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経営者から若いITエンジニアへのメッセージ

第1回 ITエンジニアは現場で育つ

長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2007/1/19

企業各社にとって、人材戦略は非常に重要な課題だ。人材の育成に当たって、トップは何を思うのか。企業を担う若いITエンジニアに何を求めているのか。

 アクセンチュアグループのITエンジニア集団であるアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ。代表取締役 安間裕氏は2002年の同社創立以来、「世界に通用するITエンジニアを育てたい」と語っている。自らも経験豊かなITエンジニアである安間氏の考える、世界に通用する優れたITエンジニアとはどのような人か。どうすればそうなれるのか。インタビューからヒントを探った。

名刺で選ぶな、実体で選べ

 スキルを身に付けようと日々努力する若手エンジニアに対する安間氏のメッセージはシンプルなものだ。ひとことにまとめると「本当に必要な経験を積める環境を選べ」ということになるだろうか。

アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ 代表取締役 安間裕氏

 初めに安間氏が挙げたメッセージは「名刺で(仕事/会社を)選ぶな」。安間氏は、「ITコンサルタント」「ITアーキテクト」などのさまざまな職種名はしょせん「言葉の遊び」といい切る。

 以前、「アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズさんではITコンサルタントができないから」と内定を辞退されたことがあったという。「そんな名刺のタイトル(肩書き)よりも、実際の仕事で何をするのかの方がずっと大事です。ぼくが二十数年前にこの仕事を始めたとき、ITコンサルタント、ITアーキテクトという言葉はなかった。お客さまのビジネスを理解し、技術で幸せにするのは『SE』という人たちの仕事だった。

 現在3Kなどといわれ、SEという言葉の響きがあまり魅力的でなくなってきたため、違う名前が出来上がったのでしょうね。でも仕事内容自体は変わっていない。われわれの会社ではそれは『エンジニア』の仕事です。そういった意味でタイトルではなく、その会社にいる間自分が何を経験できるのか、何を武器にできるのかで選ぶことが重要です」

スキルはTの字、縦に長いか横に長いか

 では、ITエンジニアはどのようなことを意識して経験を積んでいけばいいのか。安間氏は「エンジニアのスキルは『Tの字』になることが必要」と説明する。Tの字の横棒には広範囲の基礎的なITスキルはもちろん、顧客の意図するところを正確に理解してやりとりができるといったコミュニケーションスキルや、人を育成するスキル、一般的なビジネススキルなども含まれる。縦棒で表されるのが、深く掘り下げた専門のスキルだ。

 「Tの字の形にもいろいろあって、広い横棒とちょっとだけ深い何かの得意技というものも、狭い横棒ととても深い、または太い何かというものもあります。経験を積み重ねスキルを蓄積していった結果、自分のTの字がどうなるかについては、やってみないと分からない。20代の後半、または30代ぐらいまではいろいろな経験をしてみてください」

 最終的にはどんなITエンジニアも、形はともあれ何らかのTの字をつくり上げなければいけないと安間氏は主張する。専門的なスキルだけでも、深い専門性を持たない広く浅いスキルだけでも、優れたITエンジニアとはいえないということだ。

 「われわれエンジニアは、手に職をつけている包丁職人。縦棒1本でも横棒1本でも商売になりません。お客さまがビジネスで使う実用品を売っている以上、コミュニケーション能力がないと話になりませんが、だからといってコミュニケーション能力抜群のエンジニアがお客さまに認められるかというと、やはりそこにも問題があります。現場の分からないエンジニアがコミュニケーション能力と聞きかじりだけで勝負しようとしても、お客さまに見透かされ、相手にされない場合があるのです。若いうちに現場できちんと学び、自分の技術を蓄えて、Tの字の横の部分も縦の部分も持つようにした方がいいと思います」

