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経営者から若いITエンジニアへのメッセージ

第3回 ヒューマンスキルも磨いてほしい

三浦優子
2007/3/14

企業各社にとって、人材戦略は非常に重要な課題だ。人材の育成に当たって、トップは何を思うのか。企業を担う若いITエンジニアに何を求めているのか。

重要なヒューマンスキル

 ITエンジニアは、自分のスキルをどう磨いていくべきか――。その問いに対して、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)で人事を担当する富田博取締役兼常務執行役員は、次のようにアドバイスする。

伊藤忠テクノソリューションズの富田博取締役兼常務執行役員

 「エンジニアにとって技術の勉強は不可欠なものだ。しかし、最近のエンジニアには技術スキルだけではなく、ヒューマンスキルが欠かせないものになっている。エンジニアには、技術だけでなく、ヒューマンスキルも磨いてほしい」

 なぜITエンジニアに技術スキルだけでなく、ヒューマンスキルが求められるようになったのか。富田氏は、「いまやITエンジニアにはハードウェアやソフトウェアの販売だけでなく、これらを組み合わせたサービスやソリューションを提供し、お客さまの経営をサポートする役割が期待されている。お客さまと深いコミュニケーションを取って経営課題を正しく把握し、解決するためのソリューションを提案、実行できることが必要となる。そのため、エンジニアであっても、経営層にも理解できる言葉で、システムの提案を行うヒューマンスキルが必要な時代になってきた」と指摘する。

 ITエンジニアである以上、高い技術スキルを持つことは当然だ。しかし、最初に挙げたヒューマンスキルのように技術研さんだけにとどまらず、「幅広い視野を持った人材」というのがCTCの求める次世代のITエンジニア像だ。

短期海外研修制度の狙いとは

 「2007年の2月から、若手、中堅社員を対象に短期海外派遣研修制度を開始した。米国の大学に年間20人程度の人材を3カ月間派遣し、英語力の向上と異文化に接する経験を通じてひと回り大きく成長してもらうことを目的としている。また、研修期間中にシリコンバレーのCTCの拠点をベースとして、最先端技術に直に触れてもらう機会もつくる。私も若いころ、米国で生活をして、日本では経験できないような体験をいろいろとした。そういう体験が、視野を広げていくことにつながるのではないかと考えている」(富田氏)

 富田氏も若いころに米国で生活し、「通じると思っていた英語が通じなくて大変な思いをしたり、さまざまな国の人とディスカッションを行って、自分が議論を交わせるほど物事を深く考えていなかったと思い知らされる経験をしたことがある」と語る。

 こうした経験を重ねることで、「仕事をすることで得ることができるものもたくさんある。だが、仕事だけでは得られない経験というものもある。自分が思っていたほど英語ができないんだと思い知らされることがバネになり、あらためて英語の勉強をするようになった。ほかの国の人とディスカッションをするために、日ごろから物事を掘り下げて考えるようになるといった、幅の広さを持つことのきっかけになるのではないか」と期待する。

エンジニアを7つのカテゴリに分類

 2006年10月1日付で伊藤忠テクノサイエンスとCRCソリューションズは合併し、伊藤忠テクノソリューションズとして新たなスタートを切った。

 「対エンジニア向けの人材育成方針については、両社に大きな違いがなかったので、新生CTCとしての育成方針はスムーズに策定することができた」と富田氏は説明する。

 こうしたエンジニア育成のための制度拡充を担うために、2006年4月に「エンジニア人材育成開発課」という専門部署が誕生した。社内技術者の育成・開発のために、エンジニア向けのスキルアップ研修、教育プログラムの企画・運営などを担当する。

 「この部署は、全社的にどういったレベルのエンジニアがどれくらいいるのか、きちんと現状認識を行ったうえで、エンジニアの育成をするための部署として誕生した」(富田氏)

 2007年4月から社内の技術者を独自に認定する「エンジニアスキル認定制度」を導入する。

 技術者は、「エンジニア」としてひとくくりにされることが多い。しかし、CTCではITエンジニアのモチベーションを高め、より質の高い技術者を育てていくためには、どんな技術スキルを持つことが必要なのか、具体的に示す必要があると判断。社内のITエンジニアを「ITスキル」「コンピテンシー」「実績」の3つの観点から評価し、次の7つのカテゴリについて独自に認定していくこととした。

(1)ITコンサルタント
(2)ITアーキテクト
(3)プロジェクトマネージャ
(4)インフラSIエンジニア
(5)開発エンジニア
(6)コアテクノロジエンジニア
(7)運用・保守エンジニア

