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人材紹介会社のコンサルタントが語る
第12回 「キャリアの目的地」を決めよう

パソナキャレント

山口孝之
2003/8/28

求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などを@ITジョブエージェントの各パートナー企業のコンサルタントに語っていただく。

転職活動は「ドライブ」に例えられる

  私はよく求職者の方に「目的地はどこに設定しているのですか?」と聞きます。それは転職をドライブに例えれば、キャリアカウンセリングはカーナビを設定するようなものだからです。目的地を設定し、そこに向かって発進するのが転職活動です。われわれ人材コンサルタントの使命は、「いまが嫌だから転職」や「何となく転職」を防ぐために、明確な方向付けのサポートをすることです。

 転職を考える動機は人それぞれですが、今回は「年収アップ」や「Uターン・Iターン転職」ではなく、転職理由として一番多い「キャリアアップ」をテーマに説明します。登場人物は「キャリアアップ」を理由に転職を考えた3名のエンジニアです。しかし、転職は予想とまったく異なるものになりました。ぜひ皆さんが考えている「キャリアアップ」と比較してください。

自分で「気付く」転職は成功する!

 鈴木義信氏(仮名・25歳)は某有名私立大学の経営学部を卒業して大手電機メーカー系のソフトハウスに入社、動画配信や語学スクール向けのアプリケーション開発に3年間従事していました。順風満帆な転職活動を経て、国内SI企業の内定を勝ち取りました。彼の場合はキャリアの目的地を自分で決めたことが、転職活動のポイントとなったのです。

 初めて鈴木氏にお会いしたとき、「将来に漠然とした不安を感じている」ことを吐露しました。優秀な人物でしたので、5年先輩の方とほとんど同じ仕事をしていました。一方、年収面では、年々上がりはするものの、同じ仕事をしているマネージャの方たちとはかなりの開きがあったそうです。いくら経験を積んでも業務内容は変わらない。「3次4次受け開発会社の典型」といえます。

 そこで、転職マーケットや求人ニーズについていろいろと話し合いました。それは鈴木氏の転職マーケットにおけるポジショニングを自己確認してもらい、最終的な「キャリアの目的地」を設定するためです。目的地の設定はコンサルタント主導で進めるわけではありません。求職者の「気付き」によって将来の自分像を定めなければ、求める“自分像”にはたどり着けないからです。

 鈴木氏とは、2時間半ほど話し合い、その後も電話や電子メールで連絡を取り合いました。その結果、ただ開発スキルを高めていくのではなく、最先端の技術をキャッチアップしながらも「プロジェクトマネジメント」や「業務知識」を備えたシステムエンジニアを目指すという方向付けをしました。

 キャリアの目的地は「顧客に信頼されるSE」。自分の気付きで目的地を定めたので、転職活動は順調でした。職務経歴書や自己PR文を書き、私が紹介した企業の研究を行い、面接を受け、見事国内SI企業から内定を勝ち取りました。付加価値の高い自分になるために、堅実な一歩を踏み出したのです。
  
早いうちに「キャリアの目的地」を定めよう!

 目的地を定めずに何となく転職をする人がいますが、その大半は満足な転職活動を行えない傾向があります。それが山川昇氏(仮名・32歳)のケースです。彼はSEで、すでに3社目でした。常に上流工程を目指して着実に階段を上がってきた方ならいいのですが、率直に話し合ったところ、実際は違いました。金融業界向けプロジェクトの業務をアサインされたのですが、開発期間が3年という長さに飽きてしまい、残業が多く年収にも不満があったので辞めてしまったそうです。

 山川氏は20代のうちにキャリアパスについて考えることなく、そのまま30代を迎えました。30代になり、自分のキャリアに危機意識を持ち、ようやく真剣に考え始めるようになったのです。そして、転職活動に踏み切りましたが、企業からは快く受け入られませんでした。それはもっともなことです。企業側が20代に求めるキャリアセットと30代に求めるものは、まったく異なります。企業が求めるキャリアと彼自身との間で大きなギャップが生まれていたのです。このギャップが広がる前にしっかりと「キャリアの目的地」を定めていれば、30代になっても企業から歓迎される“人財”になっていたかもしれません。

 山川氏の転職活動をサポートしましたが、残念ながらいい結果には結び付きませんでした。私は本意の会社に行けないのなら、「いまの会社で付加価値を高める仕事をする」ように勧めました、結果として、山川氏は安易な気持ちから始めた転職活動をストップし、いまは3社目の会社で頑張っています。

受託開発に物足りなさを感じ、ITコンサルタントを目指す

 冒頭のドライブの例でいうと、実際は目的地にたどり着くまで迷うことが多いものです。途中で燃料が切れてしまって寄り道しなければならない場合もありますよね。キャリアも同じことがいえます。最初に思い描く理想のキャリアを転職先で果たせればいいのですが、志が高い人ほど難しいものです。次の方も、そのようなタイプの1人でした。

 佐藤俊介氏(仮名・27歳)は国立大学の工学部を卒業後、某大手コンサルティングファームをスピンアウトして設立したシステム企業で働いていました。そのシステム企業は上流のコンサルティングから開発実装までのワンストップを売りにしていたそうです。大手企業からの受託開発が中心ですが、この不況下にも何とか収益を確保。SE経験は6年で、年収は同世代の方よりも高水準でした。

 ただ、顧客や大手企業が決めた仕様の下で既存の技術をつなげるだけの受託開発業務に物足りなさを感じ、そもそもの目標であったITコンサルタントへの道を志すようになりました。

最終目的地までの「中継点」と考える

 そんなとき、キャリアについて相談しました。私が紹介した企業はITコンサルティングの企業ではなく、大手ITコンサルティング企業の子会社で、基幹系のシステム導入の中流から下流工程を受け持つ企業でした。

 佐藤氏にこう話しました。「目的地にすんなりたどり着くのは難しいと思います。しかし次の企業で学んだものを引っ提げて、その次のジャンプアップで納得のいくキャリアを作ればいいのではないですか……」と。

 ドライブで例えると、高速道路の乗り継ぎといったところでしょうか。彼はその会社に入社して半年がたち、最近電子メールをいただきました。一部上場クラスの大手企業の基幹系システム導入プロジェクトに携わっているようで、「多忙ながらSEとして貴重な経験をしている」とのことでした。そして2、3年後を見越したうえで、上流工程をメイン業務とする企業へ転職するプランを、具体的に考え始めているようです。


転職市場におけるポジショニングを意識しよう!

 一口にキャリアアップといいますが、どこがどうなれば真のキャリアアップといえるのでしょうか。そこが難しいところです。しかし、自分はいま転職マーケットの中でどのようなポジションにいるのか? そして目的地はどこなのか?

 現役のSEの方は、なかなか同業他社の事情を知る機会がありません(それは当たり前ですが……)。そんなときは人材コンサルティング会社の門をたたいてください。キャリアパスを描くアドバイスを求めるときも、自分で描いたキャリアパスを確認するときも、きっと有意義な時間を持てるはずです。そのときは自分を飾らず率直に語っていただければと思います。


筆者プロフィール
山口孝之(やまぐちたかゆき)●1973年生まれ。青山学院大学卒業後、大手建設会社に就職し、経理を担当。多様な業界の方からさまざまなことを吸収したいと考え、某人材紹介会社に転職。2003年パソナに入社。同社のITグループに所属し、IT業界専門のキャリアコンサルタントとして活躍中。@ITジョブエージェントを通じて@IT読者の転職支援も行っている。

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