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人材紹介会社のコンサルタントが語る
第4回 ギャップを見つけ、乗り越えよう!

キャリアコンサルタント
杉山宏
2002/12/26

求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などを、@IT ジョブエージェントの各パートナー企業のコンサルタントに語っていただく。

転職とは?

 転職とは何なのか? この質問に、私はこう答える。「ギャップに気付き、そのギャップを乗り越えること」。では、ギャップとは何だろう。まず第1のギャップとして、自分の中のギャップがある。これは、自分がいままで働いてきた中で培い、身に付いている自分の実力の部分(自分のできること)と、これからやってみたいこととのギャップである。この「やってみたいこと」は、往々にして、自分のできることや年齢を全く無視して、夢や希望のような形で出てくることがある。例えば、SEをやっていた人が30歳前後になって、ネットワークエンジニアとして転職したいとか、テクニカルサポート系の人が、すぐにコンサルタントをやってみたい、といったようなことだ。

 第2のギャップは、結構深刻なギャップで、採用企業側が転職希望者に求める採用要件と、その転職希望者の実力とのギャップだ。これはもう、ギャップがなくならない限り、永遠に企業が採用することはない。運良く両者がピタッと合って企業が採用を決定したとしても、今度は、その仕事が自分のやりたいことと一致しないと、採用企業の申し出を受け入れられる状態にはならない。

 転職はこのように、2つのギャップを乗り越えない限り成立しない。それでは、私が遭遇した事例を基に、どのようなギャップが存在し、彼らがどのようにそのギャップに気付き、乗り越えて転職していったのかを紹介しよう。

社内SEからシステムコンサルタントへの転職

 Aさん(30歳)は、ある大手生保会社に総合職として入社、情報システム部門へ配属され、社内SEとして、さまざまなシステムの開発に携わった。社歴7年を経て、SEとして、業務分析、DB設計、上流から下流工程まで、開発プロセスを一通り経験し、サブリーダーとして外注社員のマネジメントも経験したという。自己研さんにも積極的で、情報処理技術者試験の資格を取得、TOEICは600点をマークし、中小企業診断士の試験にもチャレンジした。

 Aさんは生保業務に精通しており、次のステップとしてコンサルタントを目指したい、ということで転職活動を始めた。人柄がよく、ゆったりとした語り口で、論理的に話をされるので、非常に説得力のある印象を与え、私もコンサルタントしての資質は大いにあり、という高く評価していた。

 ところが話を伺ってみてびっくりしたのは、自分で外資系のコンサルティングファーム、国内の総研系の企業を数社受けていて、面接には進むものの、軒並みNGという結果で、本人としてはいささか自信をなくして私の元へカウンセリングを受けに来たのであった。カウンセリングをして思ったのは、Aさんの場合、自分の実力とやりたいことのギャップには問題なく、十分コンサルタントしてやっていける要素は備わっている、ということである。

問題となっていたギャップ

 ただし、第2のギャップに関して問題があるように思った。Aさんが受けられた企業は、どこも戦略コンサルタント企業で、より業務寄り、経営寄りのコンサルティング企業ばかりであった。そこでAさんに、「あなたの求めているコンサルティングの仕事とはいったいどういうものですか」と尋ねたところ、教科書的なかっこいい答えしか返ってこなかった。ここに第2のギャップが存在していた。

 彼のキャリアはSEとしてのものであって、コンサルタントのキャリアではない。しかし、Aさんがチャレンジした企業は、すべて彼のキャリアでは難しい範ちゅうの仕事内容だった。そこで、私は実際のコンサルタントの仕事内容を話し、第2のギャップに気付いてもらうと同時に、昨今コンサルタントブームで、多くの方がコンサルタントを希望するが、企業や業態によって、同じコンサルタントという名前の職種でも、仕事の中身が異なっているという話をし、SEの彼に最も適合する金融系のシステムコンサルタントを数社勧めることにした。

 彼もその話に納得し、彼の要望でもあった「ユーザーシステムの企画立案、開発導入プロセスをリード、サポートし成功に導きたい」という点を十分満たせる大手コンピュータメーカーを含む数社に応募した。その結果、幸いにも2社からオファーが取れ、ある外資系大手コンピュータメーカーの金融コンサルタントとして転職を成功させたのであった。幸いにも入社後、Aさんが希望していた仕事に就くことができ、非常に満足のいく結果となった。

 ここでまず重要なのは、企業側の求めるスペック(採用要件)をよく理解し、それが自分の実力に合っているかどうかの判定を冷静に行うことである。次に、その仕事が自分のやりたい仕事なのか、という判断をすることだが、ここで重要なのは、必ずしも最初から100%の満足を狙うのではなく、ここまでできればよい、というラインを自分なりに設定することである。そして残りの数十%をどうやって満足させるのかは、次のステップとしてプランニングすることである。

