Tech総研
2006/2/24
認定試験に合格すれば一時金や資格手当が出る場合もある。どんな試験なら対象になるのか。またどんな試験ならスカウトで有利か。スキルアップについての本音もチラリ。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載) |
PART1 |
技術職という仕事の性格上、エンジニアは絶えず最新の技術を習得する必要性に駆られている。資格試験のための勉強は、技術をキャッチアップするためのよいきっかけになる。
業界で広く認められるスタンダードな資格を持っていれば、技術力の証明や裏付けになるという点も見逃せない。社内の昇進・昇格の際、あるいは転職において、取得資格が技術者のスキルを推定するバロメーターになる。
業界によっては、デファクトスタンダードな製品・規格を持つ有力ベンダとパートナーシップを結ぶために、一定数のベンダ資格取得者を社内にそろえる必要がある場合もある。その場合は、資格取得はいわば会社が事業を進めるうえでの必須条件となり、奨励のレベルを越えて一種の業務命令に近いものになる。
資格を取得するもう1つのメリットは、資格手当などの直接的なインセンティブ、金銭的報酬だろう。世の中の流れとしては、福利厚生的な意味合いの強い「手当」は廃止される傾向にあるが、資格を取得すれば受験料の補てんや、「報奨金」「奨励金」などの名目で一時金を支払う企業は少なくない。金銭目当ての資格取得は本来の姿ではないにしても、インセンティブが試験勉強に取り組むうえで励みになることもまた確かだ。
今回、Tech総研では100人のITエンジニアを対象に、保有する資格の状況や、資格手当などの有無についてアンケートを取った。その結果を引用しながら、エンジニアと資格についてあらためて考えていきたい。
PART2 |
アンケート対象者は、25〜39歳のシステム開発、パッケージソフト開発、社内情報システム、運用・保守・テクニカルサポート、ネットワーク設計・構築などに従事するエンジニアたち。情報処理技術者試験系の国家資格のほかに、シスコシステムズ、マイクロソフト、オラクル、SAPなどのいわゆるベンダ資格が広範に整備されている職種・業界である。さらにはC言語、Java、Visual Basicなどプログラミング能力を評価する資格があり、昨今はPMP(Project Management Professional)やITコーディネータなど管理能力に特化した民間資格も多数存在する。
アンケートによれば、資格取得者が多いのは「第二種情報処理技術者(現在は「基本情報技術者」)」(26人)、「初級システムアドミニストレータ」(26人)、「ORACLE MASTER silver」(12人)、「MCP」(10人)、「CCNA」(8人)などである。調査に当たってTech総研編集部がリストアップした資格は全部で59種に及ぶが、回答者のうち70%が「いずれかの資格を持っている」と回答している。ITエンジニアにとって資格取得は、ほぼ当たり前の行為といってよいのではないだろうか。
ただ、上記に具体的に挙げた資格はいずれも、国家資格・ベンダ資格の中では「初級」に位置付けられるもの。IT業界の中ではいわば「入門編」と考えられているものばかりだ。
例えば、ネットワーク技術者のデファクトスタンダードであるシスコ技術者認定の中でも、「CCNA」はあくまでもネットワーキングの基本的な知識を示すものだ。100ノード以下の小規模ネットワークに対するLAN、WANなどの設定・運営を行えるレベルにすぎない。このレベルの資格であれば、いまや学生でも持っていることが多く、それだけでは必ずしも「できるエンジニア」の証明になるとはいえないだろう。
シスコ技術者認定についていえば、さらにその上の段階、プロフェッショナル(CCDPやCCIPなど)やエキスパート(CCIE)へのステップアップが求められている。
PART3 |
