
〜自分戦略研究所 転職者インタビュー〜
転職。決断のとき
第2回 転職を繰り返し、ようやく見えたキャリアの光明
下玉利 尚明
2003/3/5
スキルを上げるため、キャリアを磨くため、給料を上げるため――。エンジニアはさまざまな理由で転職し、新しい舞台で活躍する。では、転職の決断をするのはいつなのか? そしてその決断に至った理由とは何だろうか? その決断のときを、今回は@ITジョブエージェント(アットマーク・アイティが運営する無料キャリア相談サービス)を利用して転職したエンジニアに尋ねた。なお、本記事は2002年8月16日に@ITジョブエージェントに掲載された記事を再編集したものである。
| 今回の転職者:江口知美氏(仮名) | |
| プロフィール■銀行系システム開発会社に勤務。1967年生まれ。短期大学(経済学科)卒業後、大手ソフトハウスに入社。そこで約10年間、主にTCP/IP通信システムの開発を担当した後、2回転職を経験。今回の銀行系システム開発会社への転職は、3回目になるという。 |
――新しい職場である銀行系のシステム開発会社にお勤めですね。もう職場の雰囲気や仕事には慣れましたか。
江口氏 まだ転職したばかりで、仕事らしい仕事はしてないんですよ(笑)。
――今回で3回目の転職ということですが、迷いはありませんでしたか。
江口氏 正直、ありました。いまの会社で4社目ですから……。エンジニア歴は長いのですが、転職回数が多いため、転職癖があるのではと疑われ、求人企業側からの視線が厳しくなるのは覚悟していました。
――それでも3回目となる転職を決意されたわけですね。そのことを伺う前に、今回の転職に至るまでのキャリアをお話しいただけますか。
江口氏 短期大学を卒業して、最初はソフトハウスに就職しました。業界では名前の通った会社で、そこで約10年間、UNIXを使った通信システムの開発に携わりました。大手ベンダにプロジェクト単位で入り込む仕事が多く、チームリーダーを経験するなど、仕事そのものに大きな不満があったわけではありません。UNIXの世界って、よくも悪くも枯れたテクノロジで、担当していた業務が大きく変化することがなかったのです。
そのころ、ちょうどWindows NTが普及し始めて、UNIXのスキルだけでITエンジニアとしての価値を高められるのかと不安になり、さらに新しいことにチャレンジしたくなったのです。それに、クライアントと直接折衝する機会が少なく、業務分析や要件定義などの経験がありませんでした。そこでもう少し上流に踏み込みたくなったのですね。そんな理由から転職を決意しました。
――最初の会社に勤務していた10年ほどの間に、心境の変化もあったと思いますが、いつごろから転職を具体的に考え始めたのですか。
江口氏 最初に意識したのは入社3年目か5年目のころです。その時期、同期入社の仲間がいろんな理由で会社を辞めていきました。もちろん、自分のキャリアアップのために辞めていく同期もいました。その一方で、プログラマがきつくて辞めた人もいました。確かにプログラマってきつい仕事で、私も「いつまで続けられるんだろうか」という不安はありました。ただ、システムがカットオーバーして、それがちゃんと動くということが面白くて続けてきたのです。
ところが10年たったころに自分を見つめ直してみると、先ほどお話ししたように『約10年間で、これしか知らない。できる人はもっと幅広い知識と経験を持っているのに、自分はこのままでいいのか』と脅迫観念にかられました。漠然とした脅迫観念……。この気持ちって、ITエンジニアなら理解していただけると思います。
――技術が進歩し、身に付けているテクニカルスキルが陳腐化する恐れがあるなど、ITエンジニアを取り巻く環境は厳しい。そのため、ITエンジニアはこの先どんなスキルを身に付ければいいのか、スキルパスやキャリアパスに悩みますよね。江口さんの初めての転職は、そうしたキャリアパスを考えての転職だったわけですね。2社目から3社目、そして今回の転職もキャリアパスを考えてのことだったのですか。
江口氏 そうだったらよかったのですが、実は違う理由で2社目の会社を辞め、転職しました。いわば後ろ向きの転職です。
2社目は社員20名程度の小さな会社でしたが、プロジェクトの進め方についていけなかったのです。その会社では、クライアントからヒアリングを行い、業務分析・要件定義をしてから設計・実装、という通常の開発プロセスでプロジェクトが進められていなかったからです。要件をざっと聞くと、すぐにコーディングに入ってしまいます。何日も徹夜して、結局、期日までに動くものが提供できない、といったことが多々ありました。
