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第1回 不足する営業センスを追い求める

下玉利尚明
2006/1/25

プログラマ3年とSE2年、それが現在の土台となる

 さて、このSIerで約3年間プログラマとしての経験を積んだ後、大友氏はさらにSEとして業務に携わることになった。

プログラマとして3年、そしてSEとして2年の修行時代が、いまの土台となったと振り返る大友氏

 ここでいうSEとは、単純にシステムエンジニアという意味ではない。「そのSIerではSEは役職でいうと主任クラスでした。業務内容は、顧客と折衝してシステムを設計し、仕様書を書いてプログラマに渡すというもの。お客さまと折衝するには会計の知識が必須になるし、設計も初めての経験でした。業務知識、設計という上流工程の基礎知識、コミュニケーションスキル……。それらを新たに学ぶことができたのです」(大友氏)。大友氏は約2年間、SEとして業務に携わった。

 大友氏のITエンジニアとしてのキャリアを見ると、最初の就職先となったSIerにおける3年間のプログラマの経験と、2年間のSE経験が大きな意味を持つ。

 この修行時代がITエンジニアとして羽ばたくための土台を築いてくれたのといえるようだ。「5年間は『徹底的に働いた時代』でもあります。毎日終電かそれより遅く、土日もない。たまの休みも勉強、勉強。それでも振り返ると『楽しかった』。

 チームで仕事をしていて、ふと隣の人を見るとその人も徹夜している(笑)。苦しいのは自分だけじゃないことが分かるでしょう。納期前になるとみんな追い込まれ過ぎてハイテンションになっちゃって。チーム全体がちょっとしたお祭り気分になっていました」(大友氏)

 5年間、厳しくも楽しく仕事をこなした大友氏だが、1つ「忘れられない失敗」があるという。「お客さまに納品するデータベースを構築していて、段階的に本番環境に移行しつつある中で、いよいよというときにそのデータベースをすべて消してしまったのです。コマンドを覚えてきて、少しだけ自信もついてくると、あれこれと試してみたくなるものですね。あるコマンドを実行してみたら、一瞬にしてパーっと消えてしまった。そのときばかりは、もう先輩エンジニアに速攻で電話して『教えてもらいながら』復旧していきました」(大友氏)。大友氏によれば「この経験は貴重だった」という。先輩に教えてもらいながらとはいえ、自分で復旧していった。その1つ1つの作業をいまでも覚えているという。

 つまり、先輩エンジニアに復旧してもらったのではなく、「自分の手で直した」という経験が大切なのである。「ITエンジニアとしてちょっとやそっとじゃ動じない『度胸』がつきましたね。後輩エンジニアが同じ失敗をしたときにも慌てませんでした。しかも、教えることはしても、私が直すことはしなかった。その後輩エンジニアに自分でやらせました。やはり自分の手を動かしたことじゃないと身に付かないのです」(大友氏)

将来の夢は起業。そのために外資系ベンダのプリセールスに

その後、SEとして多忙な日々を送っていた大友氏に再び大きな転機が訪れることとなる。それは自分自身の内面的な問題とも密接に関係していたようだ。「楽しいながらも多忙な日々でしたが、さすがに何カ月も終電よりも遅く帰ることが続き、ちょっと疲れてきたのです。土日もないし、休みが取れて家にいるときは勉強。当時の恋人ともまともなお付き合いができないでしょう。破局を迎えて精神的にも大打撃を受けました。

 そんなとき、いま一度冷静になって、あらためて自分の目標や夢について考えてみたのです。起業したいという夢はある。そこでいまの自分に足りないものは何か?」(大友氏)

 結論は「営業的な視点」だったという。SE時代に顧客となる企業の要求をまとめたり、折衝したり、コンサルティングまで手掛けた大友氏は、「お客さまとじかに接する仕事」の面白さにも目覚めていた。「そういった仕事は自分に合っていたし、その力を伸ばしたいとも思いました。プログラマとしてシステムを構築し、IT業界における『モノ作り』は経験しましたが、作られる『モノをどう売ったらいいのか』については未経験。もし将来、起業するとしたらその視点こそ重要になる。それで新天地を求めたのです」(大友氏)

 大友氏が次なるチャレンジの場に選んだのは、外資系のIT関連ツールのベンダだった。そこでプリセールスエンジニアとして新たなスタートを切った。

 この外資系企業への転職について大友氏はこう振り返る。「環境をガラッと変えたかった。日系企業から外資ですから英語も含めて不安だらけでしたが、厳しい環境に身を置きチャレンジしてみたかった」。「物おじしない」という性格が表れているかのようである。ちなみに英語についても自力で猛勉強し、いまでは海外の開発者と英語で技術的な問題について電子メールでやりとりすることはもちろん、日常会話にも不自由はしなくなったという。

