その「内定」、本当に有効ですか退職活動やってはいけないこんなこと(1)

転職を志し、選考過程を経て内定を獲得した後は、現在勤めている会社を円満に退職しなければならない。それが「退職活動」だ。本連載では、毎回退職活動にまつわる危険な事例を取り上げて解説する。連載内容を活用してトラブルを回避し、円満退社を目指してほしい。転職に対する不安を少しでも減らすことができればと思う。

» 2005年11月25日 00時00分 公開
[木内昇アデコ]

 情報技術の普及によって、Webサイトからプロフィールの登録ができたり電子メールでやりとりができたりと、転職活動はやりやすくなってきています。

 その一方で、面接など実際に動きだす局面になると、皆さん本当にいろいろな障害に遭遇されるようです。

 この連載では、転職先の企業から内定をもらった後の「退職活動」にスポットを当て、具体的な注意事項をお伝えしたいと思います。今回は、口頭ではなく書面で確実に内定通知を受け取り、そのうえで退職活動を始めることの必要性について実例を交えて説明します。

恩田さんの転職活動

 恩田さん(仮名)は実務に就いて約10年、ベテランの域に達したITエンジニアです。転職の経験はありますが、現在の企業では長く勤めています。

 会社ではプロジェクトを任されて一定以上の成果を挙げ、プロジェクトメンバーからも頼られる存在です。仕事をしていくうえで充実感はありますが、自分はもっと大きなプロジェクトを管理できるはずという気持ちもだんだんと膨らんできており、良い企業があれば前向きに転職を考えたいと思っていました。

 ある日恩田さんは、自分の希望がかなえられそうな企業、Z社からの求人案件をインターネットで知りました。いい機会だと考えた恩田さんはZ社に応募し、転職活動を始めることになりました。

 Z社では事業拡大のため、プロジェクトを任せられる人材の採用に積極的に乗りだしていました。新規に受注する予定のプロジェクトも見えています。この案件はZ社の社長のセールスにより獲得した重要な案件で、受注が継続できるかはプロジェクトのマネジメントに懸かっているといっても過言ではありません。かなり斬新なコンセプトを取り入れた案件で、実現には社外から新しい風を入れることが必要だろうと社長自身が考えていました。

 Z社には多くの応募者が集まりましたが、優秀な人材にはなかなか巡り合えない状況が続いていました。ちょうど恩田さんのような経験者からの応募を待っている状態だったといえます。

書類選考は好感触

 恩田さんからの応募書類を見たZ社の人事部門は、すぐに部門長に確認し、求める経歴の人材であると確信しました。人事部門はさっそく恩田さんに面接のオファーを送りました

 恩田さんも第一志望企業からのオファーにすぐに応えました。その一方で、選考に通らないリスクも考えて複数の企業に応募し、いくつかの企業から面接のオファーを受け取っていました。

 通常、Z社の採用選考は次の手順で進められます。

 1.部門長との面接、筆記試験(適性試験と計算問題などの能力試験)
 2.役員面接
 3.社長面接

 面接日程の調整をしながら、恩田さんはZ社に複数の企業との面接を予定していることを話しました。Z社は選考を早めに行うことを約束し、選考の手順を通常とは変えたい旨を伝えます。選考は次のように行われることになりました。

 1.部門長との面接。筆記試験は時間の関係で次回に
 2.社長面接、筆記試験

 Z社の特別な計らいに感激した恩田さんは、ここに入社したいという思いを強くするとともに、内定への期待を膨らませました。

そして面接

 1次面接で恩田さんは自分がZ社で何ができるのかを話し、Z社の部門長からは新規プロジェクトの概略とプロジェクトのマネージャを求めていることを聞きます。内容を聞いた恩田さんは、自分の経験が生かせるだけでなく、いままで経験したものよりも規模が大きいプロジェクトだと思い、これがやりたかった仕事だと実感します。

 新規プロジェクトに対する思いを伝え、1次面接は終了。2次の社長面接のオファーは翌日には恩田さんに届きます。部門長との面接がスムーズに進んだこともあり、恩田さんはZ社からの内定に期待を深めつつ、社長面接となりました。

 社長面接も順調に終了し、その場で社長から「明日からでも来てほしい」とうれしい言葉をもらいました。第一志望の企業の社長から直接そういわれたことで、恩田さんの中で「内定」の2文字は期待から確信に変化します。他社との面接も控えていましたが、ぜひZ社に入社したいと伝え、握手をして2次面接は終了しました。

