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人材紹介会社のコンサルタントが語る
第6回 不満だらけの転職の行き着く先

キャリアデザインセンター
平岡健
2003/2/21

求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などを、@IT ジョブエージェントの各パートナー企業のコンサルタントに語っていただく。

ある金曜日の夜の電車で

 人材紹介会社のコンサルタントが、転職事例や転職する際のポイントをお話しするのが、本連載「ITエンジニアの転職現場から」の趣旨ですが、今回はちょっと趣向を変えた形で皆さんにお伝えしようと思います。

 皆さんは、夜に勤め先や飲み会から帰宅する電車の中で、自分と関係のない人が話をしているところに遭遇したことはありませんか?

 例えば、だいぶお酒を飲んだであろう友人か同僚同士が夜の遅い時間、混雑している電車の中で周囲に筒抜けの声で、会社のこと、仕事のこと、プライベートのことを話している。私はそんな光景に何度も出くわしたことがあります。同じように電車で通勤している方であれば、一度はそうした光景に出合ったことがあるのではないかと思うのですが……。今回はそんな状況で聞いた、というより耳に入ってきた話を基に、IT業界での転職のポイントをお話できたらと思います。

 ある金曜日の夜のことです、私はいつものように帰宅するために電車に乗り、座っていると、途中の駅で2人の男性が乗ってきて、ちょうど私の座席の前に立ちました。2人は見るからに相当酔っ払っているようでした。

酔いながらの転職話

 2人は大声で会社のこと、仕事のこと、上司や同僚、部下の話などをしていました。その声は、電車中に響かんばかりです。そして会話は、突然転職の話題になりました。それらをぼんやりと聞いているうちに(実際は聞こえてきた)、まったく知らないその2人のこと、仕事の状況、不満、そして転職に関する考えまでを理解することができました。

 2人は大手システムインテグレータに勤める同僚同士で、年齢は30歳前後。彼らは流通業界向けのシステムエンジニアをしており、年収は約700万円程度で、転職経験はないようです。会社や仕事に不満があり、ITコンサルタントへの転職を考えているようでした。転職する際の希望年収は800万円は欲しいというところでしょうか。

 彼らは転職の話を一通りすると、またまた不満話に戻りました。現在の給与は低すぎる、いまのままではキャリアアップできない、などなど。

 彼らの不満の原因、ITコンサルタントになりたい理由、どのようなスキルやキャリアを目指しているのか、といったような会話は、一切出てきませんでした。

 偶然聞いた話だけで彼らが考えていることを判断するのはフェアではありません。お酒に酔った勢いで、愚痴をこぼすことはよくあることです。ですが、しらふであっても、彼らのような話をする人は多いのです。そこで、彼らが転職相談をしにきて同じような話をしたら、という仮定で、私がどのように思うのかを披露したいと思います。

転職は失敗する

 結論からいうと、「2人は転職しようと思えばできる。だが、転職後しばらくすればこの転職は失敗だったと思うようになるだろう」と感じました。会話から察すると2人は優秀なエンジニアのようです。ITコンサルティング会社への転職の可能性は十分あると思いました。

 ただ、2人は自分自身の市場価値を主観的にしかとらえていないことが致命的だと感じたのです。客観的な判断を待たずに給与が低いと決め付けている点、キャリアアップに関する手段を会社に依存している点、希望するキャリアアップの方向性がさっぱり分からないといった点から、希望どおりITコンサルティング会社に転職できても、時間がたつと同じような不満話を繰り返すと判断したのです。これが、転職が失敗するだろうという理由です。

 ほかの業界と比べてIT業界では、転職理由として給与とキャリアアップへの不満を挙げる方が多いようです。しかし、そうした不満に対する考え方は、非常に甘いと感じることが多いのです。これは、ほかの業界と比べても多いと思います。その理由を検証してみましょう。

成功する5つのポイント、失敗する2つポイント

 転職に成功するポイントは、大きく分けて5つあります。

(1)転職理由が明確であるか
(2)行きたい会社の志望動機が明確か
(3)自分自身がどのような仕事をしたいかが明確か
(4)自分自身が現在のスキルで何ができるのかを理解しているか
(5)将来何を目指すのか

 この5つのポイントが明確であれば、転職が成功する可能性は非常に高いといえます。

 しかし、IT業界の方はITバブル時の異常な“中途採用ブーム”の影響か、自分のスキルでできることをあまり考えず、自分のやりたいことばかりを考え、その結果自分のスキルとやりたいこととのミスマッチが発生し、転職に失敗するケースが多いようです。これが転職に失敗する第1のポイントといっていいでしょう。

 給与に関しても、明確な理由がないのに自分がもらっている給与水準が低いと決め付け、自分自身の市場価値を無視した/考えていない形で理想の給与水準を追い求める方も多いようです。これが転職に失敗する第2のポイントです。

 そもそもIT業界の給与は、ほかの業界より高いのですが、最近になってゆるやかとはいえ低下しつつあり、ほかの業界との給与格差は縮まっています。その結果、IT業界内で転職する方の6〜7割は、現状の給与よりもダウンする可能性が高くなっているのです。

 転職市場における(エンジニアの)市場価値も変動しています。IT業界は技術の進歩やサービス・サイクルが非常に速く、常に自分自身のスキルと、そのスキルを生かすことができる環境を理解しておかないと、自分の市場価値を誤って判断してしまいます。

 キャリアアップに関しては、不満がありながらも自分自身のキャリアアップを会社に依存していることが非常に多いようです。ITバブル時には経験が少ない人を採用し(場合によっては未経験者でも)、外部の講習も含めて会社は研修などのメニューを豊富に用意し、会社が社員を育てる風潮があったように思います(人によっては異論があるかもしれませんが)。

 しかし、ほかの業界は、人を育てるまで待てず、経験者、即戦力となる人を採用する傾向があります。この傾向がITバブル崩壊後にIT業界でも顕著になっているようです。そのような現状を考えると、自分のキャリアは自分で切り開く気持ちがないと、転職できたとしても、その転職先で転職前と同じような思いをすることになると思います。

的確な行動で成功へ

 私がIT業界の方をカウンセリングする際は、この転職に失敗するポイントの2点(自分のスキルと給与)を意識して話します。この2点を理解したうえで転職をするのが、IT業界での転職に最も重要だと認識してほしいのです(これはそのまま成功する5つのポイントを踏まえていることでもあります)。それが転職成功者になれる道だと私は考えています。私がIT業界で転職のお手伝いをした方々の中で、本人も周囲も転職が成功したと感じるのは、自分自身の市場価値を客観的に理解し、周囲に踊らされず、的確な行動を取った方ばかりでした。

 さて、冒頭の2人ですが、私が降りる駅の1つ前の駅で降りました。そのときもまだ、不満をいい続けていましたが……。不満だけを爆発させて転職してもいいことはありません。じっくりと腰を落ち着け、自分のことを冷静に判断して動かないと、そう簡単に自分にとってよい会社に巡り合わないものです。

 最後に、公共の場での会話にはご注意を。どこでだれが話を聞いているか、分かったものではありません。壁に耳あり……、ですよ。


筆者プロフィール
平岡健(ひらおかけん)●1974年生まれ、兵庫県神戸市出身。大学卒業後は人材派遣会社に入社。仕事柄、さまざまな業種や職種に触れる中で、求人雑誌の広告営業に興味を持ち、雑誌『type』の広告営業として2000年にキャリアデザインセンターに転職。その後人材紹介事業部に異動、現在に至る。IT業界を担当、特にソフトウェア業界を得意としている。

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