初めて売り上げを意識するようになった

 この外資系ベンダでの大友氏の業務はプリセールスエンジニアとして、営業社員と一緒に顧客企業を回り、顧客が製品やソリューションを導入する前に、それらが顧客の求める要件にマッチしているかどうか、顧客の環境で問題なく動作するかどうかを評価・確認するPOC(Proof Of Concept:検証作業)を提供することだった。

 具体的には、まずはツールについてのプレゼンテーションを行う。顧客に気に入ってもらったらPOCを実施し、その後に詳細な条件を詰めて、成約のためにその案件を営業社員に渡すというところまでを担当した。「自社で扱っているツール、製品の価値を本当にお客さまに理解してもらうためのプレゼン、そしてPOCがうまくいけばあとは営業社員に任せる。プログラマやSEは作るところの担当ですよね。こちらは作ったモノの素晴らしさをいかにお客さまに伝え、成約するかが仕事になります。プログラマやSEとはまったく違う面白さがありました」(大友氏)

 大友氏自身が自分の中で何よりも大きく変化したのは「売り上げ」という言葉を意識するようになったことだという。「プログラマやSEのころは『俺は技術屋。お金とは無縁の世界』といった意識がありましたが、会社員である以上、モノが売れなければ自分の給料すら出ないのが本当のところでしょう。外資系ベンダでの経験で、常に『何をどうしたら売れるのか』を日々考えるようになりました。プログラマもSEも技術をいかに売り上げに結び付けるのか、ちょっと視点を変えて『顧客の業務効率化にどう直結させるか』といった広い視野は必要です。その視野を持てないITエンジニアは、言葉はきついですが『ただ目の前の仕事をこなし、安く使われるだけのITエンジニア』になってしまう可能性が高い。つぶされてしまうかもしれません」(大友氏)

 この外資系ベンダで大友氏は「プレゼン力にも磨きがかかった」という。「とにかく外資系はプレゼンばかり。数多く場数を踏んだ経験とプレゼンのセミナーなどで勉強した経験からいうと、まず大切なのは『プレゼンとはプレゼンス=存在感』であるということ。この人の話なら聞いてみようかなと思ってもらえるような存在感が自分自身になければならないということです。自分磨きにも結び付く。そのうえで、決まりきったパターンでプレゼンをするのではなく、皆が何を聞きたがっているのか、知りたがっているのかをその場の雰囲気からキャッチして柔軟に対処する。いかに人を見るかに尽きます」(大友氏)

 ここまでのキャリアを見て分かるとおり、大友氏はプログラマからSEへとステップアップしてITエンジニアとしての「モノ作り」を経験し、さらにプリセールスエンジニアとして「モノをいかに売るか」といったビジネスや営業の視点をも身に付けていた。

 次なる一歩は? いよいよ夢である起業に向けた準備に入る……。大友氏はベンチャー企業への転職を決意した。

厳しい環境に身を置くため、外資系ベンチャーでチャレンジ

 大友氏には「自信があった」という。プログラマ、SEからスタートして技術は身に付けた。プリセールスエンジニアも経験し、顧客とのネゴシエーションもできる。プレゼン力もついた。いよいよ「経営そのもの」を学ぶために、社員3、4名の外資系ベンチャー企業に転職し、さらに厳しい世界へと足を踏み入れた。日本上陸後間もないそのベンチャー企業は、そのときがまさに立ち上げ時期。販売代理店などのパートナー企業探しを含めてすべてがスタートしたばかりだった。

 大友氏の仕事は日々、社長と一緒にさまざまな企業を回ること。そして、それらさまざまな企業に対してパートナーとしての条件交渉、プロダクトの営業、プリセールス、コンサルティング、サポートなどすべてのサービスをたった1人で提供するというものだった。

 「すべてを自分だけでやる。しかも立ち上げ時期だけに、自分が頑張ればそのベンチャー企業が大きくなるんだという責任が重かった。プレッシャーで押しつぶされそうになって、3カ月で辞めちゃいました。ものすごい敗北感でした。まさに『自分はできる!』と思い上がっていたテングの鼻をヘシ折られたのです。しばらくは『俺ってほんとに情けなくダメなやつ』と自暴自棄にもなりました」(大友氏)

