出件数が社内トップになるなど、業務に対する意欲が評価され、冬の賞与が5万円程度上がった。 |
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CASE3 オーバーワークをこなしきった |
どんな査定方法
(システム開発/35歳)
期の初めに目標を設定、期末に達成率をチェック。会社自体の達成率を掛け合わせ、四半期ごとに給与の最大20%ほどのボーナス。月額給与もこの目標達成率を参考にするが、年功序列も加味。 |
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なぜ上がった?
上司も認めるオーバーワークの仕事をこなせたことが評価された。給与は2万円アップ。ただ、ボーナスは変わらず。 |
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CASE4 地味だけど見ている人はいる |
どんな査定方法
(システム開発/29歳)
上位職者と2回の面接を行う。全社の業績も加味したうえで査定が行われる。
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なぜ上がった?
賞与15万円アップ。中途入社後7カ月たった時点での評価。上司がルーチンワークや過去事例のデータベース化などの仕事内容を見てくれ、高い評価を受けた。 |
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CASE5 開発製品の特許を取った! |
どんな査定方法
(システム開発/27歳)
外資系企業勤務。今回は特許取得の有無が重要な査定ポイントになった。 |
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なぜ上がった?
冬の賞与が100万円上がった。自分の開発製品が特許を取得したため。努力が認められ、大満足。
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査定そのまま |
今回の査定が変わらなかった理由は何? |
●査定方法が不透明。自分の業績を目に見える形で示せない
過半数を占める「査定が変わらない」人たち。1つには成果主義による評価システムがうまく機能していないという問題がある。「どんなに頑張っても年功序列じゃね」というわけ。ただ「こんなに頑張ったのに、なぜ?」という疑問を持つ人も。努力していることがきちんと伝わっていない、業績が目に見えにくいという問題もありそうだ。
CASE6 機能しない評価システム |
どんな査定方法
(サービスエンジニア/34歳)
個人の業績評定書を提出し、これを基に経営者が査定する。査定結果を個人に知らせる。 |
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なぜ変わらない?
成果主義だがほとんど機能していない。会社の評価システムを上司が無視していて、いまだにどのような評価がされたのか分からず。 |
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CASE7 年功序列でしか評価されない |
どんな査定方法
(ネットワーク設計/35歳)
ほぼ年功序列で昇給し、40代半ばがピーク。実力により給与に差が出る場合もあるが、まれなケース。 |
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なぜ変わらない?
ほぼ年功序列のため、評価のいかんを問わず変わりはない。具体的に何に対して評価をしたという連絡を受けたことがない。
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CASE8 目立つ成果がなかった |
どんな査定方法
(機械設計/29歳)
期初に立てた目標を、どれだけ達成できたかで評価する。給与、賞与の一部が評価によって上下する。 |
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なぜ変わらない?
部署の方針が大きく変わったが、何とか納期どおりに達成できた。ただ今期は、自分で見ても際立った部分がなかった。 |
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CASE9 上司が苦労を分かってない |
どんな査定方法
(システム開発/35歳)
上司の査定で考課点が付けられ、その後部門間調整があって、社長のOKで反映。 |
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なぜ変わらない?
毎回変わりなし。1人で会社全体のシステムを見ており、今期の仕事量は倍になったというのに、上司はその苦労を分かってくれない……。 |
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CASE10 営業だけが高評価 |
どんな査定方法
(システム開発/28歳)
社長が見えている範囲で給料のアップダウンが決められる。見えていない範囲は、本人が要求しない限りほとんど変化がない。 |
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なぜ変わらない?
営業などの部署が一番って感じで、IT系技術者はほとんど評価されず、経営トップも力を入れていないから。
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●理由は分かるが、自分だけではどうしようもないものもある
「なぜ下がったのか分からない」という人もいるが、査定が下がった人の多くはその原因を把握しているようだ。とはいえ、その原因が自分だけにあるとは限らないのが、会社の不条理。ほかの要因で足を引っ張られて悔しい思いをする人もいる。
CASE11 自分のミスだから仕方ない |
どんな査定方法 (半導体設計/32歳)
個人面談で査定が行われ、評価書類が作成される。 |
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なぜ下がった?
自分のミスが問題となり、査定の点数が下がった。ミスは現実にあったものなので指摘されてもしょうがない。 |
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CASE12 マネジメント能力がない? |
どんな査定方法
(システム開発/32歳)
会社独自の評価基準により、社員レベル・段階を規定。年齢や経験年数も加味し、職位と給与が決定される。 |
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なぜ下がった?
部下の管理ができない、チームへの貢献がないと判断された。私なりに部下の面倒を見て、スケジュールに無理があった分を穴埋め作業したのに……。 |
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CASE13 評価されない仕事しかない |
どんな査定方法
(システム開発/39歳)
部内にて相対評価される。 |
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なぜ下がった?
一切の仕事に対し、評価されない。また評価されない仕事のみが渡される。ボーナスは5万円下がった。 |
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CASE14 納期遅れが致命傷に…… |
どんな査定方法
(システム開発/35歳)
半期ごとに業績を申告し上司が査定を行い、10段階にランクされて賞与のベースが決定。 |
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なぜ下がった?
プロジェクトがうまくいかず、納期が遅れたことにより、10万円以上下がった。もともとのプロジェクトチーム作成に問題があると思っている。 |
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CASE15 会社の業績が下がった |
どんな査定方法
(システム開発/29歳)
査定は行われているようだが、一般社員は教えてもらえない。会議での発言や資格取得で査定が上がるとはいわれているが。 |
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なぜ下がった?
