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経営者から若いITエンジニアへのメッセージ

第6回 ソフトウェア・バリュー・クリエーターを目指せ

三浦優子
2007/7/5

「ソフトウェア・バリュー・クリエーター」を目指せ

 天野氏は、これからのエンジニアが技術に加え、コミュニケーション能力、想像力、洞察力、環境順応力が必要になる理由をもう少しかみ砕いて説明してもらった。

 「例えば、COBOLのように言語の専門性を高めていくことで仕事の効率が上がったような、言語主流だった昔であれば、社会人になって20年、30年と、1つの技術で仕事をしていくことも可能だったでしょう。しかし、いまは環境がまったく異なります。C言語だ、Javaだといった言語の技術トレンドの変化スピードが速まっただけでなく、通信、ネットワークなど、さまざまなジャンルの技術革新が同時に進み、さらにそれらが相互に関連し、これらを製品に組み込んでユーザーのニーズを満たしていく。いい換えれば世界中の変化を意識して、その結果、どんなニーズが発生するのか、どんな技術が世界にあるのか、想像を働かせ、情報をかき集めてソフトウェア開発を進めていく必要があると思います」

 技術者に、「今後の変化」という課題を与えると、技術変化を考えがちだが、「技術の変化を予測するだけでは、これからのソフトウェア開発、ものづくりは十分ではない」という。

 例えば世界の人口増加や食糧不足、エネルギー不足、温暖化といったことまでを意識しながら、ソフトウェア開発を行っていくべきだというのが天野氏の見方だ。

 「世界の変化まで考えるべきなのかと思われる方もいるかもしれません。しかし、自分たちの仕事が『ソフトウェア開発業』ではなく、『製造業』だととらえたらどうでしょうか。世界の変化を感じて、次の製品を開発していくというのが当たり前のものになります。つまり、製造業のコアコンピタンスは、環境変化に伴うニーズの変化をしっかり見極めてニーズを満たす製品をどれだけ早く作り上げることができるか。さらに自社の技術にとらわれず、世界の他業種の新技術も含めて自社の製品にいかに組み入れられるかがポイントで、そのためには、エンジニア1人ひとりが環境の変化を意識しなければ良い製品は生まれないというわけです」(天野氏)。

 そしてプロダクトウェア作りに必要なエンジニア像も、やはり製造業を例にするとイメージしやすいという。

 「例えば松下電器産業のように、伝統的な日本の製造業といわれる企業でさえ、自社オリジナル技術と、外部のデファクトスタンダードとなっている技術を合わせて1つの製品を作り上げている。プロダクトウェアのエンジニアについても同様で、いろいろな技術のバリューを組み合わせて、新たな価値を創造する力、ソフトウェア・バリュー・クリエーターというのが目指すべき姿ではないでしょうか」(天野氏)。

 さまざまな技術のバリューを生かし、新しいものを作り上げていくためには、「すべて自分で」と考えていてはいられない。製造業にとっての重要なこと(コアコンピタンス)を明確に認識し、いい古された言葉だが、やはり自社の能力の「選択と集中」が鍵になってくる。

やる気を起こし長く働ける環境をつくるのが経営者の役割

 それではコミュニケーション能力をはじめ、想像力、洞察力、環境順応力を持つソフトウェア・バリュー・クリエーターになるために、エンジニアはどう対処していけばいいのだろうか。

 その疑問に天野氏は「エンジニアが仕事をしやすい環境を整えていくことが、経営者の役割だと考えています。エンジニアがやる気を起こせる体制をどれだけ整えていくことができるのかが大きなポイントとなります」と答える。

 企業としての環境充実を強くアピールするのは、天野氏自身が仕事をしてきた経験からきている。

 「コンサルタントの仕事を10年ほどやりました。その際、いろいろな会社を見てきましたが、社員にノルマを課して、あれをやれ、これをやれ、といっているだけの会社は、社員の頑張りが長続きしないのです。社員が『やらされている』という感覚で仕事をするのではなく、自発的にやる気になる環境を経営者がいかにつくれるか、これが大切だと思います」(天野氏)。

 オリンパスソフトウェアテクノロジーでは、IT系の会社には珍しく、退職金の充実、終身雇用体制の実現を目指している。これは、「プロダクトウェアは、情報システムの開発とは異なり、お客さまのニーズを熟知し、社内に蓄積されたノウハウの活用が重要」(天野氏)と判断しているためだ。長い期間を同社で仕事をする、経験を持ったエンジニアが増えていくことで、企業としてプラスになるととらえている。

 長期間就労する社員を増やしていくために、子育てや介護、趣味など社員の価値観に合わせた就業時間の選択性も実施している。また、社員のキャリアチェンジを支援する制度も整えた。

 「実際に開発に携わっていたスタッフがサポート部門やテスティング部門に異動し、大きな力を発揮する、といった実例もあります。入社希望者の大学生の皆さんに、『どんな環境でも変化に対応できる柔軟性を持ちましょう、今年正しい判断が、来年も正しい判断となるかは分かりません』とお話しします。同じことはすでに当社で仕事をしている社員に対してもいえます。従来やってきたので、これからも同じやり方という考え方を見直す。ですから、毎年自分のスキルも棚卸しする、去年の自分との差と、環境の変化とベクトルは合っているだろうかと自分に問い直すことが重要なんです」(天野氏)。

転職について

 天野氏自身は、転職によって自分の可能性を広げてきた。もともとソフトウェアエンジニアだったが、ソフトウェア会社の営業職、経営企画職へのジョブチェンジを経験した後、コンサルティング会社に転職した。

 「当時のソフトウェアエンジニアは割と花形でした、しかしバブルがはじけるころから経営者の意識が勘と銀行依存の経営から、データと株主主体に変わっていったんですね。それならソフトウェアで経営をサポートできるのではないかとコンサルティング業界に移りました。当時のコンサルティング業界は難しいことをいうことが権威のような錯覚をしてましたから、日本ではなかなか受け入れられなかった、そして平易な言葉でITをいち早く取り入れ、結果を経営者に示したコンサルティング会社が伸びました。コンサルティング業界自体が環境の変化に鈍感だったようです。このときですね、あぁ、自分は何でもって生きていくんだろうって不安でしたね、ソフトウェアエンジニア、営業、経営企画、コンサルタントなど。当時は1つの仕事を極めることがプロフェショナルであり善とされた。僕のような生き方は飽きっぽいとかキャリアがない、何屋さんなの? とまでいわれたこともあります」(天野氏)。

「自分のスキルの棚卸し」

 しかし天野氏は、だからこそいまがあると語る。「転職したのは思い付きではない、環境の変化、時代のニーズを自分なりに感じてジョブチェンジしたつもりです。それに新しい業務に就くときは、とてつもなく大きな負荷が自分にかかります、営業に移ったときやコンサルタントになったときなど、1年で数日しか休まなかった、とにかく追いつくため、一にも二にも勉強、そうでなければ一人前になれないと必死でした。仲間からは住民票を会社に移したらと冷やかされたこともあります」

 このような天野氏自身の経験から、「自分のスキルの棚卸しをすることは有効」とアドバイスする。

 皆さんも、この機会に自分自身のスキルの棚卸しをしてみてはいかがだろうか。いつもは忙しくて見えなったことが、棚卸しをすることで突然見えてくるようになるかもしれないからだ。

 

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