人材紹介会社のコンサルタントが語る
第5回 転職の成功の決め手はコンサルタント選び
テクノブレーン
人材開発事業部 部長
龍野 尚夫
2003/1/24
求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などを、@ITジョブエージェントの各パートナー企業のコンサルタントに語っていただく。 |
■転職は成功例だけではない
1年でこれほど変わるものかと思うほど、時代はめまぐるしく変化している。転職市場においても大きく変わりつつある。その流れの中で自己中心型な考えを持ち続けているエンジニアの方々が多い。転職を考える場合、自分の能力はこれだけあるから、いいところを紹介してほしいとか、人材紹介会社に対して、職だけ紹介してくれればいいと考える方が多い。
そこで今回、あえて転職の失敗例を挙げてみたい。もちろん、転職した方の名前、企業などについてはすべて分からないようにしている。その点はご了承願いたい。読者の方もこの例を読み、転職の真の成功とは何なのかを、じっくりと考えていただければと思う。
■先輩がいる会社を選ぶ
大手ソフトウェア開発会社に在籍している佐々木氏(仮名:30歳)は、国立大学の情報工学科の修士を卒業した優秀なエンジニアだ。30歳という若さながら製造業系の大規模ネットワークシステムを担当するSEで、周囲もその能力を認めるほどであった。
しかし、IT不況がシステム開発の世界にも徐々に忍び寄ってきている。昨年の初めに佐々木氏が尊敬する先輩の中から、自分の会社や業界の先行きを不安に思ったのが理由か、自分の将来を見直し、キャリアアップを図るために退職する人も現れ出した。
先輩の影響を受け、佐々木氏もキャリアアップを図るには、年齢から考えてもいまがチャンスだと判断し、学生時代から考えていた経営企画の仕事の中で、これまでのソフトウェア開発技術を生かす道を目指そうと考えて、有名人材紹介会社の門をたたいた。
佐々木氏を担当したのは、幸田氏(仮名)というコンサルタントだった。幸田氏に自分のキャリアを説明し、企業の経営企画室のような経営に関与できる位置で、いままでのキャリアを生かしたいとの希望を述べ、コンサルティングを受けた。幸田氏は、佐々木氏の希望をよく聞き、その時期に人材を求めていた会社の中から、幸田氏の学歴、キャリアなどを総合的に判断し、大手家電メーカーのX社の情報処理部門、新鋭のコンサルティング会社のY社、大手システムインテグレータのZ社と、3社を紹介した。幸田氏は3社とも合格した。
ところが合格後にどの会社へ入社すべきか、佐々木氏は悩んでしまった。結局は自分が尊敬する先輩が在籍しているY社にしようと考え、幸田氏に相談すると、その意見を全面的に支持され、それで佐々木氏はX社、Z社の2社を辞退した。
■キャリアを考えた場合の選択
しかし、私はこの選択が残念でならない。なぜなら、経営企画を希望する場合、当初は希望の部署に配属されないが、キャリアアップ制度がきちんと整っているX社が、この3社ではベストだったと考えるからである。佐々木氏は、これまで経営企画の業務の経験はなかった。あくまで、学生時代から考えていたことでしかない。最初からコンサルティングを行えるY社やZ社の方が、近道に見えても、そこでよっぽどの成績を残さなければ、逆に違う部署に変えられてしまう可能性がある。
それに比べてX社は、佐々木氏の希望を聞いたうえでの採用決定であったのであり、X社であれば、その後どのように経営企画へとキャリアを展開していくか、相談に乗ってくれたはずである。遠いようには見えるが、最初から欲張らず、キャリア戦略を描いたうえで、まずはその手前を埋め、そこに行きやすい道を選択する。それが佐々木氏の希望をかなえる1番の近道だったのではと、私は考えてしまうのだ。
優秀で経験豊かなコンサルタントであれば、求人企業を紹介する段階で、どのようなキャリア戦略があるのか、どのような道があるのかをきちんと説明し、それに沿った提案が希望をかなえる近道だと説明すべきだった。尊敬する先輩がいるから、という理由だけで佐々木氏のY社への入社を後押しすべきではなかった。
佐々木氏がこの転職がミスだったと、気付く可能性は高い。もちろん、それ以上の頑張りを見せ、乗り越える可能性もあるが。しかし私は、この選択によって、将来の選択が狭まってしまったように思えてならない。