それでも最初のころは「違う職場に来たのだから、ここのやり方に慣れなければ」、と合わせようとしました。しかし無理でした。次に「プロジェクトの進め方を変えましょう」と提案しましたが、聞き入れてもらえませんでした。プロジェクトが1つでも成功していれば、「こういったやり方もあるんだ」と、私の見方も変わったのでしょうが……。結局、徹夜続きで体を悪くしたこともあって、2年ほどで辞めました。3社目も同じような理由です。
――2社目から3社目、そして今回の転職は、キャリアパスというより、会社への不満が大きな理由だったのですね。つまり、2社目と3社目は会社選びに失敗したともいえます。しかし面接ではそれを転職理由として挙げると求人企業の印象が悪くなるなど、得策ではなくてマイナスになると聞きますが。
江口氏 確かにそうですね。会社の不満ばかりいって嫌なことがあるとすぐに転職する、と思われるかもしれませんね。しかし、2社目でも3社目でも、改善提案を何度もしました。それでも、聞き入れてもらえなかったのです。また、安易に会社を選んだわけでも、嫌なことがあれば辞めればいいやと思っていたわけでもありません。会社は実際に入ってみないと分からないところがあります。転職して成功するかしないかの分かれ目って、実はそこにあるのかもしれません。
――転職する際は、具体的にどんな方法で求人企業に関する情報を集めましたか。あるいは、どんな点に注意して転職先を決めたのですか。
江口氏 最初の転職では転職雑誌を見て自分で応募しました。2回目は人材紹介会社を通じて転職しました。最初の転職が失敗だったので、2回目のときは、求人企業の離職率や社員の平均年齢、特に女性社員の平均年齢、それから女性でもチームリーダーやプロジェクトマネージャなどのポジションを与えられている人がいるかどうかを、人材紹介会社経由で確認しました。それでも、会社の内情までは見抜けなかったのですね(苦笑)。
そこで、今回の転職活動では、求人企業に実際に勤めているITエンジニアの“生の声”を聞こうとしました。大学生がOB訪問するようなものですね。今回は、@ITジョブエージェントに参加している人材紹介会社2社を利用させてもらったのですが、どちらの会社も転職した人などから、実際の内情をヒアリングしてくれました。間接的にですが、“生の声”を聞けて参考になりました。その点で、人材紹介会社を使ったメリットは大きかったと思っています。
――15年近くのITエンジニア歴があるわけですが、これからのキャリアビジョンをお聞かせください。
江口氏 最初の転職のときに願った、上流工程の業務やプロジェクトマネージャを目指したいですね。ちょっと遠回りしたので、いまだにクライアントとの折衝やプロジェクトリーダーとしての経験は少ないんです。いまの会社で業務知識を付け、コミュニケーションスキルを高めていくことが当面の目標ですね。
――最後に、いま転職を考えているITエンジニアへメッセージをお願いします。
江口氏 私は「Windows NTをやってみたい、上流工程を担当したい」という理由から、新卒で約10年間勤めた会社を辞めました。それが最初の転職だったのですが、いまになって振り返ると、転職しなくてもその会社で希望を実現する方法があったのでは、と思います。
当時、上司に何度となく仕事の担当を変えてほしいと掛け合ったのですが、クライアントとの関係もあって認めてもらえませんでした。1、2年待てといわれたのですが、その1、2年がものすごく長く感じられたのです。30歳を目前にして、“漠然とした脅迫観念”にかられたのです。それで転職に踏み切ったのですが、上司に数回断られたからといって転職したことが、果たして正しい判断だったかどうか……。
約10年の勤務で、クライアントから喜ばれるシステムを数多く作り、新人も育てました。転職したことで、それまで培ってきた財産を捨ててしまったことも事実です。ですから、焦らないことだと思います。“初めに転職ありき”といった考え方をしがちですが、同じ会社でずっと働けることは幸せなことです。転職だけが解決方法ではないと思います。
何が不満で、何が問題か、その解決策は何かということを落ち着いて考えて、勤務している会社では解決できないと判断して初めて転職を意識するようにしてください。そして転職先の選択においては、数字では判断できない情報、勤めているITエンジニアの声を聞くようにすることです。そのために人材紹介会社の活用は有効だと思います。
ここまでのインタビューは、江口氏が3回目の転職をした直後(2002年6月25日)に行われた。それから7カ月以上たった現在、彼女はどのような仕事をしているのだろうか、転職に満足しているのだろうか。その点を確かめるため、いくつかのことを質問し、確認した。
――転職して半年以上になったわけですが、現在どのような仕事をされ、会社に満足していますか。
