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人材紹介会社のコンサルタントが語る
第10回 会社選びに迷ったときの対処法

テクノブレーン
堀川雅臣
2003/6/25

求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などを@ITジョブエージェントの各パートナー企業のコンサルタントに語っていただく。

なぜ、こんな優秀な人がこの会社に……

 転職を考えるには、さまざまな事情があります。エンジニアの転職理由に多く見受けられる技術力のアップを求めるものとは、少し異なる理由で転職した「成功例」と「失敗例」を紹介します。ただ、コンサルタントの目から見ての判断であって、転職した本人が必ずしもそのように思っているとは限らないのですが……。

 伊藤研一氏(仮名・当時30歳)は、国立大学の工学部・機械工学科を卒業後、大手第一種通信事業者に入社し、国内外の通信事業者間を結ぶフレームリレー網の設計から開通業務・設備工事・試験・保守などで活躍していました。

 入社6年目のとき、外資系企業がその会社を買収しました。エンジニアというよりはコーディネーターに近い仕事に疑問を持ち、初めての転職。自宅に近いこととモノ作りができるという理由でエンジニアリングサービス会社を選びました。

 重機メーカーに常駐派遣され、油圧ポンプ試作品の性能・耐久試験・評価を行っていましたが、実態は彼の想像していたモノ作りの仕事とは大きくかけ離れていたのです。

 「こんなはずじゃなかった」と思っていた2年目、テクノブレーンの存在を知り、コンタクトしてきてくれました。

 連絡を受けて、早速面談して感じたことは、「なぜ、こんな優秀な人が、こんな仕事をしているのだろうか?」ということでした。工事担任者試験は、デジタル・アナログ両方とも第1種、そして第一級陸上特殊無線技術士の資格を持ち、英語も堪能です。ネットワークについては、かなり上級の技術力を持っていることが推測できました。

4社すべてから内定をもらう

 転職を考えるに当たって、人材コンサルタントのサポートを受けながら、彼が自分で選んだ会社は、外資系第1種通信キャリア、ルーターでは世界トップの会社、国内大手コンピュータメーカーの3社です。

 いずれもネットワークエンジニアとしての応募です。有線ネットワークだけでなく、無線通信の技術と経験を持っていることに着目し、私は通信衛星運用の会社をもう1社提案しました。

 当時の彼は、私が推薦した会社の名前すら知りませんでしたが、転職意識が高まっているときでもあり、同時に4社に応募しました。結果は、4社すべてに内定。しかも、内定した会社の人事担当者から、「なんとしても伊藤氏を採用したいのでよろしく頼む」というメッセージまで届きました。

 どの会社に転職しても、彼の技術経験が生かせるので、まさによりどりみどりの状態です。伊藤さんからも、「どの会社がベストの転職先だと思いますか?」と聞かれ、「私だったら通信衛星運用の会社を選ぶ」と答えました。

大切なものは何か?

 なぜ、そう答えたかといえば、最大の理由は残業が少ないことです。なぜなら、伊藤氏は仕事とプライベートを両立する人だと思ったからです。面談の際に、「有給休暇は当然の権利です。自分のため、家族のためにすべて消化するつもりです」と話していたからです。

 それは選考過程の中でもありました。4社同時に選考が進むということは、面接は少なくとも各社2回ずつとして計8回。役員面接ともなると、日中に設定されるのでどうしても半休を取らなければなりません。

 あるとき、彼に「最終の役員面接なので休みを取ってください」というと、「有給休暇を使い切ったので、もう休みが取れません」といわれました(笑)。

 当時のエンジニアは (いまもそうかもしれませんが)、休日出勤や深夜残業が続くことはあっても、有給休暇を完全消化するなど夢のまた夢という状況でした。

 ですから、「有給休暇を使い切った」という言葉には大変驚いたものです。人は、仕事のために仕事をするのではありません。自己実現、あるいは大切な何か(誰か)のために働くのです。決して捨てることのできないものが必ずあります。

 時にはそれに本人すら気付いていないこともあります。そんなとき、コンサルタントが「応募者が大切にしているもの」を見抜いてあげられればベストコンサルティングといえるのではないでしょうか。

 結局、伊藤さんは私の薦めた通信衛星運用の会社にネットワークエンジニアとして入社しました。年収は400万円から620万円にアップし、奥さまもとても喜んだそうです。残業は、ほぼ毎月30時間のペース。もちろん、残業手当が出ます。当時はあまり名の知られていなかったその会社も、いまや上場を果たして快進撃中です。

 伊藤氏のケースは、転職先を選ぶ理由がとても印象的で、転職の成功例として記憶しています。

悩んだ末の転職は成功だったのか……

 次に本人の希望はかなったものの、「本当にその転職は成功したのか?」と、いまでも疑問が残るケースを紹介します。

  前川佳恵さん(仮名・当時25歳)は、有名私立大学の文学部を卒業後、中堅SIerで携帯電話のキャリア向け交換機のソフト開発を3年間経験しました。交換機のメーカーからいうと、同社はいわゆる孫請けに当たり、徐々に仕事が減りつつあり、将来に不安を覚えていたそうです。