 ここで恩田さんは、Z社に間違いなく入社できると思い込んでしまい、早々に現在の企業に退社の意思表示をしてしまいました。

筆記試験の結果で……

 ところが数日後、恩田さんはZ社の人事部門長から、筆記試験の結果が思わしくないため採用は見送りとするという連絡を受けます。

 仰天した恩田さんは、これまでの経緯からは承服できかねる、明日からでも来てほしいと社長にいわれていることは聞いているのかと確認しました。人事部門長からは、確かに社長からそのようなことをいったかもしれないとは聞いているが、筆記試験の結果がZ社の規定を満たしていないため、採用はできないといわれるだけです。

 面接で受け取っていた社長の連絡先にあてて質問しますが、「申し訳ありませんが、選考結果は人事部門長から伝えたとおりです」との返事です。その後も何度か掛け合いましたが、Z社の決定が覆ることはありませんでした。

 恩田さんは理系の大学を卒業しています。特に成績優秀ではありませんでしたが、卒業に必要な単位は問題なく取得しています。社長面接の結果は良好でしたから、Z社も多少の難であれば目をつむることができたでしょう。ということは、恩田さんの筆記試験結果は著しく劣っていたことが予想されます。

 筆記試験の内容は、恩田さんが新卒で就職活動をしていたころとは大幅に変わっていました。実は恩田さんは、筆記試験を少し甘く見ていました。計算問題もありましたが、分数の計算など、大学卒業のレベルであれば問題なく正解できるものばかりです。しかし、分数の計算方法などは普段使っていなかったこともあり、恩田さんは思い出すのに時間を要しました。しかもあいまいな計算結果が出ても、それに近い解答を選択したりしてしまったのです。筆記試験の対策を十分にアドバイスできるような人も、恩田さんのそばにはいませんでした。

「明日から……」でも、入社は保証されていない

 恩田さんの例のように、面接で良い言葉を聞いても、入社が保証されるわけではありません。

 企業が人を採用する場合、稟議(りんぎ)が必要です。つまり複数の人による判断が必要であり、その過程で採用したいといった人の意見が覆ることもあります。また採用に関して厳密なルールが適用される場合、社長の意向だけでは内定とならないこともあるのです。

 現在勤めている企業に退社の意思を伝えてしまった恩田さんは、自らの首を絞めてしまったことになります。口頭ではなく、書面で確認が取れた後で、退職活動を始めるべきでした。

 恩田さんはこのタイミングで人材紹介会社にコンタクトを取り、今回の経緯をエージェントに伝え、新たに転職活動をスタートしました。幸い、時期については明言せずに退職の意思を表示したため、実際に退職するまでには2カ月ほどの猶予がありました。その間に恩田さんは、コンサルタントと二人三脚で転職を成功させることができました。時間に制約があったとはいえ、複数の企業から内定をもらい、その中から最も志望する企業を選択したのです。

内定通知が届いたら

 志望の企業からめでたく内定をもらい、内定通知を受け取ったら、年収や就業開始日などの内容を確認しましょう。面接中に就業条件などを確認してあっても、口頭でのやりとりだけでは不安が残りますね。

 もし、内定通知書に記載されている内容が自分の記憶と違っていたら……。もちろん、こんなことが頻繁にあるわけではありません。でももしそんなことがあっても、企業にはとても確認しにくいと思います。「いった、いわない」になってもめてしまっては、せっかくの内定が取り消しにならないかと思いますよね。

 こんなことを防ぐためには、自分と企業の間に中立の立場の第三者がいると助かりますね。それが人材紹介会社の1つのミッションでもあります。

 アデコなどの人材紹介会社では、候補者の方とじっくり面談して意向を伺い、就業上の希望や入社可能日の決定などの煩わしい交渉を、企業との間に立って行います。内定通知書も人材紹介会社を経由しますので、その時点で内容のチェックを行い、必要に応じて企業と交渉をします。

 面接・筆記試験のアドバイスや退職活動を始めるタイミング、退職意思の伝え方まで、過去の事例を含めて応援することができます。

 転職はリスクを伴います。やみくもに活動しては時間の浪費になりかねません。人材紹介会社のエージェントは、豊富な経験で転職活動のお手伝いをします。あなたの隣の中途入社の方も、人材紹介会社を利用して転職しているかもしれませんね。

 転職活動を孤独に行わないためにも、人材紹介会社を利用してみてはいかがでしょうか。

著者紹介

木内昇

アデコ

大学卒業後、20年間大手電機メーカー系システム開発企業に勤務。その後、IT系専門学校の教員としてマイクロソフト社などのベンダ系資格取得、システム開発理論などの講義を担当。2004年よりアデコ人材紹介サービス部に参画し、ITエンジニア全般のキャリアコンサルティングを担当する。



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