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連載:知っておきたい人材会社の裏事情
第2回
生き残り策を見極めて派遣会社を選択する

辻俊彦(@ITジョブエージェント担当
2001/9/26

派遣会社での勤務経験がある筆者(現@ITジョブエージェント担当)が、人材ビジネスの“裏”を紹介するとともに、エンジニアがいかに人材会社と付き合えばいいのか、そのヒントを語る

 今回は、労働者派遣市場が拡大していく中で、他社との差別化を派遣会社がどのように考え、実行しようとしているのかを紹介していきます。

派遣会社だけが持っている情報

 派遣会社は、端的にいうと求人企業と求職者とをつなぐ仲介業です。仲介業が成り立つ背景には、多くの場合、顧客との情報格差があります。派遣会社にとっては、求人企業の求人情報がそれにあたります。派遣会社の営業マンが企業を訪問し、オーダー(企業からの求人をオーダーという)を丹念に集め、登録スタッフのスキルとのマッチングを成立させること(アレンジ)により、仲介業の売り上げとなります。

 個人ではとうてい集められない豊富な求人情報を求めて、求職者は派遣会社に登録することになります。従って、魅力的なオーダーを数多くそろえることが、優良な登録スタッフを獲得するための最良の手段となります。

派遣業界での競争ポイント

 しかし、このように派遣会社が保有する求人情報は、基本的にだれもが(つまり他社も)閲覧できるオープンな情報です。そのため、派遣業界内での競争ポイントは、情報を集めるスピードになります。オープンな情報では他社の参入も容易だし、早い者勝ちの競争にならざるを得ません。一般派遣の場合、求職者も複数の会社に登録することはよくあります。そのため、理論的にはあるオーダーに対してベストマッチングの人が世界にたった1人の場合であっても、オーダーした企業にいち早くその登録スタッフのスキル表を持ち込んだ派遣会社が契約を勝ち取れることになります。しかし通常は、派遣会社はオーダーの該当者を複数抱えているのが普通で、さらなるスピード勝負の世界となります。

 また、企業が派遣を利用するメリットとして、人件費を固定費から変動費にできる点(必要なときだけ支払えば済む)があります。そのため、企業からは明日から3名を、などといった出前感覚でのオーダーも多く、スピードだけでなくスタート(就業開始)への対応力も、派遣会社の競争力を高めることになります。

 企業もスピードとスタートに対応可能な派遣会社との関係を深めることになり、スピードとスタートに対応可能な派遣会社は、魅力的なオーダーをそろえることができ、質の高い登録スタッフを確保できるようになる、という好循環が生まれます。

エンジニア派遣特有の事情

 これらは派遣業界全体の状況ですが、エンジニア派遣に限ると、多少違った要素が加わります。それは、オーダーの数が登録スタッフの数を大幅に上回っているという状況です。従って、スピードを求めても該当者がいない場合があり、前述したような方法はあまり意味を持ちません。このような場合、登録スタッフを新たに生み出すことが必要かつ重要になります。

 そのために派遣会社が取れる手段は以下の3つとなります。

(1)現在、正社員として働いている人材を派遣スタッフとして獲得する
(2)海外の人材(エンジニア)を採用する
(3)教育メニューを充実させ、人材を育成する

 (1)については、高いスキルで社員以上に稼ぐ派遣スタッフ(登録スタッフが実際に派遣先企業に派遣される場合を、ここでは派遣スタッフと呼んでいます)もいますが、雇用が保証されていない不安定さから正社員指向が強く、流動化を促進しても、それは正社員への転職増につながることになります。(2)についても、政府の規制緩和や海外でエンジニアが余剰になれば外国人エンジニアを雇えるでしょうが、40万人ともいわれる日本のエンジニアの不足を補うには、数が圧倒的に足りません。また、この場合に懸念されるのが、日本ではなく海外の企業やエンジニアに仕事が流出してしまうことです。こうなると、日本の労働市場や産業基盤が空洞化してしまう可能性があります。

 そのため、最も確実な方法は、前回にも触れた(3)の育成の充実しかありません。派遣会社がいかに育成型派遣を行っていくかが、優良な登録スタッフを確保するために必要な戦略となります。派遣会社が育成メニューを充実させることで、優良な登録スタッフを数多く獲得できるようになり、他社が応じられないオーダーに対応できるようになります。その結果、企業からのオーダーに対応できる育成型派遣会社が企業に重宝され、育成費への投資も可能になる、という好循環が生まれます。

スキルマップの必要性

 他社との差別化を図る方向性が育成型派遣にあることは、業界内でも認知されています。が、個人に自己負担も強いながら育成プロジェクトへの参加を促すためには、それなりの“道具立て”も必要になります。

 個人がスキルアップを目指して自己投資する場合に気になるのは、投資の有効性です。エンジニアスキルに関する教育は、数十万円レベルの負担になることも多く、身に付けたスキルに本当に価値があると実感できることが必要になります。

 つまり、取得しようとするスキルが自分のキャリアプラン上有効なのかどうかについて、きちんと納得できるかが重要になります。例えば、過去にこういう人がいたという具体例を説明してもらったり、具体例の集積で作られるスキルの体系図のようなスキルマップにより、現在取得しようとしているスキルの価値についての納得してもらう仕組みが必要になります。ただし、当然のことながら、その前提となる個人のキャリアプランないしキャリアゴールの自覚を促すことも重要になってきます。

派遣会社の選択基準

 エンジニアが派遣会社を選択するコツは、前回も触れたように、育成型の派遣会社かどうかがポイントです。しかも、それが宣伝スローガンでない派遣会社を選択することです。このスローガンだけかどうかを確認するポイントとしては、次のようなものを派遣会社が持っているかどうかで分かると思います。

(1)キャリアプランについて、きちんと相談に乗ってもらえる
(2)必要なスキルについて、合理的な説明をしてくれる
(3)紹介できる教育メニューが豊富で、独自の育成コースを持っている

 ただし、この基準は、派遣会社の現実ではなく、理想型を挙げているので、現実的な判断としては(3)の豊富な教育メニューがあるかどうかが有力な判断基準になります。もちろんパンフレットだけではなく、内容について派遣会社側がきちんと説明できるかどうかが重要です。

筆者紹介
辻俊彦 ●2001年3月まで、エンジニア派遣大手企業で、事業企画に携わり、 企業のニーズに合わせた育成プロジェクトを立ち上げる。エンジニアの自己実現をサポートするというポリシーの下に、@ITジョブエージェントのサー ビス企画にも関与。

「連載 知っておきたい人材会社の裏事情」

 

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