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こっそり教える組み込みエンジニアの転職事情

第22回 大学院に行くならキャリアビジョンの準備を

關口洸介(パソナキャリア)
2009/3/11

「したいことをするため」「条件のいい仕事に就くため」など、人はさまざまな理由で転職する。組み込み業界も例外ではない。同業界を舞台にした転職活動の喜怒哀楽を、キャリアコンサルタントがこっそり教える。

 学部時代や大学院時代の研究内容と、いまの仕事には関連がありますか。業務内容が研究内容に関連しているか否かにかかわらず、大学院で研究を深めたいと思うエンジニアの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 忙しい社会人を積極的に受け入れる「社会人大学院」が多く見られるようになりました。社会人から研究の道に進む可能性も増えてきたといえます。いまのまま仕事を続けるか、それとも、仕事は中断、もしくはペースダウンして研究を行うために大学院に進学するか。まずは試験を受けてみて、受かったら大学院に進もう、と考える方もいらっしゃるかもしれません。

 目的の研究室に入るためには、勉強が必要です。忙しい社会人であれば、勉強を早めに始めなくてはなりません。しかし、勉強に取り掛かる前に考えなければならないことがあるのです。

 今回は、大手メーカーにおいて組み込みエンジニアとして活躍していましたが、学生時代の研究を深めるため会社を辞めて大学院へ進学後、転職活動を行った加藤さん(仮名)のケースについてご紹介します。

もう一度、研究したい!

 加藤さんは大学卒業後、大学院に進学しました。所属する研究室では音声認識に関する研究を行っていました。充実した研究生活ではありましたが、修士課程が修了したら就職するものと親も自分も思っていたので、博士課程に進むことは考えず、就職活動を行うことにしました。

 学校の推薦で一部上場の大手家電メーカーを受け、その会社に勤務することになりました。学生時代の研究とも関連のある音声認識にかかわる仕事をすることができました。業務内容が学生時代の研究と近かったことは良かったのですが、仕事に慣れてくると、学生時代の研究でやり残したことが気になるようになりました。

 研究を続けるのであれば、仕事を辞めなくてはならない……。学費は……? 勉強は……? 加藤さんは迷いました。

 業務で忙しかった加藤さんは、残業代のおかげで多少は貯金があり、奨学金を利用すれば、学費と生活費の問題はクリアすることができそうでした。大学院に行きたいといっても、試験勉強や研究のことを考えると、早めに進学した方がいいように思えます。何よりも、学問を究めたいという気持ちを持ったまま迷いながら仕事をするよりは、進学した方がきっとすっきりするだろうと決意しました。

 ちょうど業務が落ち着いてきた時期だったこともあり、試験勉強は順調に進みました。研究計画などの準備については、研究に近い領域にかかわっていただけではなく、研究したいと温めていたアイデアもあったため、問題はありませんでした。

 結果、無事に希望の研究室で研究ができることになりました。そして、念願の研究生活となりました。研究漬けの充実した日々を過ごし、2年以上が経過。学位論文にもめどがたち、転職活動を始めることにしました。

あらためて転職活動。しかし……

 転職活動をするに当たっては、「ある程度専門性を生かせれば」とは思いながらも、研究に関しては十分にやりきったという思いがあり、それほどこだわりはありませんでした。最初は以前から気になっていた企業に自分で応募していたものの、不採用となってしまいました。

 そのため、人材紹介会社に登録し、キャリアカウンセリングを受けて、活動を進めることにしました。研究内容に関連する仕事とこだわっているわけではなく、就職先のイメージが漠然としており、迷っていることをカウンセラーに伝えた加藤さん。音声認識に関する求人だけではなく、組み込みエンジニアの経験を必要としている求人を紹介してもらい、幅広く応募することにしました。

 加藤さんは時間に融通が利くこともあり、20社以上に応募しました。結果は厳しくなる可能性がある、とは聞いていたものの、書類審査による不採用が想像以上に多くなりました。

