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人材紹介会社のコンサルタントが語る
第8回 転職は「タイミング」で決まる!

リクルートエージェント
キャリアアドバイザー
山根高志
2003/04/18

求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などをコンサルタントに語っていただく。

最近の転職動向

 IT業界で転職活動をするに当たって、いま最も大切なこととは何か。それはズバリ「タイミング」です。どんなに素晴らしいキャリアをもっていても、転職活動と企業の動きのちょっとしたタイミングの差によって明暗が分かれるからです。いまそうしたことがとても顕著に起きています。よく「結婚はタイミングだ」などといいますが、転職にも通じるものがあります。

  私が最近対応した転職事例から、「タイミングによりラッキーとアンラッキーが分かれた」といえる、2つのケースを紹介します。

  その前にIT業界の求人市場について、おさらいしておきましょう。求人件数・求人人数ともピークだったのは2000年の後半から2001年の年始まで。その後は一気に下降線をたどり、2002年は底を打った感じです。しかし、年末からやや上向き傾向にあり、求人「件数」は増えています。これは、勝ち組大手企業や今年3月末決算で黒字に転じた企業がIT投資を行っているため。ただ、手放しには喜べない状況です。それは「件数」は増えつつも、求人「人数」は減っている一方だからです。

 求人「人数」の減少は、採用枠の一層のピンポイント化が進んでいることを意味します。そしてピンポイント採用は、求人がオープンしてからクローズするまでの期間がとても短いことが特徴です。いざ転職というときに、意中の企業に出合えるかどうか。タイミングの良しあしにかかっているというのは、こうした企業の採用パターンが変化しているためです。この状況下で賢く立ち回るための心構えは後に述べることにします。

タイミングをモノにしたAさん(29歳)の転職

 Aさんの転職は「あまりにもタイミングがよかった」ということに尽きます。

  大学院を卒業し、外資系電子機器メーカーに研究職として迎えられたAさん。院生のときから英語は堪能だったため、入社してからすぐに本国の研究開発拠点での勤務となりました。昨年7月、リクルートエイブリックのIT担当チームに寄せられたAさんからのメールには、「入社して5年たったが、年収に不満を感じている。ほかにやりたい仕事も見えてきた。できれば日本に帰って転職したい。現在遠く離れた外国にいて、いったいどうすればいいのか困っている」とありました。

  翌日、私はAさんに国際電話をかけました。事情を聞き、日本の転職市場の現状なども紹介しつつ、取りあえず、Aさんのキャリアが対象となるような求人をいくつかピックアップ、弊社に寄せられた求人票を海外のAさんに送ることになりました。Aさんの技術者としての能力の高さはいうまでもありません。しかし、専門を究める研究職とあって、そのままの経験が生かせる求人はその時点でごくわずか。その数件の中に、つい数日前に求人依頼があったばかりの、電機メーカーD社の新規事業の採用求人も加えておいたのです。

  外資系企業よろしく1カ月の夏休みを利用してAさんは一時帰国してきました。あらためて転職の作戦を立てるべく、私とAさんは初めて対面。ところが、そのときすでにAさんは、私が参考までにとメールしておいたD社の求人に強い興味を持っており、できれば直接D社とコンタクトを取りたいと希望したのです。ちなみに、D社の求人は研究職ではありません。企業側が求める人材のイメージと、Aさんのキャリアには若干の差があるように思え、正直、私はAさんを推薦することに100%の自信がありませんでした。しかし、事態は思わぬ方向に……。

 D社担当者は「まさにAさんのような経験が欲しかった」と語り、Aさんも「こういう仕事がしてみたかった」と話は一気に本選考に進んでしまったのです。そして2週間のうちに最終面接へ。その1週間後には内定と同時に正式オファーが出て、Aさんは快諾。 今後のキャリアを考える第一歩の一時帰国のはずが、未来を手に入れた最高の夏休みとなったのです。本国に戻りAさんは退職の意を告げ、年内には日本に帰国。今年から晴れてD社に勤務しています。D社の求人も、出されてからわずか1カ月足らず、Aさんが決まった時点でクローズとなりました。  