 具体的なカテゴリを示すことで、自分の現在のスキルを確認しやすくするとともに、将来自分が目指すべきキャリアとはどんなものか、像を描きやすくすることが狙いとなっている。

伊藤忠テクノソリューションズ 人事統括室 田村裕之人事第1部長

 さらに、自分が体験してきた仕事とほかの人が体験してきた仕事を比較して、自分の仕事を見つめ直す研修制度も実施している。

 「2006年度から『キャリアデザイン研修』という制度も用意した。入社時点、3年目、5年目といった仕事をしていくうえでの節目となる年に、同期のスタッフとディスカッションしてお互いにどんな仕事をしてきたのかを確認。自分のキャリアを見つめ直すとともに、今後、どういったキャリアを積んでいくべきなのかを考える機会とすることを狙っている。エンジニアは、キャリア指向が強く、会社としてそれに応えていくためにこうした制度を設けている」(人事統括室 田村裕之人事第1部長)

 こうした教育制度を拡充させているのは、より質の高いITエンジニアを増やしていくことが、CTCという企業をより成長・発展させていくための大きな力となると全社的に判断しているためだ。

 「CTCは最先端技術を提供する企業。そのためには高いスキルを持ったエンジニアが欠かせない。当社のエンジニアには、『この技術に関しては、あいつに聞けば何でも分かる』と、他人からも評価されるような技術者を目指してほしい。そのためには、本を読んだり最新情報を入手しながら勉強していく以外に、職務経験も重要になってくる。さらに、1つの技術を極めたら、自ら進んで新しい分野にチャレンジしていくような意欲を持って勉強を続ける技術者であってほしい。企業としてもそれをバックアップしていく体制をつくることが必要だと認識している」(富田氏)

将来をにらみ「ダイバーシティ」をキーワードに

 最近、CTC社内では「ダイバーシティ=多様性」という言葉を重要なキーワードとしている。

 「少子高齢化が進む日本においては、将来の企業ではさまざまな国籍、性別、年齢の人が一緒に働いていくことになるだろう。ダイバーシティというキーワードは、日本企業にとって欠かせないものとなってくるはず。それを見込んで、『ダイバーシティ推進課』を1月1日付で新設した」(富田氏)

 ダイバーシティとは、ITエンジニアだけではなく、社内全体を指して使用しているキーワードだが、ITエンジニアにおいても重要なキーワードとなってくる。女性、外国人、高齢者の活用などの取り組みがスタートした。

 まず、最初の取り組みとして、社内の女性活用比率の向上を掲げている。現在、全社員中女性の割合は14%にとどまっているが、新卒者採用においては女性の比率を2割にまで引き上げている。

 「女性の場合、出産などで一時的に休職せざるを得ない状況になることも多い。休職していてもスキルを落とすことがないよう、例えばイントラネットにアクセスを可能にするといった細かいことを含めた支援体制をつくっていくことが必要だ。今後、1つずつ、きちんと制度化していきたい」と富田氏は話す。

 すでに海外の人材は、アジアを中心に30人程度が在籍している。日本の大学を卒業し、そのまま日本企業に就職した人が中心だ。

 高齢者については、「定年に対する法律変更に対応していくとともに、どんな働き方を望むのかは1人1人ビジョンが異なる。それを想定して、定年の年齢に差し掛かったスタッフに対して、手作りで体制を整えていく」ことを推進中だ。

成長するグッドカンパニー

 中途採用においては、即戦力となる人材を求めているため、女性や外国人、高齢者を優先して採用するといったことは難しい側面がある。しかし、社員を新卒者に限らず、毎年、新卒者とほぼ同数の中途採用者を採っているCTCは、多様な生い立ちを持った社員が働くという点では、現時点からダイバーシティを実践する企業でもある。

 「毎月1日が、中途採用者の入社日になっているが、そこで必ず話しているのが、『この会社の幹部は、新卒、キャリア入社組が混在しています。仕事ができる人、頑張る人が報われる会社です』というメッセージ。確かに、仕事においてつらい点はあるかもしれないが、頑張った社員は必ず報われる。うちの社長は、『成長する元気なグッドカンパニー』とアピールしているが、まさにその言葉どおりの明るい会社で、1週間もいたら慣れてくる。そういうことを中途採用社員の入社日に訴えかけるようにしている」(富田氏)

 実際に中途入社した人材が入社3年で部長職に就いた例もあるという。こうした事例をつくっていくことで、中途採用の社員にとってもモチベーションを高く持って働くことができる企業を目指していく。

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