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人材紹介会社のコンサルタントが語る
第13回 エンジニアから起業家への道

リーベル

清野和代
2003/9/26

求職者は、人材紹介会社のコンサルタントに転職相談だけではなく、職場の不満、自分の夢などを語ることが多いという。そうした転職最前線に身を置くコンサルタントだからこそ知っている、ITエンジニアの“生”の転職事情や転職の成功例、失敗例などを@ITジョブエージェントの各パートナー企業のコンサルタントに語っていただく。

エンジニアから起業家を目指す2人

 ITエンジニアにとって、将来のキャリアプランは多種多様にありますが、今後増えてくるのは、「技術者から経営者へ」のキャリアを選ぶことではないでしょうか。そこで、今回は、エンジニアからキャリアをスタートして起業を目指した2人のケースをご紹介します。

 加藤秀一氏(仮名・34歳)は、理工系の大学院を卒業後、化学系メーカーに研究者として就職、3年間は研究に没頭する日々でした。しかし、実験に明け暮れる日々を過ごす中、仕事で知り合ったシミュレーションソフトベンダの方に、「プリセールスとして転職しませんか」と声が掛かったのです。

 熟慮の末、現状の閉塞(へいそく)感を打破するにはいい機会かもしれないと思い、転職を決意。結果的には、その転職で、研究職では得られないIT知識に加え、新たに営業センスと高度なコミュニケーションスキルを得ることになりました。そして、何よりも大きな収穫は、自分の進むべきキャリアプランを確信したことです。

 つまり、転職によって「将来自分でビジネスを始めたい」という強い意思を持ったのです。さらに、加藤氏が将来の自分のキャリアを描き始めたころ、上司が外資系ソフトベンダの日本法人社長に就任し、「立ち上げメンバーとして手伝ってほしい」と請われたのです。彼は絶好のチャンスとみて、再度の転職に踏み切りました。

 その会社では経営陣の1人として営業、マーケティング、企画、戦略立案など一通りの上流工程をこなし、仕事への満足感も感じていました。しかし、不運にも親会社の方針転換によって日本法人はクローズ。3度目の転職活動をせざるを得ませんでした。すでに30歳を超えており、いまのキャリアの延長線上で起業への夢を実現することはできるのか、冷静に自分のキャリアを考えるべきだと思い、人材紹介会社へ相談に訪れたのです。

年齢に比例した得意分野がない

 加藤氏は、数年以内には起業を考えているが、まだ具体案はありませんでした。失職が確実でゆっくり準備している時間はないので、最後の会社勤めとして、起業に向けて“仕上げ”となるキャリアを経験できるような転職をしたいと考えていました。

 私は「では、それには何が必要でしょう?」と問い掛けてみたのですが、明確な回答は得られませんでした。つまり、その時点でも「起業」は漠然とした希望であり、明確な「意思」には育っていなかったのです。

 キャリアコンサルタントとして、正直に加藤氏に告げました。その内容は「今回の転職は厳しい。なぜなら、年齢(当時すでに34歳)に相応の突出した得意分野がないこと、転職回数が多いこと、経営マインドが弱いこと」などです。

 実際、加藤氏の転職活動は困難を極めました。技術基盤が化学系で特殊な分野であることに加え、経験の幅広さがかえって絞り込みを困難にしたのです。何よりも、彼自身が今後のキャリアの方向性を見失って自信をなくしていることが、転職活動をするうえで大きな障害となっていました

 そこで私は、まずは原点に戻ってキャリアの方向性を再確認することを勧めました。そのうえで「自分のキャリアに不足しているものを得るために、焦らず転職の機会を待ってみてはどうか」とアドバイスしました。

 結果的に、加藤氏はWeb事業を日本で新たに展開しようとする外資系企業の経営企画室の室長として転職でき、事業をゼロから興す経験を積める機会を得ることができたのです。

情熱と若さだけで転職することは困難

 坂本芳樹氏(仮名・26歳)は、理学部数学科を卒業後、大手SIerに入社、流通業界向けのシステム開発部門で3年間、開発エンジニアとしてのキャリアを積みました。流通業の業務知識も身に付け、近い将来には上流SEとしてプロジェクトマネージャのキャリアも見えていました。