タイミングを逃したBさんの(28歳)転職

  「あのとき、ああしていれば……」。ネットワークの技術サポート職のBさんは、わずかなタイミングの差から後悔にかられることになりました。

 国内大手情報機器ベンダに6年勤めていたBさんは、2年前に一度転職活動の経験がありました。自主応募で、ある外資系の情報機器ベンダM社にアプローチし、内定と同等のところまで進みました。慎重なタイプのBさんは、選考を通じ、M社での細かな仕事内容が分かるにつれ、「現時点では会社に残った方が自分のためかも」と心変わりし、事実上内定を辞退。つまりM社を「けった」経験があったのです。

 Aさんと同じ昨年の夏、Bさんは弊社に「2つの後悔を持って」相談に見えました。1つはすでに会社を辞めてしまったこと。2つ目は、2年前にM社をけったこと。1つ目はさておき、自らM社をけったことを、なぜいまになって後悔しているのか。その理由は、会社に残る選択をした後に組織の再編があり、予想に反して、より下流工程の仕事の担当になってしまったということでした。

  「あのとき、M社に入社していればよかった……」と、その気持ちでいっぱいのMさんの私への開口一番は、「M社からの求人はありませんか?」。幸運にもM社から同じ職種の求人依頼が入っていました。

  たとえ過去にBさんが断った経緯があろうと、外資系企業では問題にしません。迷わず再びM社を受けたBさんは、とんとん拍子に最終面接に進み、見事に内々定を獲得。M社の現場は、Bさんの再チャレンジを歓迎しました。自分への前向きなリベンジは成就したかに見えました。しかし、これも外資系企業特有ですが、内定したものの本国からの正式なオファーレターがなかなか届かないのです。1〜2週間ならまだしも、1カ月たってもオファーが来ません。

 Bさんは不本意ながら他社を受けざるを得ない状況に陥りました。M社に後ろ髪を引かれながらの選択。募集条件に目を通しただけの求人も含めて、検討社数は100社を超えました。結局10社ほど受け、流通企業向けのネットワーク構築で定評のある外資系企業E社に内定。Bさんは入社を決意しました。M社からオファーを待ち続け、もう2カ月以上が過ぎていたときのことです。

  M社から「不採用」の正式な通知が届いたのは、BさんがE社に入社を決め、さらに数日過ぎてからのこと。不採用の理由は本国で「決済が下りなかった」ため。あれほど熱意を持って選考を受け、現場では正式に認められたにもかかわらず、このやるせない結末。M社の求人は応募当初から時間がたっており、その間に企業の状況が変わっていたのです。

  もしBさんが、「あと1カ月早くM社にアプローチしていたら、すべりこみセーフで決済内に収まったかもしれない」「あと1カ月遅れての相談だったら、M社の採用はないという前提から本格的な転職活動をスタートでき、ブランクを短くできたのに」……そう考えると、タイミングがいかに結果を左右するものかを本当に痛感します。

タイミングを逃さないために

 
AさんとBさんのタイミングの良しあしを教訓に、IT業界で転職によって上のキャリアを目指すために、いま心得ておくべきことを、私なりにまとめてみます。

  • タイミング勝負とは「出たとこ勝負」ではない。タイミングをうかがう勝負である。
  • 求人情報の文字や言葉から、企業の本当の「求人意欲」までは分からない。「求人意欲」が高いホットなタイミングにアプローチしたい。
  • 「自分の置かれた立場」と「目指したい状況」とを日ごろから整理しておく。
  • 世間一般の「成功値」を客観的に知り、自分の思い込みだけで焦ったり行動したりしない。
  • 日々移り変わるIT業界だが、1・3・5年と区切って自分の将来像をイメージする。

 といったところをしっかり押さえる。人材バンクの私たちの使命はこのすべてをサポートすることです。技術者の転職にタイミングという微妙かつ不確実な要素が強まる中、私たちもより広い見地からアドバイスできるよう気を引き締めています。


筆者プロフィール
山根 高志(やまね たかし)●1991年入社。経理部門・情報システム部門を経て、2000年からキャリアコンサルタントに なる。通信業界を専任担当の後、現在はIT業界も担当している。情報システム部門時代のエンジニア経験をベースに、現在の景況感と転職市場の動向を踏まえたキャリア相談を心掛けている。

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