 しかし、この3カ月間は単なる自信喪失のための時間ではなかったようだ。学んだことも大きかったという。「徹底的に身に染みたのは『ベンチャーって厳しい』ということ。まるで別世界でした。あとは営業職の重要性です」(大友氏)。大友氏には、このときのベンチャー経験を踏まえた、ある持論がある。

 それは「SEの最初のお客さまは自社の営業社員である」というものだ。「SEは、自らが作り上げたものの素晴らしさ、良さをしっかりと営業社員に理解してもらわなければならない。それができないとモノが売れないでしょう。営業社員が売りたいと思えるようにプロダクトの良さを伝えることが大切です。ベンチャーの場合は、私がSEでもあり営業でもあったから、その役割分担がなく、もうごちゃごちゃになってしまったのです。言葉を変えれば、営業職として何を知り、何を顧客に伝えるべきなのか、それがまったく分からなかった。営業職としての私の力不足でした」(大友氏)

導入した後にお客さまに感謝されるのがうれしい

 ベンチャー企業への転職で「挫折感」を味わった大友氏。ただし若手のITエンジニアには、外資系ベンチャー企業での「修業」を推めるという。

大友氏は、外資系ベンチャーでは大きな挫折感を味わった。それでも若手ITエンジニアには、そこでしか味わえない経験もあるとして、その道を勧めたいという

 「英語も身に付くし、SEもプリセールスも営業もすべてを経験できるから、自分の向き、不向きも分かる。

 厳しい世界なのでITエンジニアである以前に、社会人としての基礎も学べる。さらにはプレゼン力、顧客に訴える力なども身に付くでしょう。若いうちなら、そんな苦労は買ってでもした方がいいでしょう」(大友氏)

 大友氏はその後、一度は以前勤めていた外資系ベンダに戻ったものの、再び転職しベリタスでAPMソリューションのシニアコンサルタントとなった。

 現在の業務は、冒頭に紹介したとおり、さまざまな企業の「ITシステムの問題点を分析し」「APMの導入によるソリューションを提案し」「売り上げへと結び付けていく」仕事である。

 現在の仕事の面白さについて大友氏は次のように語る。「プログラマやSEはモノを作る喜びがあります。本番でうまく稼働したときが一番嬉しい! 現在の仕事では、プロダクトを売った後に、それがしっかりと稼働し、お客さまに使ってもらって、『APMを入れて仕事が効率化できたよ』といってもらえる。売った後にこそ、本当の仕事の喜びがあるのです。そこはプログラマやSEが感じる喜びとは全く違ったものでしょう」

 さて、自分自身をしっかりと見つめながらの転職で、着実にキャリア構築を図ってきた大友氏だが、多くのITエンジニアが大友氏のように順調なキャリアパスを歩めるとは限らない。

キャリア構築のヒントは

 そこで、悩めるITエンジニアたちにアドバイスをいただいた。「多くの職場では新しい案件が出てきたときに『誰がやるの?』とみんなで一斉に顔を見合わせることってありませんか。私も何度もそんな場面に出くわしました(笑)。みんなITエンジニアはいっぱいいっぱいです。それでも『私がやります』といえるかどうか。『私がやらずに誰がやるんだ!』というくらいの気概を持って、仕事をどんどん抱え込んでください(笑)」(大友氏)

 しかし、一方では仕事を抱え込んでパンクしてしまい、目先の仕事に追われ続けて、自分がいったい何をやりたいのか、何をやりたかったのかすら見失ってしまうITエンジニアも多い。

 「プログラマやSEとして技術を追求していきたいのであれば、常に最新技術を知り、それを駆使する能力、技術革新をキャッチアップできる力が求められます。これはものすごく大変なことです。40歳になっても50歳になってもできますか。技術を追求するスペシャリストでいくのか、それともマネジメントや営業的なスキルを身に付けてキャリア構築を図るのか。あいまいなままで仕事に忙殺されるのは危険です。気が付けばにっちもさっちもいかない年齢になってしまう」(大友氏)

 このアドバイスは非常に有意義だ。若いうちの仕事は買ってでもしろ。ただし、仕事に忙殺されるだけではなく、「自分のキャリアの道筋はしっかりと考えておけ」というものだ。具体的に自分のキャリアを真剣に考える際の視点の置き方として大友氏は「いま、自分がもらっている給料を思い浮かべて、『あと2割給料を上げるにはどうしたらいいのか』を真剣に考えてください。経営者的な視点がまったくないままでは、ただ使い捨てのITエンジニアで終わってしまいます」とアドバイスする。

 

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