 Aさんの場合、いきなり戦略コンサルタントを目指すのではなく、SEの延長線上にあるシステムコンサルタントを目指すことにより、とりあえずは当面の目標をクリアすることができ、それなりの満足感を得ることができたのであった。

社内SEからシステムコンサルタントへの転職

 Bさん(37歳)は大学卒業後、ある大手飲料メーカーに入社、情報システム部に配属され、13年間自社の基幹系システムの開発、導入、保守、運用を行ってきた。手掛けたシステムは多岐にわたり(販売、会計、製造、物流、営業支援、人事給与など)、グループウェアや各種パッケージソフトの導入にもかかわり、システムの形態もメインフレームからクライアント/サーバシステムまでを経験し、OSもWindowsとUNIXの両方に明るかった。

 入社して6年目ごろからプロジェクトマネージャとしてさまざまなプロジェクトを手掛け、彼自身の言葉によると「会社の中の基幹業務はすべて手掛けてきたので、この業界の業務には精通している、と自負できる」とのことであった。順風満帆に見える彼の人生も、会社がリストラを行うようになって将来に対して不安を感じるとのことで、転職を決意し、私の元へカウンセリングに来たのであった。

 面談をして感じたのは、上述のように社内SE/プロジェクトマネージャとして輝かしいキャリアを持つ彼のキャリアプレゼンテーションは自信に満ちあふれ、私としても直感的に「彼はできる」と評価した。

厳しい現実

 彼の第1希望はMISマネージャであったが、残念ながらその当時の経済状況では国内企業でMISマネージャの案件はなかった。あいにく彼は英語ができなかったため、外資系企業の案件はあったものの、そうした求人案件はあきらめ、プロジェクトマネージャ、システムコンサルタントの求人を探すことになった。そこで私は、彼の希望も考慮し、大手システムインテグレータ(SIer)も何社か紹介し、その中から4社を選んで転職を勧めることになった。私の予想としては、採用意欲が活発なT社が最も可能性ありと読んでいたところ、さっそくT社を含む2社から面接依頼が来た。私は余裕で内定が取れると踏んでいたのだが、なんと2社とも面接でNGになってしまった。

 その理由は、2社とも同じ内容だった。それは「彼の業務経歴は非常に魅力的ではあるが、社内システム開発の経験が長すぎるため、当社のプロジェクトマネージャとして守らなければならない厳しい条件、すなわちコスト、品質、納期意識面で、やっていけるのか不安を感じる」という内容であった。私自身、いままでにも似たような場面に遭遇したことがあったが、あらためて大手SIerの要求水準の高さに驚いてしまったし、彼自身もいささかショックだったようだ。

 しかし、それが厳しい現実であった。そこでもう1社、中堅のSIerに応募することになった。ここからも面接依頼は来たものの、最終面接で企業側が同じような内容の懸念を示し、何度も大丈夫かとの確認があった。幸いにして、この会社から内定は取れたものの、提示条件は低く、彼の希望を100万円も下回るものであった。彼自身、自主応募で何社か受けた案件も、同じような理由でうまくいかず、彼自身、あらためて外向けの仕事を行うSIerの厳しさに認識を新たにし、現在の給料から下がってしまうが、通勤が楽になるということもあり、この会社に入社することに決めた。

 決意を固めた彼自身の胸の内を聞くと、「ここで頑張れる自信は大いにあるので、とにかく1日も早く結果を出して周囲の信頼を勝ち取り、年収アップにつなげたい」ということであった。彼自身、今回の転職活動を通じて第2のギャップに遭遇しながらもそれを受け入れ、そこで実績を出すことによって、そのギャップを乗り越えたい、その自信は大いにある、という認識、決意であった。私は彼のこの言葉にある種の感動を覚え、彼ならそのギャップを乗り越えられるだろうと確信したのであった。

事例から分かること

 (1)ギャップを早く発見するために、定期的にキャリアカウンセリングを受けよう。
 (2)何をしたいのかを明確にし、それを実現するためには、1ステップではいかない場合があることを認識し、時間はかかるかもしれないが、数ステップに分解してトライすると、ステップの垣根が低くなり、実現の可能性が上がることを理解しよう。
 (3)会社を選ぶことが目的ではなく、どのようなキャリアパスを歩み、自分のキャリアを構築していけばよいのか、ということを最初に明らかにし、そのプロセスを数ステップに分けてみて、そのステップに最適な会社を選ぶ、という手順で会社を選択するように考えよう。自分の実力に合った、また自分のやりたいことができる会社がきっと見つかるはずだ。


筆者プロフィール
杉山宏(すぎやまひろし)●大手システムインテグレータにて、SE、プロジェクトマネージャ、営業、事業部長を歴任後、外資系大手コンピュータメーカーにてマーケティング、プロジェクトマネージャを経験。その豊富なIT知識を生かし、大手人材バンクにてIT業界向け転職カウンセラーを7年間経験し、面談者2000名以上、通算500名以上の転職を成功させてきたという。

 

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