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最新データで見る「エンジニアのキャリア事情」

第32回 ツライ! でもいえない! 上司への弱音の吐き方

Tech総研
2006/9/7

弱音を吐くのは難しい。タイミング、相手、伝え方を間違えれば逆効果にもなりかねない。上手な弱音の吐き方とは。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)

 

PART1
エンジニアのストレス度は? みんな弱音を吐いている?

 まずはエンジニアたちがどんなストレス状態に置かれているのか、それについて周りに発信しているのかどうかを、アンケート結果から見てみよう。

 このアンケートは、「仕事でストレスを感じるか」という質問に「よく感じる」「ときどき感じる」と回答したエンジニアに対して行ったもの。仕事の量や過度のプレッシャー、顧客、上司との人間関係などに悩み、ストレスを感じているエンジニアのうち9割近くが、心や体に不調を感じているという深刻な調査結果となった(図1)。肩こり、食欲不振からうつ、胃腸障害による入院まで、その深刻度はさまざまだった。

図1 ストレスが原因で、精神的、肉体的に不調になった経験がある?

納期が決まっているのに、 ほかのチームの動きが悪く、結局間に合わずこちらの責任にされた。不眠や過食、頭痛が常態化……。(39歳/運用、監視、テクニカルサポート、保守)

客先の要望どおりにシステムを構築したが、運用が難しく、無理難題をいわれる。どう解決していいか分からず、出社拒否したくなることも。客先に行くと震えが止まらない。(40歳/システム開発・汎用機系)

個人の通常作業量を超えた、膨大な仕事を押し付けられる。チームの要員は足りないし、スキル不足。問題が解消されるどころか、増えるばかり。そんな中、ズキっと胸が痛むことがあるし、電車に乗っていると気持ちが悪くなり、脂汗が大量に出てくる。(35歳/システム開発・Webオープン系)

上司が自分のこだわる無意味な仕事のやり方を押し付けてくるので、効率が悪く、残業も増える。皮膚のアレルギー症状が出たほか、過敏性腸症候群になり、通勤がつらい。(40歳/研究、特許、テクニカルマーケティング)

自分以外にできる人がいないので、どんなにしんどくても自分でやるしかない。そんな状態がプレッシャー。体がいつもだるくて、寝つきも目覚めも悪い。ヘンな夢ばかり見る。(35歳/システム開発・汎用機系)

絶対に無理な納期を強引に守ろうとしていることがストレスに。耳鳴りを感じて最初は耳鼻咽喉科に通っていたが、いまはうつ状態になって心療内科に通院中。1カ月休職した経験もある。(38歳/システム開発・Webオープン系)

 これらのひどい状況の中で、エンジニアたちは弱音を吐いているのだろうか。上司、同僚に対して弱音を吐いたことがある人は約7割(図2)。意外にも多くのエンジニアが周囲に自分の限界を発信しているようだ。一方、弱音を吐かない約3割の人たちにその理由を聞くと、「弱音を吐いても無駄」「プライドが許さない」「評価が下がる」「弱音を吐く相手がいない」などがほとんどだった。

図2 なぜ仕事の弱音が吐けないのか?

弱音を吐いてもどうにもならない。 こちらが何かいっても何の変化もないことが、さらに大きなストレスになるから。(39歳/システム開発・Webオープン系)

派遣先で勤務しており、弱音を吐けるような人が近くにいないから。(27歳/システム開発・汎用機系)

仕事を中途半端にするのが嫌だから。(38歳/システム開発・Webオープン系)

誰かがやらなければ、客先に迷惑が掛かる。(38歳/研究、特許、テクニカルマーケティング)

外資系に勤務しているので、そんなことをいったら「必要のない人」だと判断されてしまうと思うから。(38歳/コンサルタント、アナリスト、プリセールス)

図3 どんな弱音を吐いた? その後の変化は?

