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人材紹介会社のコンサルタントが語る
第7回 目的によって決まる転職先

リーベル
代表取締役
石川隆夫
2003/3/26

求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などを、@IT ジョブエージェントの各パートナー企業のコンサルタントに語っていただく。

異なる選択をした2つの例

 最近、IT業界で有名な大手外資系企業(ここでは仮にA社としよう)に勤務していた2人の転職支援をさせていただきました。1人はコンサルティングファームのコンサルタントとして転職し、もう1人は社員30人強のベンチャー企業へと転職。進む方向が違うだけではなく、年収も1人は約100万円のアップ、もう1人は反対に数十万円のダウンでした。偶然同じ会社からまったく違う道を選んで転職したこの2人を通して、転職に何を求めるべきかを考えてみましょう。

キャリアアップを目指した転職

 大手外資系企業A社に在籍していた岡本氏(仮名:29歳)は、国立大学のシステム情報工学系の修士課程を終了した優秀なエンジニアでした。A社でも評価は高く、将来を期待される存在でした。岡本氏は、エンジニアとして技術を磨くよりもコンサルティングに強い興味を持つようになったのです。

 そこで岡本氏はコンサルティングファームへの転職を考え、外資系の大手コンサルティングファームのコンサルタントを目指して転職活動を開始しました。ご承知のように、戦略系コンサルタントへの転職は書類選考を通過して最終面接を通過するのは数%といわれる難関です。しかし、見事に4次にわたる面接をすべてクリアして合格しました。

 岡本氏の目指したものは一流のコンサルティングファームで、戦略コンサルタントとして活躍することと、現職を大きく上回る年収を確保することです。結果的に戦略系コンサルタントというポジションと同年代の平均的な年収を大きく上回る年収を手に入れました。これは、代表的なキャリアアップといってよい転職でしょう。

自己の可能性に賭けた転職

 一方、同じA社に在籍していた西村氏(仮名:27歳)は、国立大学の理工学部を卒業した優秀なソフトエンジニアです。A社では、あるソフトウェアパッケージ製品の開発を担当していました。私どもへの転職相談で西村氏は、「エキサイティングな製品をエキサイティングに開発できる会社を探している」といい、非常にアグレッシブな転職目的を持っていました。

 相談を受けながら希望に沿うと思われる会社を複数紹介し、その中から2社(B社とC社)への応募を行いました。B社は東証2部上場を果たした勢いのあるベンチャー企業で、C社は設立3年目の社員数30名ほどの会社で、ユニークなソフトを開発しています。両社とも書類選考は通過し、2次面接を経て合格、内定となりました。B社からは待遇についてじっくり説明を受け、年収はダウンとなりながらも、西村氏はB社では自分を生かしきれない、勢いを感じられないと辞退しました。熟考してC社への入社を決定しました。なお、年収はB社が提示した金額の方がよかったのですが。

 西村氏は、大きな有名企業から社員30名ほどのベンチャー企業へ、収入ダウンにもかかわらずどうして入社を決断したのでしょうか。

 それはまず、会社の代表のビジョンが明確で共感できたこと、自分の実力がはっきりと表せる会社であり、高い評価をもらい、必ず高い年収にしてみせる自信があること、自分で会社を興すよりはリスクが少ないこと、会社に投資したと思って自分で会社を大きくしてみたいことだといいました。彼がC社に入社を決断したときに、これらの理由を聞きました。

 西村氏も、年収を気にしなかったわけではありません。当然多額の報酬を得たいと考えましたが、その時期を現時点の年収ではなく、長期的な視点で考えていました。それを実現するために、その企業の成長性や自分の実力を最大に生かせる場とタイミングを優先させたわけです。

どちらが転職の成功例か

 岡本氏の例の場合、多くの人が転職に成功したと思うでしょう。確かに年収も仕事も自分の希望する目標を達成できたからです。一方、西村氏の転職については、年収がダウンしたために疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、成功かどうかは転職に何を求めて活動をしたのか、その原点に戻って考えることが大事です。

 西村氏は、A社の規模が大きすぎて、組織に埋没し、自分の実力を出し切れないと考えていたことが転職の動機でした。そして、素晴らしい仲間と素晴らしい製品を出していきたいと考えていたのです。将来は独立も視野に入れている自立性のある人で、その点、西村氏も自分の求める会社へ入社できたことは大きな成果であり成功でしょう。もちろん、ベンチャー企業のリスクは覚悟のうえであり、一方でその事業の成長性も十分に考えての決断であったのだろうと思います。年齢も27歳で、だからこのような挑戦ができたのかもしれません。

 2人の転職は、目的が異なっていたのでその結果もまったく違う転職でしたが、双方ともその目的を達成できました。

転職はその目的を失わないことが大事

 転職といえば年収アップを目指し、またアップすることが当然と考える人も多いでしょう。しかし、目的達成の過程として年収ダウンも視野に入れるべきでしょう。転職の条件に多くの目的を入れていくと、往々にして間違った選択をしてしまうことが多いのです。その転職では何を1番の目的とするのか、しっかりと整理しておくことが重要です。

 派遣を続けていては上流工程の経験ができないからと年収ダウンを覚悟で正社員の道を選んだ転職、スキルのつかないPCサポートからネットワークエンジニアを目指すため、年収がダウンしても教育体制のしっかりした会社を選んだ転職。いずれも最終的には“売れる”人材となることを目指し、最終的には高収入を目指した転職例です。

 転職は慎重であるべきです。安易に転職を重ね、あるときから転職回数の多さのために、書類選考すら通過しないという方を多く見ています。転職は「その転職に何を求めるのか」、最初にそれを明確にして短期、中期、長期、その時々の優先度を決めて、そしてタイミングを逃さず決断することが重要です。


筆者プロフィール
石川隆夫(いしかわ たかお)●1949年福島県生まれ。東芝入社後、コンピュータおよびその関連機器の設計・開発を経て、本社のコンピュータ・ネットワークの商品企画、海外事業の立ち上げ、マーケティング、広告、広報などを担当。幅広い業務経験と業界各社・動向の深い知識が強み。2000年にリーベルを設立、現在に至る。@ITジョブエージェントを通じて@IT読者の転職支援も行っている。

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