 しかしITエンジニアという職種の専門性、特殊性ゆえに「ゴリッとした技術をよりどころにしている人、つまり『Tの字の横棒は非常に狭いが、縦棒が太いか長いか』という人がいてもいい」。ただしあまり多くは必要ないという。「技術の進歩によって情報システムそのものがブラックボックス化され、『技術の振れ幅』が少なくなっています。例えば昔はコンピュータのメモリサイズを意識しなければ上手なプログラムは書けなかった。またOracleの以前のバージョンでは、ロールバックセグメントのサイジングをするのは技術者にとって腕の見せどころでしたが、いまは自動化されてしまっている。このような状況では、技術を究めることは大事ですが、やはり横棒の部分もきちんと身に付けておかないと難しいです」。加えて、オフショアの影響も無視できないという。「インドや中国の方々はとても優秀です。プログラミングに関して非常に長けているので、そこだけで勝負しようとすると相当究めないといけない。そういう時代の動向もあると思います」

ういろうを全部食べられるか?

 次に安間氏が挙げたのは、「システム開発(SI)の全体像を俯瞰(ふかん)できる環境を選べ」ということだ。

 安間氏が若手のITエンジニアと話すとき、よくSIの仕事をういろうに例えるという。「いわゆる元請けのシステムインテグレータ(SIer)は、外部依存率が非常に高い。景気の変動が激しかったために、正社員の採用を減らし外部のパートナーに委託してきた背景があるからです。そうすると10人のプロジェクト中1人しか社員がおらず、仕事はベンダ管理が中心になるというような状況になる。それだとその社員は現場の経験は積めないですよね。ういろうでいうと一番上の部分しか食べていない。一方で2次請け3次請けの人は、詳細設計やって開発やってテスト、詳細設計やって開発やってテストと、次から次へとプロジェクトを移っている。ういろうの縦のひと切れしか食べていない。

 つまり、SIの全体像がどうなっているかを目撃できる機会が少なくなっているんです。若い方々には、ぜひSI全体を俯瞰してほしいと思います」

 安間氏は、「あるプロジェクトに火が付いたとき『大丈夫だぜ』といいに行ったことがありました」という。「そのときの一番のメッセージは『自分には全部分かる』ということ。こんな状況はもう何度も見てきた、こんなことは普通だと。ういろうのすべてを、細かいところまで自分で食べたわけではありません。でも少なくとも食べるところを全部見ていた。最初から最後まできちんと現場で見ていると、SIの仕事がどういうふうに動いていくかが構造的に分かるし、その中での自分のスキルの位置付けとか、興味を感じるところも分かります。ですから会社が一流かということよりも、ういろうを全部食べられる機会があるかどうかを考えた方がいい。

 われわれの外部依存率は非常に低く、自前主義、現場主義を保っています。いわゆる箱ものは扱っておらず、人しか売っているものがありません。人は現場で育つものです。現場を他社に渡すのは成長の機会を他社に渡すことになり、もったいなくて仕方がない」

 多くのITエンジニアにとって、顧客のニーズをくみ上げるところから作り込みまでをすべて見たいというのは夢であり、理想だろう。しかしなかなかその機会に恵まれないのが実情だ。「だからうちにいらっしゃいという気持ちはありますが、ぼくの知っている数社にも、規模は大きくないがプライムで受託し、ゴリッとやっているところがあります。そこはきちんと見極めた方がいい」と、安間氏は転職先を選ぶ際の心構えを語る。

物事を前に進めるマインドセット

 「もう1つ、とても大切なこと」として安間氏が挙げたのは、「can doというマインドセット」。例えばとても難しい仕事を「明日までにやって」といわれたとき、「できません」というのは簡単だ。しかし期限を延ばす、内容を変えるなど条件を変更することによって、できるかどうか試そうとする考え方がある。これがcan doのマインドセットだ。

 「そういうマインドセットを持っていないと、自分で自分の機会を損失していることになります。『できない』といった瞬間にプロジェクトは止まります。『できる』といった瞬間に、条件を探しながら前に進もうとします。できるかもしれないと考えて方法を探すことは自分の成長にも必ずつながるし、プラクティカルに物事を動かします。

 できないのに『できます』というのは最悪の答え。次に悪いのが、『できない』とはっきりいってしまうこと。望ましいのは『どうしたらできるか』と考えて答えようとすることです。これができれば成長の機会が広がり、スキルを身に付けることにつながると考えています」

   

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