自分にだけ仕事が集中する状況を訴えたが、「キミしかいない、頑張ってくれ」と説得され、励まされたのみ。状況はまったく変わらなかった。(37歳/サービスエンジニア)

「労力に報酬が見合わず、心身に影響が出た」と訴えたが、上司に「これだから若いやつはすぐ弱音を吐く」といわれただけ。何も状況が変わらなかった。(25歳/システム開発・Webオープン系)

納期に追われる現状を伝え、「このままだとパンクするかもしれない」と話した。上司は納得してくれ、作業負荷が軽くなり、担当も少し変わった。(31歳/システム開発・Webオープン系)

派遣先で働いているが、自社の上司に対してプロジェクトの問題点を伝え、人員を増やすか、自分が抜けるかだと訴えた。その後、人員は増えず状況は変わらないが、ちょくちょく電話や面談で話を聞いてくれるようになり、少しだけ気が楽になった。(31歳/システム開発・Webオープン系)

「自分はこの仕事に向かないので辞めたい」といったところ、「辞めたらもったいないから頑張って続けるように」と上司に励まされた。上司が手助けしてくれるようになり、気持ちが軽くなった。(34歳/パッケージソフト・ミドルウェア開発)

 弱音を吐いたことがあるエンジニアたちに、その内容や、弱音を吐いた後の変化を聞いてみた。弱音を吐いて、状況が好転したと回答したエンジニアは17%(図3)。「状況は変わらなくても気が楽になった」と答えた人を合わせても、弱音を吐く効果を感じた人は3割にとどまる。これでは、エンジニアのストレス状態はなかなか解消されない。そこで次のパートでは、専門家に「効果的な弱音の吐き方」を聞いてみた。

 

PART2
つらい現状を好転させる弱音の吐き方とは?

 上手な弱音の吐き方や状況を好転させる方法について、著書に『ITエンジニアの「心の病」』があり、多くのエンジニアの治療に当たる精神科医・医学博士の酒井和夫氏にアドバイスをもらった。

エンジニアが陥る深刻なストレス状態とは

酒井和夫氏
精神科医・医学博士
ストレスケア日比谷クリニック院長

東京大学文学部卒業。筑波大学医学研究科博士課程修了。心身症、摂食障害、気分障害(うつ病)、強迫性障害などの治療に従事。『嘘がつけないとウツになる!』(ベストセラーズ)、『ITエンジニアの「心の病」』(毎日コミュニケーションズ)など著書多数。

 酒井氏のもとにも、体や心の異常を訴える多くのエンジニアがやってくる。「仕事の量、質、人間関係とも過酷な状況に置かれている人が本当に多い。6カ月以上ストレスを我慢すると、心身に影響が出てきます。胃腸系、免疫系、循環器系、ホルモン系など体に影響が出やすい人、うつや不眠など心の不調を訴える人などさまざまですね」

 特にITエンジニアは、この数十年で登場した新しい職業。どのように脳を使って、それが長時間続いたときにどのような影響が出るのか解明されていない。これも1つの問題と酒井氏は指摘する。

 「今後、どんな悪影響が判明するか分からない。私見ですが、ITエンジニアは週休3日でもいいと思います。自分のストレスに早く気付き、病に陥らないように予防することが大事なんです」

弱音は、何より吐く時期が肝心

 酒井氏が何より大切だと強調するのは、自らのストレス状態をできるだけ早く察知すること。心身に深刻な不調が出てからでは、薬を投与してもなかなか治りにくいという。

 「肩こり、目が疲れる、長編小説が読めなくなる、いままで楽しめたことを楽しめない、肌にツヤがなくなる、マッサージでツボを押されると跳び上がるほど痛い、仕事に集中できなくなる……。こうした小さなサインを見逃さず、ストレスがあるなと感じたら、自分に合ったストレス発散法を見つける、専門医に相談するなど、早期の対応が大切です」

 上司に弱音を吐くのも同じ。切羽詰まってからより、早い段階で行うこと。

 「その理由は2つ。1つは、切羽詰まった状況では、相談されてももうどうにも手の打ちようがなく、能率が下がる。そうした状態だと弱音を吐いたとき『あいつはできないやつだ』と思われる場合が多いからです。もう1つは、自分のキャパシティを超えて仕事をしているやつだから弱音なんか吐くのだ』と能力を疑われる結果になりかねないのです」

