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エンジニアが派遣を選んだ理由とは?

第3回 ワーク・ライフバランスのため、派遣を選ぶ

加山恵美
2008/2/1

正社員ではなく、派遣社員として働くITエンジニアがいる。スキルを磨きたいから、収入を増やしたいから、プライベートな事情など、理由はさまざまだ。本連載では派遣社員という就労形態を選択し活躍しているITエンジニアを取材し、派遣社員で働くメリットとデメリットを探る。

 正社員のITエンジニアとして6年ほど働いた。後半プロジェクトリーダーもこなすようになっていたが、月に200時間にも及ぶ残業から体調を崩し、退職。そこで回復に専念することにした。復調後は契約社員として再就職するが、その後仕切り直し、契約社員として、大手電機メーカーで働いている。有期雇用契約の就労形態を選んだ理由は何だろうか。

ソフトウェア会社でプロジェクトリーダーへ

今回の取材協力先:ケリーサービスジャパン

 田中明子氏(仮名)は、20代後半のITエンジニア。大学では理学を専攻し、卒業後は銀行系ソフトウェア会社に就職した。田中氏が就職活動をしていた2000年直前は不景気のまっただ中。あらゆる業界が新卒採用を絞っていたが、IT業界は活発に採用を行っていた。

 IT業界を仕方なく選択した友人が多くいたが、田中氏は数学が好きなことに加え、父親がソフトウェア会社に勤めていて仕事に親近感があったことから、IT業界が第1志望だった。

 就職した会社の業務は銀行系ソフトウェア会社だったこともあり、銀行のシステム開発が主だった。田中氏はそこで経験を積み、プログラマからシステムエンジニアになり、入社5〜6年目には10名程度のチームのリーダーを経験するほど成長していた。そんな折、親会社の銀行の合併に伴うシステム統合プロジェクトに携わることになった。

 合併すれば必然的に双方のシステム統合が必要となるが、それは簡単な話ではない。技術的にも労力的にも相当な困難に直面する。もしシステム統合で不備があれば、社会的な影響は計り知れず、銀行が信用を失うことにもなりかねない。統合初日に大規模なシステム障害を起こして大問題となった銀行もある。それほど銀行のシステム統合は社会的な責任と重圧が課せられる過酷な仕事だ。

銀行の合併に伴うシステム統合で激務を経験

 システム統合プロジェクトの仕事はかなりきつかった。割り当てられたタスクはデータを統合するところまでを目標として区切られていたものの、やることは山ほどあった。加えて担当したタスクは、田中氏にとって未経験の業務分野で、業務内容の習得に時間がかかり過ぎてしまった。

正社員時代に銀行の統合プロジェクトで、健康を害した経験を持つ田中氏(仮名)

 このプロジェクトで、田中氏の残業は月に200時間にも上った。平日の終業時間は毎晩のように終電後で、タクシーで帰宅。土曜日も出勤し、かろうじて日曜日だけは休める状態。しかし帰れればまだましで、「3日に1回は徹夜していました」と田中氏はいう。会社で徹夜した後は帰宅することができず、そのまま翌日の勤務へと突入する日もあった。こうした状況が半年ほど続いたという。

 度を超した激務で、体調はみるみるうちに悪化していった。そんな生活サイクルでは無理もない。だが激務は自分だけではなく周囲も同じだった。それ故田中氏はプロジェクトのフェイズの区切りまではなんとか堪えて勤めた。途中で放棄することはなかったものの、「これ以上は無理」と痛感し退職を決意した。「あの時はもういっぱいいっぱいでした。精神的にももたないと思いました」と田中氏は振り返る。

 退職するということは、会社員としてのキャリアが途絶えることになる。それについて田中氏は「いまから思えば惜しいと思いますが……」というものの、当時は体力的にも精神的にも仕事を継続する余裕がなかった。キャリアを取るか、心身の健康を取るかという選択だったのだ。

復調後に契約社員で再出発を果たすが……

 退職後はゆっくりと静養して体調回復に専念する日々を送った。それでも田中氏は、元同僚から職場の状況を漏れ聞いて、暗たんたる気持ちになった。

 元同僚の話によると、田中氏の退職後、人員補充は行われず、残ったメンバーに負荷がかかってしまい、体調を崩したメンバーも出たそうだ。責任感の強い田中氏はメンバーのことを思うといたたまれない気持ちになったという。

 4カ月ほどすると体調はかなり回復してきた。加えて「また働きたい」という気持ちが再びわき上がるようになり、これは心身共に着実に回復してきた兆しだと感じた。独り暮らしをしていたため生計を得る必要性もあったが、それよりも「社会に出て働きたい、成長したい」という前向きな意欲のほうが大きかったようだ。