 そんなとき、私は外資系携帯電話メーカーの依頼で、基地局側のサポートエンジニアを探しており、前川さんをスカウトしました。

  彼女の第一印象は、勉強好きで負けず嫌い。とてもしっかりした考えを持つ女性でした。技術面では、制御プログラムを開発するスキルを備えていました。 彼女と面談して将来のキャリアビジョンを聞くと、エンジニアリング系だけでなく、業種の幅を広げてアプリケーション開発の仕事がしたいといいます。

 私が求めていた外資系携帯電話メーカー向けの人材として、スキルセットはピッタリです。ただ、薦めようとした仕事はサポート業務ですから、「開発に携わりたい」という彼女の希望には沿えません。

 スカウトの場合、通常は複数の企業を薦めることはまれですが、このときばかりは、若くポテンシャルの高そうな彼女に別の企業を提案しました。 その会社は、エンジニアリング系はもちろん、金融などの業務アプリケーションも幅広く手掛ける総合SIerです。上場はしていますが、ハッキリいって知名度の高い会社ではありません。しかし、彼女の希望をかなえるには良い選択だと思いました。

 彼女の希望もあり、上記2社に応募しました。結果は、ほぼ同時に内定をもらいました。まずSierでは、金融システム事業部のアプリケーションエンジニアとしてのポテンシャル採用で、給料は20万円アップの420万円。

 一方の外資系携帯電話メーカーでは、サポートエンジニアとして20万円ダウンの380万円でした。悩んだ末にSIerを選びました。この段階では、彼女の転職は成功だったと思います。

入社1週間で退職したくなった

 ところが入社して1週間もたたないうちに、彼女から電話があり、せっかく入社したSIerを辞め、「外資系携帯電話メーカーに入りたい。何とか人事の方に掛け合ってくれないか」というのです。

 いくら何でも1週間もたっていないわけですから、もう一度よく考えて思いとどまるようにと説得しました。それから1週間たっても、彼女の気持ちは変わりませんでした。どうしても退職したいのならば交渉しますが、外資系携帯電話メーカーでの仕事はサポート業務であり、彼女が希望している開発の仕事には携われません。

 「本当にその選択でいいのですね」と何度も念を押しました。エージェントとしてSIerには申しわけないのですが、外資系携帯電話メーカーの人事の方に交渉しました。

 「あらためて選考という形にはなるが、事実上の意思確認だけで受け入れ可能」との回答をもらいました。かくしてまた1週間後、彼女はあらためて外資系携帯電話メーカーから入社の許可をもらったのです。

 SIerに入社した日から1カ月半後に、外資系携帯電話メーカーに転職したのです。この間、寝ても覚めても、「あの会社に入りたい、あの会社に入ればよかった」と思い続けた会社に入れたわけですから、彼女にとってはベストな選択だったのかもしれません。

知名度で会社を選んだツケは?

 でも、本当に正しい選択だったのでしょうか? このケースの場合、やりたい仕事よりも、世界的に知名度のある社名を選んだことになります。価値観は人それぞれですから間違いだと否定するつもりはありません。

 その後、外資系携帯電話メーカーも不況の波を受けています。いまでも携帯端末の組み込み開発ができるエンジニアの需要はまだまだ高いですが、基地局のサポートとなるとほとんど求人はありません。

 一方、金融などのアプリケーションエンジニアの需要は不況といわれながらも根強いものがあります。念願がかなって入社したのですから、あえてこちらからはコンタクトしていません。ただ、その後のキャリアを考えれば、どちらの仕事を選んだ方が良かったのか、結果はおのずと見えてくるのではないでしょうか……。

転職に迷いはつきもの

 この2つのケースをどのような教訓にすればいいのでしょうか。

 転職に成功したかどうかは、本人の価値観によると思います。しかし、転職先の選択に迷ったら、原点に立ち戻り、「なぜ転職したいのか」を冷静に考え直してほしいのです。原点を見失えば、転職は失敗します。企業の良しあしは外から見ているだけでは分かりません。中で働いている人たちに、実際のところを聞いてみなければ……。

 世間に名を知られた会社でも退職する人はいます。人材コンサルタントは、会社を辞めようと考える人からその理由を詳しく聞きます。そこから、その会社の内情が見えてくるのです。例えば、「残業が多すぎて自分の時間が持てない」という理由で、転職を決意する人がいれば、「残業は歓迎です。忙しくてもいいから残業手当で稼ぎたい」という人もいます。

 ですから、人材コンサルタントには、あまり表に出てこない情報を質問するといいでしょう。思わぬ展開があるかもしれません。


筆者プロフィール
堀川雅臣(ほりかわまさおみ)●人材コンサルタント歴15年。DEC(現HP)にて中途採用のコンサルティングに従事。若手エンジニアからエグゼクティブまでスカウトの幅は広く、ソフトな語り口が持ち味。@ITジョブエージェントを通じて@IT読者の転職支援も行っている。

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