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エンジニアが派遣を選んだ理由とは?

第2回 20代は派遣でスキルと企業の選択眼を磨く

加山恵美
2007/12/27

正社員ではなく、派遣社員として働くITエンジニアがいる。スキルを磨きたいから、収入を増やしたいから、プライベートな事情など、理由はさまざまだ。本連載では派遣社員という就労形態を選択し活躍しているITエンジニアを取材し、派遣社員で働くメリットとデメリットを探る。

高校時代にビル・ゲイツに触発される

今回の取材協力先:アロービジネスメイツ

 Webアプリケーション開発に携わるITエンジニアだと、数カ月単位でプロジェクトを渡り歩くことが多い。プロジェクトが始まると、そこに多方面からエンジニアが集められ、プロジェクトが終わると解散し、別のプロジェクトへと去る。こんな光景がプロジェクト現場では、違和感なく展開されている。

 今回紹介する宇賀一登氏(27歳)も、そうした経験を積んできた。それ故「どの企業に、どのような就労形態で働くか」よりも、「どんなプロジェクトに携われるか」「どのようなスキルを伸ばすことができるか」を重視する。宇賀氏は専門学校卒業後にいくつかの開発会社で正社員として就労したが、いまは派遣エンジニアとして働いている。

 宇賀氏は、中学校の授業でパソコンを習った世代だ。PC-9821を購入した高校生時代は、マイクロソフトが躍進したころで、ビル・ゲイツの華々しい活躍が宇賀氏には印象的に映ったそうだ。そしてIT業界への足掛かりをつかむべく、高校卒業後IT系の専門学校へと進学した。大学に進学して一般教養を学ぶよりも、即戦力を身に付けることを選んだからだ。

 専門学校を卒業し、最初に就職したのは社員規模が70〜80人ほどのソフトウェア受託開発会社だった。新人研修が終わると通信系企業の開発現場に仲間と常駐し、Web系のアプリケーション開発に携わった。その開発はJavaでの開発だった。専門学校ではC言語しか習得しなかったが、開発しながらJavaを学ぶことができた。

 短期集中型プロジェクトなので常に忙しく、月間残業時間は実質的には140時間ほどもあった。しかしそれだけ残業してもほとんどがサービス残業。宇賀氏は忙しさとサービス残業に嫌気がさし、2年4カ月で最初の会社を去った(編集部注:いうまでもなく、サービス残業は違法である)。

残業代は出るようになったが、また激務

 退職後は半年間失業手当をもらいながらハローワークで次の仕事を探した。目標としてJavaスキルが生かせて、自宅から近いところを探した。さらには法的には当たり前のことだが、「サービス残業がないところ」を優先した。そして違うシステム開発会社に転職した。

 職場は前の会社同様、顧客先の開発現場だ。今回は会社から単身で常駐先に派遣され、ツール開発などを行った。C#で開発したそうだが、Java経験があるだけに難なくこなせた。さらにはSQL ServerやOracle Databaseなどを使い、データベースの実践経験を積むことができた。

 技術スキルや経験が広がったことには満足だったが、詳細設計にしか携われない。内心では「そろそろ基本設計にも携われるようになりたい」と思うようになっていた。

 この会社も「むちゃくちゃ忙しかった」。月間の総労働時間は約300時間にも及んだ。土日出勤もしょっちゅう。ようやく取れる休日も、疲れを取るので精いっぱい。前の会社に比べたら残業代が出るのが救いではあったが、「こんな生活でいいのかな」と危機感を覚えた。

IT以外の業界でアルバイトを経験する

 健康と働き方を見直すべく、転職先を決めずに2社目の企業を1年半で退社した。宇賀氏にとっては2度目の休職期間となった。技術スキルはあるという自負から「ITエンジニアならば転職できるだろう」と、さほど心配はしていなかった。

 だが、ほかの業種の仕事が気になった。高校時代からずっとITエンジニアを目指して進学をし、就職もした。しかし現実には2度とも数年以内で退職している。「ほかに向いている仕事があるのかもしれない」と思った。ITエンジニアが不向きだと思ったわけではないが、チャレンジできる20代のうちにIT業界以外で働いてみようと考えた。