会社の業績が下がったからだと思う。資格を取得し、手当は付いたが、今度はほかの手当が下げられた。
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■成果主義が浸透して評価にも慣れたが、それでも不満は残る
これまでのアンケート分析で、やはり気になるのは評価制度への満足度。むろん精密な成果主義システムが導入されればそれで満足というわけではなく、それが誰によってどのように運用されているのか、という運用実態が重要だ。評価が下がれば誰だって不満を募らせることになるだろうが、適切な運用が行われ、評価の公平性・透明性が保たれていれば、「よし、次の期は頑張ろう」という意欲もわこうというものだ。
現行の評価制度への満足度を昨年のアンケート結果と比較してみると、「(満足度は)普通」と答える人の率が大きく伸びているのが分かる。これを「成果主義が普通のものとして浸透してきたことの表れ」と見るのは、リクルート・ワークス研究所の豊田義博・主任研究員だ。多くの企業は成果主義の制度導入を終え、いまは運用をいじりながら“不満”解消に努めているところ。「評価される側も自分の仕事を説明し、“不満”の根拠を明らかにしながら、評価者ともっとコミュニケーションを持つなどして、制度の運用を是正していくべき」(豊田氏)時期にあるようだ。
「そもそも『上司は自分の仕事が分かっていない』ということから出発するべきです。そのうえで、お互いに通じる言葉で目標を設定することが、成果主義をうまく活用するための出発点になる」と豊田氏はアドバイスする。
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図3 評価制度への満足度 |
私はここが満足!
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私はここが不満!
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自分の能力や残した結果をしっかりと見たうえで、正当に評価されている(コンサルタント/33歳)
当初は自分の担当範囲を超えているのではないかと思われた業務も、一生懸命やっていたら成果が出て、きちんと評価された(ネットワーク設計/32歳)
それほど自分で達成感はないが、ある程度評価してもらえたようだ(研究/30歳) |
評価の下がった理由が私自身の能力ならまだしも、「ほかの人が評価悪かったから、あなただけいい評価にしにくい」という理由だった(システム開発/28歳)
プラス評価をまったく行わず、マイナス評価のみであることが不満(システム開発/32歳)
長い時間会社で働いていれば査定がアップする。たとえダラダラと居残りしているだけだとしても(システム開発/31歳) |
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Part3
今後、評価制度はどう変わる? エンジニアはどうすればいい? |
■自分の技術と管理能力を磨く
成果主義の時代に、エンジニアは上司の査定とどうつきあい、どう闘うべきなのか。アンケートでもその方策を聞いているが、昨年度に比べて「技術力を高める」「管理能力を向上させる」などのポイントが高くなっていることが分かる。この2つはいわば“正攻法”。たとえ評価システムに欠陥を感じていても、それに対するグチを募らせるだけでは明日がない。「ともあれ、自分の技術やマネジメント能力を磨く」ことで、上司にあれこれいわせないという意思の表れだろう。
もう1つ「数字が出やすい仕事をする」のポイントも高くなっているが、これはちょっと気になる現象だ。数字が出やすい仕事ばかりを選んでいると、確かに短期的には結果が出るかもしれないが、長期的には自分の成長を阻害することにもなりかねない。みんなが見栄えのいい仕事ばかりに集中して、協調性が弱くなるのは成果主義の“弊害”の1つ。会社にとってもエンジニアにとっても、あまりよいことではないだろう。
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図4 今後評価を上げるために必要なものは? |
■ポストバブル世代にとっての働きがいとは
さて、企業の評価システムはこれからどう変わっていくのだろうか。「これからは1988〜1992年入社のいわゆるバブル入社組たちがリストラされる。大企業にはこの世代が大量にいて、その全員がしかるべきポストに就くのはムリ。その出っ張りをならす意味でも、しばらくは成果主義のモードは続く」と豊田氏は予測する。
一方でその下の層、現在20代から30代前半の社員への会社からの期待は熱いものがある。「この層を流出させるのは会社にとっても損害。できるやつは残れ、できないやつは去れと一概にいい切れない」状況が生まれている。「成果主義をまるごと捨てるのではないにしても、単なる金銭やポストだけではなく、働きやすい環境やモチベーションの向上などの方法で報いるという方向を、企業は模索している」(豊田氏)。お金も大切だが、それ以上にエンジニアにとって重要なのは、働きがい。そうした環境整備を、これからはどんどん要求していくべきではなかろうか。
☆会社と社員、いい関係を築けるように |
評価主義への満足度のアンケートを見ると、2004年は評価がかなり分かれたが、2005年は約半数が「普通」と答えている。「こんなもんだろう」と納得できる人が増えたということは、評価制度の浸透が進んでいると考えていいかもしれない。また「満足」と「不満足」を比べると、どちらも減っているが「不満足」の減り具合の方が大きい。不満が減ってきたということは、制度運営側の努力がそれなりに功を奏しているのだろうか。
査定が上がった人の声を見ると、評価基準が明確で、本人も理由を自覚しているケースが多い。だが変化がなかった人、下がった人の中には、評価制度自体が機能していないためにそうなった人、理不尽な理由でそうなった人もいるようである。これはいたたまれない。査定結果に不満足では意欲が下がるため、後の影響も心配になる。
少なくとも評価基準が明確で公平性があるなら、まだ努力のしがいがある。露骨に評価基準に的を絞りすぎるのは問題ではあるが、目標を持ち、達成し、適正に評価されたなら意欲は向上する。最終的には会社と社員、いい関係が築けるようになるといいのだが。
(加山恵美) |