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連載:ITエンジニア最新求人レポート No.14<2003年1、2月版
これから注目したい、運用エキスパートへの道

小林教至(@ITジョブエージェント担当
2003/2/28

アットマーク・アイティのキャリアアップ支援サービス「@ITジョブエージェント」を担当している筆者は、同サービスに参加していただいている会社をはじめ、複数の人材紹介会社/人材派遣会社を毎月訪問している。そこでヒアリングしたITエンジニアの求人動向を定期的にレポートする。マクロ的な動向ではないし、具体的な数値もないが、現状の市況や今後のトレンドを推測する資料としてほしい。

引き続き堅調なITエンジニア求人動向

 前回のレポート(「ITエンジニア最新求人レポート No.13」)では、昨年1年間のうちITエンジニアの求人件数が最も多かったのが、12月だったと回答した人材紹介会社があったことを報告した。では、年明けの1、2月の求人動向はどうだったのだろうか。「年明け後も、中途採用を行っている企業の採用意欲は旺盛です。ただし、季節変動要因のため、2月下旬から求人件数は落ちてくると思います」(某人材紹介会社)

 昨年に採用活動を抑制していた企業が、年度末にかけて採用を活発化させているらしい。ところで、この人材紹介会社の発言には2つのキーワードが含まれている。1つは“中途採用を行っている企業”であり、もう1つは“季節変動要因”だ。

 「ここ数カ月の動向として、中途採用ができる企業とできない企業との差がより鮮明になってきました」と教えてくれる人材紹介会社があった。3〜4年前のITバブル期は、IT業界全体が活況を呈し、ほぼすべての企業が中途採用に意欲的だったが、徐々に勝ち組と負け組とに分かれ、それがそのまま中途採用数に反映しているのだ。裏を返せば中途採用を行っている企業は勝ち組、と見ることができる。

 2月は本格的に来年度の新卒採用活動が始まる時期に当たる。この季節変動要因のため、企業の人事部が中途採用にかけるリソースが減り、結果的に採用数も減るという。「例年のことですが、2月に入ってから選考スピードが落ちています」と、ある人材紹介会社がいう。では、人事部が再び中途採用活動に動きだすのはいつになるのか?

次の転職機会はゴールデンウイーク明けか

 「新卒採用活動という要因のほかに、予算編成という要因もあります。企業で差はありますが、ここ2年ばかり、中途採用に関する予算確定時期が遅れる傾向にあるようです。各社とも4月中に出そろう、といった感じでしょうか」(某人材紹介会社)。新卒採用活動、予算確定という要因を考えると、中途採用が活発化するのは5月のゴールデンウイーク明けになりそうだ。

年度末需要が活性化中の派遣エンジニア

 「@IT自分戦略研究所」の読者には釈迦(しゃか)に説法だろうが、年度末は納品のための追い込み時期でもある。「昨年12月からやっと活性化した派遣エンジニアへのニーズは、年明け後も持続しています。さらに2月になってからは、デバッグ、テスター要員などの需要が出てくるなど、いよいよ納品間際の(需要)状況です」というのはある人材派遣会社の営業担当者だ。しかし、人材派遣需要が好調といいながらも、その営業担当者の表情は暗い。

 「問題は来年度なのです。例年3月上旬ごろに来年度の(派遣)人員について顧客企業(派遣エンジニアの受け入れ企業)から問い合わせが入ります。それによって来年度上期の状況がつかめるので、それまで戦々恐々としているわけですよ」(前述の人材派遣会社)

運用エキスパートという選択肢

 2001年12月に発行された書籍『勝ち組SE・負け組SE』(洋泉社発行)の中で著者の岩脇一喜氏(大手銀行の情報システム部門で十数年エンジニアを経験した方)は、今後システム開発案件が徐々に減る中では、運用管理(書籍中では保守業務)のプロフェッショナルを目指せ、と述べている。

 開発エンジニアが花形だと認識されているIT業界では、運用管理エンジニアの現状はどうなのか? キャリアパスにはどんな選択肢があるのか? 今回のヒアリングではこの疑問を人材紹介会社、人材派遣会社にぶつけた。

 パソナテックの プレイスメント事業部 事業部長 シニアコンサルタントの杉山宏氏は、開発エンジニアと運用エンジニアの求人動向を比較して「ITエンジニアの求人数を10とすると、開発系が7、運用系が3といったところでしょうか」と語る。

 実際に「運用エキスパートを中途採用しているのは、(1)運用管理業務のアウトソーサ(2)ユーザー企業の情報システム部門(3)iDC(インターネットデータセンター)やASP、の3つに大別できます。1年ほど前までは、(3)のiDC、ASPからの求人が多かったのですが、最近は減っています。(1)と(2)は引き続き堅調です」との現状を杉山氏は教えてくれた。

 別の人材紹介会社でも、大手ハードウェアベンダやコンサルティングファームから、運用エキスパートの求人があるという話を聞いた。運用エキスパートへのニーズは高いようだ。