 「大学院で研究していた期間はブランクとして判断」

 「博士課程にいらっしゃるのに、この業務は研究にあまり関係ないのでは?」

 多少、専門外の企業もありましたが、会社の規模などについてはある程度、妥協したつもりでした。それでも「書類選考だけで不採用」という企業の多さに、転職活動の厳しさを感じました。

 厳しいとはいえ、ずっと研究室に残るつもりはなく、転職活動を続けました。その結果、2つの企業から内定を得ることができました。1つは「大手企業の新規事業における音声認識のエンジニア」、もう1つは「少数精鋭のベンチャー系企業の組み込みエンジニア」でした。

 大手企業の新規事業における音声認識のエンジニアの仕事は、自分では想像していなかった企業が音声認識に関する事業を行うためのポジションでした。加藤さんの研究について興味を持ってもらい、面接も問題なく進みました。

 一方、少数精鋭のベンチャー系企業は、音声認識とは関係のない分野ではあるものの、大学院に進学した熱意を評価し、熱心に入社を勧めてくれる会社でした。

いま思えば、運が良かっただけ?

 音声認識のキャリアを生かした専門企業か、研究以外でも自分を評価してくれる会社か……。迷った加藤さんは、あらためてキャリアカウンセリングを受けました。

 キャリアカウンセリングを受けて思い出したのは、「スペシャリストになりたい」「1番になりたい」という当初の強い考えでした。大学院で学び直したのは、どこかで「周囲に負けたくない」という気持ちがあったからこそ。加藤さんは「音声認識のキャリアを極めるべきだ」と気付きました。

 音声認識と関係のない分野に進んだ場合、結局のところ、博士課程の期間はキャリアとしてはブランクに近いものとなってしまいます。自分の進むべき道を思い出した加藤さんは、強みとなる音声認識のエンジニアとして活躍することを選びました。

 現在、加藤さんは新しい会社で音声認識のエンジニアとして働いています。ただ、加藤さんは「自分は運が良かった」と語ります。

 大学院に行った後のことを考えない状態で入学が決まってしまい、その後は研究のことで手いっぱい。そのまま息つく間もなく転職活動へと移行したため、キャリアの方向性がぶれてしまったのが加藤さんの「悩み」の原因でした。悩みの根本に気付き、結果として研究を生かせる仕事に就くことができましたが、もしこのポジションに就いていなかったら、「スペシャリストになりたい」という当初の望みは満たされず、悶々(もんもん)としていたかもしれません。

大学院選びはキャリアプランを考慮して

 大学院に行くことを考えると、入学に関する準備や費用などのことで頭がいっぱいになってしまうかもしれません。しかし、研究が終わった後のことを考慮しておかないと、「大学院で研究したものの、その先は……」となってしまうケースがあるようです。

 もちろん、業務とかかわりのある分野において、権威といわれる教授の元で研究を行い、その分野で産業界においても活躍――ということであれば、大学院でのキャリアは間違いなくプラスに働くでしょう。研究したい気持ちや迷いを持ったまま、中途半端に仕事をし続けるよりは、満足したキャリアを積むことにつながるかもしれません。

 一方、大学院に行こうか迷っているという人の場合、キャリアカウンセリングを行っていくうちに、業務への不満がその理由だったということが判明するケースがあります。

 大学院への進学が選択肢にあると、試験準備や資金の心配が優先され、その後のキャリアは「ひとまず試験を受けて、合否を見てから考えよう」となりがちです。しかし結局、忙しい日々に追われ、キャリアに関する考慮が抜けてしまう可能性があります。

 人生に占める仕事やキャリアの割合は、決して小さくありません。大学院進学を考えている人は、一度キャリアカウンセリングを受けてみてはいかがでしょうか。

筆者プロフィール
關口洸介(パソナキャリア)●高等専門学校、大学、大学院で機械工学を専攻し、主に機械力学・制御工学を基礎とした振動制御の研究を行う。卒業後、エンジニアの転職サポートを志し、人材紹介会社で人事から求人ニーズをヒアリングする企業担当を経験。自動車、家電、半導体、精密・計測器、化学業界など各メーカーの人事から採用ニーズを直接聞いてきた経験を生かし、現在は転職希望者へのキャリアカウンセリングを担当している。

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