第8回 優秀なエンジニアを追え
三浦優子
2007/7/23
企業各社にとって、人材戦略は非常に重要な課題だ。人材の育成に当たって、トップは何を思うのか。企業を担う若いITエンジニアに何を求めているのか。 |
豆蔵の代表取締役副社長 山岸耕二氏は、ITエンジニアにとって会社とは、「電車のようなものではないか」と例える。
「自分の行きたい場所があって、人はそこに向かう電車を選択して乗車する。エンジニアにとって会社というのは、電車と似たようなところがある。それぞれのエンジニアには、自分がこうなりたいというキャリアがあり、そこに向かっている会社を選択し、就職しているのではないか。つまり、企業側としては、少しでも多くのエンジニアに乗車してもらえるよう、より付加価値の高い方角に走るよう努力しなければならないというわけです」
山岸氏自身、ITエンジニアとしてのキャリアを磨くために複数の企業で経験を積んできた。現在はその経験に経営者としての観点が加わったのが、「会社とは電車のようなもの」という発言である。
現在は副社長として、会社という電車の方向を決める立場にある山岸氏に、豆蔵はエンジニアとともにどんな方向に進もうとしているのかを聞いた。
■優秀なITエンジニアのところに人材が集まる
「ITの会社は、どんな要素で構成されていると思いますか。1つずつ分解していくと、結局は『人』で出来上がっています。その会社の文化をつくっているのも、環境をつくっているのも結局は『人』です。つまり、『人』ができるだけ長く滞在してくれるよう整備していくのが、経営者の役割です」
豆蔵 代表取締役副社長の山岸耕二氏は、半導体の研究からソフトウェア開発に身を投じた経験を持つ |
山岸氏は、ITベンダにとって最も重要な要素は、企業内にいる人材だといい切る。
特にITエンジニアは、「優秀な人材がいると、さらに優秀な人材が集まるスパイラルが生まれる」という。
「エンジニアというのは、自分よりも技術力を持ったヤツがそばにいると、自身の技術力が上がるという側面があるんですよ。まったく何もない会社で5年過ごすよりも、すごいヤツらに囲まれて過ごす5年間の方が確実にプラスになる。そして、そういう技術者を抱えた会社は面白い仕事を取れるようになるので、『あの会社は面白いね』とエンジニアの世界で評価されるようになる。こういうスパイラルが出来上がるのが、ITの会社としてはいい状態といえるでしょう」
では、会社を支える優秀なITエンジニアを獲得するために、豆蔵はどのような対策を立てているのだろうか。
「やはり、いい仕事を取ることではないでしょうか。もちろん、給料も1つの要素にはなります。しかし、給料で差をつけるといっても限界があります。エンジニアにとってモチベーションとなるのは、給料とともに、『やりがいがあり、キャリアにプラスになる』と思える仕事があるかどうかだと思います」
■ITエンジニアの先輩としては「転職も必要」
山岸氏は経営者としては、「優秀なエンジニアにはできるだけ長い間、会社にいてほしい」と話す。しかし、ITエンジニアという立場では、「自分の力を確認するためにも、10年とかのスパンでは、会社を移った方がいいと思う」ともいう。それは次のような理由による。
「1つの会社で5年も仕事をしていると、だんだん居心地がよくなってきてしまって、自分の力で仕事ができているのか、周囲の環境が整っているからその仕事ができているのかが分からなくなってしまいます。特に役職が付くとそうなりがちです。エンジニアとして仕事をしていくためには、時々、自分の力を確認する必要があると思います。会社にすがるより、環境が変わっても常に自分が価値を生み出せるようにしておくことが、何よりのリスクヘッジだと考えています」
これは山岸氏の経験に基づいた見方だ。山岸氏は1982年にシャープに入社、半導体の研究者として仕事をしていたが、その後、ソフトウェアのITエンジニアへと転身した。
「ソフトのエンジニアで、私のように半導体の仕事をしていたという人はあまりいないかもしれません。私がシャープにいたころは、コンピュータはそれほど身近なものではありませんでした。仕事の研究の成果を解析するのにコンピュータを使うようになって、ああ、コンピュータの仕事がしたいと思うようになって転職を決意しました」と、当時の背景を語る。
当時は「自分がどんどん転職するなんて考えたこともなかった」そうだ。にもかかわらず転職を重ねたのは、「自分がやりたいことをやるためですね。転職が好きで、会社を移ったのではなく、自分のやりたいことをよりやれるところを選んだら、転職することになっていたというのが本当のところです。先ほどの話でいえば、自分の行きたいところに行くために、電車を乗り継いだということになります」と説明する。
今回のインデックス |
経営者から若いITエンジニアへのメッセージ(8) (1ページ) |
経営者から若いITエンジニアへのメッセージ(8) (2ページ) |
@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。
現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。
これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。