江口氏 いまの会社の雰囲気はかなり好きです。落ち着いた環境で仕事をしており、安心感があります。入社後、自社パッケージの開発部隊にいました。また、すでにいくつかの研修を受講させてもらいました。
プロジェクト発足前ということで、あまり細かいことは話せないのですが、研修で得た新技術を生かし、新プロジェクトにリーダーとして参加できることになりました。とはいえ、その技術を使ったプロジェクトは、会社でも初めてというものです。そのためしばらくはさまざまな形で勉強し、修業することになります。今後、会社ではこの分野を強化するということで、楽しみです。
これまで、私は「通信関連の開発担当」、つまり「テクニカルエンジニア」という位置付けで仕事をしてきてました。しかし、私は将来「アプリケーションエンジニア」や「アプリケーションコンサルタント」になりたいと考えています。今回のプロジェクトは、それに向けた第1歩だと考えています。
研修などによって社員のスキルを身に付けさせようという会社の姿勢などから、江口氏は会社への信頼感、安心感を持ったようだ。それによって、仕事に打ち込める環境になり、久々に味わう仕事への充足感を得、さらに会社が今後伸ばしていこうとする新技術を使ったプロジェクトのリーダーに……。
ようやく自分の目標が見つかったと話す江口氏にとって3社目の転職は、本当に大きな意味を持つ通過点になりそうだ。
転職。決断のとき バックナンバー
- 第1回 経営方針についていけず、転職を決意
- 第2回 3回目の転職で、ようやく見えたキャリアの光明
- 第3回 エンジニアを究められる環境を求めて
- 第4回 転職しないことを「リスク」と感じた
- 第5回 転職は市場価値を上げる手段だった
- 第6回 技術力だけでは生き残れない
- 第7回 “技術屋”的発想から抜け出したかった
- 第8回 “孫請けエンジニア”の仕事に限界を感じた
- 第9回 技術者の焦り。上流工程を経験したい
- 第10回 技術スキルへの強い不安から3度目の転職に
- 第11回 ビジネススキルを学び、キャリアの幅を広げたい
- 第12回 派遣SEの悩み。責任ある立場で働きたい
- 第13回 上流工程への思いから“無職”の道へ
- 第14回 英語力を生かし、IT技術者として飛躍したい
- 第15回 ITコンサルタントのキャリアを目指したい
- 第16回 プログラマからWeb開発の専門家を目指す
- 第17回 下流工程に見切りをつけて「社内SE」に
- 第18回 Javaを捨ててでもWindowsを究めたかった
- 第19回 下請け現場での苦労をバネに
- 第20回 自分に合った環境だからキャリアが磨ける
- 第21回 いままでと違う仕事への夢と実現の難しさ
- 第22回 流されるうちに見えてきたものは?
- 第23回 運を味方に、2次請けから元請けへ転職
- 第24回 「このままではいられない」から始めた転職
- 第25回 必要なのは「体系立ったスキル」
- 第26回 収入が下がっても転職したい理由とは?
- 第27回 反骨心が支えたキャリアアップ
- 第28回 転職に経歴は関係ない!
- 第29回 学歴も年齢もハンデにしない
- 第30回 40代で転職できる秘けつを聞く
- 第31回 未経験から踏み出すITエンジニアの道
- 第32回 大学生とのニ足のわらじ。次の目標は?
- 第33回 Javaとの出合いでキャリアを変えた
- 第34回 マネジメントができる場を求めて
- 第35回 SAP R/3に携わりたい
- 第36回 近所の「かかりつけ医」を目指したい
- 第37回 スキルアップを続ける充実感を求めて
- 第38回 一歩ずつ着実に成長するキャリア
- 第39回 さまざまな現場を経験し、築いたキャリア
- 第40回 キャリアに人生に欲張りに生きた20代
- 第41回 行動を起こせば何かが変わる
- 第42回 スキルアップとキャリアアップを両立したい
- 第43回 フリーランスから会社員で再出発
- 第44回 私はこうしてITアーキテクトになった
- 第45回 5歳からのプログラマの選択は「.NETを究める!」
- 第46回 50歳になっても、エンジニアでいたい!
- 第47回 埋めようのない、会社との意識の差。どうする?
- 第48回 都心からの引っ越し。地方で転職先を探す難しさ
- 第49回 自力でつかんだネットワークスペシャリストへの道
- 第50回 遠回りして気付いた、「ITエンジニアこそが天職だ」
- 第51回 現職に不満はない。でも英語を使って仕事をしたかった
- 第52回 会社が倒産してもめげない「流浪エンジニア」の遍歴
- 第53回 「3日+5分」で転職が決まった情熱派中国エンジニア
- 第54回 不況をものともせず、SIerからWeb企業へ転職する
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