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転職目的別・これが私の生きる道

第1回 もっと給与をアップさせたい!

アデコ 藤田孝弘
2008/5/21

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リーダー経験がない山下さん

 山下さん(仮名)はSI企業に勤める34歳(当時)のITエンジニアです。私が山下さんに会ったのは、藤原さんと同じ2004年でしたので、転職市場および時代背景は前述のとおりです。

 山下さんは専門学校を卒業後、中堅SI企業に入社し、その後一度転職していました。転職のきっかけは社長からのスカウトでした。当時山下さんが勤めていた会社は、大手SI企業の2次請けでした。転職後の会社は、そこから仕事を請ける3次請けのSI企業だったのです。山下さんの仕事ぶりを高く評価していた社長は、「ぜひうちにきてくれないか」と熱心に誘い、所属していた企業よりもはるかに高い給与条件を出したそうです。社員8人の小規模な企業でしたが、山下さんは、社長の熱意と大幅な給与アップが魅力で入社を決めたそうです。

 2004年当時、山下さんは大手Webサイト運営会社に常駐し、システムの運用に従事していました。転職を考えたきっかけは、その年の賞与の低さでした。景気の停滞ムードが漂う中、山下さんの会社の賞与は前年より大幅にダウンすることになったのです。

 山下さんの不安はもう1つありました。3次請け企業であるため、仕事の範囲が限定され、年齢相応の経験が積めないことでした。常駐先で1人で作業することが多いので、例えばリーダー的な仕事などがまったくないのです。これでは給与が伸びないまま、成長が頭打ちになってしまうのではないか、山下さんはそう感じました。そこで、人材紹介会社に転職の相談をすることにしたのです。

苦労するも、1社で書類選考通過

 山下さんが転職活動で最も重視したのは、「より良い待遇の会社に入れるか」ということでした。しかし山下さんが希望していた給与は、彼の年齢・スキルでの給与をはるかに上回っていたため、現実的ではありませんでした。そもそもリーダー経験のない山下さんですから、評価してくれる会社を見つけること自体、簡単なことではないと考えられました。

 そこで、ともかくも山下さんのスキルに合致する企業をピックアップし、応募をすることにしました。その際に最低の希望条件を伝え、受け入れてくれる企業を選択するという方法を取りました。すべての会社がNGになる可能性があることも承知のうえで応募を開始しました。

 複数の企業に書類を提出しましたが、残念ながらほとんどが選考を通過しませんでした。しかし、1社だけ面接に進むことができたのです。不動産業界向けのWebシステムをプライムで受注するSI企業でした。設立4年の上場を目指すベンチャー企業で、当時中堅のITエンジニア層を強化しようという計画がありました。この企業が山下さんに注目したポイントは、彼らのユーザーの競合企業のシステム運用に携わっていたところだったのです。

内定。しかし意外な展開に……

 面接では実務的な話題が中心になり、その中でうまく自己アピールができたそうです。企業からの評価は高く、とんとん拍子に話が進み、最終面接、そして内定をもらうことができました。企業からのコメントは次のとおりでした。「強化したい部門のスターティングスタッフとして、会社の中核を担う人材になってほしい。山下さんはマネジメント経験はないが、今後の増員の中で経験してほしい」

 非常に高い評価を得られたため、給与も希望額を期待していましたが、「年収は希望の額には届きませんが、現在の年収は保障します。それ以上は就業後の成果によって評価します」ということでした。

 希望額に届かないとはいえ、将来を考えると非常に魅力的なオファーです。山下さんは入社の意思を固めました。

 その翌日、山下さんは社長に辞意を表明しました。すると、社長はこういったそうです。ユーザーとの関係を切るわけにはいかないので、給与をアップすると。

 山下さんの心は揺らぎました。そして出した答えは、「転職するのはやめて現職にとどまる」でした。本人の意思を何度も確認しましたが、意思は変わらないようでした。本人の意向を内定企業に伝えました。

あれから4年

 あれから4年が経過したある日、山下さんから連絡がありました。ついに常駐先との契約が切れ、転職できる状態になったとのことでした。社長との話はすでに済んでおり、来月末で退職することが決まっていて、急いで転職先を探したいということでした。

 山下さんのスキルも希望も、以前お会いしたときとほぼ変わりません。変わったのは、年収が20万円ほど高くなったこと、年齢が38歳になったことくらいです。

 現在、前回と同じ方法で給与条件を下げて企業に応募していますが、良い返事はまったくありません。山下さんは、4年前に内定を辞退したことを悔やんでいます。皮肉なもので、内定を辞退した企業は、その1年後に上場を果たし、いまでは従業員も当時の4倍です。入社していれば、いまごろこのような苦労をしなくて済んだかもしれません。以前にも増して反応の悪さを感じながら、いまも山下さんは転職活動を行っています。


 以上、藤原さんと山下さんの事例を紹介しました。2人とも給与アップを目的とした転職という点では同じですが、結果に大きな違いが出たのはなぜでしょうか。

 いうまでもありません。藤原さんは、「キャリアパスをしっかりと考え、積み上げた経験が将来的に給与アップにつながる」という考えの下、将来を見据えた給与アップを目指して成功しました。一方、山下さんは、将来よりも目先の給与アップを重視したため、スキルアップやキャリアパスについての意識が希薄になってしまいました。

 近ごろ、電車の中などで「転職で年収○百万円アップ」などと書かれた広告を目にします。「年収を上げるために転職をする」「転職すれば年収が上がる」と思っている人も少なくありません。しかし現実には、年収が大幅にアップするのは一部の限られた人だけなのです。

 転職活動において、給与アップは誰もが気になる重要なファクターです。しかし金額そのものだけに着目するのではなく、将来のキャリアパスを含めて考えていく必要があるのではないでしょうか。

 着実なキャリアアップを実現することこそが、将来的な給与アップにつながるのかもしれません。

 

今回のインデックス
 成功例:将来を見据えた給与アップを目指した藤原さん
 失敗例:目先の給与アップを重視した山下さん

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筆者プロフィール
アデコ 人材紹介サービス部 シニアコンサルタント
藤田孝弘
人事系コンサルティング会社にて人事採用と教育・人事制度関連のコンサルティングに従事。その後、IT専門の人材サーチ会社にてITコンサルタントやSEを中心とした人材のキャリアコンサルタントを経験、現職に至る。これまで、IT業界を中心に3000名以上の転職支援を行った実績あり。現在、@ITジョブエージェントのパートナーとしても活躍中。

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