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組み込みエンジニアへの転身指南

第15回 組み込みエンジニアは「家庭の事情」に強い職種

大石直也(パソナキャリア)
2008/08/29

「したいことをするため」「条件のいい仕事に就くため」など、人はさまざまな理由で転職する。組み込み業界も例外ではない。同業界を舞台にした転職活動の喜怒哀楽を、キャリアコンサルタントがこっそり教える。

 転職活動をサポートする中でよく耳にする言葉、「家庭の事情」。今回は家庭の事情による転職の事例を紹介します。

「家庭の事情による退職」の実情

@IT自分戦略研究所カンファレンス
上級ITプロフェッショナルのスキルとキャリア 開催
日時:2008年9月27日(土)
11:00〜18:00(受付開始 10:30〜)
場所:秋葉原UDX 6F RoomA+B
詳しくは開催概要をご覧ください。

 家庭の事情、といわれると、深い事情を聞くことがはばかられるのではないでしょうか。

 そのため競合他社に転職する場合など、詳しいことを聞いてほしくないときに、「家庭の事情」と理由を濁して退職する方がいるようです。

「家庭の事情」は、人ごとではない

 「親の介護」というと、まだ先の話と思う人が多いようです。しかし、30歳前後でも家族の事情で親の面倒を見なければならなくなる人がいるようです。地方に住む家族のためだけでなく、妻や子どもへの対応でいままでどおり残業を行うことができなくなり、転職を余儀なくされるケースもあります。

 前回の「事業撤退による退職」と同様、「家庭の事情」は本人の意図しないところで退職または転職せざるを得なくなる代表的な理由です。もし、首都圏から地方企業に転職するとなれば、転職先の選択肢は狭まり、年収も低水準となるかもしれません。

 転職が避けられなくなった時、多くの場合は「家族の面倒が見られるという条件」が優先事項となるため、年収や仕事内容に対する関心は低くなりがちです。しかし、状況が落ち着いてくると、転職に対して本意ではなかったと感じる人が少なくありません。

父親の病気が発覚し、地元へ転職

 今回は、「家庭の事情」で転職した後、状況が落ち着いたため、再び転職を決意して相談に来た松本さん(仮名)のケースを紹介します。

 松本さんは某国立大学工学部を卒業後、通信キャリアに就職しました。交換機の設計などに3年ほどかかわりましたが、通信キャリアで開発できる範囲に限界を感じるようになり、転職を決意しました。

 大手の総合機器メーカーに転職できた松本さん。転職先では、デジタル通信機を開発するプロジェクトに配属されました。松本さんは温厚な人柄と技術の習得能力の高さを評価され、大規模プロジェクトのリーダーを務めるまでになりました。

 そんなとき、地元の父親の病気が発覚。当初は母親が対応していたものの、疲労から母親まで倒れてしまったのです。母親はすぐに回復しましたが、1人っ子の松本さんは、家族の近くに住むことを決意しました。そこで、地元のソフトウェア開発請負会社に転職し、母親を支えることになったわけです。

小さな会社なりの面白さ

 転職したソフトウェア会社は、事業の規模が小さく、プロジェクトなら何でも、というスタンスで幅広く受注していました。松本さんは手を抜くことなく、エンジニアとして仕事を続けました。前職での仕事に比べれば、規模は小さいものではありますが、リーダー、マネージャとしてプロジェクトを指揮していきました。

 1社目、2社目のような大きな会社では、リーダーとはいっても会社の決定に従って動くというスタンスでした。しかし今回入社した会社は、規模が小さいこともあって、松本さんは経営に近いポジションで仕事ができるようになりました。会社自体に自ら働き掛け、変えていくことに面白さを感じるようになったのです。

 やがて、父親の病状はある程度落ち着きを見せ始めます。一段落して自分のキャリアを顧みたとき、もう少しエンジニアとして活躍したい、という気持ちがわいてきました。請負の会社であったため、プロジェクトに一貫性がなく、仕事の幅に限界を感じていたのです。

 東京支社への出張が続き、東京に住む選択肢が見えてきたところで、転職を決意しました。

 転職を決意した松本さんのレジュメは、理路整然と分かりやすくまとめられ、熱意のある自己アピールが書かれていました。それを見ただけで、優秀なエンジニアであることが分かりました。実際に会った印象も温厚で頭の回転が速く、熱意のある想像どおりの人物でした。

地方での経験を経て、転職市場の評価は?

 松本さんのキャリアは、年齢や、直近でマネジメントしたプロジェクトの規模からいうと、一般的に評価の高いものではなかったかもしれません。

 しかし、応募した企業のうち、高い技術で定評のある企業から内定をもらうことになりました。

 地元の企業に転職したときは200万円程度年収がダウンしたのですが、今回の転職によってメーカー時代に近い年収を得ることができるようになりました。将来的には、年収アップの可能性もあります。

 それだけではなく、刺激的な仲間とキャリアアップすることができ、会社と一緒に成長を感じることができる環境であることに、松本さんは喜びを感じています。

こだわりを忘れず、そこでベストを尽くすこと

 今回の転職の成功理由は2つです。1つ目は、自分のこだわりだった「開発」という仕事を、あきらめずに続けていたこと。2つ目は、その中で新しい価値観を見いだしながら、さらなる向上を忘れなかったことです。

 メーカーは地方に工場や支社を持つことが多いため、組み込みエンジニアは、場所にとらわれずにキャリアを継続するチャンスがあります。さまざまな理由によるキャリアの中断や、ペースダウンに負けない可能性を秘めているのが、組み込みエンジニアという職種の魅力の1つであるといえるでしょう。

筆者プロフィール
大石直也(パソナキャリア)●大学で材料工学を専攻。卒業後、工業用計測器業界および自動車部品業界にてエンジニアとして経験を積む。その後、パソナキャレント(現:パソナキャリア)に入社。電気・電子・機械などのメーカー系人材の転職のサポートを行っている。


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