 しかし、プロジェクトマネージャの仕事は必ずしも坂本氏がやりたい仕事ではなかったと気付き始めたのです。大学時代から、「将来は起業して自らの力で成功したい」という強い希望を持っており、もう開発現場の仕事は十分に経験したと判断しました。そのため、将来の起業に向けての前段階として、「実際に成功しているベンチャーで経営メンバーになる」という目的を持って転職活動を始めたのです。

 ただ、現実はそう甘くなかったのです。一技術者としては優秀でしたが、経営に関する基本的な知識も経験もありません。あるのは情熱と若さという状況では、どの会社からも相手にされず、転職活動は苦戦を強いられました。自分1人の力で転職先を探すことに限界を感じ、人材紹介会社の門をたたいたのです。

未経験の営業職へ転職する

 坂本氏の第一印象は、「目に力がある若者」でした。「経営側に立つポジションを希望する」という意思には共感できましたが、「エンジニアから起業家へ」というのはあまりにも突飛すぎているので、「転職活動は簡単にいかないのではないか」と思いました。

 彼にもそのことを率直に告げ、経営者の視点に立つには学ぶべきことがたくさんある。技術者の経験しかないのですから、将来の目標をかなえるためにいますべきことは、「顧客に近い視点を持つこと」と提案しました。具体的には営業やマーケティング職を選ぶことを勧めました。坂本氏もその提案に同意し、ネットビジネス企業に応募したのです。そのベンチャーは業界でも数少ない勝ち組の1つです。

 そのベンチャーの営業職に応募しましたが、彼は営業未経験であったため、正直いって「書類選考の通過の可能性も難しいかな……」と思いました。ところがその企業のカルチャーは「チャレンジを重んじるベンチャー気質」であったので、坂本氏の起業の夢をそのまま志望動機にまとめてもらい、誠実な人柄とあわせて強力に推薦しました。

 結果的には、書類選考を無事通過。面接でいったん「未経験の営業職は無理」と判断されましたが、彼の「何としてもこのチャンスをモノにしたい」という点が評価され、バックオフィスの営業企画職での採用が決まったのです。

行動は迅速に行い、キャリアチェンジを恐れない

 2人とも、現在も転職先のポジションで活躍しています。加藤氏は、現ポジションで「必ず事業を成功させる」ということを直近の目標とし、その間に起業に向けて必要なリソース(人材・資金・アイデア)の準備を積極的に進めています。

 一方、坂本氏は、成長企業の現場を肌で感じ、その一員として自らも結果を出すことにまい進する毎日であり、「苦労も多いけれど実りはたくさんある」との報告を受けました。

 両者は、キャリアパスを築く方法は違っていますが、共通点はあります。それはキャリア構築の最終地点を起業に定めている点です。一見すると「起業」の目標からズレたキャリアパスを選択しているようですが、方向性はブレていないと思います。

 「エンジニアから起業家へ」はキャリアチェンジの最たるものの1つですが、長い目で見れば得るものが大きいといえます。上記の両氏はいまその過程にいるのですが、彼らの未来は明るいと私は感じています。

 エンジニア職に就いているけれども、将来的には自分で会社を興したい、何かを成し遂げたいという転職希望者にいつも私が申し上げていることは、以下の3点です。

 それは「総合的なビジネス力をつけるために段階的にキャリアシフトをすること」 「決めたら行動は迅速に起こすこと 」「夢ではなく“意思”を持つこと」です。ぜひ参考にしてください。


筆者プロフィール
清野和代(せいの かずよ)●1961年福岡県生まれ。電気通信大学 情報数理工学科卒業。1984年、(株)東芝に入社。 コンピュータ周辺機器開発部門で制御系ソフトウェアの設計を担当。2001年1月、リーベ ルに入社。ITエンジニアを中心に、コーチング手法を取り入れたキャリアコンサルティン グを行う。@ITジョブエージェントを通じて@IT読者の転職支援も行っている。

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