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連載:転職で失敗する人、ダメな人
第9回
転職で気を付けるべき経営者

内田靖
2002/6/7

人材コンサルタント会社に勤めている筆者が、実際に出合った事例や過去に勤めていた会社での経験を交えて、転職で失敗するエンジニアはどんな人かを毎回紹介していく。これから転職を考えているエンジニアに、転職に失敗しないために気を付けるべきことや注意すべきことを、“転職で失敗したケース”から学んでほしい。

   将来伸びる会社、ダメになる会社

 IT業界においてここ2、3年、大手企業で働いた優秀な人材が起業するケースがある。私たちもスタートアップ企業に優秀な人材を紹介することに力を注いでいるため、人材採用もあり時にそうした起業家と打ち合わせることがある。そのようなときに人材紹介というビジネスをしているためか、過去の経歴などを起業家自身が話さなくても、持っている雰囲気や話し方、企業理念、ビジネスモデルの内容などによって、将来伸びる会社かダメな会社かが分かることがある。

 伸びる会社かどうかは、起業家が企業理念をしっかり語れるかが最大のポイントだと思う。どうしてビジネスを立ち上げたのか、そのような当たり前のことを、社会状況、論理的な思考、ビジネスに対する情熱などからバランス良く語れる起業家はそれほど多くない。次に重要なのは、起業家がビジネスに対する使命感を持っているかである。

 注意しなければならないのは、ビジネスモデルをしつこく話し、必ず成功してもうかる、といったことをほのめかす起業家だ。この手の勧誘で入社するエンジニアは少ないようだ。だが、最近でもIPO(新規株式公開)を目指し、その準備を始めたので、創業メンバー(ボードメンバー)にならないかといった甘い言葉をささやく起業家もいるようなので、そうした起業家には注意する必要があるだろう。この手の企業は、IPO専門のベンチャーキャピタルなどが中心になってIPO実現のため着々と準備を進めているものだ。

   初めにIPOという起業のあやうさ

 本来IPOは企業努力の結果、顧客などから信頼を受けて行うべきものだが、こうした企業は初めからIPOを目的に設立している。つまり、ビジネスに伴う結果としてのIPOではなく、IPO自体がビジネスモデルとなっているケースである。こういう場合、もちろんボードメンバーはIPOによるお金目当てで入社しているため、社会的な環境、自分たちで何らかの価値を作り出す意味、働くことの意義などに関心を寄せない。そのため、こうした企業が人材採用を行う際のインタビューでも、取って付けたような話を転職希望者にすることがある。

 こうした企業の人事担当者が見るポイントは、転職希望者が顧客をどれぐらい持っているのか、売り上げをどれだけ上げられるかといったことでしかない。インタビューでは、「当社はどこの会社もしていないこれだけの素晴らしい計画がある。この計画を実行するのにはあなたの力を借りなければできないので、私たちに力を貸してくれないか」といったことをいって転職希望者の気持ちを夢でいっぱいにする。

 当たり前だが、新しいこと(事業)にはリスクは付きもの。だから入社を希望する企業がスタートアップ企業ならば、冷静に企業分析をする必要がある。ボードメンバーのこれまでの経歴、年間や四半期、さらに月ごとの売上予測、収益分析、人材採用計画、競合他社、資本構成、ベンチャーキャピタルの関与などをチェックすべきであろう。また、転職希望者だからといって遠慮することなく、どんどん人事担当者などに質問すべきである。もし、これらの質問に答えない(または答えをはぐらかす)企業であれば、入社は辞退した方がいいだろう。

 さらに、起業家が見栄を張るタイプで、いかにもこの分野でカリスマ性を持っているような印象を与えようとしている人物も要注意である。また、スタートアップ企業の従業員数はさまざまだろうが、従業員が多いのにスタッフに覇気がなく、無気力、無反応であったり、リーダーが横柄で威圧的であるのも危険な兆候だ。

 これらを判別するのは意外と簡単である。インタビューに行くときに、周囲の社員に目を向けて見ると、企業状態が見えるものなのだ。そこで自分が感じたことは案外ハズレないものだ。

   D氏の場合は……

 ここで、あるスタートアップ系のeビジネス企業J社のビジネスモデルに魅力を感じて転職したが、失敗したD氏の話を紹介しよう。D氏は33歳で、以前はコンサルティングファームでマーケティング戦略コンサルタントをしていた。その後、知人の紹介でJ社へと転職した。インタビューでは、社長をはじめボードメンバー4名が参加して、社長のカリスマ性、ビジネスモデルの斬新さを説き、そしてD氏のことを立ち上げメンバーとして必要だと熱心に説得した。これまでの経験も十分に生かせるとのことで、企業分析をあまりせず、1回のインタビューで入社を決定した。

 J社は、主に企業と顧客を結ぶCRM的なビジネス戦略、IT戦略・構築を行っている。J社への出資構成を見ると、大手企業やベンチャーキャピタルが多く、最初からIPOを目指す企業のようであった。D氏は、立ち上げメンバーとして入社したものの、ビジネスモデルは斬新だが、売り上げや収益に関する計画はあまりにもずさんだったという。

 D氏の業務は売り上げを伸ばすための戦略を描き、顧客に提案することであった。そのために、さまざまな情報収集、検証、裏付けなどが必要だったにもかかわらず、売り上げが思わしくないためか、社長はD氏が入社してすぐに、社内にばかりいても売れるわけではないから、新規開拓セールスをするように命令したという。本来、新規開拓はまずは営業が行うことであり、それを聞いてD氏は失望したという。この指示はD氏にだけでなく、営業関連の部署すべてに社長がしたため、社内のムードは暗く、その結果か売り上げは伸びるどころか下降をたどった。そこで、社長は売り上げが伸びなかった責任を、中途採用で入ったマネージャ以上に取らせ、D氏の年収も10%ダウンとなった。

   社長などの人間性やビジネスモデルをチェックしよう

 この社長の対応がD氏退職のきっかけとなり、ほかの社員のモチベーションも著しく下げ、優秀な人材は次々と退職した。その後、ようやく社長が売り上げ不振の責任を問われて辞任したが、人材面だけでなく、広範囲にわたりJ社は大きなダメージを受けた後だった。売り上げ不振の大きな原因は、社長の自己中心的な考え、マネジメント力のなさ、不条理な減給などにより社員のモチベーションを決定的に下げてしまったことである。トップの人間の資質が問われる時代になったといえよう。

 このようなことがあるので、社長やボードメンバーの人間性やビジネスモデルなどは、しっかりとチェックする必要があるのだ。

連載:転職で失敗する人、ダメな人

 

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