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第33回 顧客に指名される常駐SEの条件

Tech総研
2006/9/22

エンジニアが常駐する開発現場では、プロジェクト途中でもメンバーの入れ替えは多いようだ。顧客から「次もよろしく」と頼りにされるコツを探る。(Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載)

 

Part1
「次もあなたに任せたい」といわせるための処世術を検証

 Tech総研では、これまで常駐SEシリーズを3回にわたってお届けしてきた。今回は、顧客に信頼され、「次もあなたに任せたい」といわせるための処世術を、200人分のアンケートと3人の常駐SEへの取材から見つけ出してお届けしたい。さらに、顧客の業界ごとにも特色があるのかどうか探ってみた。皆さんの日々の仕事生活と照らし合わせてもらえたら幸いだ。

引き継ぎ時に露見する顧客との関係

 プロジェクトが淡々と進んでいるうちは、顧客との関係性の良しあしが表面化することは多くない。次も任せたいといわれるか、あるいは嫌われたか、顧客側の評価や真意が見えるのは、プロジェクト終了後や、プロジェクト途中でメンバーが入れ替わるときだろう。「あなたとはこれからも仕事をしたい」とか「あなたに残ってほしい」といわれれば安全圏。逆に、自社に「彼を外してほしい」といわれるのは論外としても、プロジェクト途中で参加し、引き継ぎがうまくいかない状況の中で、顧客が望む仕事ができない状態が続けば、次は声が掛からないかもしれない。

 こうしたドキドキする引き継ぎの機会は少なくない。アンケートに答えてもらった常駐SEの約3分の2も、プロジェクト途中でメンバーの入れ替えがあるといっている(図1)。まずは、アンケートに答えてもらった常駐SEたちが遠くない存在であることを知ってもらうために、日々の彼らの“引き継ぎ時の泣き笑い(困ったこと/うれしかったこと)”をピックアップしてみた。

図1 常駐先でのプロジェクトでの体制は?

自社メンバーとの引き継ぎで困ったこと   引き継ぎ時に顧客にいわれてうれしかったこと
■指示系統が複雑すぎ!

作業の指示系統が複数存在するため、仕上げた提案書などを複数の上司に見せ、何度も再作成しなければならなかったことがつらかった。(運用監視SE/36歳)

■新メンバー対応に足を引っ張られる

途中からメンバーの入れ替えが多く、いちいち説明や質問されるなどで、自分の仕事がなかなか進まない。(Web開発SE/27歳)

■必要なドキュメントがない!

必要なドキュメントを後付けで作成することが定着していたため、引き継ぎ時に必要な書類がそろっておらず、まともに引き継げない。(オープン系SE/34歳)

■顧客の好き嫌いでメンバーが入れ替えられる

スキルや勤務態度ではなく、客の好き嫌いで急にメンバーが交代させられる。(オープン系SE/35歳)

■過去の経緯を知らないことを責められる

以前のメンバーのお客さまとの経緯までは分からないので苦労した。(汎用機系SE/27歳)

■新メンバーが極端にスキル不足

人員不足で新メンバーを補充されたが、スキル不足。結果、仕事が増えた。(通信系SE/29歳)
  ■手放したくないという評価を耳にする

「○○(自分の名前)は、ずっと引き留めておかないとまずいですね」という顧客同士の会話を耳にしたとき。(金融系SE/33歳)

■信頼感を直接伝えられる

「引き継ぎはあなたに任せておけば、心配はないです」といわれた。(テクニカルサポートSE/32歳)

■非常時に技術力を頼られる

常駐期間を終えたのに、引き継いでから「困ったときには私を呼ぶ」といわれた。(汎用機系SE/32歳)

■キャラクターが好かれた

「あなたみたいなム−ドメーカーがうちの職場にも欲しい」といわれた。(サーバ監視SE/35歳)

■ねぎらいの飲み会に誘われた

プロジェクトが落ち着いたころ、顧客から先に「ぜひ、飲みに行きましょう」といわれた。(ERP導入SE/30歳)

■障害解消で感謝メールをもらう

2回中断してしまったプロジェクトに途中参画して軌道に乗せた後に、感謝メールをいただいた。(インフラ系SE/27歳)

 

Part2
業界別検証! 彼らはこうして必要な存在と認められるようになった

 もちろん、すべての常駐SEが現在の常駐先に永遠に常駐しているわけにはいかない。アンケートを見ると、4割以上のSEが現在の常駐先から移りたがっている(図2)。ただ、「次もお願いしたい」といわれたことのあるSEの多くは、現在の常駐先に対する満足度が極めて高い。もしいまのプロジェクトから離れられない状況なら、このひと言をいわせ、仕事を楽しくしてみるのはどうだろうか。

図2 現在の常駐先についてどう思う?