 あるシステムインテグレータ(SIer)は、その理由について次のように解説してくれた。「1つは開発案件が減り、競争が激化してきたことが挙げられます。開発案件だけでは、従来のように収益を上げられない状況になっています。そこで、運用管理業務で収益を上げようという動きがあります。さらに、最初に開発案件を受注するのではなく、まず運用管理を受注し、その延長でシステムの改修やリプレイスなどの開発案件を受注する、という観点で積極的に運用管理業務を受託しているところもあります」。どうやら、上記で紹介した書籍の著者が述べているような状況になりつつあるようだ。

 テクノブレーンの常務取締役 能勢賢太郎氏は別の観点から、運用エキスパートという選択肢を勧める。「実装業務は今後海外へ発注することが増えると思われます。中国やインドのエンジニアはプログラミングに関して実に優秀で、なかなか太刀打ちできないのも事実です。しかし、彼らが弱いのは日本の商習慣に即した業務知識です。運用管理フェイズでは業務知識は不可欠です。ITエンジニアとして仕事をしていきたいとお考えなら、運用エキスパートは確かに1つの選択肢だと思います」

運用エキスパートのリスクとは?

 採用ニーズも高い、将来的にも活躍できる、とメリットばかりのようだが、当然デメリットもある。大手SIerでのエンジニア経験を持つパソナテックの杉山氏は次のように警告する。「汎用機時代はバッチ処理など手動で行う業務が多かったので、運用管理エンジニアも必要だったのです。しかし、ジョブの自動化が進んで従来ほどの人員は必要なくなっています。システムの運用管理コスト削減圧力は永遠に続くでしょうから、今後のテクノロジの進展によっては、さらに必要人員が減る可能性があります。その時点で企業から必要と認められなければ、リストラ対象になってしまうでしょう」

 運用管理コストの削減は、大手ベンダも血眼になっている。例えばIBMの提唱する自律型コンピューティングも運用管理コストの削減がテーマの1つ。現在は運用するシステムの数が多く複雑化する一方で、その伸びに見合った運用管理のエンジニアははるかに少ない。エンジニアの数が少ないという問題だけでなく、企業が運用管理コストを増大させたくないと考えている。ベンダ各社は、そうした企業のニーズにこたえようと必死になっているわけだ。

 杉山氏は、「もう1つのリスクがあります。それは“キャリアの停滞”を起こす危険性があることです。小規模システムの運用管理担当や、情報システム=コストを削減するためのもの、ととらえている企業のシステム担当になると、スキル向上の機会がなくなり、結果的に市場価値の低いエンジニアになってしまいます。運用エキスパートを目指すのであれば、大規模システムを担当することと、情報システム=収益拡大のためのものととらえている企業のシステム担当になること、をお勧めします。実力のある情報システム部門のエンジニアは、SIerからスカウトされることもあります」という

運用エキスパートのキャリアパス

 最近の運用エキスパートの派遣ニーズについては、リーディング・エッジ社の加藤千尋マネージャが教えてくれた。「ここ1〜2年派遣案件として増えているのは“運用設計エンジニア”です。SIerが開発案件だけでなく、運用管理業務を積極的に受注していることが背景にあると思います。設計フェイズが終了すると、導入からその後の運用管理フェイズまで立ち会うケースが多いですね。よく運用管理エンジニアは、キャリアアップのためには開発業務に携わりたいとおっしゃいますが、運用管理から運用設計へと、垂直にキャリアを高めるパスもあると思います」

 リーベルの代表取締役 石川隆夫氏は「コンサルティングファームからの求人で多いのは、“運用コンサルタント”です。コンサルティングファームでは、事業領域をコンサルティング→開発→運用管理と拡大していますが、足りないのが運用管理のスペシャリストなのでしょう」と説明してくれた。

 以上の話を総合すると、運用エキスパートとして次のようなキャリアパスが考えられる。また、最近の米国では情報システム部門出身の経営者が多いと聞く。従来開発系エンジニアよりも格下と見られがちだった運用エキスパートだが、情報システムの大きなトレンドからすると、これからは花形ポジションになり得るのではないだろうか。

図 運用エキスパートのキャリアパスの例

高みを目指すには

 前述のパソナテック杉山氏から、運用エキスパートを目指すエンジニアへのアドバイスをいただいた。「開発プロジェクトに疲れたので、運用管理エンジニアになりたい、と相談するエンジニアがいますが、安易な気持ちで運用管理エンジニアになっては、それこそキャリアが停滞して、市場価値の低いエンジニアになってしまいます。システムを運用するには、OS、ネットワーク、データベース、アプリケーション、パフォーマンス管理、ハードウェア、セキュリティ、リスク管理など幅広いテクニカルスキルと、業務知識、ジョブの設計能力、関係各部署との調整能力、プロジェクト遂行能力などのビジネス・ヒューマンスキルが必要です。ぜひ高みを目指してください」

■取材協力企業(50音順)
キャリアデザインセンター
テクノブレーン
パソナテック
リーディング・エッジ社
リーベル
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