そこで知りたくなるのが、実際に企業が欲しがっているレベルの資格とはどんなものかということだ。リクルートの「リクナビNEXTスカウト」上で、企業がスカウト対象者を保有資格で検索したランキングが参考になるだろう。企業はこういう資格の取得者を探しているという具体例の1つだ。 それによれば、「CCNA」「CCNP」「ORACLE MASTER gold」が上位にランクされ、以下同率で「CCDA」「Network+」「Server+」「e-Biz+」などが並ぶ(表1)。「Network+」などCompTIAが認定を行っているベンダ非依存資格が多数ランクインしているのが目立つ。これまでの国家資格、ベンダ資格に加え、IT各業務に関する実務能力について業界横断的に判断する新しい“ものさし”が注目されているということだろうか。 また「ORACLE MASTER silver」よりも「ORACLE MASTER gold」の方が検索数が多いなど、より上位の資格に企業の関心が向かっているという傾向もうかがえる。 |
PART4 |
Tech総研としては、こうした資格取得が手当額や昇給・昇格にどのような影響を与えるかについても関心がある。
図1 6割のエンジニアが資格手当に不満 |
しかしながら、アンケートの結果を振り返ると、手当や一時金についてはかなり“お寒い”現状が浮かび上がる。今回のアンケートでは、何らかの資格を持つ人が全体の7割に達したのに対して、資格手当を得ている人は全体の10%、一時金を支給されている人は20%強にすぎない。金額は企業によってまちまちで、例えば「初級システムアドミニストレータ」でも、月額の資格手当は500円から5000円と幅がある。
合格報奨金(一時金)にも同様の傾向が見られる。同じ「CCNA」の場合でも、3000円の人もいれば5万円の人もいる。今回最も多額の一時金は30万円で、いずれも国家資格の「アプリケーションエンジニア」(ネットワーク設計・構築、29歳)と「システム監査技術者」(運用・監視・テクニカルサポート、26歳)の資格を取得した2人だった。
こうした資格手当・一時金の現状についてはエンジニアの間に根強い不満がある。「とても/まあまあ満足している」人は全体の9%にすぎず、「やや不満」(19%)「かなり不満」(39%)を合わせると、全体の6割近くが現状に不満を持っている(図1)。
企業としても、例えば年俸制や業績連動型など成果主義的な賃金体系へシフトする中で、必ずしも目に見える成果につながらない資格には金銭的なフィードバックをしにくいという事情はあるかもしれない。
しかしながら、エンジニアの“努力”を客観的に評価するものさしがいまだ社内に整備されているとはいえないことも多く、外部のIT資格制度の評価を活用する企業もある。
|
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
表2 エンジニア100人に聞いた資格手当が出る資格上位ランキング(2006年1月調査) | 表3 エンジニア100人に聞いた資格取得一時金が出る資格上位ランキング(2006年1月調査) |
PART5 |
資格取得が当たり前になる一方で、それに対する金銭的な見返りは少ないという現状がある。エンジニアたちは資格取得をどのように考えているのだろう。「自分のスキルアップにつながる」と前向きにとらえる人が、全体の6割以上いる事実は重要だ(図2)。資格制度を整備するベンダ、業界団体、そして企業はその“ひたむきさ”を真摯(しんし)に受け止め、より受験しやすい資格試験制度、出題内容のアップデート、そして実態に見合った金銭的報酬をこれからも考えていってほしいものだ。「資格は取りたいが、そのための時間がない」という声が案外多いことにも、注意を喚起しておきたい。
図2 資格取得に対する本音は? |
その一方で、「資格などなくても仕事に支障がないので、興味なし」とするエンジニアが3割を占めている。これはエンジニアとしての自信の表れと見るべきなのだろうか。こうした意見の中には例えば、「資格がなくても仕事には影響ないのでいまはどうでもよいが、転職するときにはそれなりの証拠みたいなものになるかもしれないので持っていて損はないと思う」(システム開発・Web・オープン系、33歳)という声も含まれている。
「会社から推奨があるので仕方なく取得している」(11%)「資格がないとできない仕事なので取得している」(2%)という現実派もいる。資格取得のための勉強は決して簡単なものではない。だからこそ、その努力が正当に報われることを願わざるを得ない。
■情報処理技術者試験、4月から「情報セキュリティ」で新資格
エンジニアにとって技術レベルのマイルストーン(目標)の1つである、経済産業省の「情報処理技術者試験」。新しい試験区分「テクニカルエンジニア(情報セキュリティ)試験」が2006年春に誕生する。