 そこで、顧客との良好な関係を築き上げ、常駐先から離れたくても離れられないほど“指名買い”されている3人の常駐SEに、成功の経緯を聞いてみた。

通信業界編 フランクな性格で、発注側と間違われるほど溶け込むことに成功

K・Hさん(29歳)
大手携帯電話会社勤務
コンテンツサービスの開発業務

 K・Hさんは一見すると気の良いイケメン風。明るくて話しやすいタイプだ。彼はいま、通信キャリアでサーバ側のシステム開発に携わるエンジニアだが、現場でも明るいノリで周囲に溶け込んでいるという。顧客側の担当者も彼のペースにのまれ、誰とも友達感覚で話すので、状況を知らない人から見ればどちらが発注側か分からない雰囲気である。それでいて、彼のキャラクターとスキルは顧客から高く評価されている。つい先ごろも「ぜひ、今後も残ってくれないか」といわれたそうだ。

 「どの業界よりもシステム障害を避けるための努力と手間を惜しまないのが通信業界です。日ごろから顧客と何でも話せる雰囲気をつくっておくことで、重要な懸案もいつも本音で話し合えるし、ミスを隠すような間柄にはなりません。結果的につくったシステムは安定します。お客さまは何よりそれを望んでいるんですよ」

この業界独特の「好かれポイント」とは……

 サービスの障害を何より嫌うため、開発時も運用時も、周囲と綿密なコミュニケーションを取って、確実に仕事を遂行することが求められる。

 顧客との間に線を引くよりは、何でもいい合える友達感覚の方がいい。ちょっとしたバグも未然に防げたりするのでシステムは安定し、結果的には信頼される。

これだけはつらかった   このひと言がうれしかった
前任のチームリーダーが、自分で仕事を抱え込んでしまう性格だったことから、プロジェクトが停滞。顧客からは仕事を振られないK・Hさんたちメンバーはサボっているように誤解された。   かつて、火を噴いているプロジェクトに途中で配属され、チーム内がギクシャクしないように関係者と深いコミュニケーションを心掛けた。必死にやっているうち進ちょくも軌道に乗り、顧客から「K・Hさんが来てからプロジェクトが前に進みだした」と信頼された。

金融業界編 業務知識を深めて「あなた個人と契約したい」のひと言を引き出した

I・Nさん(32歳)
大手生命保険会社勤務
データウェアハウスのエンドユーザー支援

 大手生保の客先でデータウェアハウス(DWH)の運用に携わるI・Nさん。やはり金融業界はお堅い雰囲気だそうだ。配属前にはノーネクタイでも構わないといわれたのだが、実際に顧客との打ち合わせが頻繁にあるので、自然とスーツを着用しているという。こうした「けじめ」のつけ方は、それなりに必要なようだ。昨今は企業の個人情報漏えいが大きく問題視されているが、最もシビアに対応しているのはやはり金融機関で、開発現場にPCどころか携帯電話も持ち込んではダメ。開発用のPCからはインターネットにもつなげない。必然的に開発現場では顧客と、折り目正しいビジネスライクな関係になるのだろう。それでも人間的に認められる方法はいくらでもあるという。

 「プラスアルファを持った人材と見られることですね。私はDWHでデータのマイニングを指示どおり行っているのですが、顧客の業務や金融商品を勉強して、顧客が使いやすいような資料にまとめて分析結果を提供するように心掛けていたところ、“I・Nさん個人と直接契約したい”といわれました」

この業界独特の「好かれポイント」とは……

 また、金融業界は競争力向上のためにITを大幅に活用している業界でもある。意外とエンジニアとしてのスキルを品定めしており、有用な人材は他社に取られまいと、抱え込もうとする傾向もあるようだ。そのため、業務知識など、付加価値のアピールは有効だ。

これだけはつらかった   このひと言がうれしかった
ほぼ1週間かけて作成した統計資料を、一顧だにされなかったことがある。   自分が作成した資料を基に、「おかげで新しい指針づくりができた」といわれた。