こうしたことは、他人の場合は判断できることが多いが、いざ自分の身で同じようなことがあった場合、なかなか判断できないものだ。そのために、転職相談のプロとしてコンサルタントがいるのである。今回の場合は、コンサルタントがしなければならないことができていないといわざるを得ない。その結果、佐々木氏の転職が当初の夢や将来から間違った方向に進んだかもしれない。だからこそ、「キャリアアップの成功の決め手はコンサルタント選び」にあるのだ。
さて、もう1つ事例を挙げたい。次のような例はよくある話だ。こうした状況に陥らないためにも、よく読んで、後日の参考にしてほしい。
■キャリア転換を狙ったが……
高橋氏(仮名:28歳)は、国立大学の理工系学部の大学院(修士課程)を卒業し、大手の電気メーカーに入社した。半導体関連で2年、プロセス開発・新規開発の立ち上げで約2年のキャリアを持っていた。
最近その会社では半導体部門を他社の半導体部門と統合し、別会社化する方針が立てられた。高橋氏は、プロセスエンジニアの将来は暗いと判断し、プロセス開発のエンジニアから、設計・開発のエンジニアに転換すべく、大手の人材紹介会社に転職を前提に相談した。
その人材紹介会社のコンサルタントの中林氏(仮名)は、社内異動が自由にできる規定を持つX社を紹介し、書類選考に入った。無事書類選考は通過し、面接へと進んだ。
問題があったのは、中林氏がX社を選んだ理由をきちんと高橋氏に説明していなかったことである。具体的には、当初から設計・開発エンジニアとして働くことは難しくとも、そこで実力を認められた後に、社内異動制度を利用して、キャリアの転換を図るべきだというものである。また、転換を図った後の将来像についてや、仕事の位置付けなど、コンサルタントならばぜひ聞いておくべきことも聞いておらず、将来のキャリア戦略について話し合うこともなかったようだ。その結果、1次面接で落とされてしまい、高橋氏の設計・開発エンジニアへの道は閉ざされる結果となった(私が会った高橋氏は、X社に合格して当然の優秀な人材だった)。
高橋氏の計画は、(X社では)実現できなかったが、転職に踏み切る時期、方向性に間違いはなかったと思う。ただ、コンサルタント選びが間違っていた。コンサルタントのレベルが低かったために失敗したようなものだ。もちろん、人材紹介会社にも責任があるだろうが、コンサルタントへの不安や不満を持たず、どうしてX社なのかきちんと聞かなかった高橋氏にも、問題があったというべきだろう。
■どんなコンサルタントがいいのか?
今回は2つの転職例を紹介したが、どちらもコンサルタントのレベルが転職の鍵を握っていたことが分かるだろう。それでは、どのようなコンサルタントがいいのか、ここで一般的な考えを記しておきたいと思う。
- 業界および技術の流れをよく理解しているコンサルタントであること。
- 求職者の今後の人生設計などの方向性について、具体的な提案ができるコンサルタントであり、そうした提案に基づいた求人企業を紹介できること
- 会社の説明、求人の背景についてきちんと話せるようなコンサルタントであること。
当社ではこの3つのポイントを押さえたコンサルティングを行うようにしている。
人材紹介会社を利用する場合は、コンサルタント選びが転職の最大の鍵といってもいい。人材紹介会社に任せてしまうのではなく、あくまで自分の将来やキャリアがかかっていると考え、コンサルタントと相談して、不満や不安があるならば、きちんと説明を求めるべきだ。ダメだと思えば、コンサルタントを交代してもらうことも視野に入れておくべきだろう。こうしたことを決して忘れず、真のキャリアアップを目指して、1人でも多くのエンジニアに羽ばたいてもらいたいと考えている。
筆者プロフィール |
龍野尚夫(たつのひさお)●大学の工学部機械工学科を卒業後、修士課程に進学。専門はエンジン系(ディーゼル噴霧の燃焼に関する研究)。卒業後、東芝関連の会社で設計・開発およびCAD/CAM/CATの業務に従事。その後、日本鉱業などを経て、テクノブレーンでスカウトコンサルタントとして活躍中。 |
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