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連載:ITエンジニア最新求人レポート No.10<2002年9月版
企業の中途採用手法に変化あり

小林教至(@ITジョブエージェント担当
2002/10/2

アットマーク・アイティのキャリアアップ支援サービス「@ITジョブエージェント」を担当している筆者は、同サービスに参加していただいている会社をはじめ、複数の人材紹介会社/人材派遣会社を毎月訪問している。そこでヒアリングしたITエンジニアの求人動向を定期的にレポートする。マクロ的な動向ではないし、具体的な数値もないが、現状の市況や今後のトレンドを推測する資料としてほしい。

エンジニアの求人広告は減少が続く、その背景は?

 リクルート ワークス研究所という会社をご存じだろうか。リクルートグループの1社で、人材マネジメントや労働市場に関する研究を行っており、調査研究結果はPDFとして公開している。調査研究の1つにリクルート発行の求人情報誌の求人広告掲載状況を基にした首都圏求人市場レポート「求人予報」がある。

 9月20日に公表された最新号(8月までのレポート)によると、求人広告件数の6〜8月の3カ月移動平均値が5〜7月の3カ月移動平均値を下回った職種は、何とSEのみという結果になっている。不況が叫ばれて久しい建築関連(設計施工土木)でさえ、改善しているというのに。ITエンジニアは、いまや不況職種となってしまったのだろうか?

 しかし、人材会社各社に聞くと、どうもそうではないらしい。「通年で中途採用をしている企業は、取引のある人材紹介会社を集めたガイダンスを開催するのですが、先日出席した大手ソフトメーカーと大手システムインテグレータのガイダンスでは、今後の採用予算は求人広告よりも人材紹介にシフトする、と説明していました」(某人材紹介会社)。採用できるかどうか分からない求人広告に何百万円も掛けるより、採用時の成功報酬は高い(一般に採用者の年収の30%)が、採用できないときには費用が発生しない人材紹介を活用する、ということのようだ。

 さらに、某人材紹介会社の求人企業側の担当者は、「第2新卒レベルや他職種からのキャリアチェンジ組でも可という場合には求人広告を使い、経験年数の長い現職エンジニアや、リーダー・マネージャクラスの採用には人材紹介会社を使う、というように、求める人材によって採用手法を使い分ける企業が増えています」という。

 「現在転職に備えて企業研究を行っている方に申し上げたいのですが、志望企業が求人広告を出していないからといって、中途採用していないとは限りません。ぜひ人材紹介会社を有効に活用していただきたいと思います」(前述の某人材紹介会社)。つまり、人材紹介会社でしか分からない求人企業も少なからずあるということだ。

採用意欲は引き続き堅調

 求人広告のトレンドとは裏腹に、人材紹介会社へ依頼されるITエンジニア求人は、ここ数カ月間さほど変わらず、引き続き堅調のようだ。ただし、求められる職種やレベルもトレンドも変化はなく、相変わらず多く聞くのが、ERP導入コンサルタント、情報家電の組み込みエンジニア、リーダー・マネージャクラスだ。特にERP導入コンサルタントは、経験者採用が困難らしい。「そもそもERP導入コンサルタントの数が、非常に少ない」(某人材紹介会社)ためだ。それならば、そろそろ“未経験者可”という企業が現れてもいいと思うのだが、「未経験者を採用するくらいなら、採用しない」と、採用担当者からいわれるそうだ。ただし、「過去にユーザー企業のエンジニアとして、ERP導入に携わった人材なら採用される可能性が高い」とも付け加えてくれた。

 求められるスキルも変化はなく、テクニカルスキルは持っていて当たり前で、ポイントとなるのは、ビジネススキル(ヒアリング力、分析力、企画力、提案力、調整能力)だ。「リーダー・マネージャクラスになると、調整能力が特に重要視されます。実際の開発を外部の協力会社などに依頼するケースが増え、その協力会社をいかにうまくコントロールできるかがプロジェクトの、ひいては事業成功のカギと認識されているからです」と、ある人材紹介会社の企業担当者が教えてくれた。