情報セキュリティ分野については、情報システムの利用側を想定した試験として「情報セキュリティアドミニストレータ試験」が2001年から設置されていたが、今回の「テクニカルエンジニア(情報セキュリティ)」は、情報システムの開発・運用側の試験という位置付けである。
出題内容は、情報セキュリティの全般をカバーしており、実際にセキュアな情報システムを設計・開発し、運用部門に確実に引き渡すことのできる能力を判断する。昨今のセキュリティ技術の進歩は目覚ましく、新規技術が出現する一方で、既存技術の陳腐化・ブラックボックス化のスピードも速い。こうしたブラックボックス化された技術を使えるだけでなく、その中身を理解して実システムに適用できるエンジニアを育てるという狙いもある。詳しくは情報処理推進機構(IPA)のWebサイトで。
図3 情報処理技術者試験(14区分) |
■マイクロソフト、MCP資格体系を大幅に改定
マイクロソフトは、情報システム関連の技術者を対象としたマイクロソフト製品の技術的知識に関する世界共通の認定資格制度である「マイクロソフト認定資格プログラム(MCPプログラム)」の資格体系を、この春から大幅に改定する。
新資格体系では、情報システム関連の技術者が自己の持つ技術知識や職務遂行能力をより詳細に明示することができるよう、階層と専門分野を分けて実施するのが特徴。「MCP資格について、実際の市場におけるニーズや実態をこの数年にわたりグローバルに調査してきた。その結果を受け、その資格を持つエンジニアが具体的にどのような知識を持ち、どんな仕事ができるか、資格そのもので証明できるよう、より分かりやすい体系に改めた。資格=技術スキルの証明という原点に立ち返っての改定だ」というのは、マイクロソフトラーニンググループ、シニアマーケティングスペシャリストの中川ゆう子氏。
新資格体系は、「テクノロジー シリーズ」「プロフェッショナル シリーズ」「アーキテクト シリーズ」の3階層。各階層は複数の専門分野に分かれ、特定の分野に関するスキルを適切に評価できるようになっている。「結果的に、取得に要する費用と時間の負担を大幅に軽減することが可能だ」(中川氏)
新資格体系は今後発売される新製品から順次適用され、Microsoft SQL Server 2005とVisual Studio 2005が新資格体系に対応した最初の製品。米国では2006年1月初旬より関連試験とトレーニングコンテンツの提供が開始されているが、日本語での提供は2006年春ごろより開始の予定だ。
2006年4月30日(日)までの期間限定で、新資格へのアップグレードを支援するキャンペーンを実施する。詳細は同社のLearningサイトで。
|
|||||||||
図4 MCP資格制度の新体系 |
☆実益もスキルアップも欲しいが | |
記事本文にもあるように技術力で生計を立てている以上、商売道具でもある技術力をいかに新しく、かつ使えるようにするかは大事な問題だ。アンケートによると、全体の7割が初級レベルを中心に何らかの資格を取得しているというのだから、多くのエンジニアがスキルアップに労力を割いていることが分かる。 取得済みの資格試験のトップには基本情報技術者試験(第二種情報処理技術者試験)がある。実技にどれだけ役立つかは職場次第でもあるのでさておいて、情報処理技術者試験の中ではエントリレベルなので学習しておくのは無駄ではないだろう。加えて国家試験なので一時金や資格手当の対象となる可能性が高い。情報処理技術者試験の保有者数が営業活動に関係してくることもあるため、会社としても取得してもらいたいところなのだろう。一方、スカウトで注目される試験にはまた別の特徴がある。ベンダ試験の方が上位に並んでいる。これは実践力を重視しているようだ。 資格手当について6割が不満を持っているのはなぜだろう。努力した割には金銭的に見合わない、またはそもそも手当がないことが原因だろうか。本当に労力に見合わないのなら資格取得など無視すればいいのだが、上司や会社からの圧力があるのでは。せっつかれて勉強して、何とか合格しても大したメリットにならないとなれば、不満が出るのも分かるような気がする。 (加山恵美) |
この記事は、Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載しています |
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。