 数カ月休職した後、宇賀氏は大型遊園地内のレストランのホール係としてアルバイトを始める。接客業に適性があるかどうか、やはりITエンジニアが性に合っているかどうかを判断する前に、彼は半年程度でアルバイトを辞めてしまった。冬の閑散期で遊園地の稼働日数が予想以上に少なく、経済的に行き詰まったためだ。

ネットワークスキルを身に付けたい

 適性の判断はできなかったものの、ITエンジニアの方が収入がいいことだけは分かり、ITエンジニアに復帰しようと決意した。次の仕事として目指したのは保守や運用管理だ。Webアプリケーション開発を経験しているうちに、ITエンジニアとしてレベルを上げるには、インフラ周りのネットワークスキルを身に付けることが必要だと考えるようになったからだという。そしてネットワークスキルを習得するには、まずは運用から実務をスタートしようと考えたのだ。

 雇用形態にはまったくこだわらず、最終的にネットワークスキルが身に付きそうな仕事であることを条件に転職サイトなどで仕事を探した結果、アロービジネスメイツが募集していた現在の派遣の仕事にたどり着いた。ネットワーク保守運用会社でのツール開発の仕事だ。

 「DI(Dependency Injection)」やAOP(Aspect Oriented Programming:アスペクト志向プログラミング)に基づいたSeasarというフレームワークを使っています」と現在の環境を宇賀氏は話す。「最初に目指していた保守や運用管理では条件的に見合う仕事がありませんでした。いまの仕事内容はツール開発ですが、間接的にネットワークのスキルも身に付くため、当初の目標にはかなっています」。

 十数名の部署が、数名のチームに分かれて開発に当たるが、部署のうち半数以上は派遣もしくは協力会社からの出向だという。派遣でありながらも宇賀氏の裁量と担当範囲は広く、現在は基本設計も任されるようになってきたという。

20代は派遣でスキルと企業の選択眼を磨く

 「現在の仕事を探すときには就労形態は意識しませんでしたが、派遣エンジニアになって、いまではよかったと思っています」と宇賀氏はいう。ただし、「一生派遣エンジニアが続けられるとは思っていません。将来的には安定を求めて正社員になるのだろうなと考えていますが、当面は正社員になるつもりありません」

 当面正社員になるつもりがないのはなぜか。それには複数の理由があるようだ。1つは経済的に問題がないことだ。これまで宇賀氏は「激務なのにサービス残業」や「閑散期でバイトができない」といった経済的な苦境を経験した。それらに比べれば、現状の手取り(収入)は断然いい。実際に現在の収入は2社目の会社より多い。しかも残業は多くなく、月の労働時間は180時間程度だという。

 スキルさえあれば職には困らないと宇賀氏は考えている。裏を返せば、スキルを広げていかないと次の仕事が見つからないかもしれないということだ。それ故に正社員という雇用形態にこだわるよりも、さまざまな業務に就き、スキルを広げられる派遣エンジニアを選択したいのだそうだ。

 さらに「正社員になるからにはギリギリまで自分に合う会社を選びたい」と宇賀氏はいう。「自分が忠誠心を抱くことのできる会社を模索したいのです」。正社員として勤めた2社では顧客の開発現場に常駐で働いてきたので、会社への忠誠心というものがいま1つ分からなかったと自己分析をしてくれた。そのため、派遣エンジニアとしていくつもの企業で働き、自分にとって働きやすい会社、忠誠心を持てる会社の条件を見つけたいという。

 現在の派遣先の職場、さらに派遣元には何ら不満がなく、経済的条件、充実感、スキルアップなど総じて考えればこれまで働いてきた中で最も居心地が良いそうだ。ただし「30歳になるまでに何らかの結論を出したい」と宇賀氏は考えている。派遣エンジニアを続けるか、正社員となるか、はたまたフリーエンジニアとなるか。いま27歳、あと3年じっくりと考えて決めると宇賀氏は自分にいい聞かせるように語ってくれた。

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