求められる“自立心のある”エンジニア

 今回のヒアリングでは、そのほか求められる要件として「自立心」というワードを複数の人材紹介会社から聞いた。「人材紹介会社に依頼されるのは、そもそも即戦力となる人材です。即戦力となるかどうかの指標の1つが、指示待ちではなく自ら判断してアクションを起こせるかどうか、すなわち“自立心”を 持っているかどうかなのだと思います」(某人材紹介会社)。別の人材紹介会社は「2年前までのようにIT業界が右肩上がりで成長していた時期は、チームの一員として与えられた業務を着実にこなせる人材が求められていましたが、いまはそのレベルの人材に充足感があるのと、状況の変化に柔軟に対応できることが求められているのだと思います」と分析する。

 自立心とは個性だったり、または一定のポジションになれば身に付くものだったりするのではないか、とも思うが、人材紹介会社リーベル 代表取締役 石川隆夫氏は、「日常業務の中で意識的に身に付けることができます」という。自らもエンジニア出身の石川氏は、若手エンジニアに次のようにアドバイスしてくれた。「どんな仕事でもその目的や背景を考える習慣を付けることです。若いうちは指示に従って動くことは多いのですが、指示された仕事に対して、『この仕事の最終目的は何か』『自分には何が求められているのか』『もっと効率的な方法はないか』ということを常に意識して仕事してください。ただ漫然と仕事をこなすだけでは自立心は身に付きません」

1次面接通過率が20%低下

 今年3月から、企業のITエンジニアへの求人意欲は旺盛とのことだが、逆に「この人がなぜ採用されないのか?」というようなケースが多くなった、という話も複数の人材紹介会社から聞いた。

 今回のヒアリングで、ある人材紹介会社がその傾向を裏付ける数値を示してくれた。「ここ1〜2カ月の1次面接通過率は50%まで落ちています。今年の1、2月は企業の採用意欲は冷え込んでいましたが、そんな時期でも1次面接通過率は70%程度でした。求人市場は堅調なはずなのにと、社内でも原因をめぐって議論しているところです」

 1次面接通過率の低下とともに、面接から内定までのプロセスに、異変が起きていると、某人材紹介会社が教えてくれた。「最近の傾向として、採用に至るまでの選考期間は短くなっています。自社にとって必要な人材と判断した場合には、すぐに内定を出し、他社へ流れるのを防ぐのと、やはり現場から素早い増員を要求されているのだと思います」

 以上の話を総合すると、求人企業は、求めるエンジニアは一刻も早く欲しいが、ITバブル時のように数を確保するのではなく、求めるレベルに合致しているかどうかをシビアに判断し、採用の失敗はできないと考えているのだろう。求めるレベルに関しては、単にテクニカルスキルやビジネススキルだけでなく「社風に合っているか」や、「企業理念に共感できるか」なども判断材料として重視されているそうだ。

 一見転職しにくい状況のようだが、ある人材紹介会社の幹部は次のように語る。「転職がゴールだと考えれば、確かに厳しい現状でしょう。しかし、転職は出発であってゴールではありません。シビアに選考され、その結果採用されるということは、その会社で活躍できる可能性が高いと判断されたことを意味します。これは逆にチャンスと考えてもいいと思いますね」

 某IT関連企業の採用担当者は、「2〜3年前のITバブル期に多くのエンジニアを採用しました。そのときは売り手市場だったため、まずは確保するということで、テクニカルスキルさえボーダーラインに達していれば採用していました。しかし、その時期に採用したエンジニアの多数は退社してしまいました。結局ウチの社風に合わなかったのです。まあ、当時は社風が合うかどうかまで考慮している余裕がありませんでしたが」と、こっそり教えてくれた。

 転職をゴールと考える方はいないと思う。しかし転職活動を続ける中で、手段であるはずの転職が目的となってしまう方もいるという。いままさに転職活動をしている方はあらためてご自分のキャリアビジョンを問い直してみてはいかがだろうか?

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