 常に自分のキャパシティの8割で仕事をこなし、それを超えそうになったら弱音を吐く。それがストレスをためないための最も有効な処方せんである。

弱音を吐くなら、勝負するつもりで

 先のアンケートでは、「弱音を吐いても状況が変わらなかった」と答えた人が多かった。

 「何かいっても、変化がなければ意味がありません。『気が楽になった』という効果だけでは、長続きしませんから同じことです」

 それでは、弱音を吐いて状況を好転させるにはどうしたらいいのか。

 「最低限のルールとして、『ダメ』とはいわないこと。自分の体力やキャパシティだけを理由にしないことです。チームや仕事の量の状況など、自分を取り巻く環境全体の現状を話し、『このままでは無理。私も体調に変調を来していますし、チーム全体も1、2カ月後には参ってしまう可能性があります』など、客観的ないい方をすべきなんです」

 加えて、弱音を吐くなら「勝負する」くらいの気概も必要だという。

 「単なるぼやきではなく、能動的な行為にするためには、同じ思いを持つ仲間をつくる、話す上司を選ぶ、現状を変える提案をするなど、十分に準備したうえで臨むといいでしょう」

グチの名人ヒロシさんの「先に弱音を吐いておくと楽になるです……」
 ヒロシです。
ヒロシさん(34歳)
1972年熊本県生まれ。お笑い芸人を目指しながら、ホストなどの仕事を経験。現在はテレビ、ラジオ、お笑いライブや舞台など幅広く活躍中。2006年11月14日から23日まで東京・天王洲銀河劇場にて舞台『錦鯉』にも出演。

 弱音の話ですよね。僕の場合、弱音を吐きがちという素の性格が仕事になっているという特殊な事情があるです。

 モテると思ってお笑い芸人になったけど、ぜんぜんモテないです。女の子からメールがくればドタキャンばかり、デートかと思えば「友達連れて行ってもいい?」……それはデートといわんです!!

 こういう弱音を友達に吐きたくてもいないから、公共の電波を使って毎日いっているです。

 ああ、仕事の話でしたね。

 昔、自動車整備工場でアルバイトをしていたときに、1人だけ嫌味な人がいました。あんまりつらくて、ほかの優しい同僚に相談すると、その嫌味な人に気を付けるようにいってくれたです。そうしたら、よくなるどころかもっとややこしくなって、気まずい日々を送ることになりました。

 いわなければよかったです。仕事関係の人に弱音を吐くときは、相手を選ばなければいけません。

 でも、弱音を吐いておかないと、困ったことになるのも確かです。

 仕事とはお金が絡みます。だから、「できない」ことを「できる」といって、結局うまくいかなければ、みんなが困るです。

 だから、仕事を受ける前に、「あんまり面白くありませんけど、いいですか?」とか「1時間のうち一言くらいしか言葉を発しませんが」とか、「ここまでしかできません」といっておくと、安心して仕事ができるです。

 期待を自分のステップアップに変えられるような、強いタイプの人以外は、そんな方法もあるです。



☆苦境を伝えるには客観的に

 弱音の吐き方の得意・不得意は経験の有無によるのではないだろうか。弱音も意思疎通の1つ、誰かに伝える経験を多く積んでいれば、弱音上手になれるかもしれない。

 アンケートを見るとエンジニアの多くが苦境に立たされている。ストレスを感じているエンジニアのうち、上司に弱音を吐いたことがない人は半数以上になり、さらにその半数は誰にも弱音を吐いていない。これではストレスがうっ積する危険性がある。

 また弱音を吐いたことがある人の中で、状況が好転したのはわずか17%。この結果は上司の受容性や伝える内容にもよるので一概にはいえないが、うまく弱音を吐くのはやはり難しいということだ。

 だが弱音をうまく伝えないとつぶれてしまう。酒井氏のアドバイスにもあるように、弱音をうまく伝えるには客観性が大事のようだ。また単に自分だけの問題としてとらえるのではなく、周囲への影響も含めて考えれば、上司を動かせる可能性は高くなる。

(加山恵美)


この記事は、Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載しています


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