 開発会社で同じ失敗を繰り返さないよう、社内SEの仕事を転職サイトで探し、すぐに1社から契約社員での内定がでた。実績次第では社員として採用してもらえる可能性もあるという内容だった。だが半年ほど過ぎ、田中氏はその仕事を辞めてしまう。

「まだ新しいスキルを得たい、成長したい」

 辞めた理由は、「物足りなかった」からだという。業務内容は旅行システムの運用保守。スキル的にはまったく問題なく、むしろ田中氏の高いスキルに対して「役不足」な仕事ともいえた。何かが足りない。「新たに習得すべきスキルがなかったのです。もっと成長したいとあらためて自覚しました」と田中氏はいう。

 その運用保守の仕事は残業がほとんどなく、復職後初の職場と考えれば悪くはなかった。そうはいっても、物足りなすぎた。足りないのは得られるスキルだけではなく、収入もだった。社員で多額の残業代を得ていたころに比べたら、契約社員の収入は少なかった。

 新しい経験ができる職場を探すべきか。だがまだ気持ちのどこかに躊躇(ちゅうちょ)があった。「新しいスキルを得たい」という前進を求める気持ちがある一方、「現場が過酷だったら耐えられるだろうか」という不安もあった。前に進みたい、でも進んでも大丈夫だろうかという戸惑い。前職での過酷な経験がトラウマになっているのだ。

 そこで今度は派遣社員を選択肢として検討すべく、ケリーサービスジャパン(相談当時はテンプスタッフケリー)に相談した。担当のコーディネーターに、いままでの経験を伝え、新しい技術を習得できるような環境であり、かつ過酷な勤務とならないような仕事を希望した。またシステムインテグレータ(SIer)など開発が主体となる会社は避けるように依頼した。

 そこで紹介されたのが、現在の職場である大手電機メーカーの共通基礎技術を管轄している部署だった。ここでは製品出荷前に検査すべきことを、技術面および法律面までを全般的に管轄している。田中氏はここで効率的に検査をするためのソフトウェア開発を担当することになった。

新しい職場で未知の分野の経験を積む

 新しい職場は、田中氏にとって多くが未知の世界だった。だがこれこそ長年望んでいたことだった。実は会社員時代から、銀行以外の分野でITスキルを生かすことに興味があったのだ。

 最初に就職した会社で得られるスキルは実に限定的だった。仕事は特定の銀行向けなので、技術スキルはCOBOLがベースとなり、業務スキルもその銀行が中心だった。それ故自分のスキルは限定的な世界でしか生かせないものと感じ、より将来性と汎用性のあるスキルを得たいと考えていた。

 幸か不幸か、激務が田中氏を新しい世界へと飛び立たせるきっかけになった。「復職後に新しい分野で再出発したいという希望を抱いていたことが、前職で休職ではなく退職を選んだ理由の1つだったのかもしれません」と、田中氏は当時の心境を振り返る。

 現在の職場はその希望がかなう場だ。電器製品の検査は、どのメーカーも必ず行わなくてはならないもので、また日本だけではなく世界各国でも必要とされる検査基準がある。汎用的で将来にわたって需要のある業務なのだ。さらに田中氏が勤めるメーカーではこの検査の効率化を図るため、先進的な試みを行っている。田中氏はプロジェクトリーダーの経験など、これまで培ってきたソフトウェア開発のノウハウを新しい分野で生かしつつ、新しい分野のスキルを得ることに挑戦している。

ワーク・ライフバランスのために派遣を選ぶ

 現在の収入は正社員時代には及ばないものの、旅行システムの運用保守をしていたときよりも増えた。生活するうえで不足はないそうだ。田中氏からすれば、限界までの激務や、物足りない運用保守に比べれば、現在の未知の分野で新しいスキルが習得できる仕事に携われた方がいい。収入も必要かつ十分なレベルを満たしている。そして何よりも過酷な状況にはなりにくい職場なので安心して働ける。

 田中氏は現在の働き方と今後の抱負を次のように話す。「契約更新の機会があると、職場が自分に適しているかどうか、数カ月おきに見直すことができるのがいいところだと思っています。現在の職場は新しいことが学べて、裁量も与えられているので、先々どの職場に移っても通用するようなスキルと適応力を身に付けることを意識しています。そうやってスキルと経験を積みながら、将来のキャリアパスを見定めていきたいと思っています。いまの私にとって契約更新の機会がある就労形態は、仕事を通じて成長したい気持ちと、健康と私生活を大事にしたい気持ちを両立できる最善の選択なのです」

 以前の田中氏の生活のほとんどは仕事が占めていたが、いまは仕事と生活がいいバランスをとれるようになってきた。静養中に始めたフラワー・アレンジメントも、平日に1度は講習に通える。この趣味の時間は田中氏にとって心の安らぎを得るためにもとても貴重な時間となっている。それがいまの田中氏の働き方の解のようだ。

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