家電メーカー編 好きな製品ネタでエンジニア同士のきずなが深まった

Y・Tさん(27歳)
大手電機メーカー勤務
業務システム開発

 Y・Tさんが常駐しているのは大手電機メーカー。同社には情報システムの事業部門もあるが、Y・Tさんの配属先は家電部門で、そこで業務システムの開発を行っている。顧客側の担当者は回路設計や組み込みソフトの開発などには詳しいが、業務システムに関してのスキルは決して高くないそうだ。それ故、会議などでY・Tさんの意見がけっこう通るし、質問をされることも多い。つまりエンジニアとして認められた存在なのである。一方でY・Tさんも、先方担当者をモノづくりに情熱を燃やすエンジニアと認識し、一緒に良いシステムをつくり上げましょうという姿勢をアピールしている。

 「発注者・受注者というビジネスライクな関係よりも、エンジニア同士の絆を強めた方が開発はスムーズに進みますよ。仕事がやりやすいのは間違いない。飲みの席でも興味のある製品で盛り上がったりします」

 Y・Tさんはほかの企業のシステム開発にも参加して、技術の幅や知見を広げたいそうだが、当分は手放してくれないようだ。

この業界独特の「好かれポイント」とは……

 メーカーの先方担当者は、ITとは異なる分野のエンジニアであることが少なくない(バリバリにITスキルが高かったりすることもあるが)。そんな場合は、お互いにエンジニアとして認め合う間柄になると仕事がしやすい。頑張って良いものをつくり上げようというモチベーションできずなが深まる。

これだけはつらかった   このひと言がうれしかった
開発のボリューム感を正しく把握されないまま発注されることがあり、時として開発量の割に納期が短く設定され、深夜残業が続く。   仕様書にビジュアルを添えて開発手順を説明したとき、「さすがに分かりやすかった」といわれた。

 

Part3
指名買いされる常駐SEは顧客を気持ち良くさせている

 3人の常駐SEの例を見てきたが、共通していえることは、配属先業界独特の風土に合わせてスペシャリティを発揮していることだ。本人たちのSEとしてのスキルが十分に高く、日ごろの努力を怠っていないことは大きい。だが、本人たちの個性と各業界ならではの特徴がマッチし、相性が良かったのではないかとも感じられた。例えば友達感覚のコミュニケーションが得意なタイプの人は、折り目正しいビジネスライクな関係が求められる業界に配属されたら、息が詰まったかもしれない。

 いまひとつ顧客と濃密で有意義な関係が築けないと悩んでいるなら、自社に配属企業の変更やプロジェクトの異動を希望するなり、それがかなわないとなれば思い切って転職をするなりして、自分の個性が生かせそうな業界に変えるステップを踏んではいかがだろうか。

 最後に、あらためて「次もぜひ!」といってもらうための条件を整理してみよう。

顧客に指名買いされる常駐SEになる5つの条件
1.自ら積極的に顧客の担当者とコミュニケーションを取る

2.飲み会などのオフタイムの付き合いもおろそかにしない

3.顧客企業の業界知識・業務知識・独自ルールを早期に理解する

4.エンジニアとしての力量を認めてもらう機会を持つ

5.けじめが厳しい業界では遅刻厳禁・できればスーツ着用


☆売れっ子エンジニアの処世術とは

 常駐エンジニアに限らず、概して人材のマッチングは難しいのだと思う。社員だとそう簡単に入れ替えができないが、常駐エンジニアだと可能だ。

 プロジェクトの進展次第では人材の入れ替えが必要となる状況もあるだろうが、引き継ぎが円滑にできなければ判断が逆効果になるというリスクもある。入れ替える側は調整が難しいだろうし、入れ替えられる側は評価の合理性が心のどこかで気になるのではないだろうか。どちらの立場にとっても悩ましい。

 引き継ぎ時に評価されたエンジニアの声を見てみると、人間性で信頼を得ているように思える。エンジニアなら最低限のスキルは必須だが、それに加えて何か人間的な魅力を持っていることが指名買いにつながっているようだ。求められる姿は業界ごとの特性に応じてありありと違いが出ているのが面白い。

 逆に引き継ぎで苦戦している声を見ると、現場の体制に問題があるケースが多いようだ。体制の悪さに振り回されていては顧客から評価してもらう機会さえ持てないだろう。とはいえ環境の悪い現場から下手に好かれてしまえばそれはそれで厄介かもしれないが。

 虫のいい話だが、環境の良好な職場の顧客から好かれたいものだ。それには相性もあるが、スキルに加えて何か人間的な魅力をアピールする機会を持つことが決め手のようだ。

(加山恵美)


この記事は、Tech総研/リクルートの記事を再編集して掲載しています


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